あらすじ
第159回芥川賞受賞作。単行本未収録の2篇を加えて、待望の文庫化。
春休み、東京から東北の山間の町に引っ越した、中学3年生の少年・歩。
通うことになった中学校は、クラスの人数も少なく、翌年には統合される予定。クラスの中心で花札を使い物事を決める晃、いつも負けてみんなに飲み物を買ってくる稔。転校を繰り返してきた歩は、この小さな集団に自分はなじんでいる、と信じていた。
夏休み、歩は晃から、河へ火を流す地元の習わしに誘われる。しかし、約束の場所にいたのは数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった――。少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――。
「圧倒的な文章力がある」「完成度の高い作品」と高く評価された芥川賞受賞作。
「あなたのなかの忘れた海」(「群像」2016年8月号)、「湯治」(「文學界」2020年6月号)の、2篇を文庫化にあたり収録。
※この電子書籍は2018年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
高橋弘希『送り火』文春文庫。
第159回芥川賞受賞作。標題作に加えて、『あなたのなかの忘れた海』『湯治』の単行本未収録の2篇も収録。
『指の骨』を読み、久し振りに凄い文章力と表現力のある新人作家が現れたものだと感心した。本作の標題作『送り火』でも冒頭から選びに選び抜いたであろう言葉を何度も噛み締めたくなるような淡麗で毅然とした文章でつなぎ、読み始めると目の前にその光景が広がって来るようだ。
『送り火』。芥川賞受賞作。
強烈なインパクトを感じる作品。自分も田舎の町に転校した経験があるが、田舎では暴力や肉体闘争が日常だった。都会では勉強の出来不出来で個人の評価が決まるが、田舎では運動能力や腕力の方が個人評価の尺度となる。本作の暴力描写について賛否両論があるようだが、確かに終盤に描かれる暴力の描写は常軌を逸しており、序盤から中盤にかけての文学小説が終盤一気に残虐ホラー小説へと変貌する。
春休みに東京から青森の山間部の田舎町に引っ越した中学三年生の歩。転校先の翌年に廃校となる中学校は生徒の数も少なく、歩はすぐにクラスの中心人物の晃と仲良くなり、クラスの仲間とも馴染んでいく。しかし、歩は仲間内でゲームのように扱われる『暴力』に違和感を覚える。夏休みに晃から河に火を流す地元の習わしに誘われた歩は……のどかな田舎の全てが偽りだったのか……歩のその後が気になる。
『あなたのなかの忘れた海』。
結局は何も起きないが、人生の儚さを感じるブンガク、ブンガクした短編。最後に『あなたのなかの忘れた海』というタイトルの歌の歌詞が収録されている。この歌に着想を得た短編ということだろうか。
舞台は銚子市の海鹿島海岸。冒頭は鈴音の夫の視点で物語が始まるが、直ぐに鈴音の視点に切り替わり、その後、鈴音の夫は登場しない。9歳の時、鈴音は海鹿島海岸で水死体を発見する。12年後、東京から実家の銚子市に帰省した鈴音はまるで9年前の水死体に取り付かれたかのように水死体のことを調べる。
『湯治』。
大手の商社に勤める34歳の佐藤宏は左足の古傷の疼きを癒すために足柄下郡の民宿へ湯治に訪れる……
湯治の宿で見たことが綴られるだけで、山も谷も無い。
本体価格620円
★★★★★
Posted by ブクログ
第159回芥川賞受賞作。
「あなたのなかの忘れた海」、「湯治」の三作。
表題作は、終わり方も含めて、受賞作っぽいなと感じた。比較的鮮明にイメージできる文章に思われた。その他の2作品は、同じようにイメージはつながりやすかったのだが、内容はなんとなく、日常の断片が切り取られただけの感じがした。もっと長い作品が読んでみたい。
Posted by ブクログ
