天藤真のレビュー一覧
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眞名部警部が心癒される場所は、ある少年(とその母親)の元だった。その少年は整った顔立ちをしており、明晰な頭脳を持っている。ただ、彼には行動の自由がない。なぜなら彼はからだに障害を持って生まれたからだ。
障害を持った信一少年と、ひょんなことから知り合った眞名部警部。少年のリハビリにとはじめた事件の話だったが、信一は思わぬ推理力を発揮し始める。
障害のある少年が探偵役という異色のミステリー。
いわゆる安楽椅子探偵の類だが、探偵役が少年というのと、彼に事件をもたらす警部の過度な信一ダイスキ光線が微笑ましい。
70~80年代の作品ということで、警察は正義であり、なんだかゆるくて、ずるさがなくて安心できる。
このあたりの年代はおそらく特殊学級なんかができて、障害者に普通の教育をしようという動きが少し出てきた頃ではないのだろうか。
ミステリーを解決する信一少年の推理力も素晴らしいのだが、端々で眞名部警部が「車椅子で通るには道が悪すぎる」とか怒っていて、30年近くたった現在でも「ほんとにそうだ!」と思うこと多し。世の中って変わらないな・・・。
信ちゃんが愛され大事にされてて嬉しくなりました。
警部もかわいいおっさんです。 -
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ネタバレ巻措く能わず、とはこのことなのかと今回実感した。
全343ページを5日で消化したのは近来にないハイペースだったと思う。平均にして68~69ページを1時間で読むのだからやはり速い。島田荘司氏の『アトポス』は1日100ページぐらい読んだ記憶があるが、あれとクーンツ以外には思い当たらない。
いや、しかし、今回もなかなかに読ませる。プロット自体は特に斬新ではなく寧ろ地味なのだが、設定や登場人物の動かし方に匠の技が効いていて、350ページ弱を思う存分、愉しませてくれる。
今回の目玉はやはり5人の男に送られた妻からの殺人予告状でこれがどの誰を指すのか判らないという点が面白い。しかし作者はこのワンアイデアで最後まで引っ張るのではなく、130ページを過ぎた辺りであっさりと5人の内1人に絞り込むのだ。
実はここからが天藤真氏の天藤真氏たる所以で、今まで微妙な利害関係で成り立っていた彼(女)らを1つの探偵チームとして機能させていく所がミソ。しかも各々の職業の特性を活かしながら。私自身面白かったのはこの5人が抱えている問題がひょんな事件をきっかけに解決の方向に向かう所で、特に主人公格の羽鳥の妻との問題はサブストーリーとして○。
しかし今回はやはり第3部の存在、これが読者諸氏の感慨を非常に左右すると思われる。第3部は不要で第2部まででよかったのではないかという声と、いややはり第3部はこのストーリーの最後のどんでん返しとして必要だという声が当時あったのではないだろうか?
私は、と云えば…まあ、上の星評価で判断してもらいたい。 -
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ネタバレ今回の天藤作品も粒揃いの傑作ばかりで、嬉しくなる。
今回は特に構成に凝った作品が多かったような印象が強いのだが、振り返ってみると実際に構成が凝っていたのは中編の「日曜日は殺しの日」と「死神はコーナーに待つ」のみだった。ということは如何に印象が強かったかという証左になるわけだ。特にこの2編は所謂倒叙物の体を成しており、大体犯行の目星がついているのだが、それを約100ページ強を費やして何を書くのだろうと思いきや、自明の理だと思われていた事件が他人が探るに連れ、全く予想外の証言や真相が出没し、正に頭の中を揺さぶられる感覚がした。著者の企みは正にそこにあり、読者にストーリーのあるべき方向を示唆させ、先入観を抱かせることで真相を覆い隠してしまう、この効果が物凄かった。
また他の作品も非常によく、ちょっと狙いが浅かったかなと思わせる表題作はともかくとして、今流行の “日常の謎”ものである「父子像」やミステリアスな結末の「背面の悪魔」、ストレートな「女子校生事件」、実に深い余韻を残す「三枚の千円札」など今見てもすぐに内容が思い出せるものばかり。
一番良かったのは、人間の厭らしい部分を描いても後期の長編群のように嫌味な印象を全然感じなかったこと。どこか人間を観る目に以前よりも優しさが感じられ、読後非常に爽やかだった。
天藤作品も残るはあと一冊。う~ん、読みたいやら、読みたくないやら。 -
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本作は天藤版リーガル・ミステリ集とでも云おうか、9編中5編が法廷を舞台にしたミステリでそのどれもが傑作。
設定から結末まで一貫してユニークな「公平について」はもとより、中篇の表題作の何とも云えない爽快感。天藤真氏はシンプルな題名によくダブル・ミーニングを持たせるが本作もそれ。それがさらに効果を上げている。
そして「赤い鴉」、「或る殺人」の哀愁漂う結末。ドイルの短編「五十年後」や島田氏の『奇想、天を動かす』などに見られる膨大な人生の喪失感を思わせる深い作品となっている。特に後者は当時似たような事件があったのだろうか、行間から作者の肉体労働者に対する社会からの蔑視に対する怒りが沸々と湧き出てくるようだ。
意外だったのは最後のショートショート2編。これもまた佳作といえる小品だろう。
しかしこういった人情法廷物が天藤氏のテイストと非常にマッチしているとは新しい発見であった。
まだあるのだろうか?
