高橋弘希のレビュー一覧

  • 叩く

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     本作は、短編5編をまとめた書籍である。書名の「叩く」とは、第1編の主人公が「タタキ」となり金銭を盗む刹那、「タタキ」の紹介者に裏切られて殴打され、意識が戻るところからはじまる。面が割れ、このままでは捕まる。いっそのこと住人を殺害するか逡巡する心の揺れ。社会不適応やギャンブル依存となって生活困窮し、「タタキ」=犯罪に手を染めた自身の自堕落的生活を回想する。生育歴も含めて、自分が直面してる現実と思考のズレに主人公が気づいていない課題を浮かび上がらせる。第2編のアジサイにおいても、体調不良の妻を気遣うつもりで、外食を外ですませて帰ってくる夫。そんな夫に三行半を突きつけた、妻の気持ちが理解出来ない家

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    2023年11月23日
  • 叩く

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    5つの短篇集。人間の本能や機微が惜しみなく描かれ、先が気になる展開だった。緊張と滑稽さが程好く、モノクロームが似合う物語。『アジサイ』の田村の先が知りたい。

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    2023年08月05日
  • 日曜日の人々

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    大好きな小説。何年ぶりかの再読だけれど、当時と同じ強さで文章から滲み出る痛みを感じた。
    癒えない痛みに耐えながら生きなければならないというのは、どういうことなのか。そして、何もできなかった無力感をずっと抱えながら「自死遺者」として残されるというのは、どういうことなのか。
    朝の会で、たくさんの言葉を持ち寄って考え続けていけたらいい。
    絞り出される言葉は痛みだけれど、それをくりかえして降り積もっていくものは、きっと痛みではないと思うから。

    〈帰路、Aに手を引かれて、病院前に広がる春先の庭を歩きながら、ピンの欠けたオルゴールを想像しました。今まで響いていた和音から、少しずつ音が欠けて、一つの楽曲か

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    2022年07月01日
  • 指の骨(新潮文庫)

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     内容についてはケチのつけようがない、慄然とするほどに惹きつけられる。恐くなって読みたくないような気さえするが読むことをやめられない、臨場感が凄まじいからか。実体験なしにこれを書けたことは超人的だ。
     そして何よりそのシリアスな内容を支える文体、文章力、豊富な語彙、身体感覚や精神の動きを書く表現力、風景、情景を浮かび上がらせる描写力、これが何よりも素晴らしいし、凄い。この作者はこれからも読んでいこうと思えた。

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    2021年01月11日
  • 送り火

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    高橋弘希『送り火』文春文庫。

    第159回芥川賞受賞作。標題作に加えて、『あなたのなかの忘れた海』『湯治』の単行本未収録の2篇も収録。

    『指の骨』を読み、久し振りに凄い文章力と表現力のある新人作家が現れたものだと感心した。本作の標題作『送り火』でも冒頭から選びに選び抜いたであろう言葉を何度も噛み締めたくなるような淡麗で毅然とした文章でつなぎ、読み始めると目の前にその光景が広がって来るようだ。

    『送り火』。芥川賞受賞作。

    強烈なインパクトを感じる作品。自分も田舎の町に転校した経験があるが、田舎では暴力や肉体闘争が日常だった。都会では勉強の出来不出来で個人の評価が決まるが、田舎では運動能力や

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    2020年08月06日
  • 日曜日の人々

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    日曜日なので、文庫で再読しました。
    高橋さんもっともっと読みたいですが、書くのしんどいのかなーと思ってしまいます。
    日曜日の人々は読んでいる方もしんどくて、今も不眠症を患っている身としては吉村の言うことすごくわかる…となります。
    「不眠は昼に肉体を蝕み、夜に精神を蝕む」拒食も過食も不眠も自傷の一種です。
    言葉にすることですくわれたり、言葉にすることでますます呑み込まれていくのもわかる気がします。わたしはたまたま軽くなる方だっただけ。
    「人生は少しずつ消費するものではなく、ぽろぽろ欠けていくものかもしれない」
    高橋さんの文章は痛むのですが、痛みを伝えるために表現を徒に過剰にしてなくて好きです。淡

