アンデシュルースルンドのレビュー一覧

  • 三日間の隔絶 下

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     グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズは当初三部作のはずだった、と思う。三秒間、三分間、三時間で終了するはずだったこのシリーズは、さらに三日間、三年間と続くようで、今回は四作目の「三日間」の物語だ。何はともあれ、作者も多くの読者同様、このダブル主人公シリーズを終えるに忍びない状況となっているに違いない。

     迷惑なのは、長年潜入捜査を強いられているピート・ホフマンとその家族だろう。これまでいくつもの死地を潜り抜け、その都度、肉体的・精神的な負担を異常にかけられてきたピートと、そのとばっちりを受けっぱなしの家族に、いい加減平和と幸福をもたらしてほしい気持ちは読者心理の中でも上昇を続けんばかりなのである。

     しかし、やはり飛びついてしまう。やはり続編が有難いのだ。ホフマン家には申し訳ないが、またしても息を飲むようなピンチとそこからの脱出を試みて頂きたいのだ。本当に申し訳ないことなのだが。

     それはそれとしてグレーンス警部はそもそもが単独シリーズ主人公でもある。この極めて個性的で癖のある、全然格好良くない上、私邸にも帰らず警察署の私室で寝泊まりしているというワーカホリック。頑固で変化を拒まず、年下の上司にも扱いづらく思われている我らがヒーロー。そのグレーンス警部も定年退職まで残すところ一年を切っている状況。

     さらに今回の事件はグレーンス警部の心に巣食っている未解決事件の一つに端を発する。17年前、4人の家族が銃殺され、5歳の誕生日を迎えたばかりの少女が死体の遺された部屋で三日間取り残されていた。異常かつ過酷すぎる事件である。当初、ぼくはこの過去の三日間が、タイトルのそれなのかと思っていたが、タイトルの三日間はしっかりと現在のホフマンに対し約束通り与えられることになるのでご安心を。分刻みの時計がネジを巻かれる例の場面はこのシリーズの最大の楽しみである。それでも少女の三日間にも何らかの意味があるかどうか。それはそれで読んでみてのお楽しみ。

     犯罪組織の標的となった者たち。彼らが守られる、あるいは彼ら自身で自分たちを守る手段とは、一体何なのだろう。潜入捜査官であるピートは、職務の都度、別の人間になり替わって、犯罪組織の壊滅に貢献してきた人間である。絶対にその正体を知られてはいけない存在。

     本書では犯罪者側にピート・ホフマンの正体と家族の情報が漏洩してしまう。家族を隠そうと翻弄するピートばかりか家族情報までが、まるで彼らを翻弄するかのように洩れてゆく。これまでになかった絶体絶命の危機を招いている原因は何なのだろうか? 警察機関内部の敵を疑わざるを得ないという、これ以上ない緊迫した状況のなかで本書は進行する。絶え間ない緊張と、その重圧。

     グレーンスの過去の事件の上に、ホフマン一家が現在捉えられている危機とがどう交錯するのかわからないまま、物語はそれぞれに二つの重戦車の如く進んでゆき、思いがけぬラストに繋がる。いつものストーリーテリングが何よりも素晴らしく、その語り口が凝りに凝った仕掛けを支え続けている。タイムリミット型エンターテインメントであると同時に、17年前の家族斬殺事件の意味も明らかになってゆくだろう。

     しかし、どのように?

     この終始クリフハンガー的状況を、けれん味たっぷりに描く唯一無二の語り口。是非とも手に取って味わって頂きたいと思う。

    0
    2022年06月24日
  • 三日間の隔絶 上

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     グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズは当初三部作のはずだった、と思う。三秒間、三分間、三時間で終了するはずだったこのシリーズは、さらに三日間、三年間と続くようで、今回は四作目の「三日間」の物語だ。何はともあれ、作者も多くの読者同様、このダブル主人公シリーズを終えるに忍びない状況となっているに違いない。

     迷惑なのは、長年潜入捜査を強いられているピート・ホフマンとその家族だろう。これまでいくつもの死地を潜り抜け、その都度、肉体的・精神的な負担を異常にかけられてきたピートと、そのとばっちりを受けっぱなしの家族に、いい加減平和と幸福をもたらしてほしい気持ちは読者心理の中でも上昇を続けんばかりなのである。

     しかし、やはり飛びついてしまう。やはり続編が有難いのだ。ホフマン家には申し訳ないが、またしても息を飲むようなピンチとそこからの脱出を試みて頂きたいのだ。本当に申し訳ないことなのだが。

     それはそれとしてグレーンス警部はそもそもが単独シリーズ主人公でもある。この極めて個性的で癖のある、全然格好良くない上、私邸にも帰らず警察署の私室で寝泊まりしているというワーカホリック。頑固で変化を拒まず、年下の上司にも扱いづらく思われている我らがヒーロー。そのグレーンス警部も定年退職まで残すところ一年を切っている状況。

     さらに今回の事件はグレーンス警部の心に巣食っている未解決事件の一つに端を発する。17年前、4人の家族が銃殺され、5歳の誕生日を迎えたばかりの少女が死体の遺された部屋で三日間取り残されていた。異常かつ過酷すぎる事件である。当初、ぼくはこの過去の三日間が、タイトルのそれなのかと思っていたが、タイトルの三日間はしっかりと現在のホフマンに対し約束通り与えられることになるのでご安心を。分刻みの時計がネジを巻かれる例の場面はこのシリーズの最大の楽しみである。それでも少女の三日間にも何らかの意味があるかどうか。それはそれで読んでみてのお楽しみ。