ある事を切に願う。 -
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『遠きに目ありて』をきっかけに名作『大誘拐』と読み進んできた私の天藤作品体験にある意味、決定打を打ち込んだのは数年前に古本で購入した本書であったと今にして思う。
前作『死の内幕』までの時には私の目に狂いがあったかとも思ったが、本書を久々に読んで、ああやはり間違ってはなかったと思いを新たにした。ここには天藤作品のエッセンスがぎっしり詰まっており、また本書から天藤テイストが定着したかのように感じられる。
まず登場人物全てが魅力的。
天藤作品の場合、『陽気な容疑者たち』、『死の内幕』、『大誘拐』などの傾向を見ると主人公がいるものの、万能ではなく寧ろ他の協力者と一つのチームを成して事を解決していくパターンである。前2作については些か彼ら・彼女らのキャラクターが弱く、今一歩といった感じだったが本書に至って見事に成熟された感じが強い。
次に最後の先の読めない展開。
本書もベレー帽と髭を残して監督が失踪するという仰天の発端から次から次へと収拾がつかないくらいに事件は右往左往し、終章まで散らかりぱなしといった感じで読んでいる最中は不安がいっぱいだった。
そして達者な筆捌き。
ユーモアが滲み出るその文体は事件が陰惨なものであってもほのかに温かみを感じさせる。これが最初に述べた登場人物陣の魅力を引出しているのは云うまでもない。
また今回は構成も凝っていて、何者とも判別しない電話のやり取りが随所に挿入され、事件の黒さ・壮大さを想像させられるし、何よりも今回のメインキャラクターである桂監督を最初と最後にしか登場させずに印象深い人物に仕立てている辺りの見事さは特筆物である。
さぁ、ここからが天藤ワールドの始まりである。愉しめない訳がない。 -
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ネタバレよい小説とは必ずしも現実的である必要はなく、ただ作者の作った虚構の中で物語の進行に矛盾や違和感のないものであれば良質なエンターテイメントとなりえます。
その意味で、この小説はミステリーとはかくあるべしという模範例です。
ただし、小さな穴はあります。(以下ネタバレあり)
共通の知人という設定ですので、中心となる人物一人を抜きにしては共通足りえないという点を考慮すればターゲットはこの時点で明らかです。
とはいえ、最終的にはそういう結末(どんでん返し)にはなるのですが・・
まあ、そんな小さな隙が気にならないくらい、この舞台設定を考え付いた作者の創造力に脱帽です。
「大誘拐」「雲の中の証人」「遠きに目ありて」と並ぶ読んで損のない傑作です。 -
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警部の真名部はある縁で小児麻痺で車椅子の信一少年と、その母咲子と知り合う。
信一少年は実に鋭い観察眼で、警部の語る事件の様相から真相を充てる。
警部はこの母子と会うことを楽しみにし、いつか本当の家族になりたいが、自分の心構えがまだまだ足りないんだよな…と思う。
各話では、日本は車椅子の人が出歩くにはあまりにも不便だ、と問題提議している。
当時の日本はバリアフリーという概念も薄く、聡明な少年も同じ年の子たちと自分を比べて気分が暗くなることもあるが、そんな少年に対して、警察官たちが車に工夫をこらして少年と接する姿が優しい。
元は仁木悦子「青じろい季節」に脇役として出てくる少年とその母を作者の天藤真が気に入り、許可を得て自分の作品で主役にしたものらしい。
【多すぎる証人】
団地の中庭でママさんバレー練習中、メンバーの津見よし子の夫が3階のベランダへ這い出てくる。彼は刺されて虫の息で、妻に最後の言葉を伝えて息絶える。
証言を取りに行った真名部警部は、多すぎる目撃者たちのバラバラすぎる目撃証言に戸惑う。
