古屋美登里のレビュー一覧
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ネタバレBSテレ東で放送されている番組「あの本、読みました?」を毎週観ているのですが、ちょっと前にゲストで出た宇垣アナが紹介していて読みたいと思った本。
著者はアフガニスタンの女性作家たち18人。
抑圧されている社会の中でも、小説を書きたいという女性たちを募って、イギリスで出版されたこの本。
当然、彼女たちの言語での出版はいまだに叶っていません。中には、身の危険を感じて国外退去をしている作家もいるそう。
命がけで書いた短編(長編を書く余裕も安全もない)は、小説のはずなのにノンフィクションかと思うほどリアルで悲惨な内容ばかり。
女性差別、家父長制、貧困、さらにテロや暴力、死。。。
もしかしたら、登場人物がフィクションなだけで、内容はノンフィクションなのかもしれません。
重かった。 -
Posted by ブクログ
日本語訳のタイトルは原書の『SHE SEDI』の方がしっくり
すると思うのよ。
大学在学中に設立した映画プロダクション「ミラマックス」の
成功で、アメリカ・ハリウッドのみならず、世界の映画界で
押しも押されぬ大プロデューサーとなったハーヴェイ・ワイン
スタイン。
彼が手掛けた映画は日本でも多く公開されているので、劇場や
テレビ放映で目にした人も多い思う。
そんな大プロデューサーには公にされたら困るいくつもの
秘密があった。
自社の女性従業員や役を欲しがっている若い女優たち複数名に
大しての、性的暴行や性的虐待だ。
何十年にも渡って続けられたワインスタインの蛮行は、ある日、
「ニューヨーク・タイムズ」のオンライン版に告発が掲載され
たことで大反響を呼ぶ。
本書は、一連のワイスタイン事件を追い、関係者に取材し、掲載
にまで漕ぎつけたふたりの女性記者を中心に、調査報道の醍醐味を
感じさてくれる。
アメリカだろうか日本だろうが、性被害に遭った人が声を上げる
には高いハードルがある。ましてや相手が富と名声を手にしていれ
ば猶更だ。
ワインスタインは事が表沙汰にならぬよう、「映画界で仕事を得られ
ようにしてやる」と相手を脅し、多額の示談金を支払い、秘密保持
契約書にサインさせる。
ふたりの女性記者は公で発言することを躊躇う被害者たちに根気よく
連絡を取り、証拠を積み重ね、遂にはワインスタイン周辺の関係者
からの証拠や証言さえも得て、告発に踏み切る。
取材の過程、ワインスタイン側との駆け引きはまるで極上の
ミステリーを読んでいるようで、ドキドキワクワクさせられる。
「ニューヨークタイムズ」の告発が契機となり、性被害に遭いながら
も声を上げることを躊躇っていた女性たちが、「私もそうだった」
と声を上げ始め、以降の「#MeToo」に発展していく。
アメリカの悪口ばかり言っている私だが、アメリカの報道は心底
凄いと思う。権力を持つ者にさえ、容赦しない告発をするのだから。
翻って我が日本。時の権力者に近いゴロツキ記者の起こした性加害
事件を国ぐるみで闇に葬ろうとしたのだからなぁ。アメリカの
ジャーナリズムの足元にも及びませんわ。
某タレント事務所の性加害問題だって、30年以上前に告発があった
時に、後追いしたのは少数の週刊誌と今は亡き月刊誌だったもの。
今回だって、事の発端はBBCからだったしな。
ハーヴェイ・ワインスタイン、ニューヨークとロサンゼルスで起訴
され、禁固39年の刑を受け、現在服役中である。また、被害を受けた
女性たちには合計で20億円以上の賠償金が支払われる予定だ。
「ニューヨークタイムズ」の告発記事は、調査報道の部門で
ピュリッツァー賞を受賞している。
残念ながら、私は映画された作品を見逃してしまった。 -
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ネタバレものすごく良かった。
