エドマンド・バークのレビュー一覧
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『フランス革命の省察』 エドマンド・バーク
「保守の父」と呼ばれるエドマンド・バークによる古典。フランス革命を礼賛する当時の風潮に対し、人間の理性の限界と、歴史や伝統の中で育まれた制度や慣習の重要性を説いている。
難解な内容だったが、現代の政治や社会の変化と重ね合わせながら読むことで、非常に多くの示唆を得ることができた。
バークは改革そのものを否定したのではなく、抽象的な理念だけで既存の秩序を急激に変えようとすることの危険性を指摘している。自由や権利もまた、先人から受け継ぎ、次の世代へ受け渡していくべき「相続財産」のようなものだという考え方が印象に残った。
保守主義とは単なる現状維持ではなく、人間の理性の限界を自覚しながら、伝統や歴史の中に蓄積された知恵を尊重し、必要な改革を漸進的に進める思想であることを理解できた。
理想と現実、改革と伝統のバランスについて深く考えさせられる一冊。現代の政治や社会問題を考える上でも色褪せない古典だと思う。
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Posted by ブクログ
ネタバレ多分あまり語られない視点からの感想。本書の訳者もこの視点には特に触れてない。
本書は保守主義の源泉らしい。私は保守とか革新とか詳しいことは分からないし、エドマンド・バークについても何の知識もないので、そのまま特定の思想こだわらずに読んでみた。するとここに書かれてることの要点を一つに絞ることができた。それは彼は「社会の白紙化」を批判したのだということ。社会を改革する際、いったん今ある社会を全部破壊してまっさらにする。その後に理想的な社会を建設する。それは必然的に超巨大プロジェクトになるけど、このようなアプローチを無謀かつ非合理的だといって批判した。フランス革命を見てみるとその際暴動、殺人、教会荒らしなどが多発、政敵や教会の評判を落とすためのプロパガンダが多用され社会は紊乱した。バークは国民議会の裁判制度を批判し、これは悪用され異端審問のようになるだろう、それはフランス国民にとって史上最悪の恣意的な専制主義が蔓延するだろうとその後の恐怖政治まで予測。しかし、彼が批判したのはフランス革命だけど、今となってはそれは表向きで、フランス革命に限らずそのような社会の白紙化を実施しようとする改革すべてに当てはまる普遍的な批判で、ここにこそ本書の価値があると思う。保守とか革新とか右とか左とか関係なく。特定の思想のバイブルみたいな扱いだったらここまで読まれてなかっただろうし、読者は意識しなくても社会の白紙化が無謀で非合理的な改革だと納得する人が多かったのだろう。
もちろん保守的な思想、世襲の王を残しつつ議会と共存させることの利点を述べてはいる。しかし、絶対王政の擁護者ではないし、合法的な王位の世襲つまり立憲君主制を支持しており、自分達イギリス人の自由が永続して守られ、神聖なものとして受け継がれていくことが大事だと述べており、自由を守るどころか暴力と略奪と迫害に至った革命には賛同できなかった。紆余曲折を得て立憲君主制にたどり着いた自国の王と歴史に敬意を表しており、合法的な王は不正ではなく正義であり、悩みの種ではなく恩恵であり、奴隷のしるしではなく自由を保障するものだとしている。恣意的な権力を無鉄砲にふるう行為が問題なのであり、それを制御することは王の有無と関係ない。それなら自由の保障としてどうにかこうにか伝統として続いてきた王を頂いていた方が社会が混乱しなくていい。カール・ポパーは伝統とは正しい記述のために言語を用いるもの(虚偽の抑制と排除)としている『推測と反駁』。であるならこれがなくなったとき社会はどうなるのか、ポパーの主張はバークの主張が真実に近いと思わせてくれる。バークは騎士道精神を例にあげている。
78ページ
(フランスのみなさんは)なにもかも新しく始めなければならないようにふるまったのです。始め方が間違っています。手元にあることごとくを侮蔑することから始めるのは、元手になる資本もなしに商売を始めるようなものです。
119ページ
(イングランドもフランスと同じ様に)その古来の法律と裁判所と法人の、なにもかもが廃止されるべきだというのでしょうか。
174ページ
この革命はまさに、感情と風習と道徳的な意見の革命に他ならないのです。わたしたちのなかにあるすべての尊敬の対象が滅ぼされ、すべての尊敬の原則が破壊されようとしているなら、人類に共通の感情を抱いている人間は誰であれ、それについてひときわ弁明が求められる事態となっているのです。
336
まっとうな改革者であれば、自分の国を白紙とみなして自分の望みを好き勝手に書き込んでいいなどと思い上がったりはしないでしょう。
(白紙と言っている。この批判は哲学者カール・ポパーの社会白紙化批判に近い)
370
フランスの建築家たちは目に入るすべてをがらくたとして一掃し、自国の庭園装飾専門の庭師のようにすべてをまったく同じ水準にならしました。
(フランスの革命家達が政治家というより建築家や庭師に喩えられている)
391
これらの市民と称するフランス人たちがまるで征服した国のように自国を扱っているさまを見逃すことはできません。
573、バークによる原注
国民議会の主要な指導者ラボー・ド・サンテティエンヌ氏は、かれのあらゆる行動の原理を可能な限り明確に表現しています。
「人民を幸福にするには、そもそも人民を改革しなければならない。人民の考えを変え、法律を変え、習俗を変え…略…人間を変え、物事を変え、言葉を変えなければならない。…略…すべてを破壊しなければならない。そうだ、すべてを破壊するのだ。すべてを作り直さなければならないのだ」
