古屋美登里のレビュー一覧

  • 蜜のように甘く
    なんなんだろう、この人のよさは。現代の短篇小説家のトップに位置するうちの1人、と言って決して過言ではないはず。
    『初心』『従妹のジェイミー』『帽子の手品』が特に◎。しんみりじんわりというよりも、仄かなユーモアが漂ってきながらちょっと皮肉が浮かび上がってくるようなものが好きだな。
  • 帰還兵はなぜ自殺するのか
    湾岸戦争以降の現代における対テロ戦争の、末端の兵士たちが強いられる緊張や目的意識の無さ/虚しさ(HVTだと知らされていた対象を捜索しに、深夜一般住宅を襲撃して見たら実はココ違いました!というオチ)、そして『傷病兵』となって帰還してからの生きにくさ。
    複数兵士からの証言を基に克明に描いた作品。

    併せ...続きを読む
  • おちび
    マダム・タッソーの伝記風小説.15年かかったという歳月が決して無駄ではない熟成された物語.小さなマリーが心の中の大きな愛を抱えて強く健気に生きていく.物語の前にまず小さなマリーの人形があったというのもむべなるかな,そのマリーへのケアリーの愛がしみじみ感じられる風変わりで歴史に忠実な物語だった.それと...続きを読む
  • 肺都
    こうなってほしいなあという期待は裏切らない形で終わったので何もかも大満足.ロンドンの薄暗い犯罪の潜むビクトリア女王治世の雰囲気が炙り出されたかのような,もちろんもっとそれを膨らませ汚穢に満ちた舞台で生き生きと動き回る物や人間にアイアマンガー達.挿絵も素晴らしかった.
  • 堆塵館
    ゴミの山に囲まれた館,堆塵館は一つの宇宙である.この世界の中の秩序はアイアマンガーと分かち難く結ばれた誕生の品にかかっているようだ.一人の少女ルーシーがアイアマンガーのクロッドと出会い,その逢瀬が恋と館の崩壊へと進んでいく.最後,クロッドの善良なる心の結果のもたらしたものを思うと残念で,だから次の巻...続きを読む
  • 肺都
    三部作完結。あとがきにもあったけど、本当に読み終えるのが惜しかった。先が気になるけど、まだまだこの世界観に浸っていたいっていう感覚、ありそうでなかなか味わえない。そういう意味でも希少な読書体験でした。何となくわかっていたことだけど、改めてアイアマンガーと物との関係性が明らかにされ、多くの人が犠牲にな...続きを読む
  • 堆塵館
    BURRN!の書評欄で、そこを担当する本訳者自身が勧めているのを見て読みたくなった作品。まだ三部作の一だけど、のっけからグイグイ惹き込まれる内容。ゴミ屋敷が舞台で、冷静に考えると気持ち悪くなってくるんだけど、たぶんそこに住まう人同様、読み手の側もだんだん慣れてマヒしてくる。人とモノの関わりが物語の中...続きを読む
  • 人喰い――ロックフェラー失踪事件
    真実は決して明かされることはないのだけれど、どこまで著者の希望するストーリーに添わずして、調査結果が真実に肉薄していくか。がルポの面白いとこなんですが、最後の50ページくらいで、「未開の地」の人々に継承される文化の伸びやかさに、マイケルの死の真相は砂に埋もれていくようにもう重要ではなくなっていった。...続きを読む
  • 堆塵館
    物語の舞台となるのは19世紀後半のロンドンのはずれにあるゴミ捨て場である。そのゴミ捨て場中央には大きな屋敷が鎮座し、アイアマンガーという一族が付近を管理・支配していた。
    アイアマンガー一族には生まれつき誕生の品が与えられる。誕生の品は大事なもので肌身離さず持っているというのが、決まりであった。
    そし...続きを読む
  • 人喰い――ロックフェラー失踪事件
    【暴虐なる神秘】ニューギニアの熱帯で美術品の収集に務めていたロックフェラー家の御曹司・マイケル。原始的な美に惹かれた彼を最終的に待ち受けていたものは、突然の死と、現地人に「喰われてしまう」という衝撃的な最期であった。1961年に起きた実際の事件を取材するとともに、その裏に横たわる文化人類学的な深淵を...続きを読む
  • 堆塵館
    表紙を見ただけで絶対この本面白いと思わせる妖しさ!表紙も中のイラストも、ちょっとグロテスクなんだけどこの本の世界観がこれ以上無いくらいに表現されている。
    まず設定がすごくて、アイアマンガー一族がみんな誕生の品を肌見離さず持っていること、それが一つ一つ名前があって自分の名前を喋ること、クロッドにだけそ...続きを読む
  • 肺都
    550ページを一気読み。
    うん、満足。

