高橋弘希のレビュー一覧
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本作は、短編5編をまとめた書籍である。書名の「叩く」とは、第1編の主人公が「タタキ」となり金銭を盗む刹那、「タタキ」の紹介者に裏切られて殴打され、意識が戻るところからはじまる。面が割れ、このままでは捕まる。いっそのこと住人を殺害するか逡巡する心の揺れ。社会不適応やギャンブル依存となって生活困窮し、「タタキ」=犯罪に手を染めた自身の自堕落的生活を回想する。生育歴も含めて、自分が直面してる現実と思考のズレに主人公が気づいていない課題を浮かび上がらせる。第2編のアジサイにおいても、体調不良の妻を気遣うつもりで、外食を外ですませて帰ってくる夫。そんな夫に三行半を突きつけた、妻の気持ちが理解出来ない家
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大好きな小説。何年ぶりかの再読だけれど、当時と同じ強さで文章から滲み出る痛みを感じた。
癒えない痛みに耐えながら生きなければならないというのは、どういうことなのか。そして、何もできなかった無力感をずっと抱えながら「自死遺者」として残されるというのは、どういうことなのか。
朝の会で、たくさんの言葉を持ち寄って考え続けていけたらいい。
絞り出される言葉は痛みだけれど、それをくりかえして降り積もっていくものは、きっと痛みではないと思うから。
〈帰路、Aに手を引かれて、病院前に広がる春先の庭を歩きながら、ピンの欠けたオルゴールを想像しました。今まで響いていた和音から、少しずつ音が欠けて、一つの楽曲か -
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高橋弘希『送り火』文春文庫。
第159回芥川賞受賞作。標題作に加えて、『あなたのなかの忘れた海』『湯治』の単行本未収録の2篇も収録。
『指の骨』を読み、久し振りに凄い文章力と表現力のある新人作家が現れたものだと感心した。本作の標題作『送り火』でも冒頭から選びに選び抜いたであろう言葉を何度も噛み締めたくなるような淡麗で毅然とした文章でつなぎ、読み始めると目の前にその光景が広がって来るようだ。
『送り火』。芥川賞受賞作。
強烈なインパクトを感じる作品。自分も田舎の町に転校した経験があるが、田舎では暴力や肉体闘争が日常だった。都会では勉強の出来不出来で個人の評価が決まるが、田舎では運動能力や -
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日曜日なので、文庫で再読しました。
高橋さんもっともっと読みたいですが、書くのしんどいのかなーと思ってしまいます。
日曜日の人々は読んでいる方もしんどくて、今も不眠症を患っている身としては吉村の言うことすごくわかる…となります。
「不眠は昼に肉体を蝕み、夜に精神を蝕む」拒食も過食も不眠も自傷の一種です。
言葉にすることですくわれたり、言葉にすることでますます呑み込まれていくのもわかる気がします。わたしはたまたま軽くなる方だっただけ。
「人生は少しずつ消費するものではなく、ぽろぽろ欠けていくものかもしれない」
高橋さんの文章は痛むのですが、痛みを伝えるために表現を徒に過剰にしてなくて好きです。淡 -
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ネタバレ90年代、ココロ系と呼ばれるウェブサイト群があり、BBSで悩み相談や薬の情報交換をしていた。
当時は確か匿名が当然という感覚は薄く、各々ハンドルネームをつけていた。
おそらくそんなふうな「REM」が、ゼロ年代になってセルフケア手前の集会を開いて……という。
まず押さえておくべきは、少し昔の話だということだ。
決してリアルとは感じなかった。
いちいちモノを書くなんてまだるっこしくて。
また話の運びも結構都合に拠るところがあるし。
しかし、漱石「こころ」(の草稿の分量!)や春樹の持って廻った台詞に、リアルではないと知りつつもリアリティを感じてしまう、感じ方がある。
要は小説内での確かな手ごたえと -
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大岡昇平や水木しげるの著した記録と似通うところは、後方での活動や逃避行の描写が圧倒的に多いところである。事実、戦争体験において戦闘行為は一瞬であり、時の多くを後方で過ごしているのだから。
一方で大岡らの著したものと大きく異なるところは、主人公が生還しえないところである。生還したものの手記は、事実として生還したことを前提として、また意識的にか無意識的にか戦後の生活を価値判断として織り込んでいる。そこを出来うる限り排除した場合の思考実験として本書はあるように思う。
戦場体験者の記録を、想像としての死で還元したときに見える感覚。この追求こそが作品全体を通してリアル感を出している。
それと、死者に哀 -
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時間軸としては、
ラバウルあたりで、藤木も古谷も生きていた頃。
藤木は死んだが古谷は一緒、田辺分隊長の命令で、タコ壷での戦い。気を失って。
夜戦病院で比較的のんびり。槇田と清水と軍医。
病気、無為な行軍、自殺などで、次々死ぬ。
黄色い道をただ歩いている、現在。
現在回想するという小説の開始だが、わざと時間軸はバラバラにされている。
死が近いからこそ、子供の遊びにも近いやりとりがほほえましく、リリカルに輝く。
絵を描いたり、棒で地図を描いたり、誕生日の祝いに絵をあげたり。
具体的で詳細な描写や小物がきらきら輝いて見える。
語り手の生死はあえて曖昧にされている。
あとがき、なんてあるので、結局 -
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剃刀みたいな文章が
「居たい」と「痛い」を引き裂く。
ぱっくり開いた穴はどうせ空っぽなのに、
なぜだかいつまでも目が離せない。
尾崎世界観
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チャプターズ書店のYouTubeで、
文喫に訪れた際に購入されていた一冊でした。
ずっと気になっていて購入して、
可愛らしい表紙だけを見て、週末に読んだ一冊です。
結果、表紙から想像していた話を違いました。
従姉の奈々が自殺した。
死んだはずの奈々から届いた荷物。
荷物の中には紙束。
それは彼女の日記だった。
彼女の死の理由を知るため、
航は奈々が