それをある縁により知り合った小児麻痺で車椅子の信一少年に話すと、少年は見事な推理を提示するのだった。
【宙を飛ぶ死】
同窓会の参加者の井沢がホテルから姿を消す。
駆けつけた井沢の婚約者は、井沢の抱えた問題を警部たちに伝える。
捜査が行き詰った時、警部は前回の事件で鋭い観察眼を見せた信一少年のことが思い浮かぶ。
【出口のない街】
やくざとの繋がりを噂され左遷されてきた赤沢巡査。
彼は執念で自分の無実を証明するためのヤクザ、岩堀を探している。
ある街で岩堀を見つけた赤沢巡査。
しかし出口のないその路地で岩堀は死体となって発見され…
今では信一少年のことは捜査陣でも知られるようになり、
家から出られなかった信一も事件現場を生で見たがる。
車椅子の少年を家から出すため警部たちは考えをめぐらす。
【見えない白い手】
資産家の未亡人が、甥に命を狙われていると警察に相談に来た。
「我々の仕事は市民を守ることです。起きる前の事件の相談でもどしどし来てください!」という真名部警部だったが、起きる前の事件に裂ける人数は限られて…
【完全な不在】
信一少年は、警察に捜査協力する小児麻痺の少年として警視庁でも有名になり取材を受けるほどになっていた。
その信一の前で、元大物俳優の大宮と真名部警部が殺人論について議論を交わす。
そしてその大宮の家で死体が発見され… -
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くどくなるが、この作家も創元推理文庫で作品が出ていなかったら、全く手に取ることの無かっただろう。そしてその出会いは私にとって実に有意義な物となった。
本作は脳性麻痺で車椅子生活を強いられている信一少年が成城署の真名部警部が持ち込む捜査が難航している事件を明敏な頭脳で解き明かすという典型的な安楽椅子探偵物の連作短編集。しかし特徴的なのは安楽椅子探偵を務める信一少年が身体障害児であり、それに関する社会問題も提起しているところにあるだろう。収録されている短編の初出はなんと76年と30年以上も前のことながら、90年代になってようやく人々の意識が向きだしたバリアフリー不足の問題など、障害者が社会では生きるのには厳しい状況について触れられているのが興味深い。今その視点で読むと、既に使い古された内容と感じるかもしれないが、私が本作を読んだのは90年代の初めの頃だったので、このような内容は実に新鮮で、けっこう心に響いた記憶がある(まだ純粋だったのだね)。この信一親子にはモデルがあり、なおかつ天藤氏が当時から親交の深かった仁木悦子夫婦との付き合いも手伝って、身障者を主人公にしたミステリを書いたことが解説で触れられている。
で、それだけのミステリかといえばそうではなく、収録されている作品のレベルはなかなかに高い。単純なミステリになっていなく、読後考えさせられる内容もある。
どの作品か忘れたが、特に印象に残っているのは肯定できる殺人はあるかというテーマの作品。殺人は許されるものではないという通念を覆されるような思いをしたものだ。
あとどう考えても本当のような話に思えない証人を探す話は、なぜだか未だに記憶に残っている。
そして全作品に通底するのは天藤氏の人間に対する温かい視線だろう。前にも述べたが身障者に対する社会へのさりげない問題提起に、真名部警部と信一親子との交流(母親に対するほのかな愛情も含めて)と社会的弱者に対する優しさに満ちている。この感覚は宮部みゆき氏の諸作の味わいに似ている。数十年後、作者の写真を拝見する機会を得たが、その顔は優しき微笑を湛えており、この人ならばさもありなんと思ったものだ。
無論のこと、この作家の作品を追いかけることになるが、次に手にした彼の作品が私の読書人生において5本の指に入る傑作との出会いになったのだった。 -
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ネタバレ日本シリーズ直前、東京ヒーローズの名物監督、桂監督が「ほとんど」いなくなった。試合はどうなる…というところから次々に問題発生。
