栗田有起のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
栗田有起月間3冊目。
表題作「お縫い子テルミー」と「ABARE・DAICO」の2つの中篇。
どちらも背景は『卵町』や『オテルモル』と異なり、ごく普通の現代の風景です。
ただ「お縫い子・・」については、主人公の職業が流しのお縫い子(客の部屋に居候しながら服をしたてる)というのが変わっています。一方 「ABARE」の方は小学5年生の少年を主人公にした物語で、これはごく普通の現代小説と言って差し支えないと思います。
どちらの主人公もキッパリしていて、でも毅然というほどでもなく。なんだか共感できます。
しかし、この心地よさは何なんでしょうね。
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11-12 -
Posted by ブクログ
突如、栗田有起月間です。
良眠と快夢のためだけのホテル。
横歩きでしか入れないビルの谷間の奥にあり、地下だけの客室。部屋にはテレビも冷蔵庫もテーブルも無いオテル・ド・モル・ドルモン・ビアン。
その求人広告に応じて、オテルモルの受付に勤めることになった希里の不思議な体験。
どうも栗田さんの共通項の一つは、奇妙に歪んだ背景です。
全体が歪むのではなく、局所的に歪んでいる感じが良いですね。病院町を舞台にした『卵町』にしてもホテルを舞台にするこの作品にしても、その特徴である「静寂」や「睡眠」を極端に強調するやり方で不思議と心地良い歪みを作っています。
あと一つは主人公を取り巻く人の生真面目さでしょ -
Posted by ブクログ
それは自分の枕でないと寝られないことにくらべれば、自由であるような気がする。でも自由とは、自分を縛る鎖を選ぶことだと、聞いたこともある。
残った布はハンカチくらいの大きさにして四辺をまつる。折りたたんで、胸元にしまう。ここにはいつも、気に入りの布が何枚も入っていた。つねづね、人はだれしも、せめて一枚は美しい布を持ち歩くべきだと考えている。
つくづく、もう若くはないのだと悟ったわ。いろんなもの犠牲にしてきたことにようやく気づいたの。好き勝手やってきたけど、だれかがそのために犠牲になってくれてたんだって、やっとわかったの。そのときどきでやれることをやるって -
Posted by ブクログ
キノコそのものであるキノコと、キノコに運命付られた青年の物語です。白昼夢のような印象を受けますが、それもすべて菌類特有の生態と非常に親和的で、なんというか味わい深い。何度も言いますが、キノコのように。
小説は、起承転結や変化がそれなりにあることを期待されつつ、実はフラクタルです。つまり、どの一節からも、その小説世界自体が匂い立つ。テーマやメタファーに還元されきらない、その世界の全体性が文字の連なりとなって現出してきます。菌類のその生命の拡がり、連綿と続く不思議な分裂とも再生産ともつかない在り方と、よく似ていると思いませんか。その意味で、物語である物語をさっと楽しむのにはうってつけです。
ただし