(自分を理性的存在であると公言する人の集まり。もうヒステリーにしか見えない)
バークはこのような全部破壊したい衝動がどうして生まれてくるのか分析している。それは、今あるものを少しづつ改正していく方が合理的だが、このような社会の白紙化を目論む人々にはその能力が欠けているからだと。伝統を現在の価値観にあわせて改革していくのは難しい作業だが、革命家にはその能力が欠けていたので、楽な全面的な廃絶と破壊という稚拙な行為に走ったのだと辛辣に批判している。世襲の君主を頂きながら、国民の自由と権利を保障する、これは確かに折り合いをつけるのは難しい、だがそれをやるのが政治家の仕事であって、実現できれば全破壊のような極端に走らずに済むし社会に混乱は生まれない。上にも書いたけどこの批判は別にフランス革命だけに当てはまるものではなく普遍的なもので、現在の私達はフランス革命以降、思想の右も左も関係なく社会を白紙化し、地上に楽園を作ろうとして大失敗した例をいくつも知っている。善意の破壊者は批判されない傾向にあるが、そういう人も批判の対象になる、というかそういう人達こそ批判しなければなならない、という警告を教えてくれる数少ない書物でもあった。私にとって保守主義の源泉やバイブルといった標語は表層に過ぎないと思った。それとよくフランス革命は理性を絶対視し、と言われるが、どう見ても理性に反逆してるようにしか見えない。
ここからはバークですら関係ない話。
哲学者のポパーも社会の白紙化を批判したが、その際このような全部破壊したい衝動がどうして生まれてくるのか分析している。それは、このような政治家は芸術家なのだと。しかもただの芸術家ではなく、天上の理想を見てそれを地上にもたらすことができる偉大な神のごとき者だ。それゆえ画家が絵を描く前にキャンバスをまっさらにするように、芸術家としての政治家も社会をまず更地にする。そうでないと神のごとき巨匠が美しい作品を描けないのだから。じゃあキャンバスではなく社会をまっさらにするとはどういうことか。それは今ある制度や伝統を廃絶しなければならない。彼は粛清し、追放し、退去させ、殺害しなければならない。すべてを破壊しなければならない。そうだ、すべてを破壊するのだ。芸術家としての政治家はこのように歩まなければならない。バークは彼らを建築家に喩えたが、新築を建てるならまず今ある建物を全部破壊する必要があるというわけ。社会や国家は芸術作品と同じで美しくあらねばならない、という考えは容易に暴力的な施策へと至る。そして彼らにはそうするだけの理由と権力がある。巨匠に反対意見など無用、今最高の社会を描き出してやるから黙って見てろ。楽園作りのためには時には人を追放したり反対者を殺害したりしなければならない、いいんだ、許されるんだ、楽園が作られるのだから。計画が巨大すぎてエラーが次々見つかるが、指導者の権力が絶大かつ、莫大なコストを支払って今さら間違いを認めるわけにはいかないという心理も働き悲惨なことになる。飛行機のパイロットが素人でしかも取り換えらえられないというのに等しい。これが楽園作りが毎回暴力だらけになり失敗する理由の一つ。 -
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エドマンド・バーク
(英: Edmund Burke、1729年1月12日 - 1797年7月9日)は、アイルランド王国生まれのイギリスの政治思想家、哲学者、政治家。「保守思想の父」として知られる。フランス革命の源泉となったルソー主義を激しく非難し、1765年から1794年までイギリス庶民院(下院)議員を務めた。
「私は革命というものが好きではない。しかるに革命が生じる兆しは、しばしば演壇の上から発せられてきた。変革を待望する発想は世間に広まりつつある。フランス人諸君は、伝統的な社会機構など、自分たちの都合や気分次第で全否定しても構わないと思っているようだが、イギリスでもいずれ同じ風潮が台頭するかもしれない。 だとすれば、わが国の法制度がどのような原則のうえに成り立っているか再確認しておく必要があろう。フランスの友よ、君もこれについて学んだほうがよい。イギリス人は長年の原則を捨て去るつもりなどないのだ。 サギ師同然の連中は、革命精神なるものをフランスへとこっそり輸出したあと、もう一度イギリスに密輸入しなおすつもりのように見受けられる。ドーバー海峡のどちら側でも、われわれはかかるインチキ商品に取り合ってはならない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 イギリス人は、試着もせず流行のファッションに追随するようなことはしないし、試着してみて着心地の悪かったファッションをあらためて引っ張り出すこともない。世襲による王位の合法的継承は、わが国の欠点ではなく美点なのだ。 それは腹立ちのタネならぬ自慢のタネであり、隷従のしるしどころか自由を保障するものにほかならない。われわれは自国のあり方を、現状のままでたいへん素晴らしいと考える。そして王位が確実に継承されることは、国家全体が安定して続いてゆくことを象徴的に示すものなのである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「賢明な者は、事態の深刻さを検討して決断を下すだろう。短気な者は、圧政への反発に駆られて。気高い者は、王たる資格のない者が権力を濫用することへの怒りから。勇敢な者は、大義のために名誉ある戦いをすることを望んで。 