大人向けだなぁ
この人の作品を今まで読んできて常々、思っていたが、今回の短編集はそれが顕著に出ているのではないだろうか?
大人向け、と言うと要らぬ誤解を招いてしまいそうなので言い換えるが、描き手が作品に籠めた思い、詰めた感情、伝えたい意図を半分以上は受け止められる読解力の高い玄人向き、か?
全体的に、こう・・・熟成酒のような雰囲気が漂っていて、気を抜くと一気に持って行かれそうになる。ある意味、ゆっくりしたい時には読んじゃいけない漫画
しかし、人生について、ちょっと真面目に考えたくなった時には手に取ってみるのもいいかもしれない
『加古里・スズシロ』&『その後の加古里・スズシロ』・・・世の中、男と女の間に友情は成り立つのか、そのテーマで熱い論議が展開される事も少なくない。私としては、「成り立つ」派に賛成だが、この話を読んで「特殊な条件」が絡んだ場合に限るが、と付け加えたくなった。距離にも時間にも長いものを置いてしまったとしても、外見が大きく変わっても、二人の間に確かにある絆と呼ぶには気恥ずかしすぎる『何か』は変わらない、だから、そこに同性との間に芽生えるものと同じ、友情はしっかりと成り立つ、と私は思う(と言うよりかは信じたいし、成り立つ方が何かと面白いじゃない、と考えている性質です)
『風の吹く吹く』・・・自分を取り巻く環境がわずかでも変わってしまうのを怖れて「変わりたくない」と願う強さ、自分を取り巻く環境を少しずつでも構わないから変えていきたいと想う強さ、どちらが勝っている訳でもないが、極端な結論を言うなら、無変化はよろしくない。“小さな”変化が齎す“大きな”変容に対する恐怖でそこに足を止めてしまってもイイ、ただ目だけは動かして周りを見ていれば、きっと、また歩み出す勇気を得られる
『あしたの今日子』・・・今日びの純愛ロードを突っ走る女子高生は可愛くて、男なんて足元にも及ばないくらいに強いです、真っ直ぐに生きてます
人間、下手に人生経験を半端に積んじゃうと、変なプライドが鎌首をもたげちゃうもんなんですかね? そんで、いざ手元から擦り落ちてしまってから、それが自分にとって大事だったのか、を痛みで思い知る
「たのもォ!」は肚にズンッと響いてイイもんでした
『THE WORLD』・・・少し手が出るのが早く、言葉が足りないにしても、大山さんが持ってるプロ意識は高潔なもので本物だと思う。どの仕事に就いてもそうだが、長続きさせるコツはその仕事だけの、他の職種にはない楽しみを見つけることなのかもな
『恋する太陽系第3惑星地球在住13歳』・・・他の作品と違って、鳥肌が立つ怖さがあった・・・純すぎる「好き」は人を狂行に走らせるな
『庭へゆく』・・・よく言われますが、忘れるってのは人間だけの特権だ、と。辛い事をずっと覚え続けていたら、前には進めないから記憶の海の底に沈めてしまうのだ、と。だけど、人間、単純に出来ているからこそ、忘れる事なんか簡単には出来ず、逆に何度も思い出してしまうショックな現実がある。そんな時は、どうすればいいのか? やり方は人それぞれだと思うが、作中のように『大切な場所』に足を運んでみるってのもイイかもしれない。ごくごく普通の代わり映えのしない風景を前にするからこそ、大きな悲しみはいとも簡単にスコーンと頭の中から抜ける時もあるのだろうから
奇抜でなく、緻密な心理描写を描かせたら、この先生は本当に凄い。あと、個人的な感覚なので、引かないで欲しいが・・・手が凄いスキ