高橋弘希のレビュー一覧

  • 叩く

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    短編が4つと中編が一つの構成だが、全般的にどんよりとした雰囲気の読後感だった.強盗の助けをしたにもかかわらず相棒に裏切られた佐藤の小心さを示した表題作.妻に逃げられた田村浩一の優柔不断さを表した「アジサイ」.「風力発電所」では難解な下北弁が出てきて現実を経験した小生としてはにやりとした.思い出話に満足した浩一の回想を示した「埋立地」.少し長めの「海がふくれて」が一番楽しめた.琴子と颯汰が暮らす海岸べりの町での淡々とした話だが、合挽場所の灯台、凪読み様の老婆、沖だしに行って帰って来ない父への手紙、フナダマ様を祭る行事、父の頭骨の発見など印象的なエピソードが随所に散りばめられた構成が良かった.

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    2024年01月19日
  • 叩く

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    短編集。
    表題作が一番面白かった。身勝手な自己弁護な屁理屈を繰り広げるのに呆れ返って苦笑だけれど、そんなみっともなさや愚かさが、全くは他人事ではないように思えて、生々しかった。

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    2023年11月07日
  • 叩く

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    短編は向いてないのかもと思いながらだから何!といいながら読む。
    どんな短編なら面白く読めるんだろう。今のところ児童図書の銭天堂がダントツでそれを覆えす短編はあるのだろうか。

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    2023年09月28日
  • 叩く

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     平凡な日常の中に潜む落とし穴を描く少し風変わりな短編集。
              ◇
     佐藤が意識を取り戻すと、目の前には縛られた老婆が転がっていた。
     日当3万円の闇バイトで、雇い主の塚田とともに老婆ひとりの住宅に押し入って金庫を開けさせ札束を拝んだまではよかったが、直後に後頭部を殴られ気を失っていたのだ。

     気づくと塚田の姿はなく、佐藤自身はしていたはずのゴーグルやマスクが剥ぎ取られ、むき出しになった顔を老婆と突き合わせている状態だった。
     金は塚田が持ち去っていて、高飛びしようにも資金がない。顔は老婆にしっかり見られた。目の前の快楽だけを求めるダラけた生き方をしてきた佐藤が、初めて直面す

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    2023年09月03日
  • 叩く

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    自分が編集者時代であれば、間違いなく担当になりたい作家さん。きれいな文章に、その小説世界に引き込む力を秘めた作品を作り続けている。
    どの作品も甲乙つけ難いが、個人的にはタイトルにもなっている「叩く」と、「アジサイ」がよかった。
    前者はどちらに転ぶか決めかねる主人公の複雑な心理描写と、読者に叩きつけるようなラスト二行のインパクトがとにかく強烈。
    後者はアジサイを切ることで終わりを求めた、個人的にも共感を得られる作品だった。 ★4.0

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    2023年08月21日
  • 叩く

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    大好きな高橋弘希さんの新作短編集。

    『叩く』
    特殊詐欺に加担し、"タタキ"をするため押し入った老婆の家で、仲間に裏切られ取り残されてしまった男の様子が描かれる。高橋弘希さんと特殊詐欺ってすごく相性が良さそうだと思って楽しみにしていたんだけれど、期待通り面白かった。
    殺人という一線を超えられるのか否かという葛藤と、変貌していく様子が恐ろしかった。

    『アジサイ』
    理由もわからず妻に出て行かれてしまった男の、それでも淡々と流れていく日常風景。梅雨どきのアジサイの観察日記のようでもある。
    妻の実家へ何度も電話をかけて安否確認したりしつつま、そのうち帰ってくるだろうと待つ姿にはさ

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    2023年09月04日
  • 送り火

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    第159回芥川賞受賞作。
    「あなたのなかの忘れた海」、「湯治」の三作。
    表題作は、終わり方も含めて、受賞作っぽいなと感じた。比較的鮮明にイメージできる文章に思われた。その他の2作品は、同じようにイメージはつながりやすかったのだが、内容はなんとなく、日常の断片が切り取られただけの感じがした。もっと長い作品が読んでみたい。

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    2023年01月06日
  • 音楽が鳴りやんだら

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    ロックだ。音楽に魅入られ、音楽に取り憑かれ、音楽に狂わされていく人間の姿がある。
    幼馴染4人グループで始まったThursday Night Music Clubという一つのバンドが、どんどん変貌を遂げていくさまは、さながら音楽のよう。
    フィンランドに滞在する場面が思いがけずあったりして嬉しかった。
    終盤、彼らバンドメンバーが知らないデビューをめぐる真相と過去が明らかにされるのだが、鳥肌が立った。音楽を愛してしまった人は、その音楽が生まれるためならどのような手段でも講じられるのだろう。

    〈 ロックに日常性なんて必要か? 必要なのは衝動と破壊と混沌だよ、俺はそういう気分でいま音楽を作っているん

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    2022年11月01日
  • スイミングスクール

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    淡々と語られるストーリーは実体験のごとく情景が浮かび上がり、筆者の描写力に感銘さえ覚える。タイトルや序章からほのぼのとした内容かと思いきや予想を裏切る展開に引き込まれた。

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    2021年04月15日
  • 朝顔の日

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    ちょっと昔の小説を読んだような不思議な感覚。作者はまだ若い。結核病棟のそれも現代的ではない空気が感じられた。

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    2020年10月05日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    太平洋戦争中、南方の島で傷兵になった
    一等兵のお話し。物語は主人公の語りで進む。
    その日の暮し、仲間の話し、
    時おり負傷した戦闘の話し。たんたんと描写されているようで、文章がとても力強い。
    リアルな戦闘のシーンも無く、家族との別れのような描写も無い
    それなのにとても深く悲しいし、恐ろしい。

