古屋美登里のレビュー一覧
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エドワード・ケアリーの掌編から短編までを含む作品集。
これまで『堆塵館』や『おちび』などの長編は読んだことがあったが、短編は読んだことがなかった。
独特な世界観を丁寧に積み立てていくことで構築するタイプの作家なのかと思っていたが、エドワード・ケアリーは短編や掌編でもちゃんとエドワード・ケアリーとしての世界観が確立されていた。それが数ページかそれにも満たない作品であってもエドワード・ケアリーらしいな、と思えた。
気に入ったのは『アーネスト・アルバート・ラザフォード・ドッド』『かつて、ぼくたちの町で』『おが屑』あたりが特に気に入った。
そういえばおが屑ってヤン・シュヴァンクマイエルもよく扱うモチーフだなあなんて読んでいて思った。
あとがきで”おが屑とは、話をするうちに蘇ってくる記憶や降り積もってゆく過去、来たるべき死への恐怖、死んで姿を失っていくすべてのものを意味する”と書かれていた。
シュヴァンクマイエル作品ではキャラクターの腸から溢れ出たり、食べたりするがどこか似たモチーフでもある気がした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ皆川博子「随筆精華Ⅱ 書物の森への招待」の推薦で興味を持った作家。
結構分厚いので寝かせていたが、思い立って。
(文春文庫「もっと厭な物語」で「私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書」既読だが、記憶にない)
章立てが細切れなので、割と読みやすかった。
つっても焦点の当たる人物が8人いるので、拡散し散漫になりがちな印象を、統合しながら読んでいく努力は必要。
と、いっても、全員風変り……はっきり言えば変人なので、たとえばジャン=ピエール・ジュネの「デリカテッセン」みたいな、ラフな楽しみ方でよさそう。
ツイッターで引き合いに出されていたジョン・アーヴィング原作トニー・リチャードソン監督「ホテル・ニューハンプシャー」は未読未見だが、
もっといえばキャサリン・ダン「異形の愛」を挙げてもよさそうなくらい、変人極まってる。
語り手であり(語り手なのに)まったく好人物ではないフランシス・オームにとって、か・な・り都合よく関係を向こうから求めてくるアンナ・タップは、村上春樹の「女性」を思い出さざるを得ないが、……人物造形の描き込みが全員に対して徹底しているので、設定の都合を超えて、迫ってくる。
で、全体として「愛の物語」になっているあたりが、憎い小気味よさ。
こんなに汚くて偏屈な人々が愛おしく感じられる……まさに文芸作品の効能(直接会いたくはない)。
章が進むごとに、失われる事物や人物がハッキリ段階的に明確になるが、それと反比例して、あまり顕示的ではない感じで、「得られる何か」がある。一定の場に集う、数名の人の、エグみと魅力。
これも文芸。
終幕のカタストロフィで、エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」を思い出すと同時に、滝本竜彦の原作で大岩ケンヂが漫画化した「NHKにようこそ!」も思い出した(原作未読、アニメ未見)。
著者本人によるイラストも素敵。
同じ名のエドワード・ゴーリーと、似たクセツヨで、どうあっても腹に溜まる。
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歳月に埋もれたような古い集合住宅、望楼館。そこに住むのは自分自身から逃れたいと望む孤独な人間ばかり。語り手フランシスは、常に白い手袋をはめ、他人が愛した物を蒐集し、秘密の博物館に展示している。だが望楼館に新しい住人が入ってきたことで、忘れたいと思っていた彼らの過去が揺り起こされていく……。創元文芸文庫翻訳部門の劈頭を飾る鬼才ケアリーの比類ない傑作。訳者あとがき=古屋美登里/解説=皆川博子 -
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ネタバレ戦争後に精神を病む軍人に対し(またその軍人に接する機会の多い家族に対し)、どう支援すべきか、どんなシステムを構築すべきか。イラクとアフガニスタンの戦争に200万人のアメリカ人が派遣され、そのうちの20〜30%はPTSDやTBIの精神疾患にかかった。彼らが元の性格に戻ることは困難だ。家族の負担も大きい。精神衛生の問題は陸軍では自殺者の増加が問題となり医療施設ができたが収容者でいっぱいで入れない人もいる。セラピストも足りない。日本もイラクに約1万派兵したが帰還後28人もの自衛隊員が自殺した。派兵では兵士の精神衛生管理は1番重要な問題とみなすべきだろう。