苦しく、悔しく、やるせない。衝撃と絶望。総じて漂う女性の不自由さ。社会通念の呪縛。そして、沸々と湧き起こる怒り。
産後病院から戻ると、男の子が産まれないからという理由で夫が新しい妻との宴を開いている「八番目の娘」、セクハラに文句を言ったら給与未払いで解雇された「共通言語」、暴力を振るう姉の夫を殺めた弟と彼をかばい有罪となった先生の物語「ダーウードのD」。
一方で、希望や清々しさを感じる作品には心救われた。
タダでバスに乗せてくれた運転手さんの優しさが沁みる「冬の黒い烏」、女性のリーダーシップと女性たちが力を合わせて団結力の強さを輝かせる「アジャ」、心ときめく赤いブーツを選択することが出来、自分を貫いたことで合唱のリーダーになれた「赤いブーツ」、愛する夫に先立たれ、義兄に結婚を強要されるも未亡人を貫き、クッキーを売ることで、経済的自立を果たした「ハスカの決断」。
それに、失明と共に失恋したラヒーマと彼女のために情報とお金を集めたアリーの切ない恋を描いた「巡り合わせ」。
故郷が心休まる場所だったということを、枕を介して描写する「わたしの枕は一万一八七六キロメートルを旅した」が作品としては一番好きだと思った。 -
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著者は、登山家でロッククライマー。1924年にエベレスト初登頂を目指したイギリスの登山家マロリーとアーヴィンの足跡をたどりながら、アーヴィンの遺品を探索するためにエベレストを目指したノンフィクション。 自身のエベレスト体験と過去の挑戦者たちの歴史、登頂した人、還らなかった人たちの話、エベレストの登山環境、現代の登山など様々な事例を紹介しながら、著者自身の体験、エベレスト登山について考察しており大変面白く読めた。
以前、エベレスト登頂を目指した栗城さんを追ったノンフィクションを読んだが、この本を読むと準備を怠らない経験豊富な登山家であっても、不運に見舞われることもあるし、観光ツアーで登る人、名声を求めてチャレンジする素人登山者たちが事故で命を落とすことも多い。 現在でも頂上付近には、放置された200体以上の遺体があるらしい。 エベレストは人間にとって南極や北極同様に極限の環境であり、登頂には天候などの幸運に恵まれる必要がある。著者の登山の本来の目的は遺品探しだったが、運よく登頂することができた。エベレストを知る一人である。酸素ボンベを使って登頂した彼の過酷な経験を読むと、栗城さんの無酸素単独登頂という目標が、いかに無謀だったのかがよくわかる。おそらく何十回チャレンジしても結果は同じだったと思う。著者はマロリーの時代、1920年代の登山と自分の経験を重ね合わせているが、自分は栗城さんの登山と照らし合わせながら読んだ。過酷なエベレスト登山の世界を知りたい人には、この本は第一級のノンフィクションであり、必読書と言っても良いと思う。 -
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長距離移動を伴う泊まりがけの仕事が入ったので旅のお供にと購入。いつものことだけど亜紀書房の海外ノンフィクションはハズレがない。
本書は登山家である著者が「1924年にエヴェレスト山頂付近で消息を絶ったひとりの若きイギリス人登山家の遺体を捜索する」というナショジオのドキュメンタリー制作(2019年)に参加したときの顛末をつぶさに記したもの。
膨大な資料をもとに、1924年のイギリス登山隊の苦戦の様子と、2019年の自らの旅程や現代のエヴェレストを取り巻くさまざまな事情・問題を自由自在に行き来して描く巧みな構成に舌を巻く。
そして真に迫る筆致でぐいぐい読ませる。タフな一冊。 -
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1961年11月20日、オランダ領ニューギニア沖(当時)でそれは
