エドマンド・バーク
(英: Edmund Burke、1729年1月12日 - 1797年7月9日)は、アイルランド王国生まれのイギリスの政治思想家、哲学者、政治家。「保守思想の父」として知られる。フランス革命の源泉となったルソー主義を激しく非難し、1765年から1794年までイギリス庶民院(下院)議員を務めた。
「私は革命というものが好きではない。しかるに革命が生じる兆しは、しばしば演壇の上から発せられてきた。変革を待望する発想は世間に広まりつつある。フランス人諸君は、伝統的な社会機構など、自分たちの都合や気分次第で全否定しても構わないと思っているようだが、イギリスでもいずれ同じ風潮が台頭するかもしれない。 だとすれば、わが国の法制度がどのような原則のうえに成り立っているか再確認しておく必要があろう。フランスの友よ、君もこれについて学んだほうがよい。イギリス人は長年の原則を捨て去るつもりなどないのだ。 サギ師同然の連中は、革命精神なるものをフランスへとこっそり輸出したあと、もう一度イギリスに密輸入しなおすつもりのように見受けられる。ドーバー海峡のどちら側でも、われわれはかかるインチキ商品に取り合ってはならない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 イギリス人は、試着もせず流行のファッションに追随するようなことはしないし、試着してみて着心地の悪かったファッションをあらためて引っ張り出すこともない。世襲による王位の合法的継承は、わが国の欠点ではなく美点なのだ。 それは腹立ちのタネならぬ自慢のタネであり、隷従のしるしどころか自由を保障するものにほかならない。われわれは自国のあり方を、現状のままでたいへん素晴らしいと考える。そして王位が確実に継承されることは、国家全体が安定して続いてゆくことを象徴的に示すものなのである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「賢明な者は、事態の深刻さを検討して決断を下すだろう。短気な者は、圧政への反発に駆られて。気高い者は、王たる資格のない者が権力を濫用することへの怒りから。勇敢な者は、大義のために名誉ある戦いをすることを望んで。 何にせよ、思慮深く善良な者にとって、革命はほんとうに最後の手段なのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 近年のフランスがパッとしない面々によって治められてきたというのなら、彼らを飛び越し、より古い時代の英雄たちに手本を求めても良かったのだ。祖先を敬うことは、正しい自尊心を持つことに等しい。そうすれば「解放の年たる一七八九年まで、フランス人は時代の流れに取り残された、卑しい奴隷の集まりだった」などと見なすこともなかっただろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「私は「人間の権利」という概念を否定したいのではない。人々が自分たちの真の権利を行使するにあたって、邪魔立てする気も(そんな力が私にあるとしてだが)毛頭ない。人権主義者の振る舞いは、われわれの真の権利を完全に破壊するものにほかならず、彼らのデタラメを批判することと、権利を守ることは矛盾しないのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「政治にたずさわる者は、人間の本質は何か、人間は何を欲するかについて、深い知識を持たねばならない。さらに政策を実現するうえで、何がプラスで何がマイナスかもわきまえねばならない。「人間は食べ物を得る権利がある」とか「人間は医療を受ける権利がある」とか、抽象的に論じて何になる! 重要なのは、食糧や医療を実際に提供することなのだ。ここでは哲学の教授連ではなく、農民や医師の手を借りたほうが良いのは明らかだろう。 国家を構築したり、そのシステムを刷新・改革したりする技術は、いわば実験科学であり、「理論上はうまくいくはずだから大丈夫」という類のものではない。現場の経験をちょっと積んだくらいでもダメである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 かかる政治手法は、きわめて好ましくない副作用をもたらす。非常事態においては、ときに非情な振る舞いも必要となるが、世の中をつねに非常事態と見なしたがる革命派は、人間を冷酷なものにしてしまうのだ。 こういった連中は、人権をめぐる理屈をこねるのに忙しくて、人間のあり方そのものを見失っている。新たな英知を切り開くつもりで、じつは心を閉ざしただけ。われわれの胸中に宿っているはずの優しさや共感は、すっかり歪められる結果となる。 陰謀、虐殺、暗殺も、それで革命が成就されるなら安いものにすぎない。犠牲や流血沙汰を回避して改革を実現するとか、死体の山を築かずに自由を獲得するのは生ぬるいようなのだ。革命派は物事をとことん変えないことには納得しない。芝居でいえば、舞台装置の大転換による派手なスペクタクルを観たくて仕方ないのである。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「プライス牧師(訳注 =イギリスにおける革命支持派。フランスを見習おうという趣旨の説教を行った。プロローグ〜第二章を参照)にとり、フランス革命はまさにそんなスペクタクルだった。説教のしめくくりで、彼は感極まってこう述べる。「いまは何と偉大な時代であることか! この革命を目の当たりにできて満足だ。『神よ、もう死んでも悔いはありません。