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デイヴィッド・フィンケル(1955年~)氏は、米フロリダ大学卒業後、長年ワシントン・ポスト紙に勤務し、2006年にピュリツァー賞(報道部門)を受賞。
2007年に新聞社を辞めてバグダッドに赴き、1年間、米陸軍第16歩兵連隊第2大隊の兵士たちと生活を共にし、その過酷な日常と凄惨な戦闘について詳細に記した『The Good Soldiers』(邦題『兵士は戦場で何を見たのか』)を上梓(2009年)した。しかし、帰国後、バグダッドで知り合った兵士たちが、帰還後に電話やメールや手紙で不調を訴えてきたことから、戦争の後を記録しなければ、自らの仕事は終わらないと考えるに至り、帰還した兵士や家族、ペンタゴンの上層部や医療関係者に取材を行い、書き上げたものが本書(2013年)である。本書は、全米批評家協会賞ノンフィクション部門の最終候補となったほか、各紙の賞を受賞、また、同年のベストブックのひとつに挙げられた。
イラクが大量破壊兵器を隠しているという理由で、米国がイラクに侵攻して始まった「イラク戦争」(2003~11年)では、イラク(とアフガニスタン)におよそ2百万人の兵士が派兵され、そのうちの50万人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)とTBI(外傷性脳損傷)に苦しみ、毎年200人以上の帰還兵が自殺をしていると言われている。
本書には、5人の兵士とその家族が登場する(一人はイラクで戦死)が、彼らは、爆弾の破裂による後遺症、及び、仲間が殺されたことや敵兵を殺したことによる精神的打撃によって自尊心を失い、悪夢を見、怒りを抑えられず、眠れず、薬物やアルコールに依存し、鬱病を発症し、自傷行為に走り、遂には自殺を考えるようになる。周りがいくら、本人のせいではなく戦争のせいなのだ、と言っても、彼らの戦争の記憶と自責の念が薄れることはない。
私は少し前に、ティム・オブライエンが自らのベトナム戦争の従軍の経験をもとに書いた短編集『本当の戦争の話をしよう』(1998年)を読んでおり、似た読後感を持ったが、本書においてより強く印象に残ったのは、帰還した兵士とともに苦しむ家族の姿である。登場人物の中でも中心的に描かれているアダム・シューマンと妻のサスキアの、帰還後の3年余りの日々は凄絶で、戦争で死ぬことは(言うまでもなく)辛く苦しいことだが、帰還兵と家族が生き続けることも、想像を超えて辛く苦しいことなのだということがわかる。
「訳者あとがき」によると、2014年4月に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、イラクに派兵された自衛隊員の中で、なんと28人もが帰還後に自殺し、1~3割がPTSDに苦しんでいると報じられたのだという。これは驚くべき事実だと思うが、一体どれだけの日本人がこの事実を知っている(覚えている)だろうか。。。
米国では、帰還兵に対するカウンセリングや医療のための施設が整備されつつあるといい、本書にもそのことは登場する。そして、「帰還兵はなぜ自殺するのか?」を一つの社会問題と捉えるなら、そうした帰還兵への対応の充実が大事ということになるだろう。
しかし、おそらく、最も本質的な問題は、そういうことではなく、「人はなぜ愚かな戦争を止められないのか?」ということなのであり、今も続く、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ攻撃に心が痛むばかりである。
(2024年6月了) -
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ネタバレ【香港の記録】
1993年生まれ、香港在住ジャーナリストが、香港と自分の関係を綴る。
彼女は、生まれは本土で、小さいときに親戚のつながりもあり香港に越してきてから、インターナショナルスクールに入学。
自分は香港人と言ったのは、英語ボランティアでトルコに行ったとき。
大学は香港、でも交換留学で一時期スコットランドへ。
卒業後は香港に在住し、ジャーナリストとして活動されているらしい。
第一部では、自己の生まれと所在について、香港という特殊な土地との関係とともに、自分の家とは、家庭とは、そして故郷とは、という問いとともに生きる彼女の幼少期から小学校ぐらいのあいだのことを綴る。自分にとって香港とは何なのか、この問いは本書を通して綴られている。
両親は著者が幼い頃から別居中で、母は弟を連れてシンガポールへ。
祖母と父と暮らす彼女の家庭事情は、なかなか息苦しそう。
伝統としてある家族への義理みたいなことも書かれていて、日本もこの伝統、共有しているところがあると思った。
第二部では、精神的な病の体験、香港の精神疾患の現状や医療関係にも言及。
2014年の雨傘運動を。彼女は交換留学中に画面越しに見た。自分と同世代の学生が活動をリードする傍ら、当事者となれなかった未練みたいなのが、ずっと彼女を覆っている。
