古屋美登里のレビュー一覧
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アメリカの対イラク戦争に派遣された兵士たち。
イラク、アフガンで見た惨状。
「敵」の攻撃(爆破)によりむごたらいい戦友の死…。幼児を抱えたイラク兵を撃つ…。
帰国後、PTSDになり、自殺に至った者も多い。
本書で取り上げるのは、自責の念にとらわれ、苦悩する元兵士本人やその家族の苦悩を、淡々とした客観的視点で描く。
「戦争に行く前は『いい人』だったのに、帰還後は別人になっていた」。
「戦争」が、兵士やその家族を「破壊」していく様子が、痛いほど伝わった。
もちろん、アメリカ兵たちも、他国の兵士や民間人を殺害していて、他国側の人々にも肉体的・精神的苦痛を負わせているのも事実。
「国家のため」従軍して、肉体的にも精神的にも「破壊され」戻ってくる…。
格差社会が生み出した「志願兵」。「生きる」ために兵士になった(ならざるを得なかった)アメリカの「ごく普通の」若者たち。
20代の兵士でこのような精神的ダメージを味わっているのだから、中東の子どもたちは、どのような苦痛を負っているのかと考えると、深いため息が出てくる。
ありきたりな表現になってしまうが、「戦争というものは、何も生み出さない、人間にとって必要のないもの」ということをつくづく感じた。
「訳者あとがき」にも触れられているが、後方支援にあたった日本の自衛隊の方々の中にも、自殺、あるいはPTSDになった方々がいる。
「戦争」というものが、いかに愚かしいことかを痛感する。
多くの人に読んでもらいたい。 -
Posted by ブクログ
帰還兵の物語というとオブライエンの『本当の戦争の話をしよう』が思い出されるが、これはイラク戦争からの帰還兵を追ったノンフィクション。第二次世界大戦、ベトナム戦争からの帰還兵とイラク戦争の帰還兵は当然それぞれの苦悩があったかと思うが、帰還後の精神的ストレスについてはトラウマの症状が異なるという。前線があるかないか、明確な戦場が区切られていないイラクでは360度、気の抜けない環境であったことが指摘されている。
ノンフィクションではあるが、帰還兵のその後の生活、本人を取り巻く家族の苦悩、米軍によるメンタルケアの実情などが生々しく物語られていて、さながら複数の主人公が存在する小説を読んでいるかのようである。描かれている状況は悲惨だが、それにしても、アメリカがここまでのケアを実施するためにどれほどの予算が必要か、その想像にも慄く。
日本では戦争を知る生存者も少なくなり、過去の認識も歪んだまま安易に語られるようになった現在、戦争の爪あとがこのような形で残される、そしてこのような本がきちんと評価されるアメリカに敬服する。
なお訳者のあとがきに記載があるが、日本からイラクへ派遣された自衛隊員1万人のうち、帰還後の自殺者は28人とのことである。 -
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読み進めるのが辛く、読み終わるまでに1年以上かかってしまった。イラク戦争において、アメリカ軍からアフガニスタン・イラクに派遣された兵士は約200万人いて、そのうち50万人がPTSDとTBIに苦しんでいる…?始めて知った。そして、日本からも自衛隊として約1万人が派遣され、1~3割がPTSDに苦しんでいる…?それも知らなかった。
「彼らにはわかっていた。わかっていたのだ。それでも毎日戦闘に出かけ、戦争がどのようなものかわかってくる。勝者はいない。敗者もいない。勇壮なものなどない。ひたすら家に帰れるまでがんばり、戦争のあとの人生でも、同じようにがんばりつづけなければいけない。」 -
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ネタバレ小中学生以来読んでいなかった海外ファンタジー。
時間は掛かったけど最後まで楽しめた。
劇場の中に呪いで閉じ込められ、狭い世界で生きてきたイーディス。大好きな街ノリッジを救ったのは広い世界を知っている大人ではなく、劇場の中で生きてきたイーディスだった。
狭い世界で生きていたからこそ、これまでノリッジで起きた事やマーガレットの不穏さに気付けた。