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    2020年04月18日
  • 日曜日の人々

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    ネタバレ

    90年代、ココロ系と呼ばれるウェブサイト群があり、BBSで悩み相談や薬の情報交換をしていた。
    当時は確か匿名が当然という感覚は薄く、各々ハンドルネームをつけていた。
    おそらくそんなふうな「REM」が、ゼロ年代になってセルフケア手前の集会を開いて……という。
    まず押さえておくべきは、少し昔の話だということだ。

    決してリアルとは感じなかった。
    いちいちモノを書くなんてまだるっこしくて。
    また話の運びも結構都合に拠るところがあるし。
    しかし、漱石「こころ」(の草稿の分量!)や春樹の持って廻った台詞に、リアルではないと知りつつもリアリティを感じてしまう、感じ方がある。
    要は小説内での確かな手ごたえと

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    2020年02月06日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    大岡昇平や水木しげるの著した記録と似通うところは、後方での活動や逃避行の描写が圧倒的に多いところである。事実、戦争体験において戦闘行為は一瞬であり、時の多くを後方で過ごしているのだから。
    一方で大岡らの著したものと大きく異なるところは、主人公が生還しえないところである。生還したものの手記は、事実として生還したことを前提として、また意識的にか無意識的にか戦後の生活を価値判断として織り込んでいる。そこを出来うる限り排除した場合の思考実験として本書はあるように思う。
    戦場体験者の記録を、想像としての死で還元したときに見える感覚。この追求こそが作品全体を通してリアル感を出している。

    それと、死者に哀

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    2019年07月10日
  • 朝顔の日

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    妻に迫る"死"を静かに、綺麗に描かれていた。
    一見淡々としているようだけれど、夫婦の会話などから感じる"愛"。それを感じると、やっぱり色鮮やかに描かれてるなあと痛感した。
    いい意味で、インパクトがあった訳ではないが、この本から感じる温度がとても心地よかった。
    また時間があれば読みたいし、部屋に置いておきたいと思える一冊でした。

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    2019年02月13日
  • 朝顔の日

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    とても静かで美しいお話でした。
    戦争の影が差す時代、結核で療養している妻を見舞う夫のお話。
    感情を全面に大袈裟に押し出していない冷静な語り口ですが、病が進行していくにつれて透明になっていく妻に接する夫の悲しみが静かにひたひたとしみこんでくるようでした。
    情景や、筆談になった妻の書き言葉もとても綺麗。昔に書かれた物語だっけ…と途中思いました。
    この作家さんの文章が好きです。痛々しい描写もありますが、静かで。

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    2018年08月18日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    高橋弘希『指の骨』新潮文庫。

    新潮新人賞受賞作の戦争文学である。戦争の悲惨さと常に死と隣り合わせの日常が創り出す狂気とが見事な筆致で描かれる。

    それにしても、何とも凄い新人作家が出て来たものだ。 最初は何故この平和な世の中で本格的な戦争文学をと思うのだが、大岡昇平の傑作『野火』や『俘虜記』にも全くひけをとらない作品に非常に驚かされた。

    太平洋戦争の最中、南方で腕を負傷した『私』を主人公に収容された臨時野戦病院での死と隣り合わせの日常……食糧不足と相次ぐ戦友の死は『私』を狂気の世界に誘う……

    現代の若者たちよ、これが戦争だ。

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    2018年08月10日
  • 朝顔の日

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    つい先日 芥川賞を得た高橋弘希さんの3年前 35歳時の作品。昭和15年年末から翌年年末に至る当時の不治の病 結核に見舞われた妻と寄り添う夫との日常の光景が家族や病院の人々と共に 静かに静かに流れるように語られており読者の心に染み入ってくる。こうした作品を35歳の方が当たり前の如く違和感なく極く自然に描けることに驚いた。何故だか不意に大昔に頭に残った文芸歌謡曲、三浦洸一の「純愛」が浮かんだ♪
    この作品も芥川賞候補だったし、「指の骨」も芥川賞と三島由紀夫賞候補だったけど この作家の非凡さ半端ないって 笑。

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    2018年07月29日
  • スイミングスクール

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    ネタバレ

    スイミングスクール、文章の書き方が、湊かなえを意識してるのかなと思うほど、似てた。
    どうつながるのか、わからないままからなんだか終わった。

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    2017年09月19日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    自分とほぼ同年代にもかかわらず、まるで戦争に行き、飢えにくるしみ、死にかけたことがあるかのような乾いた文章に身ぶるいがした。
    といってももちろん、読者も誰一人、そんな経験をもってはいないので、お互いに想像でしかないのだけれども。
    リアリティというと陳腐だが、みずからが死んですべてが喪われたような、読後感。

