天藤真のレビュー一覧
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眞名部警部が心癒される場所は、ある少年(とその母親)の元だった。その少年は整った顔立ちをしており、明晰な頭脳を持っている。ただ、彼には行動の自由がない。なぜなら彼はからだに障害を持って生まれたからだ。
障害を持った信一少年と、ひょんなことから知り合った眞名部警部。少年のリハビリにとはじめた事件の話だったが、信一は思わぬ推理力を発揮し始める。
障害のある少年が探偵役という異色のミステリー。
いわゆる安楽椅子探偵の類だが、探偵役が少年というのと、彼に事件をもたらす警部の過度な信一ダイスキ光線が微笑ましい。
70~80年代の作品ということで、警察は正義であり、なんだかゆるくて、ずるさがなくて安心で -
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ネタバレ巻措く能わず、とはこのことなのかと今回実感した。
全343ページを5日で消化したのは近来にないハイペースだったと思う。平均にして68~69ページを1時間で読むのだからやはり速い。島田荘司氏の『アトポス』は1日100ページぐらい読んだ記憶があるが、あれとクーンツ以外には思い当たらない。
いや、しかし、今回もなかなかに読ませる。プロット自体は特に斬新ではなく寧ろ地味なのだが、設定や登場人物の動かし方に匠の技が効いていて、350ページ弱を思う存分、愉しませてくれる。
今回の目玉はやはり5人の男に送られた妻からの殺人予告状でこれがどの誰を指すのか判らないという点が面白い。しかし作者はこのワンアイデアで -
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ネタバレ今回の天藤作品も粒揃いの傑作ばかりで、嬉しくなる。
今回は特に構成に凝った作品が多かったような印象が強いのだが、振り返ってみると実際に構成が凝っていたのは中編の「日曜日は殺しの日」と「死神はコーナーに待つ」のみだった。ということは如何に印象が強かったかという証左になるわけだ。特にこの2編は所謂倒叙物の体を成しており、大体犯行の目星がついているのだが、それを約100ページ強を費やして何を書くのだろうと思いきや、自明の理だと思われていた事件が他人が探るに連れ、全く予想外の証言や真相が出没し、正に頭の中を揺さぶられる感覚がした。著者の企みは正にそこにあり、読者にストーリーのあるべき方向を示唆させ、先 -
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本作は天藤版リーガル・ミステリ集とでも云おうか、9編中5編が法廷を舞台にしたミステリでそのどれもが傑作。
設定から結末まで一貫してユニークな「公平について」はもとより、中篇の表題作の何とも云えない爽快感。天藤真氏はシンプルな題名によくダブル・ミーニングを持たせるが本作もそれ。それがさらに効果を上げている。
そして「赤い鴉」、「或る殺人」の哀愁漂う結末。ドイルの短編「五十年後」や島田氏の『奇想、天を動かす』などに見られる膨大な人生の喪失感を思わせる深い作品となっている。特に後者は当時似たような事件があったのだろうか、行間から作者の肉体労働者に対する社会からの蔑視に対する怒りが沸々と湧き出てくるよ -
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『遠きに目ありて』をきっかけに名作『大誘拐』と読み進んできた私の天藤作品体験にある意味、決定打を打ち込んだのは数年前に古本で購入した本書であったと今にして思う。
前作『死の内幕』までの時には私の目に狂いがあったかとも思ったが、本書を久々に読んで、ああやはり間違ってはなかったと思いを新たにした。ここには天藤作品のエッセンスがぎっしり詰まっており、また本書から天藤テイストが定着したかのように感じられる。
まず登場人物全てが魅力的。
天藤作品の場合、『陽気な容疑者たち』、『死の内幕』、『大誘拐』などの傾向を見ると主人公がいるものの、万能ではなく寧ろ他の協力者と一つのチームを成して事を解決していくパ -
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ネタバレよい小説とは必ずしも現実的である必要はなく、ただ作者の作った虚構の中で物語の進行に矛盾や違和感のないものであれば良質なエンターテイメントとなりえます。
その意味で、この小説はミステリーとはかくあるべしという模範例です。
