村瀬秀信のレビュー一覧
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■はじめに
まず、このタイトルに惹かれた。「後ろ姿のない男」。
過去に囚われず、過去を振り返らない男。巨人V9時代の同僚が昔話を持ちかけても、「過ぎたことをごちゃごちゃ言ってもしょうがないでしょう」「我々にあるのは現在と未来だけです」と、木で鼻をくくったような返答。
そんな高田繁を評して、巨人のコーチだった国松彰が口にした言葉が「後ろ姿のない男」だった。
その男が、自らの「終活」として、およそ3年にわたり、70年に及ぶ野球人生を坦懐かつ縦横無尽に語り尽くした一冊。
■内容
著者は熱烈なベイスターズファンとして知られる村瀬秀信。当初は高田GMにチームづくりの方針を訊ねるつもりだったという。
ところが、取材を重ねるうちに、高田は村瀬の周到な下調べを「よく勉強している」と認め、次第に饒舌になっていく。
王貞治、長嶋茂雄、川上哲治、星野仙一、新庄剛志、ダルビッシュ有、南場智子……。日本野球史を彩る人物が次々と登場。
過去を振り返らないはずの男が、振り返る、振り返る。話は尽きない。
浪商の「ケンカ野球」、明治大学・島岡吉郎の「人間教育野球」、巨人・川上哲治の「組織野球」。三者三様の野球観の下で中心選手として活躍。
V9巨人では俊足巧打、堅守の名バイプレイヤー。引退後は巨人二軍、日本ハム、ヤクルトの監督を歴任し、日本ハム・横浜DeNAではGMとして球団運営を担った。
名選手だった高田は、監督として栄冠を手にすることはなかった。しかし、GMとして別の才能を開花させた。
V9戦士という勲章に寄りかからず、監督には監督の、GMにはGMの職責があると、自らの役割を見定めてきた。過去の栄光よりも、現在の仕事に忠実な男なのである。
■感想
高田繁の分厚い半生を読みながら、僕が最も関心を寄せたのはGMとしての仕事ぶりだった。
MLBでは選手の流動化とともにGMの役割が発達したが、日本ではいまだ十分に定着していない。
その背景には、根強い「生え抜き主義」があると見る。FAという正当な制度がありながら、移籍にはどこか「金で買われた」「金になびいた」といった印象がつきまとう。
加えて、名選手を名監督に据えたがる球団の体質。人気選手を迎えればファンも喜び、集客にもつながる。
しかし、打つ、投げる、守る能力と、組織を率いる能力は別物。にもかかわらず、日本の球団は、どうも往年のスターにユニフォームを着せたがる。
現場を熟知し、マネジメント能力を備えた人物が、現役時代の実績に関係なく球団運営を担う。それが本来あるべき姿だと思う。
高田がGMを務めた日本ハムと横浜DeNAは、現場の指揮と戦力編成をきっちり分離。GMは戦力を整え、監督は与えられた戦力で戦う。ゆえに、いくら連敗しようとも、GMが采配に口を出すのは御法度。
もっとも、高田とて人間。ヒルマンやラミレスの采配には、何度も「何してんだ!」と叫びたくなったという。実に人間臭くて面白い。
ただ編成となれば話は別。スカウトが推す選手を退け、人気選手にも容赦なく見切りをつける。勝てる組織をつくるためなら、大なたを振るうことも厭わない。当然、批判も浴びる。恨みも買うが、組織の責任者たるもの、誰にでも良い顔をしていては務まらない。
嫌われることを恐れないのではない。嫌われることも、自らの職責として引き受ける。現場の領分は侵さず、自らの領分では責任を回避しない。
V9戦士という華やかな勲章よりも、僕には、この組織人としての矜持のほうが、よほど眩しく映った。
■最後に
読みながら、もうひとりの野球人が頭に浮かんだ。根本陸夫である。
西武、ダイエー(現ソフトバンク)を強豪球団の礎を築いた仕掛け人。監督としての戦績は芳しくなかったが、球団の創設期や再建期に、「勝てる組織の土台」を創った。
高田繁もまた、そういう男だったのではないか。ふたりに共通するのは、目先の勝利よりも、勝ち続けられる組織をつくろうとする姿勢。自分が主役である必要はない。
過去を振り返らない男は、次代のために土を耕し、種を蒔く。そして、実りの季節には、もうそこにいない。
ちょっと格好良すぎるぜ、高田さん! -
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優れた野球人とは、選手としての力はもとより、無頼でヘンな人で大金も持ってるから、すなわちすごいんだ!……と、誰が決めたのか。いや、俺ら庶民はそう思い込んじゃっているのか。