何にせよ、思慮深く善良な者にとって、革命はほんとうに最後の手段なのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 近年のフランスがパッとしない面々によって治められてきたというのなら、彼らを飛び越し、より古い時代の英雄たちに手本を求めても良かったのだ。祖先を敬うことは、正しい自尊心を持つことに等しい。そうすれば「解放の年たる一七八九年まで、フランス人は時代の流れに取り残された、卑しい奴隷の集まりだった」などと見なすこともなかっただろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「私は「人間の権利」という概念を否定したいのではない。人々が自分たちの真の権利を行使するにあたって、邪魔立てする気も(そんな力が私にあるとしてだが)毛頭ない。人権主義者の振る舞いは、われわれの真の権利を完全に破壊するものにほかならず、彼らのデタラメを批判することと、権利を守ることは矛盾しないのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「政治にたずさわる者は、人間の本質は何か、人間は何を欲するかについて、深い知識を持たねばならない。さらに政策を実現するうえで、何がプラスで何がマイナスかもわきまえねばならない。「人間は食べ物を得る権利がある」とか「人間は医療を受ける権利がある」とか、抽象的に論じて何になる! 重要なのは、食糧や医療を実際に提供することなのだ。ここでは哲学の教授連ではなく、農民や医師の手を借りたほうが良いのは明らかだろう。 国家を構築したり、そのシステムを刷新・改革したりする技術は、いわば実験科学であり、「理論上はうまくいくはずだから大丈夫」という類のものではない。現場の経験をちょっと積んだくらいでもダメである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 かかる政治手法は、きわめて好ましくない副作用をもたらす。非常事態においては、ときに非情な振る舞いも必要となるが、世の中をつねに非常事態と見なしたがる革命派は、人間を冷酷なものにしてしまうのだ。 こういった連中は、人権をめぐる理屈をこねるのに忙しくて、人間のあり方そのものを見失っている。新たな英知を切り開くつもりで、じつは心を閉ざしただけ。われわれの胸中に宿っているはずの優しさや共感は、すっかり歪められる結果となる。 陰謀、虐殺、暗殺も、それで革命が成就されるなら安いものにすぎない。犠牲や流血沙汰を回避して改革を実現するとか、死体の山を築かずに自由を獲得するのは生ぬるいようなのだ。革命派は物事をとことん変えないことには納得しない。芝居でいえば、舞台装置の大転換による派手なスペクタクルを観たくて仕方ないのである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「プライス牧師(訳注 =イギリスにおける革命支持派。フランスを見習おうという趣旨の説教を行った。プロローグ〜第二章を参照)にとり、フランス革命はまさにそんなスペクタクルだった。説教のしめくくりで、彼は感極まってこう述べる。「いまは何と偉大な時代であることか! この革命を目の当たりにできて満足だ。『神よ、もう死んでも悔いはありません。あなたのもたらす救いをしかと見届けました』──ほとんどこう言いたくなる。英知は世に広まり、迷信と錯誤をくつがえした。人権はかつてなく理解されるに至り、自由を忘れかけていたかに思えた国々は、それを取り戻すべく立ち上がっている。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「権力を持つ者、あるいはプライドの高い者は、とかく尊大に振る舞いやすい。これを自然にやわらげてくれるのが騎士道である。君主は人々に敬愛されるべく勝手な真似を慎み、頑迷な権威は優美なものに変わる。法律に頼らないかぎり物事が仕切れない社会より、誰もが礼節を知るがゆえに物事が丸く収まる社会のほうが望ましいのは明らかだろう。 ところが、すべては変わらねばならない。騎士道のもとでは、権力は穏健であり、人々は自由の精神を保ちつつ支配を受け入れた。かくして社会の各階層は調和し、政治にも気配りや思いやりが見られた。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「慣習が消滅するとき、社会秩序は根底より揺らがざるをえない。しかしその場合でも、権力は何らかの形で存在しつづける。そして慣習という支えが失われた以上、秩序を維持するには、もっと露骨な手段──暴力に訴えるほかなくなる。伝統的なシステムをひっくり返すべく、伝統的な慣習を破壊したことのツケは、こうやって回ってくるのである。 封建制を起源とする騎士道は、忠義の精神を社会にもたらした。忠義が重んじられるかぎり、反乱が生じる恐れはない。反乱の恐れがなければ、圧政を敷く必要もなく、王と国民の双方が安心していられる。だが忠義の精神が失われたら最後、王は陰謀や暗殺の恐怖にさいなまれたあげく、不穏分子の処刑や財産の没収といった、残酷で血なまぐさい手を使い出すだろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「こういった忌まわしくもおぞましい状態へと、フランスが突っ走っていないことを願う。国民議会や、革命指導者たちの動向を見ると、発想の貧困や、粗野で下卑た姿勢といった特徴がすでにうかがわれる。彼らの説く自由には寛大さがない。彼らの科学なるものは無知な思い上がりにすぎない。彼らの人間性は冷酷で粗暴である。 