佐藤春夫のレビュー一覧
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約100年前の台湾旅行記。
基本エッセイだし、殊更ドラマチックな展開があるわけではないので、退屈に感じる向きもあるかもしれない。
ただ日本統治期、日本の同化計画をどう見ていたか、本土の人や原住民の人たちの苦悩や反発があったことが、よくわかり大変興味深かった。
親日などと聞きかじったことを言っていい気になっていてはけないなと本当に思う。
冒頭の女誡扇綺譚や霧社事件直後の霧社に旅行した その名も霧社、奇談などキラっと光る短編があり、概ね全編通して本土の台湾人だけでなく、少数民族の人たちとの触れ合いやエピソードも多かった。
時代が古いので台湾に興味がある人は絶対読めとは言わないが、近くてよく知らな -
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著者佐藤春夫は生涯に5度中国を訪れたとのことだが、本書では最初の2回、1920(大正9)年と1927(昭和2)年の旅に関する作品が収録されている。
1920年の旅は、同じく中公文庫に収録された『女誡扇綺譚』における台湾への旅の機会に、海峡対岸の福建省に渡ったものである。台湾の打狗(現在の高雄)からまず厦門に、そして漳州へと旅する。台湾での旅が有力者からの便宜を受けたり十分な通訳が付いたりして相当に恵まれていたのに対し、中国本土への旅は、同行者の通訳もあまり受けられず、また対日感情も良くない時期であったなど厳しいものがあったが、文人としての立場もあるのだろうか、土地の文人との交流もそれなりに -
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1920(大正9)年夏、佐藤春夫29歳のとき、中学校の同窓で台湾で医院を開業している友人に誘われ、彼は三か月余り台湾を旅した。
台湾の見るべきところは友人の師匠格の方が懇書を下さったのでそれを基に、また道中については総督高官の口添えがあって然るべく遇されたので、交通・移動手段の未発達、大型台風の影響による交通の一時途絶といった問題はあったにせよ、かなり恵まれた旅だったと言えるのではないだろうか。
本書は、この台湾への旅に想を得て書かれた小説、紀行文を一冊にまとめたもの。中でも有名なのは、表題作の『女誡扇綺譚』。台南の西端れ安平が舞台の、没落して廃屋になった家から「どうしたの?なぜ早くい -
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文庫本の発売情報で、中公文庫刊の本書のタイトルを見て、最近中公文庫から多く出ているアンソロジーでの漱石関連本かと思ったのだが、佐藤春夫編著とあるのを見て驚いた。本書の親本は『漱石の読書と感想』(小山書店、1937年5月刊)。漱石書簡で取り上げられている同時代小説評を、佐藤春夫が簡潔に紹介、解説し、併せて該当する作品を収録するというもの。漱石がどのような作品を、どのような観点から評価したのか、漱石の文学観を窺い知ることができるし、同時に当該小説を一緒に読むことができるという、非常に親切な編集本である。漱石と関わりの深い小宮豊隆、高浜虚子の序も付されており、特に小宮の序は、本書編集のポイントや読
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佐藤春夫は複数回中国を訪問している。去年、同文庫から発行された「女誡扇綺譚」は台湾をテーマにした一冊だったが、それの姉妹編にあたるものになるので2冊揃えることがオススメ。
なお、「わが支那游記」は全集には未収録。この文庫初収録。
河野先生による巻末解説が詳しいので、初めて春夫のこの中国旅行記に触れる人は、先に巻末解説を読んでから(もしくは並行的に読みながら)随筆を読んだ方が諸々の背景の理解が進むかもしれません。(編集方針なんかも説明されてるので、わかりやすい)
最後に収録されている「旧友に呼びかける」が、それまで呼んできた一連の中国紀行の総まとめのようにも読めて、グッときますね。 -
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佐藤春夫が1920年夏に数ヶ月かけて旅行した台湾。その旅行の体験を元に描かれた小説・随筆9篇収録。
ただ「台湾ネタの作品集めました」な編集ではなく、冒頭に春夫の旅程とそれに対応する作品を地図上にマッピング、各作品のトビラには当時の写真などを使用するなど、作品の収録順含めてとても丁寧な編集(おそらく作品の収録順は、旅程の日程にあわせた流れにしてあると。なので、雑誌初出順ではない)。
また、編者がこの分野に詳しい河野先生なので、巻末の解説がとても充実。この春夫と台湾の関係について興味を持たれた方は、編者が2019年に出された本『佐藤春夫と大正日本の感性―「物語」を超えて』を読まれると、より詳細な事 -
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冒頭の「歩上異常」に出てくるR・W君って、大坪砂男(和田六郎)かなあ。佐久だしそんな気がする。
小説から随筆、掌編のようなものまでいろいろ収録されててどれも面白かった。(与謝野晶子関係の話もなんでここに入ってるんだろう?と想いながら読むと、なるほど……!な感じで)おつきあいのある文豪たちの幅の広さも流石です。
気に入ったのは、短い作品ですが「柱時計に噛まれた話」。詩人の佐藤春夫がチラリとでてくるとことが良いです。
あとは表題作、「たそがれの人間」の中に出てくるT・Iが誰だか判らず読んでましたが、文体から立ち上る香気から「あ、これタルホだ!」と気づかせる佐藤春夫の筆力は凄いです。 -
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・佐藤春夫「たそがれの人間」(平凡社ライブラリー)は 副題に「佐藤春夫怪異小品集」とある、東雅夫編になる書である。小品集であるからか、あるいは小品集であるとはいへか、短篇からエッセイまで多彩な内容で ある。おもしろいのもあればおもしろくないのもある。ただ、佐藤春夫をほとんど知らない人間には、かういふとこともあるのだと思はせてくれる書ではある。 かういふ切り口で佐藤春夫を見ることもできる。これが東雅夫編である。
・個人的におもしろいと思つたのは、正に枝葉末節のことなのだが、その古典の現代語訳であつた。「椿の家ー『打出の小槌』より」、これには「ー建部綾足作 原題『根岸にて女の住家をもとめし条』ー