実はそういうイメージから程遠い高田繁こそは、この本を読めばすぐわかるが、「マジですごい野球人」なのである。浪商、明治、V9時代の巨人という王道の中の王道をすべて主力選手として脱落することなく生き抜き、引退後はあまた当時の弱小チームの監督・GMで存分に(その大部分をバックヤードで)強化力を見せ、野球人として生き抜いてきたという経歴は、完全に半端ない。
では、なぜ過小評価されてしまうのか。要するに、あえて自らそれを語るを良し!としてこなかったからである。そして、クソの付くほど常識人であり(俺らがプロ野球人に期待してしまう「大バカさ」とか「豪放磊落」「常人ならざる言動」なんぞとは、この人は一切無縁だ)、マスコミと派手に渡り合うとか、飲み歩くとか、いじって楽しい武勇伝(つまりコンプラ違反)の属性なども、一切なかったからである。
大体において、政治の世界なんかでも、闇将軍は堂々と「闇将軍」と言われてて全然闇じゃなかったりするのだが、こと近年の高田繁の仕事ぶりは、本当にブラックボックスであった。もっとも、発言するのは自分の仕事にマイナスだから、この人は対・世間には何も言ってこなかったに過ぎないのだが。
で、そのほぼ全てが初出しの内容と言っていい本書を読めば、その肉声でもって、高田繁の真の実力と球界への貢献度が一目瞭然なのである。もしも、4番かエースならざれば監督ならずという巨人の不文律がなくば、高田巨人が存在してて、またすごい時代を迎えたんじゃないか……とか、否、そのおかげでこの稀有な野球人はファイターズへ、ベイスターズへとGMで渡り歩いて、球界全体を良くしてくれたんじゃないか……とか、妄想からリアルまで、様々なことを思ってしまうのだ。
多分に本音しか話していない高田の舌鋒は、鋭い。特に苦言は! かといって、メチャクチャな老害のそれではない。筋立っているのだ。ブー垂れてるだけの人ではないからこそ、その言葉は突き刺さる。逆に、野球の制度であれ人間であれ、褒めるべきものは徹して褒める。状況を常に俯瞰できている証左でもある。
自他共に認める「どこの派閥にも属さない一匹狼」で、権謀術数なしに全うしえた野球人生には、驚愕しかない。だってここは日本社会ですよ? 最初から最後まで、内容のインパクトはメチャクチャ強い。あまたゴーストの書いた「野球人の自著」など、屁でもない。
本書が出た後に、有名な著書もあられる、とある野球識者さんと話す機会があったが、その方は開口一番「これの書き手が村瀬さんで、本で出してくれて、本当に良かったですね!」と、下手すれば商売敵に対して、一点の曇りもないトーンで言われた。
それもその通りで、まさにその取材3年の執念と食いこみ方と知識なくして、この「本物」の日本プロ野球裏面史が表に出ることは、絶対なかったであろう。と同時に、本書が前述のような凡百ゴーストによる「高田繁・著」の本ではなく、村瀬秀信・著であるところの意味合いというのも、またしみじみと感じられるというもの。この稀有な野球史にして野球秘録、今知らなければ、もったいない! -
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こんな話があったなんて、、、
1955年の大阪タイガースの監督は、プロ経験のない60歳のおっさんだった!岸一郎。
もっとも、早稲田と満州で好投手として鳴らしていたので、素人ではない。
ただそれにしても、いきなりプロ集団のトップに据えるなんて、
阪神球団、どうかしている。
若手への入れ替えがミッションで、外部の人間でないとできない、と判断したようだが、、
日産のリストラをゴーンがやったようなものか。。
30試合、ほぼ5割近い成績だったが、それは采配によるものではなく選手の頑張り
というかミスタータイガース藤村富美男からも無視され、痔を理由に休養せざるを得なかった。
ここから阪神の「監督より選手が偉い」という悪しき習慣が生まれてしまったと。
歴代ミスタータイガースとて、監督としては寂しい終わり方をしているのが巨人と違うと。
しかしこの方、結果的には小山正明がエースになったり、爪痕は残している。
ロッテの小山として知ってるくらいだから、そんな昔の話じゃないんだよね、、
そんなころにこんなことがあったなんて
第1章 第8代監督 岸一郎
第2章 ベテランを殺す