あなたのもたらす救いをしかと見届けました』──ほとんどこう言いたくなる。英知は世に広まり、迷信と錯誤をくつがえした。人権はかつてなく理解されるに至り、自由を忘れかけていたかに思えた国々は、それを取り戻すべく立ち上がっている。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「権力を持つ者、あるいはプライドの高い者は、とかく尊大に振る舞いやすい。これを自然にやわらげてくれるのが騎士道である。君主は人々に敬愛されるべく勝手な真似を慎み、頑迷な権威は優美なものに変わる。法律に頼らないかぎり物事が仕切れない社会より、誰もが礼節を知るがゆえに物事が丸く収まる社会のほうが望ましいのは明らかだろう。 ところが、すべては変わらねばならない。騎士道のもとでは、権力は穏健であり、人々は自由の精神を保ちつつ支配を受け入れた。かくして社会の各階層は調和し、政治にも気配りや思いやりが見られた。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「慣習が消滅するとき、社会秩序は根底より揺らがざるをえない。しかしその場合でも、権力は何らかの形で存在しつづける。そして慣習という支えが失われた以上、秩序を維持するには、もっと露骨な手段──暴力に訴えるほかなくなる。伝統的なシステムをひっくり返すべく、伝統的な慣習を破壊したことのツケは、こうやって回ってくるのである。 封建制を起源とする騎士道は、忠義の精神を社会にもたらした。忠義が重んじられるかぎり、反乱が生じる恐れはない。反乱の恐れがなければ、圧政を敷く必要もなく、王と国民の双方が安心していられる。だが忠義の精神が失われたら最後、王は陰謀や暗殺の恐怖にさいなまれたあげく、不穏分子の処刑や財産の没収といった、残酷で血なまぐさい手を使い出すだろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「こういった忌まわしくもおぞましい状態へと、フランスが突っ走っていないことを願う。国民議会や、革命指導者たちの動向を見ると、発想の貧困や、粗野で下卑た姿勢といった特徴がすでにうかがわれる。彼らの説く自由には寛大さがない。彼らの科学なるものは無知な思い上がりにすぎない。彼らの人間性は冷酷で粗暴である。 イギリスはつねに、フランスから多かれ少なかれ影響を受けてきた。そのフランスで、文化や慣習の水源が枯渇したり、汚染されたりするならば、イギリスでも同じことが生じかねない。いや、あらゆる国に余波が及ぶ恐れすらあろう。ゆえに私は、同国で起きている事態について、ヨーロッパ全体が深い関心を持たねばならないと考える。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「人間はいつでも善いことをするとはかぎらないものの、望ましい固定観念に支えられれば善行をする習慣が身につく。つまりは社会にたいする義務を、本能的に果たすようになるのである。 フランスのインテリや政治家たち、ついでにわが国の「啓蒙主義」一派は、こういうことがさっぱり理解できないらしい。彼らは他人の英知に敬意を払おうとせず、そのかわり自分の英知を絶対視する。古くから続いてきた制度は、ただ古いというだけで否定されてしまう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 政府の形態など、ファッションのごとくコロコロ変わって構わないことになる。憲法への愛着にしても、とりあえず都合が良ければ、という程度。それどころか彼らは、祖国すらほんとうには愛していない。自分たちが好きにいじり回せる間だけ、愛国心を抱いているような気になるだけの話。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「聞くところによると、フランス国内では、今回の革命はイギリスの事例を手本にしたなどという説が出回っているとか。断言させてもらうが、目下そちらで起きている騒動は、わが国の政治のあり方とは似ても似つかない。革命派の唱える理念にしても、大多数のイギリス人の考え方とはおよそ異なる代物にすぎない。 ついでに言えば、われわれはフランス革命から何かを学ぶつもりも毛頭ない。事態のなりゆきに無関心でいられないのは事実だが、それは影響が及んだりしないよう、距離を取らねばならないと用心しているのだ。 かりにこの革命が、あらゆる社会問題を解決する万能薬だったとしても、われわれは真似したいとは思わない。必要のない薬を服用するのは、決して良い結果をもたらさないからである。ましてこの革命は、とんでもない疫病かもしれない。その場合は厳重な隔離措置によって、わが国への蔓延を阻止しなければなるまい。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「フランスの革命派は、宗教を迷信と片付けているようだ。しかし宗教こそは文明社会の基盤であり、あらゆる善と幸福の源である。これは観念論ではなく、われわれの実感にほかならない。 人間とは不合理なものなので、長い年月が過ぎるうち、宗教も少々サビついて迷信じみてくることはありうる。けれどもイギリス人は、宗教自体の必要性については揺るぎない確信を持っている。「迷信を一掃すべく、宗教そのものを否定せよ」などという主張には、一〇〇人のうち九九人までが反対するに違いない。システムに生じた腐敗や欠陥を正し、完璧なものにしようとこだわるあまり、システム全体をぶち壊してしまうのはバカげたことではないか。