    ロンドン市民や貴族たちからは、アイアマンガ―一族や穢れの町の人々など、一段下の人間、または人間以下としか 見られていない。
    しかし原因不明の伝染病が蔓延し、人々はより安全なロンドンへと向かう。
    もちろんロンドンはそれを阻止するために、彼らを迎え撃つ。

    いっ...続きを読む
  • 穢れの町
    いやあ、なんだろう。
    ゴミがあふれかえり、汚物にまみれ、ネズミが逃げ出し、虫が湧く。
    そんな世界の話なのに。
    クロッドもルーシーも決して美形でもなければ清潔でもないのに。
    彼らの愛は美しいと思う。

    ロンドン中のごみの処理を一手に引き受けるアイアマンガ―一族。
    しかし、彼らにとって金の生る木であるゴ...続きを読む
  • 堆塵館
    え~!!
    ここで終わり?
    これじゃ、すぐに続きを読むしかないじゃん!

    というのが読み終わった直後の感想。
    週刊少年ジャンプ並みの引きの強さ。

    19世紀後半、ビクトリア女王の頃のイギリス…からちょっとずれた位相にあるロンドン郊外にある巨大なゴミ屋敷が舞台。
    何しろ地上7階、地下6階の建物に一族みん...続きを読む
  • 肺都
    命が助かるためでも、トースト立てに戻ることを拒絶したローランド・カリスの矜持が痛ましい。私が物に変わるとしたら、何だろうと考えてしまった。理不尽な命の奪われ方をした穢れの町の子供たちもいるので、ハッピーエンドとは言えないけど。エレナーの家族は元に戻れたのか。理不尽な命令を下すウンビットと、子供を助け...続きを読む
  • 穢れの町
    アイアマンガー三部作その2。
    解説の深緑さんが想起する作品群を列挙してくれている!ディケンズ、エンデ、マーヴィン・ピークの<ゴーメンガースト>シリーズ、レモニー・スニケット<世にも不幸なできごと>シリーズ、ジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャ呂『ロスト・チルドレン』、宮崎駿『天空の城ラピュタ』、大...続きを読む
  • 堆塵館
    映画の「東京ゴッドファーザーズ」や「ミックマック」をイメージしながら。
    ごみ山って魅力的なんだよなあ…臭くなければ。
  • 堆塵館
    「絶賛意見が多いけど、ジュブナイルものだから微温いんだろうなぁ」と失礼なことを思いながら読みはじめたところ、傑作。

    それまで寓話的と思われたストーリーがぐっとリアルになる中盤の展開には唸ってしまう。
  • 肺都
    先の展開も、行き着く先も全く予想がつかず、本当に完結するのかとハラハラしたけれど、ちゃんと大団円を迎えたので安心、そして大満足。
  • 穢れの町
    英国の話だけど、何かフランス革命を連想した。月桂樹の館はバスティーユ、クロッドがオスカル、ルーシーがアンドレ?クロッドのように誕生の品を同等に扱うのは少数派なんだろうな。いざ、ロンドンへ。アイアマンガーよりロンドンの方が容赦ない。真の敵は誰?