第3章 1955年の33試合
第4章 ミスタータイガース
第5章 消えた老人を追って
第6章 苛政は虎よりも猛し。 -
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読売ジャイアンツのライバルと位置付けられ、熱狂的なファンを多く擁する阪神タイガース。その長い歴史の中で、僅か2ヶ月だけ監督を務め、今やすっかり忘れ去られた岸一郎という人物がいた。彼の正体に迫る評伝。
自分は野球のことはろくに知らないが、なんとなく立ち寄ったスポーツ本コーナーで目にして、題材や帯コメントに興味を持ち読んでみた。
当時ですらほぼ知られていない謎の老人扱いだった岸が実は戦前野球界でスターだったこと、結果を出せず引退に追い込まれたもののそのことは後々まで尾を引く球団の悪しき体質に繋がったこと、引退後の足取りを追う中で明らかになった新事実など、予想以上に壮大な物語が展開されており、読み応えのあるノンフィクションとなっていた。関係者の死去や貴重な資料の散逸もあり、もっと早い時代に取材が行われていればと惜しまれる気持ちもあるが、そもそもこの本が書かれるまでほとんど誰も岸という人物を省みなかったらしいことを考えれば十分以上のものだと思う。 -
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1955年、あの阪神タイガースの監督に就任した
一人の人物がいました。
岸一郎という当時としては老人の域に入る年齢
は60歳過ぎです。
年齢もさることながら驚くのはその経歴です。
なんとプロ野球の経験が無い、アマチュア出身
です。ホントか?
今では、いや当時でも考えられない人事です。
何でも当時のオーナーに「チームの改善案」の
手紙を送ったのが目に留まり、オーナーの「鶴
の一声」で決まったとか。そんなアホな。
シーズンが始まると案の定、選手との軋轢が生
じ、ベテラン選手などはマスコミを使って追い
落とそうとします。
そうです。たびたび世の中を賑わす阪神の「お
家騒動」は、これがルーツと言っていいのです。
フロントの強引さ、選手のマスコミを使うした
たかさ、それを評論家となって煽るファン達。
現在の岡田阪神は勝っているから周りはおとな
しいですが、負けが込むと始まるでしょう。
お得意の「お家騒動」が。
阪神ファンでなくてもプロ野球を愛する人なら
ば、きっと「ああそうだよね。阪神って」と
納得できる一冊です。 -
Posted by ブクログ
かなり面白かった。阪神タイガース(大阪タイガース)第8代監督岸一郎を巡る、タイガースという球団の「うちがわ」と「外野」、そして岸一郎という人物の半生。生憎、岸一郎の資料のうち処分されたものも多く、深層にある「真相」が何か、そもそもそれ自体あるのかないのかも不明瞭だが、それでも充分に読み応えがあった。何より、複雑かつ登場人物が多い昭和前期〜戦後期にいたるドキュメンタリーを優れた構成でまとめあげているため、阪神タイガースに詳しくなくても引っかかりは少なく読み進められる快適さが大変よかった。昭和の日本や、職業野球(プロ野球)に関心がある人なら、前提知識がなくてもきっと楽しめる。岸一郎氏がこうして蘇ることに、胸が熱くなった。
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2020年プロ野球セ・リーグの首位打者であった
佐野恵太選手は、2016年のドラフトではDeNA
ベイスターズの最下位である9位だったことは、
多くのメディアで周知のことです。
プロ野球でのドラフト会議では、毎年絶対に1位
指名されると予想される話題の選手が出てきます。
その反面、最初から順に指名していくわけですか
ら最後に指名される選手も必ずいます。
その最後に指名される選手は、失礼ながら全く
無名と言っていいのですが、スタートは横一線
なのです。
そんな結果が全ての世界で、最下位選手たちが
どんな野球人生を送ってきたのか。
「えっ、あの選手も最下位指名選手だったのか」
と驚くくらいのスター選手もいます。
まさしく実力の世界で彼らがどういう気構えで
上昇していったのか。一方で夢破れた人も当然
います。
それらの悲喜こもごもを知ることができる一冊
です。 -
