天藤真のレビュー一覧
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不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。
鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。
短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。ただ技法にクリスティーの例のアレをやっているの -
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ネタバレ誘拐ミステリの古典的名作。この作品の最大の魅力は,誘拐事件の被害者でありながら,誘拐事件のブレーン的な立場になる「柳川とし子」(以下「刀自」という。)のキャラクターだろう。刀自は,持山だけで全大阪府の二倍以上,紀州在住の超大富豪。体重が急激に減ったことにショックを受け,死ぬ前に…と始めた山歩きの最中,三人の誘拐犯に遭遇する。この誘拐犯の三人組のキャラクターも見事に描かれている。リーダー格の戸並健二。知能優秀,身体強健と描写されている。過去に刀自と接触したこともある。そして,肉体労働に適していると描かれる秋葉正義と,妹のためにお金が必要な三宅平太
刀自の略取までは,戸並が中心となって計画を立 -
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ショート・ショートから中編まで10編収録の作品集。
天藤さんの作品のイメージは『大誘拐』のほのぼのとしたユーモアミステリのイメージだったので、収録作品のちょっとブラックな感じは少し意外でした。
一番好きだと思ったのは「父子像」主人公が父親の職業を調べる短編です。
これはどちらかというと天藤さんのイメージ通りの短編。宮部さんの初期作品と似たような明るさとほのぼのさがあったと思います。
「背面の悪魔」は少しエロティックでブラックな短編です。手記が少しホラーっぽくも感じられて面白かったと思います。
「日曜日は殺しの日」と「死神はコーナーに待つ」はどちらも100ページほどある中編。 -
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天藤真推理小説全集を少しずつ集めながら読んでいく次第。まずは一巻が手に入っていたので本作からスタート。
推理自体は派手さはなく、スッキリまとまっている印象を受けました。安楽椅子探偵ものとしてストーリーの流れもフォーマットにはめて、良い意味で安心して読める感じ。こういう短編集はやっぱり大事だなぁとしみじみ思える内容でした。
特筆すべきはやはり、探偵役の信一君が脳性麻痺の障害者である点でしょうか。信一君の言動の描写には著者の愛を感じる一方で、社会的な批判には切れ味がみられます。
安楽椅子探偵という手法も、この設定に上手く作用しているように思えます。犯人像が複数の目撃談から浮かび上がる際、 証言者達 -
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誘拐モノの小説にはあるルールが存在する。
推理作家の西澤保彦氏いわく、万にひとつも模倣犯が現れぬよう、わざと犯行過程に実行不可能な手順を紛れ込ませておく、のだそうだ。
本作でいうならば、それは「100億円の身代金」「劇場型犯罪」「慈愛」である。
和歌山に山林を持つ、大地主の柳川とし子を誘拐した犯人グループは当初5000万円の身代金を用意させるつもりだった。だが、とし子に「自分はそんなに安くはない」と一喝され、家族に100億円を要求する。
まず、ありえない。
そして、警察の手による犯人確保の隙を作らせないため、
身代金受け渡し等の一部始終をテレビとラジオに生中継させる。
劇場型とよばれるメデ