大人達が見ていたのは地位・権力・お金。
イーディスはノリッジの全て。
そしてマーガレットが話す事と自分が知っているノリッジとの違和感。
イーディスはそんな些細な違和感からノリッジを救う為に大きく動き出す。
大人になるにつれて世界は広がるけど、だからこそ見えなくなるものもある。肩書きや地位、環境で正しさを決める。そんな皮肉も込められているように思えた。
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好きな作家さんたちがオススメしていたので。
短編集だけど一編ずつがずっしりしてて、読後感も重く、次々とは読めない。
主人公たちの置かれた境遇からはとても遠くにいるのに、感情が揺さぶられ、なぜか深く共感できる。
『掃除婦のための手引き書』が頭をかすめたけど、私はあちらの作品は少し苦手だった。
翻訳者の方の言葉選びもすごいんだろうな。
前半が特にどれも良かった。ヘラジカ〜はとくに。
「ワイアットは酒を断って二十年生きてきた。男が自分の好きなように死んでいくことのどこが悪い?死に方くらいそいつに決めさせてやれよ。生き方の方は他人が決めてきたんだからよ。」
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帰還兵は「なぜ」自殺するのか、という理由の解明よりは、帰還兵の心的外傷·脳損傷の後遺症を伴っての生活の様子と周囲の人々を追い続けた1冊である。心的外傷や、戦闘において脳に損傷を受けた兵士たちの、「生活上の困難」と一言で表すには余りある生活が描かれる。精神的な症状についてはある程度想像ができたが、そのために働くこともままならず慰労金も十分でなく治療の為に休職もせざるを得ず生活に苦しむ、ということまでは想像がつかずなるほどと思わされた。戦争は、負ければ言うまでもなく、しかし勝っても国民の心身や生活に重大なダメージを及ぼすのだということがよくわかる。戦争反対。
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蝋人形でお馴染みのマダム・タッソーこと、マリー・グロシュルツの生涯を描いた作品。
現代でも「時の人」の蝋人形が作られ続けているので、比較的近年の人物かと思っていたら、なんとフランス革命期を生きた人だったことに驚いた。
母親とともにベルンへ移り住み、蝋人形作りの恩師と出会い、やがてパリへ。宮廷で王女に仕えたのち、革命では処刑された人々のデスマスクを制作するという、激動の人生を歩む。
物語は、下宿先の女主人に搾取され、愛する人たちを次々と失いながらも、一人の職人としてひたむきに仕事を続けるマリーの回想という形で語られる。
作中には著者自身による挿絵も収められている。好みは分かれそうなダークでゴシックな独特の画風だが、蝋人形やデスマスク、恐怖の館を思わせるこの物語の雰囲気にはよく合っていた。
10年ほど前だっただろうか。マリーが制作したとされるロベスピエールのデスマスクをもとに、生前の顔が復元されたというニュースを見たことを思い出した。
もとは「見せ物」として作られた蝋人形が、数百年の時を経て歴史を伝える貴重な資料となり、さらには当時の人物の顔を復元する手がかりにまでなっていることが興味深い。 -
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アメリカが抱える本音と建前、差別、そして戦争が人間に負わせる傷の深さがノンフィクションで描かれている。
大統領選挙前後のアメリカ人の日常、感情に多くを割いて書かれているが、これが日本人には深く理解が難しい要素が多い。そして、現在世界一とされているアメリカではあるがその闇の深さ、今後ますますその問題は大きくなり全世界に波及ししていく感覚を強く持った。
本著の最終章ではバイデン大統領誕生で閉じるが、知っての通り再び大統領はトランプ大統領返り咲きとなる。アメリカは前進しているのか後退しているのか、どこに向かっているのか、今の自分の知識ではわからないことが多く、歴史的にアメリカは非常に複雑な事情を抱えた国であるということは表面的には把握しているつもりでしたが、もっと知らなければいけないことが多いと思いました。