イギリスはつねに、フランスから多かれ少なかれ影響を受けてきた。そのフランスで、文化や慣習の水源が枯渇したり、汚染されたりするならば、イギリスでも同じことが生じかねない。いや、あらゆる国に余波が及ぶ恐れすらあろう。ゆえに私は、同国で起きている事態について、ヨーロッパ全体が深い関心を持たねばならないと考える。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「人間はいつでも善いことをするとはかぎらないものの、望ましい固定観念に支えられれば善行をする習慣が身につく。つまりは社会にたいする義務を、本能的に果たすようになるのである。 フランスのインテリや政治家たち、ついでにわが国の「啓蒙主義」一派は、こういうことがさっぱり理解できないらしい。彼らは他人の英知に敬意を払おうとせず、そのかわり自分の英知を絶対視する。古くから続いてきた制度は、ただ古いというだけで否定されてしまう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 政府の形態など、ファッションのごとくコロコロ変わって構わないことになる。憲法への愛着にしても、とりあえず都合が良ければ、という程度。それどころか彼らは、祖国すらほんとうには愛していない。自分たちが好きにいじり回せる間だけ、愛国心を抱いているような気になるだけの話。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「聞くところによると、フランス国内では、今回の革命はイギリスの事例を手本にしたなどという説が出回っているとか。断言させてもらうが、目下そちらで起きている騒動は、わが国の政治のあり方とは似ても似つかない。革命派の唱える理念にしても、大多数のイギリス人の考え方とはおよそ異なる代物にすぎない。 ついでに言えば、われわれはフランス革命から何かを学ぶつもりも毛頭ない。事態のなりゆきに無関心でいられないのは事実だが、それは影響が及んだりしないよう、距離を取らねばならないと用心しているのだ。 かりにこの革命が、あらゆる社会問題を解決する万能薬だったとしても、われわれは真似したいとは思わない。必要のない薬を服用するのは、決して良い結果をもたらさないからである。ましてこの革命は、とんでもない疫病かもしれない。その場合は厳重な隔離措置によって、わが国への蔓延を阻止しなければなるまい。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「フランスの革命派は、宗教を迷信と片付けているようだ。しかし宗教こそは文明社会の基盤であり、あらゆる善と幸福の源である。これは観念論ではなく、われわれの実感にほかならない。 人間とは不合理なものなので、長い年月が過ぎるうち、宗教も少々サビついて迷信じみてくることはありうる。けれどもイギリス人は、宗教自体の必要性については揺るぎない確信を持っている。「迷信を一掃すべく、宗教そのものを否定せよ」などという主張には、一〇〇人のうち九九人までが反対するに違いない。システムに生じた腐敗や欠陥を正し、完璧なものにしようとこだわるあまり、システム全体をぶち壊してしまうのはバカげたことではないか。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「民衆の行動は、世論によって必ず支持される。世論とは民衆の意見なのだから、これは当然であろう。完璧な民主主義こそ、もっとも恥知らずな政治形態なのだ。そして恥知らずということは、とんでもないことを平然としでかすことを意味する。 やりすぎのせいで罰せられるのではないかと恐れる者はいない。いや、民衆はそんな不安を抱く必要がないのだ。刑罰とは本質的に、民衆全体を保護するための見せしめとしての性格を持つ。裏を返せば、民衆全体を罰することなど誰にもできない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「だからこそ「民意はつねに正しい」という発想を許容してはならないのである。好き勝手に権力を行使してはいけない点では、君主も民衆も同じだ。しかも民衆の横暴は、君主の横暴と比べても、社会に大きなダメージを与える。 民主主義が機能するためには、民衆はエゴイズムを捨てねばならない。宗教の力なくして、これはまったく不可能と言える。国家は聖なるものであり、権力は神の御心に沿うべく行使されるとき、はじめて正当なものとなる──かかる認識が定着しないことには、粗野で無能な連中が政権の座についてしまうだろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「時代の風潮やら流行やらに流されて、国家のあり方をコロコロ変えてしまうなら、社会の本質である連続性が破壊される。世代間のつながりは失われ、われわれは夏の間だけブンブン飛んでいるハエ同然の代物となるに違いない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「ところが世の中には、老いた親を八つ裂きにするかのごとく、祖国をズタズタにして平気な者たちも存在する(訳注 =第三章でバークは、革命派による共和制の導入により、フランス各地に自治体が乱立、国家としてのまとまりがなくなったと批判している)。こういう手合いは黒魔術を信奉しているらしい──バラバラになった親の死体、もとへ国家の残骸を、「改革」という名の大釜に放り込み、毒草を加えて呪文を唱えるだけで、すべてが元通りに復活すると思っているのだ。ゾッとする光景としか言いようがない。 