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「民衆の行動は、世論によって必ず支持される。世論とは民衆の意見なのだから、これは当然であろう。完璧な民主主義こそ、もっとも恥知らずな政治形態なのだ。そして恥知らずということは、とんでもないことを平然としでかすことを意味する。 やりすぎのせいで罰せられるのではないかと恐れる者はいない。いや、民衆はそんな不安を抱く必要がないのだ。刑罰とは本質的に、民衆全体を保護するための見せしめとしての性格を持つ。裏を返せば、民衆全体を罰することなど誰にもできない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「だからこそ「民意はつねに正しい」という発想を許容してはならないのである。好き勝手に権力を行使してはいけない点では、君主も民衆も同じだ。しかも民衆の横暴は、君主の横暴と比べても、社会に大きなダメージを与える。 民主主義が機能するためには、民衆はエゴイズムを捨てねばならない。宗教の力なくして、これはまったく不可能と言える。国家は聖なるものであり、権力は神の御心に沿うべく行使されるとき、はじめて正当なものとなる──かかる認識が定着しないことには、粗野で無能な連中が政権の座についてしまうだろう。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「時代の風潮やら流行やらに流されて、国家のあり方をコロコロ変えてしまうなら、社会の本質である連続性が破壊される。世代間のつながりは失われ、われわれは夏の間だけブンブン飛んでいるハエ同然の代物となるに違いない。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「ところが世の中には、老いた親を八つ裂きにするかのごとく、祖国をズタズタにして平気な者たちも存在する(訳注 =第三章でバークは、革命派による共和制の導入により、フランス各地に自治体が乱立、国家としてのまとまりがなくなったと批判している)。こういう手合いは黒魔術を信奉しているらしい──バラバラになった親の死体、もとへ国家の残骸を、「改革」という名の大釜に放り込み、毒草を加えて呪文を唱えるだけで、すべてが元通りに復活すると思っているのだ。ゾッとする光景としか言いようがない。 既存の秩序の全否定を正当化しうるもの、それは「他にいかなる選択の余地もない」という絶対的な必要性のみである。革命とは「したいからする」ものではなく、「否応なしにせざるをえない」ものでなければならない。熟考とか、議論とか、客観的証拠といったレベルを超えて、誰もが革命の必要性を肌で実感するまで待つべきなのだ。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「知識人一派はかなり前から、キリスト教を否定するための大計画とも呼ぶべきものをつくり上げ、これにカルト的な情熱を注ぎ込んだ。まずは「誰であれ合理主義に改宗すべし」という信念に取り憑かれ、やがて「教会はあらゆる方法で攻撃すべし」という信念にも取り憑かれたのだ。 直接的な行動で教会をすぐ倒すのは無理でも、宗教を否定する方向へ世論を導くことはできる。そのためには世論にたいする影響力を掌握しなければならない。自分たちの仲間でなければインテリとして評価されないよう、知識人一派は周到に画策していった。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「代表者が増えることで、金持ちはメリットを得るどころか、ますます立場が弱くなってしまうのだ。富裕な地域ほど、金持ちへの逆差別は激しくなる。また地域ごとの格差をこんなふうに容認することが、国家全体のバランスや安定にどう寄与するのか、私には理解できない。 個人の場合と同じく、地域と地域の間でも、おのれの利害に固執したり、いがみ合ったり、嫉妬したりという事態が続発するだろう。それどころか地域レベルの対立は、個人レベルのものより深刻になりうる。下手をすれば、内乱一歩手前の状態に陥るのではあるまいか。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「「一七八九年七月(あの永遠に記念されるべき時)、市の財政はまだ健全だった。歳出と歳入は釣り合っており、銀行には一〇〇万リーブル(四万ポンド)の金が預けられていた。だが革命勃発いらい、市が負担しなければならなかった支出金額は二五〇万リーブルに上る。自主納税や献納にも大幅な落ち込みが生じた。パリは『一時的に金がない』状態にあるのではない、『まったく金がない』状態に置かれているのだ」 パリには過去一年間、財政を維持するために莫大な金がつぎ込まれた。フランス各地から吸い上げられた金である。にもかかわらず、結果はこんな具合。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著
「 自由には道徳が不可欠なのだ。頭が空っぽのくせに「自由、自由」と叫びたがる連中は不愉快きわまりない。思い上がりもいい加減にしろと言いたくなる。 高らかに自由を謳うこと自体を否定しているのではない。そこには胸を熱くするものがある。われわれは大きな心で寛大に行動するようになるし、争いの場では勇気をかき立てられる。」
—『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)』エドマンド・バーク著