【感想・ネタバレ】[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りきのレビュー

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ネタバレ

革命思想にご用心

mac
2022年09月30日

一部ご紹介します。
・「革新」に憧れる精神とは、身勝手で浅はかなものだ。自分たちの祖先を顧みない者が、自分の子孫のことを思いやるはずがない。
・人は自由や権利を相続財産のように看做せば、「前の世代から受け継いだ自由や権利を大事にしなければならない」という保守の発想と、「われわれの自由や権利を後の...続きを読む世代にきちんと受け継がせなければならない」という継承の発想が生まれることをわきまえる。そしてこれらは「自由や権利を、より望ましい形にしたうえで受け継がせたい」という進歩向上の発想とも完全に共存しうる。
・社会が複雑なものである以上、「多くの目標が不完全に、かつ途切れ途切れに達成される」ほうが、「いくつかの目標は完璧に達成されたが、そのせいで残りの目標は放置されたか、悪化した」よりもましだ。
・長年にわたって保たれてきた価値観や慣習が失われることの損失は計り知れないものだ。それは航海中の舟が羅針盤を無くすことに等しい。われわれは自分たちが正しい方向に進んでるかは無論、そもそもどんな方向を目指しているかさえ分からなくなり、沈没してしまう。
・誰であれ、いずれは神の御前に立ち「自分の行動について申し開きをしなければならない」とわきまえていれば、無責任な行動や恥知らずな言動をしようとは思わなくなるものだ。
・民主制が機能するためには、民衆はエゴイズムを捨てなければならない。宗教の力が無ければ不可能なことだ。
・国家というものは、今生きている者と、墓石になった祖先と、これから産まれてくる子孫とで育まれる精神の共同体なのである。
・私有財産無くして自由はなく、自由無くして美徳はない。
・民主制には暴政との共通点が数多くある。民主制において、多数派は少数者に対して最も残酷な弾圧を加えることができる。
・われわれは歴史から正しい教訓を学ぶとは限らない。気を付けていないと、人々の目を曇らせ、争いを惹き起こすために歴史が悪用されることもある。
・あらゆる変更の目的は、これまで享受してきた幸福を今後も維持すること、すなわち保守に置かれるべきだ。そして、変更を行う際も、「問題のない箇所はそのまま残す」ほうがいい。古くなった建物の補修工事を行うように。付け加えたいものがあるならそれも結構だろう。しかし、祖先が残していった大切なものだけは守っていくべきだ。

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Posted by ブクログ 2018年01月17日

保守の前提と革新の前提

自由・平等・博愛といったおめでたい夢幻を掲げ、過去の権威や伝統を根絶やしにして達成されたフランス革命を「保守の父」エドマンド・バーグが痛烈にコキ貶したのがこの「フランス革命の省察」。

新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りき

その貶しようは、イギリスの首相ピ...続きを読むットに「この罵倒は芸術的だ」と言わしめるほどの内容。

この本は、まだ保守という言葉すらないフランス革命当時に書かれたものですが、人名や党名、地名を現代風にアレンジすれば、現代十分通用する普遍性を備えています。

保守も革新もその目的や手段は時代や洋の東西によって変化していますが、それぞれの前提となる思想はバーグの時代からずっと変わっていません。

この前提を知ると、ウィンストン・チャーチルが「20歳の時にリベラルでないなら、情熱が足りない。四〇歳のときに保守主義でないなら、思慮がたりない。」と言ったのか?また、保守はどうしてこうも魅力がない年寄りじみたものなのか?そしてリベラルはどうして人を魅了するが、こうも「無能」なのか?その理由をよく理解できるようになるだろう。

バーグはこの本の中で保守とリベラルの前提を次のように述べている。

保守の前提。

フランスの革命派諸氏は、自分たちが叡智の光に満ちていると風潮する。わが国の父祖たちは、そんなうぬぼれとは無縁だった。人間は愚かであり、とかく過ちを犯しやすいーこれこそ彼らの行動の前提となった発想である。

自分たちの掲げたお題目に酔い、権威も伝統もぶち壊してどんちゃん騒ぎをしている様を聞いてバーグが抱いた感情は、おそらく「蒼天航路」という漫画の中で慢心極まった袁紹を見て曹操孟徳が言ったセリフと同じだったのではないかと思う。

“生来の己を忘れきった破廉恥な威厳。
天の寛容を真似る陶然とした笑み
醜悪だ!
心に闇をもたぬ者が慢心極めればいいここまで醜くなるものか!”