既存の秩序の全否定を正当化しうるもの、それは「他にいかなる選択の余地もない」という絶対的な必要性のみである。革命とは「したいからする」ものではなく、「否応なしにせざるをえない」ものでなければならない。熟考とか、議論とか、客観的証拠といったレベルを超えて、誰もが革命の必要性を肌で実感するまで待つべきなのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「知識人一派はかなり前から、キリスト教を否定するための大計画とも呼ぶべきものをつくり上げ、これにカルト的な情熱を注ぎ込んだ。まずは「誰であれ合理主義に改宗すべし」という信念に取り憑かれ、やがて「教会はあらゆる方法で攻撃すべし」という信念にも取り憑かれたのだ。 直接的な行動で教会をすぐ倒すのは無理でも、宗教を否定する方向へ世論を導くことはできる。そのためには世論にたいする影響力を掌握しなければならない。自分たちの仲間でなければインテリとして評価されないよう、知識人一派は周到に画策していった。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「代表者が増えることで、金持ちはメリットを得るどころか、ますます立場が弱くなってしまうのだ。富裕な地域ほど、金持ちへの逆差別は激しくなる。また地域ごとの格差をこんなふうに容認することが、国家全体のバランスや安定にどう寄与するのか、私には理解できない。 個人の場合と同じく、地域と地域の間でも、おのれの利害に固執したり、いがみ合ったり、嫉妬したりという事態が続発するだろう。それどころか地域レベルの対立は、個人レベルのものより深刻になりうる。下手をすれば、内乱一歩手前の状態に陥るのではあるまいか。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「「一七八九年七月(あの永遠に記念されるべき時)、市の財政はまだ健全だった。歳出と歳入は釣り合っており、銀行には一〇〇万リーブル(四万ポンド)の金が預けられていた。だが革命勃発いらい、市が負担しなければならなかった支出金額は二五〇万リーブルに上る。自主納税や献納にも大幅な落ち込みが生じた。パリは『一時的に金がない』状態にあるのではない、『まったく金がない』状態に置かれているのだ」 パリには過去一年間、財政を維持するために莫大な金がつぎ込まれた。フランス各地から吸い上げられた金である。にもかかわらず、結果はこんな具合。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 自由には道徳が不可欠なのだ。頭が空っぽのくせに「自由、自由」と叫びたがる連中は不愉快きわまりない。思い上がりもいい加減にしろと言いたくなる。 高らかに自由を謳うこと自体を否定しているのではない。そこには胸を熱くするものがある。われわれは大きな心で寛大に行動するようになるし、争いの場では勇気をかき立てられる。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
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Posted by ブクログ
英国人からフランス革命への強い批判がなされる本書は、保守主義のバイブルとも言われ、時代を超えて読み継がれてきた名著です。
改革とか変革なんていう言葉はいつの時代も持て囃されますが、急激な変化は副作用もとても大きい。
フランス革命といえば、高邁な理想を掲げ圧政を打ち破った民衆の戦い、という理解が一般的かもしれません。
しかしながら、その急進主義は社会に様々な混乱や弊害をもたらし、10年後にはナポレオンによるクーデターで終焉を迎えることとなります。
著者のバークは、革命の終焉を見届けることなく没するのですが、本書で述べられる革命への批判は非常にインパクトの強いものです。
現代社会にも当てはまる教訓が、そこかしこに散りばめられています。
この新訳版は、原著の全訳ではなく抄訳ではありますが、ダイナミックかつ読みやすい翻訳のおかげで、急進主義的な改革が内包する問題点がよく理解できました。
社会の問題はどうやって解決されるべきか、という点において、現代社会にも警鐘を鳴らす一冊だと思います。 -
Posted by ブクログ
自然に形成されたものへの信頼、人工的に形成されたものへの警戒。制度の基礎は歴史の知恵(慣習・文化)や伝統。社会は人工的に作られるものではなく、成長するもの。人間は自然に従い家族を形成した。しかし家族と家族を繋げる自然な契機は存在しないので、法を制定し国家を形成した。国家とは死んだ人、生きている人、まだ生まれない人を共に結ぶ協同体▼マグナカルタ・権利請願・権利章典、世代を超えて多くの人々の努力と工夫によって培われてきた制度や慣習こそ英の国体(constitution)であり、安易な改変に慎重であるべき。慣習の中にある観念(すでに判断されたものprejudice)を拠り所とし、慣習にもとづいて権利として定着しているもの(すでに書き込まれたものprescription)を安易に改変していけない。社会変化は徐々に行われるべきで、過激な変革で社会秩序を崩壊させてはいけない。また、変化はその国の歴史から離れたものであってはならない。祖先を顧みない人々は、子孫のことも考えない▼人間の理性への懐疑。今生きている人間は現在のことしか知らず、理性は時間によって制限されているため、過去と未来の世代によって補われる必要がある。人間は愚かであり、間違いを犯しやすい。古い体制の欠点を指摘するのに大した能力はいらない。