表題作「送り火」は、第159回芥川賞を受賞した著者の代表作です。父の転勤が多く引っ越しを繰り返していた歩は、その土地に順応するのが早かった。次の引越し先が、東北のある山の麓にある町で、歩は中学生最後をその町で過ごすことになった。そこで出会ったのが、学校のガキ大将的ポジションの晃だった。彼との出会いが、歩の人生を変えていく。クライマックスの部分がすごく印象的でした。
Posted by ブクログ
都会から田舎に引っ越してきた少年。彼は地元の学校の悪友らと一緒に万引きしたり危険な遊びに興じる。
美しい自然描写の一方、物語全体にかかる不気味さがあり、終盤でそれは先輩の熾烈ないじめと、いじめられっ子から少年へ執拗な追跡という形で明示される。
後味は悪い。
Posted by ブクログ
第159回芥川賞受賞作。
中学3年生の歩。
中学生というだけで危うさがありそうだが、
景色も、友達との関係も、全てのところにどこか後ろ暗い感じを醸造させている。
なんでもできそうで、なにもできないような年頃の、
なにも起きなさそうで、なにか起きてしまう、そんなお話。
Posted by ブクログ
読書開始日:2021年6月23日
読書終了日:2021年7月1日
所感
学生の頃の、悪いとは思うが周りに流されてやってしまう感じ。自分にも覚えがある。
そんな時は決まって文章中の一文「その冷たい響きに反して、胸中には甘い微熱を覚えた」の感覚を味わっていた。
田舎の年功序列、悪のサイクル、刺激が少ないが故の渇望、よくない部分が全て写ってた。
恐らく稔は、東京からやってきた主人公の中途半端な優しさがムカついたのだと思う。余ったコーラを情けでやるなんて最たるもの。
全ての行動に弱者を庇う自分が色濃く残っていた。
そしてポッと出が晃の右腕ポジションになり自分の罰を見物しているとなれば相当心にくる。
こういった本人らがいじめと認識しないようないじりに関しては関係性が大事だ。
最後の灯籠流しの部分や藁人形の部分など解釈できないものが多かった。
途中から難易度が増した作品
風が咲いた
学級会の成功はね、僕の出番がないことだからね
水のような汗が頬を伝う
ハジの赤味ではなく。鬱血による紅色が顔面に広がる
Posted by ブクログ
無知な子供たちの悪戯という印象で始まるが後半は痛々しく生々しいが惹きつけられてしまった。
実際中学生ぐらいまでは学校と家が世界の全てになってしまっているので恐怖を感じた。更に田舎という場所がより狭さを感じる。
そんな狭い世界で生きる学生は地元や集団の中でひとつでも選択を誤ると取り返しのつかない事になるという自らの学生時代を思い出した。
そんな感想とは別に、晃や稔の心情をもっと深く読み取りたいと思った。
一度読んだだけの自分は終盤の心情がよく分からなかった。
晃の時折見せる正義感や真面目さは?
稔は歩が自分より弱そうで器用だからムカついたのか?
登場人物の背景も少ないので細部までは分からなかった。
しかし恵比寿顔と鬼の二つの顔をもつお面のように薄ら笑いを浮かべている稔の本心は鬼の様になっていた事は分かった。
知らない地元ルールに巻き込まれる怖さはエグい。
湯治という作品が非常に好みだった。古傷を治す為、民宿で湯治しに行く話だが過去の悲しみは古傷と同じで、いつまで経っても治らない。意外と人間は繊細で脆いのだと気付かせてくれる。
Posted by ブクログ
バイオレンス描写が、生ぬるい。
というのも、殊にこの手の描写に関してなら村上龍とか花村萬月とか、究め尽くした作家が山のようにいるので、はっきり言って分が悪いだろう。
もちろん、語彙の豊富さや描写の厚みは最近の作家では群を抜いているのは確かだ。本作にもそれは発揮できている。それだけに惜しいと思う。まだ、これ、という主題を高橋は見つけていないのではないか。
個人的には『日曜日の人々』のようなものを再度書いてほしいな、とは思っている。