日本シリーズの勝敗が全編を通して1つの大きな問題としてあり、その周りで失踪だとか誘拐だとかが起きています。球界問題や博打屋も絡んで誰がどこにどう関わっているのか、てんやわんやの楽しさと緊張感がありました。
コロコロとスピーディーに展開する物語と凝った構成に混乱。しかし、「ほとんどいなくなった」とか「胴体だけいなくなった」とか独特のセリフとユーモアあふれる文体、個性的な登場人物達が楽しくて止まることができずに一気読みです。
野球には詳しくないので、作中での球界についてや試合などにどれほどのリアリティがあるのかなどは分かりません。ルールを知っているだけという程度のわたしですが、一進一退の展開や終盤の試合などは楽しかったです。
失踪時の状況など、ふざけているとしか思えないような事柄にきちんと整合性があるのが素晴らしい。
ラストの登場人物たちそれぞれの人間ドラマにも感動しました。
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東京と大阪のオーナー二人が実は失踪事件に関係なく、ただ関係上お互いを疑いながらも黙しているというのがとてもうまい。怪しい雰囲気を醸し出しているものの、事件とどうのように繋がっているのかが見えず混乱の元でした。
最後の監禁場面なんかはけっこうピンチな状況でしたが、試合の緊張感や展開と相成って盛り上がったと思います。
谷田貝がいう通り、次々に起こる事件や謎をすべて保留にしてきて、ここまできてようやく真相が見えてくるというのもうまいしすっきり。
全ては桂監督の抵抗心からの知謀だったわけですが、桂監督がなぜこのよう形をとらなければならなかったかの理由にはなるほど、と思いました。
その動機から実行されたこの事件で、立花の実力を知ることとなったというのは運命的です。
ばかばかしいような事件の状況とは裏腹に切ない幕切れでした。 -
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ネタバレ「ミステリ十二か月」より。表紙が違うけど。これが1976年という、私が生まれる前に書かれたというのが、すごいよな。脳性まひの少年が探偵役。身障者が外出できない、というのがこんなにもか、というほど如実。36年の進歩は大きい。テレビのリモコンすらなかったんだから。でも今でも身障者の外出はやっぱり大変なんだろうな。推理だけでなく、そういうとこも考えさせられるお話。5編の連作短編集。最後の「完全な不在」が一番面白かった。ここまで手の込んだ犯罪、現実に起こっても見破れる人はいないんじゃないか。つーか、他人が成り変わるなんて成り立たないか。この人のやつ、他にも読んでみよう。
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ネタバレいろいろと考えさせられる本だった。
仁木悦子氏の本の登場人物が主人公っていうのも不思議。
時代はウルトラマンタロウのころかな。
大きな団地での事件があったり、ゴミゴミした下町?での事件があったり。
真名部警部が下心ありありで通う岩井家。お母さんが美人で素敵、居心地もよさそう。
重度の脳性マヒでほとんど体の自由がきかない、言葉も慣れない人には聞き取れない。そんな少年、信一くんに最初は気晴らしに外の世界の話を始めたけれど、聡明な彼はどんどん事件を解き明かしていく。
どの事件も、そんなに難問でもないから、割とすんなり犯人はわかってしまうんだけど。
じわりじわりとこの時代にハンディキャップを持ってるということの悲しさ辛さが伝わってくる。
まだまだなんだろうけど、この頃に比べたら世の中もだいぶ良くなってるんだな。
二ヶ月外出してないとか、車椅子で乗れる車はまだ国内にはないとか。
四月病が切ない。
そして、最後の事件は後味悪いなあ。