しかし、古い体制を保存しながら同時に改革するのは多面的な能力と知性の秘策が必要である▼理念よりも具体的なもの。権利は代々相続されたもので、イギリス人の権利であり、人間の権利ではない。フランス革命の目指す自由や平等といった抽象的・普遍的な理念は挫折する。社会的紐帯の中でのみ自由が可能になる。フランス革命は人間を野生の自然状態に戻す。社会をバラバラにする▼議会では教養ある経験豊かな人間が主導すべき。フランス革命により、いい加減な人間たちが権力を握る。野蛮で凶暴な権力の濫用がはじまり(革新派ジャコバン独裁を予見)、軍において人気を得た者による専制になるだろう(ナポ1帝政を予見)▼代議士は国民全体の利益を追求すべきであり、代議士のつとめは選挙区の利害を代表することではない。代議士は選挙区の有権者の意向に拘束されず、議会において自由に議論できる。エドマンド・バークBurke『省察』1790
※アイルランド出身。ダブリンのトリニティ・カレッジ卒業後、ロンドンのミドル・テンプル法曹院に所属。ウィッグ党(後の自由党、LibDem)の下院議員。アメリカ独立を擁護(ジョージ3批判)。アイルランドのカトリックの権利を擁護。東インド会社の不正を糾弾。自由主義者。
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革新派・左派ジャコバンの政治
●自分たちの方針に反対する人間を次々に処刑。
●無神論者エベール「神はいない、理性を崇拝せよ(理性の祭典)」。
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英国王の存在が、英国民の政治体制への忠誠につながっている。忠誠は利害計算ではなく感情・情緒に訴えるものなので、強固で安定したものになる。伝統・慣習が政治体制の安定に寄与している▼執行(大統領)と立法(議会)が互いに独立している米よりも、執行(内閣)と立法(議会)の連携が強い英の方が政治は安定する▼無知な民衆(多数者)に選挙権を拡大すべきでない。労働者階級(多数者)が政治において団結すれば、自由党・保守党がともに労働者(多数者)の支持を求めて競争し、労働者(多数者)の欲求に応じた政策を行う。教養に対する無知の支配は最大の悪である。ウォルター・バジョットBagehot『イングランドの国体』1867 ※UCL、ジャーナリスト、自由党。
狂人とは理性を失った者ではない。理性以外のあらゆるものを失った者である▼正統とは正気であり、荒れ狂って疾走する馬を巧みに操る人の平衡である。ギルバート・チェスタトン『正統とは何か』1908
保守主義。現存する具体的なものを重視。理念・思弁的なものへの嫌悪。保守主義は進歩主義の出現(フランス革命)に触発され、近代に生まれた新しい思想▼保守主義は伝統に固執するものではなく、過去からの連続性に留意しつつ状況に合わせて変化させるもの▼独ではロマン主義と保守主義が結びついた。知性よりも感情。理性よりも想像力。俗悪より崇高、平凡陳腐よりも神秘、既知よりも未知、有限よりも無限。カール・マンハイムMannheim『保守主義的思考』1927
※ユダヤ系ハンガリー人、LSE
人間は常に誤るということを受け入れ、誤りから常に学ぶこと。歴史は絶対的な法則に従って進むのではない。人間が頭の中で描いた理想主義的・ユートピア的な青写真に基づいて全面的な社会改革をすれば、かならず独善に陥る。改革は現実の社会に即して少しずつ修正を加えながら進めていくもの。カール・ポパー『開かれた社会とその敵』1945 ※オーストリア人、LSE
個人の道義心、神の意図(divine intent)が社会を規定する。最も急進的な体制は画一化をもたらし個人の自由を制限する一方、伝統的な社会生活は多様さと神秘に満ちている。文明社会は秩序と階級を必要とする。個人の財産と自由は不可分である。人は理性よりも感情によって左右されるのであり、自分の意志と欲望を制御しなければならない。社会は緩やかに変わらなければならない。ラッセル・カーク『保守的な精神』1953 ※バークの思想を継承。アメリカ人。
保守主義と自由主義との違い。保守は変化を恐れ、新しいものに対する臆病な不信をもち、政府の権力を使って秩序を維持しようとする。保守が変化を恐れるのは社会(とくに経済)に自生的な調整力があることを知らないからだ。自由主義は市場には自己調整能力があり、それが新たな状況に適応した新たな秩序を生むと考える▼保守は抽象的な理論や一般原則を信用しない。自由主義者は自己調整能力を持つ社会についての理論をもち、その理論から社会が調和するための政治原則が導かれると考える。保守は一般原則をもたず、場当たり的である▼保守は権威に依存する傾向にある。保守は一般原則をもたないため、既存の権威による統治に頼らざるをえない。保守は過剰な政府権力による支配には反対するが、政府の個別の目的に応じて反対するということに過ぎない。保守は集産主義的・統制的な手法には反対する点は自由主義者と同じだが、保守は常に保護主義的であり、農業分野において、しばしば社会主義的な手法を支持してきた。フリードリヒ・ハイエク『自由の条件』1960 ※オーストリア人、LSE