    ひたすら戦争文学を古処誠二はなかなか直木賞をとれなくて残念なんだけど、この人は近いうち芥川賞とりそうな気がする。

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    2017年09月15日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    時間軸としては、
    ラバウルあたりで、藤木も古谷も生きていた頃。
    藤木は死んだが古谷は一緒、田辺分隊長の命令で、タコ壷での戦い。気を失って。
    夜戦病院で比較的のんびり。槇田と清水と軍医。
    病気、無為な行軍、自殺などで、次々死ぬ。
    黄色い道をただ歩いている、現在。
    現在回想するという小説の開始だが、わざと時間軸はバラバラにされている。

    死が近いからこそ、子供の遊びにも近いやりとりがほほえましく、リリカルに輝く。
    絵を描いたり、棒で地図を描いたり、誕生日の祝いに絵をあげたり。
    具体的で詳細な描写や小物がきらきら輝いて見える。

    語り手の生死はあえて曖昧にされている。
    あとがき、なんてあるので、結局

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    2017年09月09日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    あの「野火」に匹敵する…の帯にそんなわけがないだろう!と高を括っていたのだが読み終えて思ったのはこれは戦争など知る由もない30代の青年に旧日本軍の兵士が憑依したのではないのかと。
    その想像の世界の戦争はありがちなエンタテインメントに走ることもなく飢餓と病により死を目前にした人間の内面を淡々と描くものであるがそれは遠く離れた南の島で戦病死した何十万人の兵士の生々しい声。
    忘れてはいけない、語り継ぐなどの大義はさておきスタバのコーヒー1杯分の値段で読めるわずか70年前に起こった歴史の事実を感じ取れるこの文庫本の価値は高い

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    2017年08月31日
  • 指の骨(新潮文庫)

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    細やかな描写が戦争の酷さ、惨めさを鮮烈に描き出している。まるで見てきたかのような、人が腐り落ちる描写は読む者を酩酊させるよう。

    野戦病院という安全地帯で、マラリヤなどで周囲の人間が死んでいくというのに、どこか長閑ささえ感じさせる前半。
    そしてひとたび物語が爛熟し腐り始めれば、急転直下のように死と腐臭の凄惨さが広がっていく。

    戦争の最小単位である一人の兵士に焦点を当て、そこに渦巻く悲壮さがリアルに表現されている。もし戦争が起こればこうした無価値な死に包まれ、尊厳なく消滅していくのだと思うと、憤りや恐れ以上に悲しみを感じてならない。

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    2024年11月08日
  • 日曜日の人々

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    主人公は傍観者のようで、物語が進むにつれて関わる人々の心の在りように絡め取られ、心のもつ暗く淀んだ淵のような深みに引きずり込まれていく。
    主人公は此岸にいると信じて読者は安心して読む。けれどいつ彼岸に渡るか分からない危うさを主人公は感じさせる。その匙加減が妙。

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    2024年11月07日
  • 日曜日の人々

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    剃刀みたいな文章が
    「居たい」と「痛い」を引き裂く。
    ぱっくり開いた穴はどうせ空っぽなのに、
    なぜだかいつまでも目が離せない。
    尾崎世界観
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    チャプターズ書店のYouTubeで、
    文喫に訪れた際に購入されていた一冊でした。
    ずっと気になっていて購入して、
    可愛らしい表紙だけを見て、週末に読んだ一冊です。

    結果、表紙から想像していた話を違いました。

    従姉の奈々が自殺した。
    死んだはずの奈々から届いた荷物。
    荷物の中には紙束。
    それは彼女の日記だった。

    彼女の死の理由を知るため、
    航は奈々が

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    2024年05月06日
  • 叩く

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    個人的に「海がふくれて」がすごく好きだ。一人の少女が父の死を乗り越え大人の女性になるある夏の話。幼馴染男女の何気ない日々、海沿いの田舎町の雰囲気、土地のしきたりなど、読んでいて感傷的な気分になる。他の作品はオチがはっきりせずモヤモヤした読後感だったが、これは良かった。
    やはりこの作者は田舎の描写や家族、友人との何気ない瞬間を描くのが非常に上手いと思う。また新作が出たら読みたい。

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    2024年04月26日