天藤真のレビュー一覧
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犯人たちが、刀自と出会い翻弄される様がコメディのように進んでいくのが面白い。
はなしは真面目だが読んでいて面白くて良かった。
現金受け渡しの際は緊張して読みました。
*第1位「週刊文春」ミステリーベスト10/20世紀国内部門
【日本推理作家協会賞受賞】
刑務所の雑居房で知り合った戸並健次、秋葉正義、三宅平太の3人は、出所するや営利誘拐の下調べにかかる。狙うは紀州随一の大富豪、柳川家の当主とし子刀自。身代金も桁違い、破格ずくめの斬新な展開が無上の爽快感を呼ぶ、捧腹絶倒の大誘拐劇。天藤真がストーリーテラーの本領を十全に発揮し、映画化もされた第32回日本推理作家協会賞受賞作。解説=吉野仁 -
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冒頭の、関係のない4人の転落死、その事件を解決すべく結成される遺族会、そして一癖も二癖もあるいかがわしいそのメンバー、結末直前のどんでん返し、そして4人が同乗して死に至った経緯のコミカルさ、これらを取り出してみると正に天藤ワールドのエッセンスが詰まっているのだが、どこか空虚な感じが残っており、充実感がない。それは主人公令子の行動と共にストーリーが語られることにあると思うのだ。
今回の主人公は決して読者の共感を得る存在ではないだろう。勝ち気で考え方に偏りがあり、しかも厚顔無恥な所もあり、移り気が激しい。この移り気の激しい令子の行動がまた短絡的で探偵ごっこの域を出てないために、徒に時を費やしている印象が非常に強かった。
また、死んだ母親が令子の導き手として頻繁に出てくるのはどうしたことだろうか?
こういう寓話めいた構成は今までの天藤作品には全く見られなかったのに今回に限って何故このような手法を取り入れたのだろうか?作者も年を取り、ある意味、独特の死生観を持つに至ったのだろうか。これが結末にも演出として使われていたのは逆効果で、温かい余韻を持たせようという作者の魂胆が見え、私にはあざとく感じたのである。
まあたまにはこういうのもあるんでしょうな。 -
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不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。
鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。
短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。ただ技法にクリスティーの例のアレをやっているのは、長編第1作としては気負いすぎではないかと思うのは私だけだろうか。
何せ、登場人物が憎めないのが作者の特徴、というか美点であり本書もその例に漏れない。正に「容疑者達、万歳!!」である。 -
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ネタバレ誘拐ミステリの古典的名作。この作品の最大の魅力は,誘拐事件の被害者でありながら,誘拐事件のブレーン的な立場になる「柳川とし子」(以下「刀自」という。)のキャラクターだろう。刀自は,持山だけで全大阪府の二倍以上,紀州在住の超大富豪。体重が急激に減ったことにショックを受け,死ぬ前に…と始めた山歩きの最中,三人の誘拐犯に遭遇する。この誘拐犯の三人組のキャラクターも見事に描かれている。リーダー格の戸並健二。知能優秀,身体強健と描写されている。過去に刀自と接触したこともある。そして,肉体労働に適していると描かれる秋葉正義と,妹のためにお金が必要な三宅平太
刀自の略取までは,戸並が中心となって計画を立て,実際に略取に成功するのだから,刀自が終盤で語るように並の悪党ではない。この並の悪党でない三人と刀自が実質的に共謀して,100億円の身代金を奪うというストーリーである。
物 語は大きく3つのパートに分かれている。まずは刀自の略取までのパート。それから,テレビの生放送で刀自が,身代金である100億円の作り方を伝えるパート,そして最後の身代金を奪うパートである。