合理主義。理性の権威を除く、あらゆる権威からの自由を提唱。物事の価値、意見の正しさ、行為の適切さを決定する理性の力を疑わない(p.2)。繕うこと、修理すること、素材についての忍耐強い知識を必要とする作業を時間の無駄だと考える(p.5)。自覚的に計画された社会、ベバレッジ報告、ナショナリズム、世界国家などは合理主義の所産(p.7)。ハイエクの自由主義は、社会主義とは別種の政治における合理主義であり、あらゆる計画に抵抗する計画も結局は社会主義と同じ政治のスタイルに属している(p.22)▼保守的であるとは、見知らぬものより慣れ親しんだもの、試みられたことの無いものより試みられたもの、神秘より事実、可能なものより現実のもの、無制限なものより限度のあるもの、遠いものより近くのもの、有り余るものより足りるだけのもの、完璧なものより重宝なもの、理想郷の至福より現在の笑いを好む性向(p.200)▼自由・デモクラシー・正義は長い歴史の中で得られた経験をもとに抽象化されたもの。経験に先立って存在したのではない。抽象的な原理から出発するのではなく、実践の中から習得していく。原理を学べばそれで十分なのではない。理性や抽象的な原則を現実の政治に無理やり適用すべきでない。実践的な政治を重視しよう。政治教育をつうじて、伝統を学び、歴史を学び、模倣から始めよう。マイケル・オークショットOakeshott『政治における合理主義』1962 OX, LSE
フランス革命では「自然人こそが人間らしい」という錯覚によって、物質的な欠乏から弱者を解放することを追い求めた結果、人間の隠れた本音・暴力衝動を解き放ってしまった。ハンナ・アレントArendt『革命について』1963 -
ネタバレ
革命思想にご用心
一部ご紹介します。
・「革新」に憧れる精神とは、身勝手で浅はかなものだ。自分たちの祖先を顧みない者が、自分の子孫のことを思いやるはずがない。
・人は自由や権利を相続財産のように看做せば、「前の世代から受け継いだ自由や権利を大事にしなければならない」という保守の発想と、「われわれの自由や権利を後の世代にきちんと受け継がせなければならない」という継承の発想が生まれることをわきまえる。そしてこれらは「自由や権利を、より望ましい形にしたうえで受け継がせたい」という進歩向上の発想とも完全に共存しうる。
・社会が複雑なものである以上、「多くの目標が不完全に、かつ途切れ途切れに達成される」ほうが、「いくつかの目標は完璧に達成されたが、そのせいで残りの目標は放置されたか、悪化した」よりもましだ。
・長年にわたって保たれてきた価値観や慣習が失われることの損失は計り知れないものだ。それは航海中の舟が羅針盤を無くすことに等しい。われわれは自分たちが正しい方向に進んでるかは無論、そもそもどんな方向を目指しているかさえ分からなくなり、沈没してしまう。
・誰であれ、いずれは神の御前に立ち「自分の行動について申し開きをしなければならない」とわきまえていれば、無責任な行動や恥知らずな言動をしようとは思わなくなるものだ。
・民主制が機能するためには、民衆はエゴイズムを捨てなければならない。宗教の力が無ければ不可能なことだ。
・国家というものは、今生きている者と、墓石になった祖先と、これから産まれてくる子孫とで育まれる精神の共同体なのである。
・私有財産無くして自由はなく、自由無くして美徳はない。
・民主制には暴政との共通点が数多くある。民主制において、多数派は少数者に対して最も残酷な弾圧を加えることができる。
・われわれは歴史から正しい教訓を学ぶとは限らない。気を付けていないと、人々の目を曇らせ、争いを惹き起こすために歴史が悪用されることもある。
・あらゆる変更の目的は、これまで享受してきた幸福を今後も維持すること、すなわち保守に置かれるべきだ。そして、変更を行う際も、「問題のない箇所はそのまま残す」ほうがいい。古くなった建物の補修工事を行うように。付け加えたいものがあるならそれも結構だろう。しかし、祖先が残していった大切なものだけは守っていくべきだ。
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保守の前提と革新の前提
自由・平等・博愛といったおめでたい夢幻を掲げ、過去の権威や伝統を根絶やしにして達成されたフランス革命を「保守の父」エドマンド・バーグが痛烈にコキ貶したのがこの「フランス革命の省察」。
新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りき
その貶しようは、イギリスの首相ピットに「この罵倒は芸術的だ」と言わしめるほどの内容。
この本は、まだ保守という言葉すらないフランス革命当時に書かれたものですが、人名や党名、地名を現代風にアレンジすれば、現代十分通用する普遍性を備えています。
保守も革新もその目的や手段は時代や洋の東西によって変化していますが、それぞれの前提となる思想はバーグの時代からずっと変わっていません。
この前提を知ると、ウィンストン・チャーチルが「20歳の時にリベラルでないなら、情熱が足りない。四〇歳のときに保守主義でないなら、思慮がたりない。」と言ったのか?また、保守はどうしてこうも魅力がない年寄りじみたものなのか?そしてリベラルはどうして人を魅了するが、こうも「無能」なのか?その理由をよく理解できるようになるだろう。
バーグはこの本の中で保守とリベラルの前提を次のように述べている。
保守の前提。
フランスの革命派諸氏は、自分たちが叡智の光に満ちていると風潮する。わが国の父祖たちは、そんなうぬぼれとは無縁だった。人間は愚かであり、とかく過ちを犯しやすいーこれこそ彼らの行動の前提となった発想である。
自分たちの掲げたお題目に酔い、権威も伝統もぶち壊してどんちゃん騒ぎをしている様を聞いてバーグが抱いた感情は、おそらく「蒼天航路」という漫画の中で慢心極まった袁紹を見て曹操孟徳が言ったセリフと同じだったのではないかと思う。
“生来の己を忘れきった破廉恥な威厳。
天の寛容を真似る陶然とした笑み
醜悪だ!
心に闇をもたぬ者が慢心極めればいいここまで醜くなるものか!”