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その年のドラフトで一番最後の指名だったプロ野球選手を取材した作品。全16名。「野球太郎」に連載のコラムから。
プロ入りすれば順位は関係ないとの見方もあるが、やはり最初のチャンスは大きく異なる。順位=スカウトの評価でありやはり下位指名から活躍する選手は少ない。本書の登場人物では先日引退した千葉ロッテの福浦和也、ヤクルトで活躍した田畑一也が稀有な例。
多くは既に引退した選手。プロ入りを悔いることなく第二の人生を送る。
貴重な現役選手、楽天の今野龍太の話が秀逸。試合をするメンバーにも事欠く高校から2013年楽天に9位指名で入団。ドラフト1位は松井裕樹。背番号は1と99。プロ入りから6年。かたや通算100セーブとようやくの1勝。これからの同期生の巻き返しが楽しみである。
年代が偏らず、あまり知られていない過去の選手にスポットを当てたところが実によい。
筆者は最近プロ野球本で好作品を連発している。本書も素晴らしい。次回作にも期待したい。 -
Posted by ブクログ
この人の本はクセがある。クセがあるぶんテーマ設定や読み手であるこちらのコンディションによってはピンとこないこともあるにはあるのだが、この本の多くはおもしろかった。
まず「止めたバットでツーベース」って題名からして秀逸だ。軽く常軌を逸した題名だが、一発で覚えられるし、想像力が掻き立てられる。これ自体が人生訓のようで哲学的だ。
numberはなぜこの題名で連載させなかったんだろう?
numberだからか。ネット記事とはいえ決して権威ある雑誌の連載とは思えないもんな。
そうなんだよ。この本自体が威厳や権威とは遠いところにあると思う。
選手が中心でもなければデータが中心でもない。
この本の多くは市民が野球とともに歩んできた人生をテーマにしていた。
プロ野球の外側にいる人達の生活や野球との向き合い方がわかる本。野球と共生してきた市民の本なんだよな。
プロレスを見ていてこういう本や企画があればいいなと思うことは何度もあった。それをこんな形で野球が表現してしまうとは。悔しい思いもある。
市民がプロスポーツ、エンターテイメントとどうお付き合いしているのか、そこにはどんな哲学やお作法があるのか。
自分が好きなラーメンを他の人はどう食べているのか?何を思ってこの店に通っているのか?
店のレシピや味のこだわり、売れる要因を探ることもおもしろいけど、隣の誰かにとってこのラーメンがどんなものなのか知るのもまたおもしろい。
おとなもこどももおねーさんも。
作家も芸術家も坊さんも。
元プロ野球選手もプロレスラーもそして作者自身も。
かくもプロ野球は広い。大きい。そういうプロ野球の持つ広さを感じさせてくれる本でした。 -
Posted by ブクログ
人の観る野球のど真ん中にいない者にも,人生があり,生き様がある.プライドや生きがいなんて前向きな言葉では表せない,怨念とか意地みたいなものが突き動かす人生があることも見逃せない.そんな事実にひたすらスポットライトを当てた短編集.シリアスさだけでなく,村瀬さんならではの滑稽さも織り交ぜながら,何もなくスイスイと読み進められるわけではないかもしれないけど,グイグイと読み進めたくなるように引き込まれる秀作.
個人的には,第6章『ヤクルト芸術家』の描く「ひとりの人間の生き様」,第8章『カープのセカイ』にひたすらあふれる純粋さとコミカルさがが好き. -
Posted by ブクログ
阪神タイガースがチーム初のリーグ連覇を成し遂げた後に、まさかの()CS4連敗を喫するというファンとしては天国と地獄を一気に味わったこのタイミングで読むのは正直きつかった。特に前半の球団のゴタゴタ…。魑魅魍魎の跋扈するプロ野球の世界、そこにヒョッコリ現れた素人のじいさんがタイガースの監督に就任。その不可解な人事の裏で何があったのか。私の知らなかった虎の黒歴史が紐解かれていく前半は息苦しささえ感じたが、岸一郎という謎の人物の足跡を追う後半からは怒涛の面白さ。ページを捲るのももどかしいほどの一気読み。最後は「虎の血」に目頭が熱くなる。
タイガースという人気球団の歴史に、ほんの一瞬名を遺した男のなんと数奇な運命。その血筋。
2025、26の連覇で、タイガースは過去の軛を断ち切れたのか、それはわからない。が、90年を超える球団の歴史の中の小さな爪痕であっても、決して意味がなかったわけではないと、思わせてくれる読後感でした。