その一方で、親元を離れた学生生活は、彼女が香港について発見し、揺れながらもその土地に属するものとして関わっていこうと覚悟する過程でもあったのだと思う。
第三部では、ジャーナリストとしての彼女が、香港について書くことについて、書き手のあり方、書く際の言語についてなど、香港独自の事情を踏まえて論じる。地元に根差したジャーナリズムの在り方についても。
そして、自分を生かしてきた音楽やサブカルチャーもたくさん紹介する。
日々の生活をかけて活動する地元の人たちがいる一方で、インターナショナルスクールに通い、英語も使えて、別に市民活動に身を投じなくても生きていける身分。自己欺瞞と彼女は言う。彼女なりに何とか折り合いをつけようとしているのかもしれない。そもそも建設的なあいまいさで成り立っているような土地で、一人の人が背負うにはとても大きな問いだと思う。
まったく状況が違うけれど、日本にいても、特に日常に困らずに生活できる立場にある時、社会を変えるために活動するには何らかの正当化理由が必要なんじゃないか、ってなる。わざわざ社会のために、途方もない努力をしなくても、自分の生活を快適に過ごすことを優先する方が断りにかなっている、とか。必要に迫られてじゃない社会活動は、自己欺瞞とされても無理はない、とか。
そうかもしれないけれど。
以下、引用。
消えそうとしてると彼女が言う香港。
彼女が自分自身を自己欺瞞と言いながらも、記録し続ける、関わり続ける、その場に居続ける、その彼女の生きる香港について。本書を通して、少し知ることができた。 -
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ロスチャイルドの女たち ナタリーリヴィングストン 亜紀書房
ゲットーの凄さに驚きを覚えると共に
ロスチャイルド家を生み出した夫婦が
実践してみせる家父長性と
恐ろしいほどの献身性を以て夫を支えるユダヤ女性の良妻賢母振りと
それを当然とする男社会の傲慢さがみせる驚くほどの醜さである
こうした男女のセットが物質至上主義が極める悪魔的資本主義というモノだと私を納得させた
前書きの数ページを冷静に読むことが難儀な程に胸糞悪い吐き気をもよおす内容であった
一神教が故だと決めつけられないかもしれないが
男社会の幼稚な暴力性を目の当たりにする思いで我を忘れ
息苦しさに陥ってしまうことを避けられないほどである
彼女たちの献身的な支えがなければ
今のロスチャイルドは無かったということだろう -
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【あらすじ】
その昔は荘厳な貴族の館としてそびえ立っていたが、今や古く汚い集合住宅と化してしまった、望楼館。
誰も寄り付かないこの館に残った、孤独で奇妙な7人の住人。
だが、望楼館にやってきた新しい住人によって、彼らの忘れられた過去が蘇り、向き合うことになる。
【感想】
ジョジョの敵キャラだけを集めて話を作ったら・・・? というお題を出されたらこの本を出せば良い。というほどに登場人物全員が異質で奇妙で偏執狂的だ。
特に素晴らしいのが主人公の性格がめちゃくちゃ悪い事である。息をするように物を盗み(彼の言葉では蒐集)、自分のコレクションにする。しかも、この「盗む」ことが重要で、社会から外れた主人公の社会との唯一の接点が盗む行為なのだ。これは万引き家族とも通じるテーマだなと思った。
次に微妙だと感じた部分。
この小説の物語構造として、過去の出来事が次々と判明して彼らがなぜこのような異質な人間になったのか? ということが語られる。彼らの異質さの多くは過去の事件の影響ということで括られ、原因が開陳された後は普通の人間に戻るか、死ぬかの二通の末路が用意されている。この回収のされ方はせっかくの彼らの異質さを「幽霊の正体見たり枯れ尾花」式に矮小化させてしまっている。もっと無茶苦茶な終わり方で良かったのではないかと思わずにはいられない。 -
Posted by ブクログ
1924年、人類初のエヴェレスト登頂を目指すイギリス遠征隊のジョージ・マロリーとアンドリュー・アーヴィンの2人は、登頂中に行方不明となる。問題は、2人の死は山頂到達前なのか、後なのか。それが明らかにならない限り、人類初のエヴェレスト山頂到達者は確定しない。
そして、1999年にマロリーの遺体が発見。が、彼が山頂に到達したかは、未だ不明。それなら、もう一人のアーヴィンの遺体と彼が持っているはずのカメラを探し出すべき。そんな登山界の期待を受けて、結成されたのが、2019年アーヴィン捜索隊。
本書はアーヴィン捜索隊に参加した著者による捜索ドキュメンタリーであり、それと並行して、エヴェレスト登頂史も描かれる。
残念ながら、アーヴィン捜索隊は目的を果たすことができなかったが、それもまた登山史の一つ。こうした積み重ねで人類は未開の地を征服してきたのだ。