起きた。オランダ人の人類学者とアメリカ人の青年が乗ったボートの
エンジンに不具合が発生した。
同乗していた現地案内人は助けを求める為に陸地を目指して
泳いで行ってしまった。残されたふたりはボート内で待機して
いたが、アメリカ人青年は案内人の帰還を待ち切れずに空き缶を
浮き輪代わりにして海へ飛び込んだ。
彼の姿が確認されたのはこれが最後であり、後々、衝撃的なニュース
となって世界を駆け巡った。
何故なら、行方不明になったアメリカ人青年は世界の大富豪である
ロックフェラー一族の一員であったからだ。
マイケル・ロックフェラー。父親はニューヨーク知事であり、後に
はアメリカ副大統領となった。その後継者であるマイケルは、所謂
「プリミティブ・アート」に魅せられ、その収集の為に現地を訪れて
いた先での事故だった。
ロックフェラー家の公式発表では海難事故とされているが、この
行方不明事件には長らく不穏な噂が絶えなかった。
マイケルが収集していたのは、ニューギニアの未開の地に暮らす
アスマット族の人々の生活用品だったからだ。
アスマット族は「首狩り族」と言われ、人喰いをすると言われる
人々である。
著者は当時の資料に当たり、現地の言葉を習得し、現地を訪問し、
限られた期間ではあるがアスマット族と生活を共にして、何故、
マイケルは「喰われたのか」を理解しようとする。
アスマット族を理解しようとする著者には好感を持つ。それと同じ
感情を、失踪当時のマイケルは持ち合わせていたのか?が気になる
のだよね。
アスマット族が神聖な儀式に使用していた柱さえ、僅かな対価で
手に入れているのだから。そこに、恵まれた出自から来る「驕り」
があったのではないだろうか。
勿論、それだけがマイケルがアスマット族に殺害された理由には
ならないだろう。マイケルが現地に赴いたタイミングも悪かった。
他部族との戦いがあり、オランダ人宣教師との衝突もあったのだ
から。
カニバリズムはタブーである。よく、「人喰い」をテーマにした
書籍などに書かれていることだが、それさえも文明に頼って生きる
世界の人々の風習・文化の軽視なのではないかと思う。
とか書くと「人の命をなんだと思っているんだ」と怒る人もいるの
だろうな。
「未開の部族」と呼ぶことさえ、文明世界の驕りだと思ってしまう
のだよね。
本書はそんなことまで考えさせてくれる良書である。 -
Posted by ブクログ
どんな感想を書いたところで、本書に書かれている現実に比べればあまりに軽薄なものになってしまう。読んでいてどれもこれも非常に厳しい話で、読み進めるのが辛い。「私の中のあなた」以来の辛さだと感じた。
にわか雨が降るように爆弾が落ちてくる。あっけなく人が亡くなる。それも子供が。
生まれた性別が異なるだけで人とは思えない扱いを受ける。
どうしてこうなってしまうのだろう。
それでも、一人でも多くの人に現地の状況を知ってもらい、寄付なりなんなりできることを行動に移してもらえるよう、微力でも書かねばならないと思う。
日本でも、形は違えど本質的に同じような問題は現在もなおある。それらも併せて頭に置いておく。
第四章はかすかな希望があり、それだけがかすかな救い。 -
Posted by ブクログ
アフガニスタン(以下、アフガン)の女性作家18名による23篇の作品が収められている。
紛争などによって疎外された現地の作家を発掘するプロジェクト〈アントールド〉により集められ、更に英語圏の読者に読んでもらうべく現地の翻訳者が英訳。アフガンの人々によって彼女達のペンは翼へと姿を変え、世界中に羽ばたいたのである。
装丁・タイトルに惹かれて手に取ったが、想像以上に意義のあるもので本を持つ手に力が入った。
「みなさんの心を引き裂くような文章も本書にはあります」
「思わず息を殺してしまうような文章も記されています」
こんな文言がまえがきにあったら、その先は覚悟を決めて読んでいくしかないだろう。(どうしても投げ出す気にはなれなかった)