アメリカンドリーム、フレンドリー、楽観的と言った感覚的なイメージとは(感覚が古すぎる?最近はもっとデジタル分野の知的なイメージが強くなってるかな?)大きく違う実情がよくわかります。 -
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表紙写真の近景は、著者である。では遠景はというと、エベレスト頂上だ。しかし異様である。晴れているとはいえ、世界最高峰のエヴェレストに、行列ができている。実はこれ、大変な問題となっている。
ごみが増える、とかそんな問題ではない。エヴェレストが、さして登山経験&技術のない登山者にも、ツアーとして魅力的な素材となったため、混雑が起きている。経験の少ない登山者は足がすくんで動かない。思わぬ高地での体の反応によって、思うように体が動かない。こうした人たちが行列の中に一人でもいると、さして広くもない登山道が混雑し、そのために多くの死が起こっている。簡単に登れるといっても、やはり山の天気は変わりやすい。天気予報は100%ではない。安心しすぎは禁物なのである。
夢枕獏小説『神々の山嶺』では、登山家ジョージ・マロリーの同行者であるアンドリュー・アーヴィンが持っていたカメラが見つかっていた。しかし実際は、マロリーの遺体だけが1999年に発見され、アーヴィンの遺体と彼が持っていたカメラは未だ見つかっていない。
なぜカメラの行方がこれほど関心を持たれているかといえば、そのカメラに、もしかしたらマロリー登頂の瞬間が撮影されているのでは?と思われたからだ。もしそうであれば、エベレスト北壁の登頂の歴史は書き換わる。但し、ぽつぽつと発見された遺品の場所や、マロリーの遺体の状況からみて、登頂はされていないというのが大方の意見である。
とはいえ、マロリーのおひざ元であるイギリスとしては、北極と南極到達の栄誉を他国に奪われ、第三の極地到達を狙っていたのだから、そう簡単には諦められない。遺体発見まで何度も遠征隊が差し向けられた。巻末に最新情報が載っているが、どうやらカメラに収められていたフィルムをダメにしたため、遺体もろともどこかに某国が隠したのではないか?説が浮上している。某国の隠蔽体質を考えると、いかにもありそうだ。 -
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返還前に香港に行った。狭い土地に多くの人が住むためには、高層ビルが建つしかないのだな、と納得の外観だった。中国語も勉強していたが、香港へ行っても、英語が通じるので楽だった。とはいえ、中国でありながら、中国ではない場所。本来中国の領土だった香港が、中国に戻るのは、植民地支配が終わることを意味するので、望ましいことだと思っていた。しかし、返還後起こったことは、それとは逆のことばかりだった。
西欧の支配のもとの方が、人々は自由に行き来でき、自由に意見を述べられていた。中国からの圧力が年々強くなり、母国への復帰が必ずしもハッピーではない。自由系の新聞は廃刊となり、雨傘運動など発言が目立つものは逮捕。親中国系の議員が当選し、政を担う仕組みが作られる。香港映画といえば、アート系あり、はちゃめちゃ系ありと、エンタメ系の一ジャンルで大きな位置を占めていたのに、今は見る影もない。天安門事件で戦車に立ちはだかった男性が話題となったが、今香港で、目に見えて立ち上がる人は見当たらない。皆海外に逃げてしまった。何気に増えている自殺率は、逃げようもない香港の土地故か。著者自身も鬱に悩まされる。 -
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消え行く香港の姿を自らの自伝と絡めて描いている。筆者は1993年香港生まれ。シンガポールのインターナショナルスクールから香港の現地校、スコットランドの大学にすすみ、社会人になってからは香港をベースとしたジャーナリストとして活動。2014年の雨傘運動はスコットランドにいた時なので参加せず。2019年の大規模な抗議活動には当事者として参加する。1997年の返還以降、多くの中産階級の香港人が海外に移住していく中で、時を追うごとに強まる北京の統制により、香港社会が受けていくストレスの姿を、筆者の一人称を通じて追体験する物語。チベット、新疆、内モンゴル。香港の次は台湾、その次はいよいよ。。。