ただし、小さな穴はあります。(以下ネタバレあり)
共通の知人という設定ですので、中心となる人物一人を抜きにしては共通足りえないという点を考慮すればターゲットはこの時点で明らかです。
とはいえ、最終的にはそういう結末(どんでん返し)にはなるのですが・・
まあ、そんな小さな隙が気にならないくらい、この舞台設定を考え付いた作者の創造力に脱帽です。
「大誘拐」「雲の中の証人 -
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警部の真名部はある縁で小児麻痺で車椅子の信一少年と、その母咲子と知り合う。
信一少年は実に鋭い観察眼で、警部の語る事件の様相から真相を充てる。
警部はこの母子と会うことを楽しみにし、いつか本当の家族になりたいが、自分の心構えがまだまだ足りないんだよな…と思う。
各話では、日本は車椅子の人が出歩くにはあまりにも不便だ、と問題提議している。
当時の日本はバリアフリーという概念も薄く、聡明な少年も同じ年の子たちと自分を比べて気分が暗くなることもあるが、そんな少年に対して、警察官たちが車に工夫をこらして少年と接する姿が優しい。
元は仁木悦子「青じろい季節」に脇役として出てくる少年とその母を作者の天藤 -
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くどくなるが、この作家も創元推理文庫で作品が出ていなかったら、全く手に取ることの無かっただろう。そしてその出会いは私にとって実に有意義な物となった。
本作は脳性麻痺で車椅子生活を強いられている信一少年が成城署の真名部警部が持ち込む捜査が難航している事件を明敏な頭脳で解き明かすという典型的な安楽椅子探偵物の連作短編集。しかし特徴的なのは安楽椅子探偵を務める信一少年が身体障害児であり、それに関する社会問題も提起しているところにあるだろう。収録されている短編の初出はなんと76年と30年以上も前のことながら、90年代になってようやく人々の意識が向きだしたバリアフリー不足の問題など、障害者が社会では生 -
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ネタバレ日本シリーズ直前、東京ヒーローズの名物監督、桂監督が「ほとんど」いなくなった。試合はどうなる…というところから次々に問題発生。
日本シリーズの勝敗が全編を通して1つの大きな問題としてあり、その周りで失踪だとか誘拐だとかが起きています。球界問題や博打屋も絡んで誰がどこにどう関わっているのか、てんやわんやの楽しさと緊張感がありました。
コロコロとスピーディーに展開する物語と凝った構成に混乱。しかし、「ほとんどいなくなった」とか「胴体だけいなくなった」とか独特のセリフとユーモアあふれる文体、個性的な登場人物達が楽しくて止まることができずに一気読みです。
野球には詳しくないので、作中での球界につ -
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ネタバレ「ミステリ十二か月」より。表紙が違うけど。これが1976年という、私が生まれる前に書かれたというのが、すごいよな。脳性まひの少年が探偵役。身障者が外出できない、というのがこんなにもか、というほど如実。36年の進歩は大きい。テレビのリモコンすらなかったんだから。でも今でも身障者の外出はやっぱり大変なんだろうな。推理だけでなく、そういうとこも考えさせられるお話。5編の連作短編集。最後の「完全な不在」が一番面白かった。ここまで手の込んだ犯罪、現実に起こっても見破れる人はいないんじゃないか。つーか、他人が成り変わるなんて成り立たないか。この人のやつ、他にも読んでみよう。
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ネタバレいろいろと考えさせられる本だった。
仁木悦子氏の本の登場人物が主人公っていうのも不思議。
時代はウルトラマンタロウのころかな。
大きな団地での事件があったり、ゴミゴミした下町?での事件があったり。
真名部警部が下心ありありで通う岩井家。お母さんが美人で素敵、居心地もよさそう。
重度の脳性マヒでほとんど体の自由がきかない、言葉も慣れない人には聞き取れない。そんな少年、信一くんに最初は気晴らしに外の世界の話を始めたけれど、聡明な彼はどんどん事件を解き明かしていく。
どの事件も、そんなに難問でもないから、割とすんなり犯人はわかってしまうんだけど。
じわりじわりとこの時代にハンディキャップを持ってる