あらすじ
弁護士事務所へ出向勤務を命じられた探偵社員の「私」は、製薬会社の会計課員がアパートで殺され、保管していた三千万円余りが奪われた半年前の事件を担当する。弁護すべきは、当時被害者の部屋に居候していた倒産寸前の工場主。絶対的に不利な条件下で雲を摑むような証人探しを拝命した私は――表題作『雲の中の証人』のほか、三幕の法廷コント『公平について』や、物真似殺人を企てた男の物語『赤い鴉』、恋に燃える女子大生と助教授の悲喜劇『あたしと真夏とスパイ』など、短編集成四巻目となる本書には、六二年~七二年発表の九編を収める。【収録作】「逢う時は死人」/「公平について」/「雲の中の証人」/「赤い鴉」/「私が殺した私」/「あたしと真夏とスパイ」/「或る殺人」/「鉄段」/「めだかの還る日」
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Posted by ブクログ
笑いあり、涙ありの短編集。
氏のウィットに富んだユーモアな筆致は有名だが、こんな作品も?!と驚かされる物もあり・・・。
裁判員制度の始まる中、冤罪で18年の時を奪われた者の新たな闘いが始まる中、タイトルの作品と「或る殺人」は是非読んでほしいかも。
喜怒哀楽、全て体験出来ますよ。
Posted by ブクログ
本作は天藤版リーガル・ミステリ集とでも云おうか、9編中5編が法廷を舞台にしたミステリでそのどれもが傑作。
設定から結末まで一貫してユニークな「公平について」はもとより、中篇の表題作の何とも云えない爽快感。天藤真氏はシンプルな題名によくダブル・ミーニングを持たせるが本作もそれ。それがさらに効果を上げている。
そして「赤い鴉」、「或る殺人」の哀愁漂う結末。ドイルの短編「五十年後」や島田氏の『奇想、天を動かす』などに見られる膨大な人生の喪失感を思わせる深い作品となっている。特に後者は当時似たような事件があったのだろうか、行間から作者の肉体労働者に対する社会からの蔑視に対する怒りが沸々と湧き出てくるようだ。
意外だったのは最後のショートショート2編。これもまた佳作といえる小品だろう。
しかしこういった人情法廷物が天藤氏のテイストと非常にマッチしているとは新しい発見であった。
まだあるのだろうか?
ある事を切に願う。