予想を裏切らず、というか上回って、どのストーリーも重くのしかかってきた。1話終えるごとにページを閉じ、時間を置いてから再開する調子。彼の地ではどれも現実あるいは起こりうる話で、中には実際の事件を題材にしたのも含まれているから辛いのなんのって。
ストーリーのシチュエーションは様々だが、おおよそはテロや家庭内暴力、男尊女卑問題が背景に横たわっている。
「死は平等に訪れる」と言うけれど、いつどこでテロに巻き込まれるか予測できない日常でもそんなことが言えるのだろうか。秒/分/時間刻み、その場所にいるか・いないかで運命が決まってしまう。『エアコンをつけてください』のハミード校長みたいに妙な胸騒ぎがしたりと、生きた心地のしない日々を過ごさなければいけない中で。
「あの人たちが気にしてるのは、人からなんて言われるかということばかり。片方の耳を壁に、もう片方をドアにくっつけて暮らしてる」
身近に戦争がない時も、女性は家庭や社会において厳しい視線に晒されている。
親から充分な教育を拒まれ勝手に婚約者を決められる。男子の出産を強制される。かと思いきや、『虫』のゾフラーのように芸術家志望を否定される。(否定した校長曰く、「アフガンでは女性の指導者や技術者が必要とされている」んだとか…)
そのうえ本書の刊行はタリバンが政権に返り咲く直前であって、現在女性の立場はますます悪化の一途を辿っているという。
女性の生き方を決めつけている点は日本も変わらない。
しかし我々と違うのは、彼女ら18名の作家は各々の現実を一切オブラートに包んでいない。ペンの力を通して、男性社会(男性によって歪められた社会)に屈しない確固たる姿勢を示している。村を水没の危機から救った女性の物語『アジャ』では、正しいことを遂行する役割に男も女も関係ないという強いメッセージ性が発信されており、何より勇気づけられた。
これほど「ペンは剣よりも強し」を肌で感じるこってなかなか無い。各シーンの断片が、まだ記憶に刺さっている。 -
Posted by ブクログ
2017年10月、「ニューヨーク・タイムズ」紙が「ハリウッドの大物プロデューサーによる性的暴行」を報道した。これをきっかけに、性暴力の告発運動である「#MeToo」が巻き起こり、アメリカに留まらず世界的ムーブメントへと発展した。女性たちはソーシャル・メディアに#MeTooタグを付け、次々と過去に受けた性被害を告白していった。「#MeToo」運動は「自分が発言することが(誰かの)行動に繋がる」という、価値観の転換を促した。
ハリウッドの敏腕プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。「人を出世させる力」を持つワインスタインは、グウィネス・パルトロー、マット・デイモンなど数々の若手俳優をスターダムに押し上げ、『セックスと嘘とビデオテープ』『クライング・ゲーム』ほか多くの独立系映画を大ヒットさせてきた。アカデミー賞をはじめ数えきれないほどの賞も獲得している。ハリウッドにおいて、「ハーヴェイ」の名は権力と同義語であった。
しかし、その裏でワインスタインは「女性への扱いがひどい」と囁かれていた。2016年、女優のローズ・マッゴーワンは匿名のプロデューサーにレイプされたと訴えていたが、噂ではワインスタインのことだと言われていた。彼女は「ハリウッドやマスコミの間では公然の秘密」と、#WhyWomenDontReport(どうして女性たちは声を上げないのか)というハッシュタグを追加してツイッターに投稿した。同年5月、「ニューヨーク・タイムズ」紙(以下、「タイムズ」)の記者ジョディ・カーターは、ワインスタインの調査をするためマッゴーワンに連絡を取った。マッゴーワンはオフレコ(非公開前提)を条件に、彼女が受けた恐ろしい体験を打ち明けた。