話のテンポはよく,ユーモアあふれる文体で描かれており非常に読みやすい。反面,生放送の祭のトリック(おとりの放送者を奪って放送をするというもの)や,身代金略取のトリック(ヘリコプターの操縦士を利用して,嘘の供述をさせることで略取したタイミングを誤解させるというもの)は,映像にすればもう少し分かりやすいのかもしれないが,正直,文章だと分かりにくかった。
誘拐モノとしては,プロット部分がやや弱い気がする。キャラクターの魅力,文体など総合的な評価は高いが…。評価としては★3か。 -
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ショート・ショートから中編まで10編収録の作品集。
天藤さんの作品のイメージは『大誘拐』のほのぼのとしたユーモアミステリのイメージだったので、収録作品のちょっとブラックな感じは少し意外でした。
一番好きだと思ったのは「父子像」主人公が父親の職業を調べる短編です。
これはどちらかというと天藤さんのイメージ通りの短編。宮部さんの初期作品と似たような明るさとほのぼのさがあったと思います。
「背面の悪魔」は少しエロティックでブラックな短編です。手記が少しホラーっぽくも感じられて面白かったと思います。
「日曜日は殺しの日」と「死神はコーナーに待つ」はどちらも100ページほどある中編。「日曜日は~」は犯人が最初から分かっている倒叙サスペンスとなっていて、犯人視点、刑事視点と視点の切り替えが面白く、それによって追い込まれていく過程、事件のほころびに気づいていく過程、どちらも楽しめました。
「死神は~」発作的に女性を殺してしまった男が主人公。それなのに文体や男の言動のおかげで主人公はなんとも憎めないキャラになっています。
事件の目撃者と思われる女性との不思議なやり取りや産業スパイが絡んできたりと、なかなか動きの多い作品でこちらも楽しめました。 -
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天藤真推理小説全集を少しずつ集めながら読んでいく次第。まずは一巻が手に入っていたので本作からスタート。
推理自体は派手さはなく、スッキリまとまっている印象を受けました。安楽椅子探偵ものとしてストーリーの流れもフォーマットにはめて、良い意味で安心して読める感じ。こういう短編集はやっぱり大事だなぁとしみじみ思える内容でした。
特筆すべきはやはり、探偵役の信一君が脳性麻痺の障害者である点でしょうか。信一君の言動の描写には著者の愛を感じる一方で、社会的な批判には切れ味がみられます。
安楽椅子探偵という手法も、この設定に上手く作用しているように思えます。犯人像が複数の目撃談から浮かび上がる際、 証言者達の世界と信一君の世界はある意味で切り離されていて、推理はするものの、決して交わらないように物語は進みます。徐々にに関係性は変わっていきますが、それでも障害者の社会進出にはまだまだ深い溝がある時代、信一君の視点は遠く、その目から事件を、人々を、社会を見つめているようにも思えます。 -
Posted by ブクログ
誘拐モノの小説にはあるルールが存在する。
推理作家の西澤保彦氏いわく、万にひとつも模倣犯が現れぬよう、わざと犯行過程に実行不可能な手順を紛れ込ませておく、のだそうだ。
本作でいうならば、それは「100億円の身代金」「劇場型犯罪」「慈愛」である。
和歌山に山林を持つ、大地主の柳川とし子を誘拐した犯人グループは当初5000万円の身代金を用意させるつもりだった。だが、とし子に「自分はそんなに安くはない」と一喝され、家族に100億円を要求する。
まず、ありえない。
そして、警察の手による犯人確保の隙を作らせないため、
身代金受け渡し等の一部始終をテレビとラジオに生中継させる。
劇場型とよばれるメディアを使った犯罪…これもありえない。
そして「慈愛」。
人質からのアドバイスや巨額の身代金など、
映画化もされた本作はその奇想天外な部分がクローズアップされがち…だとは思うのだが、この作品の本質はこの「慈愛」にあると思う。
それは、とし子を助けようとする人々であったり、
とし子を尊敬する人々であったり、
犯人がとし子に持つ秘められた思いだ。
この「慈愛」だけは、どんな模倣犯も真似することはできない。
それがこの小説を読めば分かる。
ミステリー史にその名を刻む名作を読み終わったあと、
思ったのはそんなことでした。(泉)