酉島伝法のレビュー一覧
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何がどうというわけではなく筋があるわけでもないが、古ぼけた商店街のすぐ隣にある異界をふらふらと散策しているような気分が味わえる。ユニークな言語感覚とグル-ヴ感というか。がある。
海産物の焼けたちょっと磯臭い香りが漂うひなびた漁村、締め切りに追われて書いたはずの原稿が「ここにテキストが入りますここにテキストが入ります」に置き換わっていたとか、なぜか葬儀に参列することになっててでも慶事用の白いネクタイをしている自分がいて外そうにも外せなくてどんどん首が締まってくるとか、棺に入れられて火葬されかかるとか、自分にもあるあるの悪夢がなんともおかしくて、忙しい日常から現実逃避ができる。
P33 脳というのは大した機関でしてね、とんでもなく複雑で支離滅裂な世界を一つの姿に見せかけてくれているんです。 -
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実力者揃いのSF短編集。ただし、本書と同時に出た「時間SFアンソロジー」とまとめて読むと、本書でも時間SFに関連しているものもあり(全部ではない)、そちらに掲載できなかった作品がものが本書にまとめられているようなのが気になった。とはいえ、「もしもぼくらが生まれていたら」は戦時のあることに触れられていないなと思ったら最後にガツンとやられる気持ちよさがあるし、「蜂蜜いりのハーブ茶」のところどころに出てくる違和感を気にしつつ、最終的に作品の世界観が明らかになったときの驚きも気持ちいい。「平林君と魚の裔」と「ときときチャンネル」は単純に面白い。
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ネタバレどの短編も想像力を掻き立てられる興味深い世界が広がっていたが、特に好みなのは表題作だった。寄生虫を治療せず、街にも異様な事態が起き始めているのに、それを瞬時に受け入れていくところが恐ろしく、面白い点でもあった。話が進んでいくと次第に知らない言葉が増えてきて、波のように押し寄せる変化がたまらない。何かが広まっていくのはあっという間で、それに慣れるのもあっという間なのだ。
どの作品も肉体に対する考え方が一貫していて面白かった。この先いつか人間が最初の肉体を捨てて乗換えたり、使い捨ての体や人格があったり、自由に意識を移動したり、記憶を外部保管したりする時がくるのだろうかと考えると楽しかった。変化を受け入れるのはそう簡単なことではないだろうことが、登場人物たちの症状や拒否反応で想像できるように書かれていて、あり得る未来に思えてくる。 -
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ネタバレここは化学よりもスピリチュアルが信頼されている世界…血液型占い似た血液型カースト、やまいだれは不吉だから病院は丙院と呼ばれる、身を清めるために風呂の入れ替えをしない世界は受け入れられるか
受け入れられません!
自分が理系よりの学問を専攻しているせいかこんな世界は嫌だ、どんな世界?の大喜利の回答をめちゃくちゃ詳細に書かれたような本だった
スピリチュアルを信じるのは個人の自由なので個人的には好きな範囲で信じれば良いと思うが、それが世界単位で信じられてしまうと狂っちゃうかも、怖い
しかし、この世界は優しくて信じれば、縁を結べば救われ次の世界に旅ができる最強ポジティブ世界は、現実に近しい話だと思った
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ネタバレ異様言語異様生物異様世界観SFの「皆勤の徒」は既読。
(一刻も早く文庫化してほしい「宿借りの星」は未読。)
「群像」2015年4月号で「三十八度通り」は既読。
その当時はあまりピンとこなかった。
コロナ禍を経て単行本化された本作は話題になり、(「宿借りの星」に先駆けて)文庫化したので、再読含め読んでみた、
ら、凄かった……。
おそらく冒頭の「三十八度通り」は、最も突出したシチュエーションゆえ、グロテスク性が際立っている。
これだけ読んでも、戸惑うだけに、なってもやむなし>当時の自分。
が、コロナで社会の胡乱さや政府の適当さ(重視すべきは科学的根拠より支持率)や分断が際立ってから、「千羽びらき」「猫の舌と宇宙耳」を併せて読むと、全然突飛なSFじゃない。
それが怖いのだ。
そりゃーある程度のバランス感覚をもっているからこそ社会人をやれている、という自覚はある。
マルチやスピリチュアルに与しない生活態度を備えさせてくれただけでも、親に感謝している。
が、本当にそうか?
冠婚葬祭は?
父がパチンコに行くときにかついでいたゲンって何?
母が家具に貼っていたヒランヤのシールってなんだったん?
なんで高いところに神棚ってあるん?
古いお守りをこわごわ扱う自分の手つきって何?
俗信、迷信、言霊に浸された、作中人物の言動を、全然行き過ぎと笑えない。
むしろ口許に浮かべてしまった嘲笑(の角度)が自分に刺さるタイプの小説だ。
施設内に入るときにアルコール消毒シュッシュ儀式って何だったん?
アラームが鳴らないよう低く設定された非接触スマホ体温計で、35.1度です、と言われなければ入館できない手続きって、一体何の意味があったん? と。
ハレとケ、ケガレとハラエの感覚がこんがらがっていた数年だと思う……それを小説の形で予言的に表してくれたのが本作だ。
優れたSFを読むときに予言とか未来視とつい言ってしまうが、書かれた当時にあったことが書かれたに過ぎない。
ただ、潜行しているか、暴露されるか。
健康祈願と、健康産業の詭弁は、撞着しつつ並存している。
全人類が避けられない生老病死に対して、寄り添うのが優しさや信仰と言われているが、
むしろ苦痛を介したコミニュケーションは全人類が目をそらしたい事項なので、コミニュケーション不在。
そんな「孤独な苦痛」に付け込んでくるのが、疑似科学。
要は金儲けの動機に浸された、洗脳的搾取システムだ。
……苦痛を前に、近親者の苦しみを前に、人は無防備になるので、いわば濡れ手に粟のビジネスモデル……これがビジネスを越えてしまったら、もう遅い。
というか、遅かったと気付くことすらない。
この短篇集には3作収められている。
冒頭「三十八度通り」では中年男性、次の「千羽びらき」は年輩の女性、このふたりが、かつてそうではなかったと懐かしみつつ苦しむ姿は、まあいいが、
最後の「猫の舌と宇宙耳」にて、そういう環境に、生まれて、育った子供の語りで描かれると、もうつらい。
彼の字の文の「にっぽにっぽ」とかが可愛いぶん、「書き詰めさせていただきました」という文が、痛ましい。
吉村萬壱「ボラード病」も思い出した。
……ああ、いろいろ考えさせられえて、憑かれていました。
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スピリチュアルと科学が逆転した、
心の絆が生み出すユートピア・ニッポン!
平熱は38度で、病気の原因はクスリを飲むこと。
お祈りですべての病気を治す世界で繰り広げられる、
誰もが幸せなディストピア。
『皆勤の徒』『宿借りの星』で日本SF大賞を2度受賞した
期待の星による、連作小説集。
結婚式場に勤める土屋は、38度の熱が続いていた。
解熱剤を飲もうとすると妻の真弓に「免疫力の気持ち、なぜ考えてあげない」と責められる。
……「三十八度通り」
真弓の母は、全身が末期の蟠りで病院のベッドに横になっていた。
すぐに退院させられ、今後はそれを「るん(笑)」と呼ぶ治療法を始めることになる。
……「千羽びらき」
真弓の甥の真は、近くの山が昔の地図にはないと知り、登りはじめた。
山頂付近で、かわいい新生物を発見する。それは、いまは存在しないネコかもしれなかった。
……「猫の舌と宇宙耳」