1997年、マッゴーワンは注目すべき新人女優の1人としてサンダンス映画祭に参加していた。独立系映画の一大発信地だったこの映画祭で、ワインスタインは「統治者」として君臨していた。ワインスタインは「話し合いをしよう」と言って彼女を自分の宿泊するホテルへ誘った。彼の部屋でひとしきり映画の話をして帰ろうとした瞬間、マッゴーワンは浴槽のある部屋に引きずり込まれた。ワインスタインは彼女を裸にし、股のあいだに自分の顔を強引に押しつけた。数日後、彼女の自宅の電話に、「ほかの大女優たちはぼくの“特別な友だち”で、その仲間にきみも入れるよ」という、身の毛がよだつ内容の伝言が入った。彼女はマネージャーに事情を打ち明け弁護士を雇い、ワインスタインから10万ドルの示談金をもらって一件落着となった。示談金の授受は「ワインスタインの悪行を公言しない」ことが条件であった。マッゴーワンはジョディに、「ワインスタイン単独の問題ではなく、ハリウッドは女性への虐待を組織的に行なっている」と訴えた。
ジョディは、先輩編集者の勧めで同僚のミーガン・トゥーイー記者に連絡を取った。ミーガンは「タイムズ」に比較的最近入社した記者だが、これまで10年以上、性犯罪や性的違法行為を暴く記事を書いてきたスペシャリストだった。当時大統領候補であったトランプの女性への犯罪行為も取材していた。
ジョディは、ワインスタインがかかわった映画に出演した女優たちから直接話を聞くために、彼女たちの個人的な連絡先を調べ、少しずつ連絡を取っていった。多くの女優たちが「ハリウッドは性暴力の蔓延に悩まされている」と言った。しかし、それが明るみに出ることまでは望んでいなかった。何かを恐れ、どうやって助けを求めたらいいかわからない。彼女たちは世界的なスターであったが、この問題については「変化をもたらすことはできない」と考えていた。
女優のアシュレイ・ジャッドはかつて、勇気を持って声を上げたことがあった。彼女が20代後半の頃、ワインスタインから複数回ホテルのスイートルームに呼ばれ、あからさまに性的な要求をしつこくされていた。ほかの女優からも同様の経験談を聞いていた。女性が団結して攻撃的な男性を追い払うためには「勇気ある一歩を踏み出すこと」が必要だと考えた彼女は、2015年、エンタメ雑誌にワインスタインの名前を伏せて告白した。それによってほかの女優たちも告発することを期待したが、結果的に何も起こらなかった。声を上げたことで大きな代償も払った彼女は、慎重になっていた。
2017年6月、ジョディは女優のグウィネス・パルトローが話したがっていると人づてに聞いた。彼女はワインスタインの寵児であり、ふたりは「にこやかな父娘」といった構図で何度も写真に収まっている。しかしその彼女こそ、ど真ん中の情報提供者だったのだ。二人の関係について、誰も知らない話を打ち明けてくれた。22歳の駆け出し女優だったパルトローにワインスタインは自信を与え、2本の映画への出演を依頼した。ある日ワインスタインは彼女をホテルの部屋に誘い、仕事の話のあとに“お馴染みの要求”をした。親戚のおじさんのように思っていたワインスタインが自分に性的な関心を抱いていたことに対し、吐き気をもよおした。パルトローは、オンレコ(報道を前提)では話せないとしつつ、ワインスタインの被害者のリストをつくるのに協力してくれた。
ジョディとミーガンは、ほかの取材対象を追う記者と情報交換しながら取材を進めるなかで、ワインスタインは人に知られていない女性たちにも性的虐待をしていたのではないかと疑い始めた。
ジョディは、ゼルダ・パーキンズという女性に会った。彼女は若い頃、ワインスタインが設立した映画会社「ミラマックス」のロンドン支社でアシスタントをしていた。1995年に働き始めた初日から、虐待を受けていたという。毎朝、裸同然のワインスタインを起こすことが彼女たちアシスタントの仕事だった。そのままベッドに引き込もうとしたこともあったという。意志の強い彼女はワインスタインに屈することはなかったが、自分より年若いアシスタントから、ワインスタインに性的暴行を受けたことで助けを求められた。パーキンズはワインスタインを糾弾し、後輩を守るため一緒に会社を辞めた。