人間は間違いを犯し、愚かである。そのような闇を持っていると自覚するからこそ謙虚に振る舞い、過去の伝統を重んじ、変えるべきものと捨て去るものの選別を慎重に行う。

特に国家の根幹に関わることは石橋を叩きすぎるほど慎重に行うべきである。十分熟慮を重ね、決して勢いだけで変えるべきではない。

それは端から見ればノロく、臆病にしか見えないし、場合によったらただの「尻拭い」に徹することになるから当然、魅力がない。

しかし、政治の最大の成果は魅力的であることよりも、安定し確実であることである。

リベラルの四つの前提。

人間は、社会のあり方を望ましくする方法を適切に考案する理性、およびこれを確実に実現して行く能力を持っている。
社会を望ましくする方法論が二つ以上存在する場合、人間は個人的な利害関係や感情にとらわれることなく、どちらが良いかを冷静に判断できる。
右の二つの前提は社会全体で成立している。言い換えれば、自らのあり方を望ましくしようとすることにかけて、社会は首尾一貫した単一の意思を持っているとみなして構わない。
社会のあり方を変えることに伴うコストや副作用は、変化のスピードを上げたからといって顕著に増大することはない。
この四つの前提を読んでも分かる通り、実に聞こえはいいが、中身は空疎でただの絵空事だということがわかる。

人間の行動のほとんどが場当たり的で感情的であって、理性など全く当てにならない代物だ。それはトランプの当選をみても明らか。

理想へ至る道のスタート地点は常に現在地である現実からスタートすべきであり、おめでたい美辞麗句が並んだ夢物語から始めるべきではない。

夢物語からスタートすれば必然的にスタートよりも悲惨な現実という名のゴールに至る。

だからリベラルは余程の幸運に恵まれないかぎり、失敗が決定づけられてしまう。たとえ上手くいったとしても、時間が経ち運の効果が切れれば、いずれ瓦解するのは必定。

しかし、失敗が決定づけられた絵空事から破滅へ至る過程は逆に魅力的でもある。

今年は、世界情勢が劇的に変化する年になると言われています。

行き詰まりの資本主義やグローバリゼーションと原理主義のイデオロギー対立、衰退の一途を辿る世界経済などなど、このようなあらゆる前提が崩れ混迷を極めた現代だからこそ、目新しい思想にしがみつくのではなく、人間の暗部をしっかり見据えて政治のあり方を解く「フランス革命の省察」を熟読することをお勧めします。

ぜひ、バーグの慧眼と芸術的な罵詈雑言を味わって頂きたい。

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Posted by ブクログ 2014年11月08日

フランス革命は得るものもあったかもしれないけど、失うものも多かった。こういった革命は結果的に混乱を生んだだけだったんだろう。一方、日本の明治維新は奇跡と言っていいだろうな。

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Posted by ブクログ 2013年05月12日

イギリスの「保守」に対する考え方の核心が分かる書物だと思います。

基本的に、社会システムは論理だけでは設計できない、ということが強く主張されているように思います。

なるほど、伝統や慣習ですべてを判断するのが問題がるとするならば、その対極にある論理ですべてを判断するのもまた同じく問題がある、という...続きを読む考え方は大いに納得できるところであります。

論理的に考えた結果を、物事を進ませるために、既得権を持つ勢力に説得していくというやり方は、時間はかかるが、伝統や慣習とバランスをとるためには必要なプロセスである。という考え方には目から鱗でした。

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Posted by ブクログ 2012年12月04日

急進主義をとことん批判した、保守主義の本。ものすごく面白かった。それにしても、いまの我が国の政局に当てはまりすぎて怖いくらいだ。バーク、恐ろしい子。

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Posted by ブクログ 2011年10月12日

バークはフランス革命の個々の政策問題についても議論しているが、本質的には革命家達の気質や傲慢さ、愚かさを批判しているのであり、その指摘は革命的な政治変動一般に当てはまる。本書は抄訳であり、バーク保守主義を読みやすい普及版にすることを目的としているとともに、近年の日本の改革/革命ごっこ政権に対する批判...続きを読む本としての訳者の思惑を強く感じさせる。訳は大胆で言葉遣いはやや乱暴であるが、「固定観念」「国体」といった訳語のチョイスは評価したい。あくまでつまみ食い的な抄訳なので、みすず版の全訳も読むことを強く勧める。