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    2020年07月07日
  • 日曜日の人々

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    「日曜日の人々」とは自助グループへの参加者が自身を語った原稿をまとめている冊子。主人公の航は従妹が自死をしたことにより、この自助グループの存在を知る。
    そこで知り合う人々を通して「死」に向き合っていく。

    最後の車内での一連の文章を読んで、自分が死ぬとき自分は何を思うのか、ワクワクしてしまった。
    自傷も拒食も不眠も、すべて言葉。
    自分に、他人に、伝えたいことがある。死を選ぶときは言葉がなくなった時なのかもしれない。(薬物依存に関しては言葉ではないと個人的には思ったり。)

    言葉はいつ何時刃物になるかわからない恐ろしい道具だと思う。
    高橋さんが紡ぐ言葉は葉っぱのようだ。気づいたら少し切れていて、

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    2020年04月07日
  • 日曜日の人々

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    高橋弘希『日曜日の人々』講談社文庫。

    最近気になっている新人作家の一人。第39回野間文芸新人賞受賞作。

    拒食、過食、不眠、自傷行為、自殺願望といった現代の悩める若者たちの姿を描いたエグい小説。悩める若者たちが集う場所は……

    何が若者たちをこうした暗闇へと誘うのか。答えが見出だせないまま結末を迎え、嫌な後味だけが残る作品だった。傑作『指の骨』と共通するのは狂気か。しかし、『指の骨』に比べると物足りなさを感じる。

    本体価格580円
    ★★★★

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    2019年10月17日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    2019/05/25-6/1
    戦争文学というジャンルの存在を気づかせてくれた。生死の分かれ目を幾度も体験していく。どんな時でもヒトは夢を見る。

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    2019年06月01日
  • スイミングスクール

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    愛犬の死後、スイミングスクールに通うと言い出した娘を持つ母の気持ち。

    母となって、思い出される自分の母との記憶と幼少期。
    日に日に泳ぎを覚えてくる娘の成長。

    母と一緒に録音したカセットテープのこと。

    他短編。
    自分の不貞のせいで妻と別居している期間に
    熱を出しそのまま意識が戻らなくなった幼い娘を見舞う日々。

    2つの話も落ちはない。
    著者の話は結末がどうとかじゃなくて、繊細で陰影のある文章や雰囲気を楽しむ感じ。
    それが心地よい。

    スイミングスクールのバスに乗り遅れた娘の悲壮感、
    大人になれば大したことのないそんなことだけど、子供の時は確かにそうだった気持ちを思い出させてくれる。

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    2019年03月16日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    初めて読んだ戦争小説から、青春譚のようなものを感じた。
    ラストに近くにつれて自分を包む世界の皮が薄れ、現実に戻るような感覚に陥る。
    戦争とは一体何なのか。虚構にも見聞録にも収められない作風が神経を揺さぶる気がした。

    うだる暑さに霞む町を高台から眺め、白い壁の正面で読みたい。

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    2018年11月22日
  • スイミングスクール

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    高橋氏初の現代劇、親子の関係性を描いた二篇のその冷え冷えとした空気感に戸惑いを隠せない。夜驚症で泣き叫ぶ子供に「ざまぁみろ」と薄笑う母親にも驚くがそれを通り越して唖然としてしまうのは脳症で娘を失う瞬間にも傍観者然とした冷静すぎる父親の姿。その感情は「指の骨」にある死が恒常化する戦場での諦観や達観とまるで変わらないのではないか。
    いったい何を伝えようとしているのか?少なくとも私の頭の引き出しの中にその鍵はなかった。
    思いを巡らせるほどに深まる心の闇、これを単に世代の違いだからと済ませてよいわけではあるまい

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    2018年10月16日
  • 朝顔の日

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    あの「野火」に匹敵する…の帯にそんなわけがないだろう!と高を括っていたのだが読み終えて思ったのはこれは戦争など知る由もない30代の青年に旧日本軍の兵士が憑依したのではないのかと。その想像の世界の戦争はエンタテインメントに走ることもなく飢餓と病により死を目前にした人間の内面を淡々と描くものであるがそれは遠く離れた南の島で戦病死した何十万人の兵士の生々しい声。忘れてはいけない、語り継ぐなどの大義はさておきスタバのコーヒー1杯分の値段で読めるわずか70年前に起こった歴史の事実を感じ取れるこの文庫本の価値は高い

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    2018年10月16日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    ネタバレ

    圧倒的なリアリティとか読んだ人みんなが言っているのだがホントにそうで、見た人しか書けないような、圧倒的な生々しさが全編に漂っている。まるで太平洋戦争のその時その島のその場所の臭いまで感じるような内容。野火を読んだ時と同じような感覚も覚える。イメージのような戦いのない戦わない戦場があり、それ故の悲惨さが重くのしかかる。戦争だけはしたくないとつくづく思うし、自分の子どもが戦争に行き戦うと言うなら何も考えずに止めたい。戦場で戦おうが戦わなかろうが、死がそこにある状況、個人の意思に反した死を迎えざるを得ない場面を絶対的強者が作るべきではないと思う。戦わざるを得なかったというのは思考の停止であり、そうせ

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    2018年08月21日
  • スイミングスクール

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    芥川賞を取った高橋弘希さんの短編2本の一冊。先日の受賞記者会見のぶっきらぼうな様子からは繋がり難い文体で初めは女性が書いた本みたいな印象でした。不思議な癖になる文体ですね。「スイミングスクール」 「短冊流し」どちらも短いけど秀作です。彼の ほかの作品も読んでみたくなりました。

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    2018年07月27日