人間は間違いを犯し、愚かである。そのような闇を持っていると自覚するからこそ謙虚に振る舞い、過去の伝統を重んじ、変えるべきものと捨て去るものの選別を慎重に行う。
特に国家の根幹に関わることは石橋を叩きすぎるほど慎重に行うべきである。十分熟慮を重ね、決して勢いだけで変えるべきではない。
それは端から見ればノロく、臆病にしか見えないし、場合によったらただの「尻拭い」に徹することになるから当然、魅力がない。
しかし、政治の最大の成果は魅力的であることよりも、安定し確実であることである。
リベラルの四つの前提。
人間は、社会のあり方を望ましくする方法を適切に考案する理性、およびこれを確実に実現して行く能力を持っている。
社会を望ましくする方法論が二つ以上存在する場合、人間は個人的な利害関係や感情にとらわれることなく、どちらが良いかを冷静に判断できる。
右の二つの前提は社会全体で成立している。言い換えれば、自らのあり方を望ましくしようとすることにかけて、社会は首尾一貫した単一の意思を持っているとみなして構わない。
社会のあり方を変えることに伴うコストや副作用は、変化のスピードを上げたからといって顕著に増大することはない。
この四つの前提を読んでも分かる通り、実に聞こえはいいが、中身は空疎でただの絵空事だということがわかる。
人間の行動のほとんどが場当たり的で感情的であって、理性など全く当てにならない代物だ。それはトランプの当選をみても明らか。
理想へ至る道のスタート地点は常に現在地である現実からスタートすべきであり、おめでたい美辞麗句が並んだ夢物語から始めるべきではない。
夢物語からスタートすれば必然的にスタートよりも悲惨な現実という名のゴールに至る。
だからリベラルは余程の幸運に恵まれないかぎり、失敗が決定づけられてしまう。たとえ上手くいったとしても、時間が経ち運の効果が切れれば、いずれ瓦解するのは必定。
しかし、失敗が決定づけられた絵空事から破滅へ至る過程は逆に魅力的でもある。
今年は、世界情勢が劇的に変化する年になると言われています。
行き詰まりの資本主義やグローバリゼーションと原理主義のイデオロギー対立、衰退の一途を辿る世界経済などなど、このようなあらゆる前提が崩れ混迷を極めた現代だからこそ、目新しい思想にしがみつくのではなく、人間の暗部をしっかり見据えて政治のあり方を解く「フランス革命の省察」を熟読することをお勧めします。
ぜひ、バーグの慧眼と芸術的な罵詈雑言を味わって頂きたい。 -
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「保守」とはなにか、そんな疑問に答えてくれる名著が本書である。著者エドマンド・バークはイギリス出身で、ホイッグ党所属の政治家として長年政治に携わった。ちなみにホイッグ党とは、議会を重視する政党であり、ゆえに昨今の議会政治のあり方を考えるうえで重要な本である。
エドマンド・バークは「保守主義」としてあるべき条件として、①壊さないこと②今あるものをうまく活かす、この2つが大切である。つまり、「革新」のように、全てを一気に変えるわけではないが、かといって、全てのものを変えないわけではない。重要なのは、変えていくべき箇所は適宜修正すべきであり、もし修正した箇所がある場合、慎重に検討を重ねて実行しなければならないのである。段階的に政策を進めていくのが、保守系政治家としてあるべき姿なのである。
また、本書の最後に人気取りの政治、いわゆるポピュリズムに関して批判してるのが興味深い。たしかに政治家にとって、より多くの有権者に投票されることを望む。しかし、そのために政治家同士が不毛に争うのは、国家構築に役立たないと指摘している。
上記以外にも、財政、軍事など、昨今の政治経済に繋がる箇所があるので、今読んでも十分な価値がある。 -
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革命勃発後わずか半年の段階で、その後の革命の進展をほぼ正確に予言している洞察力にまず大きく驚く。フランス革命のような世界史出来事を同時代で経験すると、まず熱に浮かされたような興奮に包まれてしまって、冷静にモノゴトを見れなくなりそうなものだが、イングランドの老政治家の人間世界に対する眼力の凄さには敬服しかない。
本は、フランスの青年貴族に当てた書簡の形で進む。(実際に出された手紙が元になって出版されている。)従い、章番号や小見出しは原著にはないが、翻訳版では理解を助けるために追加されている。その見出しから。
P397 予言 — 君主政が復活すれば専制になる可能性がたかい。
P453 予言 — いまの司法制度は寡頭政治への道具になる。
P457 予言 ー 国の支配者は軍部から現れる(ナポレオンの出現
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Posted by ブクログ
保守思想の古典との評価の高い本書について、バークの思想といった形では良く取り沙汰されているので、何となく知識はあるといった状況ではあったが、漸く完読することができた。
まずもって、本書がフランス革命勃発の一年後、1790年に発表されていることに驚かされた。革命が急進化して、国王一家の処刑、反対派の粛清といった恐怖政治に至ったところを批判していたのであろうと勝手に思っていたのだが、そうではなく、かなり初期の段階から、革命に潜む問題状況を洞察していたことを知った。
国民議会の性格や、宗教、司法、財政、軍事に渡る改革について、その問題点を一つひとつ具体的に解き明かしていく各論も鮮やかであるが、理性万能思想に対する懐疑、伝統を尊重せず破壊に走る傾向性に対する忌避といった骨太の思想に強く感銘を持った。
バークがこのような思想を持つことができた背景には、故国イギリスにおけるマグナ・カルタから清教徒革命、王政復古、そして名誉革命に至る歴史を踏まえた、憲法及び議会制に対する深い思索があったのではないかと、本書全体を通読して学ぶことができた。
つまみ食いではなく、頑張って通読することが、特に古典には必要だと、改めて思ったところである。