彼女たちは弁護士を雇い刑事裁判を起こそうとしたが、弁護士は物的証拠がないことなどを理由に、こうした事件の典型的な解決法として示談を勧めてきた。パーキンズたちは憤慨したが、逆にワインスタインの弁護士から訴え返され、巨額の示談金とともに尋常ではない制約を受け入れることとなった。メディアに話すことを禁じられただけでなく、「真実が公表された場合でもその真実を隠蔽する」ことなど、常識に唾する内容であった。
事件から20年近く経った今、ワインスタインとの秘密保持契約書を無視してパーキンズは声を上げようとしていた。女性たちが自身の権利を放棄するために、理不尽な示談書にサインさせられる事態を変えたかったのだ。
2017年7月、「タイムズ」の編集長ディーン・バケットは、この件に関わる記者や編集者を呼び集め、「用心しろ」と伝えた。調査を止めさせるため、すでにワインスタインと顧問弁護士は、「タイムズ」にオフレコの話し合いを求めて電話をよこしていた。ワインスタインは自分の評判を守るため、長い間私立探偵、つまりプロのスパイ集団を雇ってきた。彼らを使って記者を見張り、ときにはゴミ箱をあさって証拠を探し出させた。ワインスタインの顧問弁護士たちは彼らとタッグを組み、組織的にワインスタインを守ってきた。彼らは「タイムズ」記者たちの動向を監視し、SNSのアクセス状況を調べ、身上調書をまとめていた。そこには、ツイッターでフォローした相手の名前も入念にリストアップされ、中には重要情報の提供者もいた。ワインスタインは強力なチームを後ろ盾に、戦争を仕掛けようとしていた。ジョディたちは調査を重ねていったが、記事にできるものはわずかしかなかった。
ワインスタインの行動をつぶさに見てきた人物に、弟のボブ・ワインスタインがいる。ワインスタイン兄弟はミラマックス社を二人三脚で事業運営してきた。しかし次第に自身の名声に執着し始めた兄を、不安に思うようになっていった。それに、ボブ自身も兄が女性に脅迫する現場を目にしていた。ゼルダ・パーキンズの件で、彼女たちに小切手を切ったのはボブであった。2015年頃、ワインスタインはイタリア人モデルから性的暴行で訴えられた。ボブは兄の問題はセックス依存にあると考え、責任を持って専門家の治療を受けるよう求める手紙を送った。
ほかの重役にも、このままでは経営に悪影響を与えると感じる者はいた。会社の副社長、アーウィン・ライターもその一人である。ジョディはライターに会いに行った。ライターは、尊敬されていた下級管理職であったローレン・オコナーが書いたメモを撮影した写真を持っていた。そこには、ワインスタインが女性従業員たちに行なってきた性的虐待の様子が、冷静かつ詳細に記されていた。ライターはそのメモが添付されたメールを開いた状態で、携帯電話をジョディに渡してトイレへ立った。ジョディはそれを、コピーしろというメッセージだと受け取った。オコナーのメモは、それまでの取材でつなぎ合わせてきたワインスタインの犯罪パターンを裏打ちする、貴重な証拠だった。
2017年9月29日、バケット編集長は記者たちに「書け!」と指示を出した。記事には、名前、日付、法的かつ金銭的やりとりの情報、オンレコの証言、証拠文書が必要だった。ジョディとミーガンは、原稿を書きながらさらに裏付け調査を進めていった。女優のマッゴーワンは、示談書のコピーを入手していた。報復を恐れて沈黙していた元従業員の発言も、少ないながら加わった。アシュレイ・ジャッドはオンレコで情報提供をすることを承諾した。ワインスタインは「タイムズ」に電話や直接の訪問で脅しをかけてきたが、10月5日午後2時5分、ついに記事公開のボタンが押された。