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Posted by ブクログ 2015年12月25日

イギリス人は自由や権利を相続財産のように見なせば「前の世代から受け継いだ自由や権利を大事にしなければならない」という保守の発想と「われわれの自由や権利を後の世代にちゃんと受け継がなければならない」という継承の発想が生まれる。そしてこれらは「自由や権利を一層望ましい形にした上で受け継がせたい」という進...続きを読む歩発想とも完全に共存しうる。
リーダーは往々にして自分が率いる人によって逆に率いられる。指図を受ける側の価値観、能力、あるいは気質といったものが指図の内容そのものに制約を加えるのだ。
文明社会は人間に利益をもたらすために作られる。社会が成立していることによって得られる利益はすなわち人間の権利となる。人間が文明社会を作るに至った動機の一つに「正義とは客観的なものでなければならない」というものがある。
「国はこうあるべし」という自己の理論にようあまり、現実の国家に良い点を見出そうとしないものは本当の意味での社会に関心を持っていない。
既存の秩序の全否定を正当化しうるもの、それは「他のいかなる選択の余地もない」という絶対の必要性のみである。

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Posted by ブクログ 2015年01月04日

性急な革新に反対し,「伝統」として結実した人間の英知に学ぶ「保守」を提唱する。

平等原則を徹底することに対する懐疑的態度や法の支配を重視する思想など,後の「保守」派に受け継がれた思想の萌芽がちりばめられている。

ただし,結論だけが書かれているという印象で,「保守」思想にシンパシーを感じる人でなけ...続きを読むれば,読んでも不愉快になるだけだと思う。

なお,“prejudice”は,「固定観念」と翻訳されている(「偏見」と翻訳されることが多い。)。
また,砕けた訳文で,よく言えば「親しみやすく,手紙としての本質をよく表現している」が,悪く言えば「品がない」。

抄訳であることを補うための注が丁寧に挿入されている。

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Posted by ブクログ 2014年04月16日

「私の価値観は保守主義だなあ」と最近になって自覚したので、保守主義の父と呼ばれるエドマンド・バークの古典を読んでみました。でも予想と違ってトンデモ本と言えるくらい過激で感情的な本でびっくり。かなり辟易しましたが、それでも、フランス革命が進行している最中に失敗を予言している洞察は見事です。伝統の体制を...続きを読む否定する「改革派」は、現実には財政バランスが取れない政府を作ったり、改革派に近い立場の一部の人だけが得する不平等な社会を作ることになりがちです。日本でもそうですね。大変勉強になる一冊でした。やっぱり古典は良いです。

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Posted by ブクログ 2021年07月17日

フランス革命をやっている最中にボロクソに批判した本。

理念先行で革新的なことをするのではなく、これまでの経緯もしっかり踏まえた上で進めていくべき(という意味での「保守」)というのは共感する。

しかし、この後、散々紆余曲折を経るとはいえ、この革命による恩恵を大いに受けている現代に生きている身として...続きを読むは、いたずらに批判もできない。

加えて、翻訳の問題なのかもだが、関わっている人を完全にバカにしているのはいかがなものか…
#コテンラジオ さんの以前のフランス革命の放送も聞いていて、確かに経験の浅い若者たちが主導したものではあるらしいけど…(^_^;)

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Posted by ブクログ 2019年01月06日

おそらくもう一度読むべきだけど、現在の感想。
イギリスがしょっちゅう言及されるので、イギリスのことも知りたくなって途中で検索したりして、なかなか読み終わらなかった。

革命の最後を見届けずして、書かれた文章なのがすごい。

フランス革命について、平民が立ち上がり自由を勝ち取った、と認識していたけど見...続きを読む方が変わった。ただ、政治は従来どおり上流階級がおさめるのがいいに決まってる、という著者の考えも、いまいち説得力にかける感じもして、よく理解できなかった。

議員はよい生まれであるべきと著者は言うけど、二世議員ってすべての人が優れているか疑わしいよね、と思ってしまう

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Posted by ブクログ 2011年07月05日

 ハンナ・アーレントやハイエクの著作を読んでいると、フランス革命の理解が必要になる。概略は、もういちど読む山川世界史で数十年ぶりに把握したが、関連書として、エドマンド・バークのフランス革命の省察を読んでみた。この新訳は、原著の内容を相当圧縮して編集しているが、どの章も同じ話の繰り返しになっていて、本...続きを読む来ならさらに短くできるであろう。名誉革命はよくて、フランス革命がいかにだめだったかはよくわかった。
まったく新しい社会を打ち立てたいというユートピア的願望に基づいた革命の結果が、多くの違法行為と大きな混乱である。最終的な収拾はナポレオンによる軍事独裁国家。しかし、政治の素人が立脚する法的な根拠もなしに勝手なことをするれば、国家ががたがたになるのは当然であろう。
 バークは、保守主義の父と呼ばれているが、所属していたのはホイッグというのは意外であった。
 

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