記事公開の翌日、ジョディとミーガンのもとには、ワインスタインの話がしたいという大勢の女性から連絡が届いた。アンジェリーナ・ジョリーなど有名女優たちも名乗り出た。グウィネス・パルトローは、続報記事の原稿に約束通り登場した。
「タイムズ」の記事は、性被害に蔓延する秘密主義を打ち砕き、同じような辛い経験をした世界中の女性たちに、声を上げるよう背中を押した。「性的嫌がらせや虐待について声を上げることは、恥ずべきことではなく、賞賛に値すること」であり、「ワインスタインの行為は明らかに犯罪である」という、新しい合意へとつながった。記事公開から数週間のうちに、国内外から大量の情報が「タイムズ」だけでなく他の報道媒体にもなだれ込んできた。これらの性的被害に関する調査は、ジャーナリズム界全体を巻き込む一大プロジェクトに発展した。
ソーシャル・メディアではあらゆる年齢層の女性たちが、「#MeToo」というハッシュタグを付けて自分の経験を投稿するようになった。「自分の経験を話すことが行動に繋がる」という自信を得られたのだ。ビジネス界から政界に至るまで、あらゆる場で性的暴力、ハラスメントについての実態調査が行なわれ、揺るぎない権力者と思われていた男性たちが次々と地位を剥奪された。
記事公開から7カ月後、ワインスタインはマンハッタンの法廷にいた。彼は強姦、犯罪的性行為、性的虐待の罪で訴追されていた。その日を最後に、ワインスタインはGPS監視も義務づけられることとなった。
ハリウッドで、ハーヴェイ・ワインスタインが女優や秘書などに仕事の昇進や役柄のオファーと引き換えにセクハラをしてる噂はあったが、なかなか告発されなかった。
何故なら、ワインスタイン兄弟はクエンティン・タランティーノ監督などのインディーズ映画を買い付けヒットさせてきたので、ハリウッドで新進気鋭の映画プロデューサーとして力をつけていたから。
仕事を奪われたくない干されたくないため、ハーヴェイ・ワインスタインの言いなりにならざるを得ず、示談書には秘密保持義務の要項があり被害者が告発出来ないようになっていた。
ハーヴェイの弟ボブは、兄ハーヴェイが女優などにセクハラしていたことを知り、ハーヴェイのセクハラがミラマックスに悪影響を与えることを恐れて、ハーヴェイにセクハラを止めるように忠告したが、ハーヴェイは聞き入れなかった。
ハーヴェイ・ワインスタインのような社会的地位の高い人からのセクハラを告発するためには、証言だけでは「やった、やっていない」の水掛け論になるため、示談した時の会話を録画したテープや示談書の原本かコピーや具体的な事柄の流れを詳細に書いた証言記録などが必要。
ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラの告発には、アシュレイ・ジャッドなど被害者の女優の名前を出しての証言やローズ・マッゴーワンが手に入れた示談書のコピー、ハーヴェイ・ワインスタインの補佐役をしていたアーウィン・ライターがハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ疑惑を追跡調査していたジュディ・カーターに渡したハーヴェイのセクハラ被害者が書いた具体的な被害の詳細が書かれたメモが効果的だった。
ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発により、欧米の企業では被害者の言い分をちゃんと聞くなど被害者を保護しセクハラを決して許さないコンプライアンスが出来つつある。
ソーシャルメディアでは、#MeTooのハッシュタグで過去の性被害を告発するムーブメントが起こった。
だが日本では、セクハラや性犯罪の被害者に対する風当たりが強く、被害者に対する誹謗中傷が激しい。
ただ性犯罪の刑法の改正のための法務省の会議が開催中で、ソーシャルメディアでの誹謗中傷に対する対策が進む今だからこそ、#MeToo運動のきっかけになったハーヴェイ・ワインスタインセクハラ告発を改めて知るきっかけになって欲しいノンフィクション。