     犯罪組織の標的となった者たち。彼らが守られる、あるいは彼ら自身で自分たちを守る手段とは、一体何なのだろう。潜入捜査官であるピートは、職務の都度、別の人間になり替わって、犯罪組織の壊滅に貢献してきた人間である。絶対にその正体を知られてはいけない存在。

     本書では犯罪者側にピート・ホフマンの正体と家族の情報が漏洩してしまう。家族を隠そうと翻弄するピートばかりか家族情報までが、まるで彼らを翻弄するかのように洩れてゆく。これまでになかった絶体絶命の危機を招いている原因は何なのだろうか? 警察機関内部の敵を疑わざるを得ないという、これ以上ない緊迫した状況のなかで本書は進行する。絶え間ない緊張と、その重圧。

     グレーンスの過去の事件の上に、ホフマン一家が現在捉えられている危機とがどう交錯するのかわからないまま、物語はそれぞれに二つの重戦車の如く進んでゆき、思いがけぬラストに繋がる。いつものストーリーテリングが何よりも素晴らしく、その語り口が凝りに凝った仕掛けを支え続けている。タイムリミット型エンターテインメントであると同時に、17年前の家族斬殺事件の意味も明らかになってゆくだろう。

     しかし、どのように?

     この終始クリフハンガー的状況を、けれん味たっぷりに描く唯一無二の語り口。是非とも手に取って味わって頂きたいと思う。

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    2022年06月24日
  • 三日間の隔絶 下

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    〈グレーンス警部〉シリーズ。グレーンスが捜査した17年前の事件とピート・ホフマンに届いた脅迫。この2つを軸に進むのだけれどどちらも緊迫感がある。同僚を疑い始めるグレーンス、家族を何としても守ろうとするホフマン。グレーンスとホフマンが絡むと面白さが増し引っ張られていく。シリーズの中で重要な位置にある作品で面白さもトップクラスな出来だと思う。

    0
    2022年06月20日
  • 三日間の隔絶 下

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    自分を脅迫している人物を明らかにするため、ホフマンはグレーンス警部に警察への潜入捜査を依頼する。だが、その交換条件として彼は17年前に起きた事件の容疑者を次々と殺していく犯人を探し出すことを命じられる。背中を預けあうことになった彼らに残された時間は、17年前の最後の容疑者である男を拘留できる‟三日間"。しかし、事件は予想もつかない展開へ――。

    子どもの描写がうまい。だから、この結末はいつまでも心に響く。

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    2022年06月07日
  • 三日間の隔絶 上

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    一家惨殺事件の生き残りの少女はグレーンス警部の手により保護された。17年後、その事件の資料が警察署内から盗まれていることが判明する。さらに17年前と同じ手口で当時の容疑者が殺される事件が起こり……。一方、潜入捜査官を引退し家族とともに暮らしていたピート・ホフマンの元に、彼の正体を知る謎の人物から脅迫状が届く。ホフマンは警察の人間が裏切ったのだと考えるが――。

    シリーズ第9作。内なる敵とも闘いながらのグレーンス警部の必死の捜査。下巻に続く。

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    2022年06月05日
  • 三日間の隔絶 下

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    アンデシュ・ルースルンド『三日間の隔絶 下』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第9作。そして、シリーズ内シリーズのグレーンス警部&潜入捜査官ピート・ホフマン・シリーズの第4作。

    かつて、北欧ミステリーというと登場人物の名前を覚えるのに苦戦したのだが、本作はサクサクと読める。それは本作が非常に面白いからなのだと思う。

    いよいよグレーンス警部とホフマンは事件の核心へと向かう。鍵を握るのは17年前に一人だけ生き残った少女なのか。グレーンス警部の上司、信じていた同僚が事件に関与しているのか……

    余りにも悲しい結末。

    グレーンス警部とピート・ホフマンが各々が抱える事件と問題を解決するために協力する。グレーンス警部がホフマンを脅迫する相手を特定するために警察への潜入捜査を行い、ホフマンは17年前の銃殺事件の容疑者を次々銃殺する犯人を探し出すことに。期限は僅か三日間。

    突然始まる17年前に一人だけ生き残った少女の物語。当時、ザナ・リーライという名前だった少女は証人保護プログラムによりハンナ・オールソンという名前を与えられた。ザナは家族と自分が巻き込まれた忌まわしい過去を取り戻そうとするが……

    本体価格1,400円
    ★★★★★

    0
    2022年06月02日
  • 三日間の隔絶 上

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    アンデシュ・ルースルンド『三日間の隔絶 上』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第9作。そして、シリーズ内シリーズのグレーンス警部&潜入捜査官ピート・ホフマン・シリーズ、『三秒間の死角』『三秒間の空隙』『三時間の導線』に続く第4作。2017年にコンビを組んでいたベリエ・ヘルストレムの急逝により、前作に続き、アンデシュ・ルースルンドの単独名義で書かれた作品。

    タイトルが三秒間、三時間、三日間と次第に時間軸が長くなっている。次は三年間かな。

    警察組織の何者かが、17年前にグレーンス警部が関わった事件を目覚めさせ、やはり警察組織の深部にいると思われる謎の人物が引退した潜入捜査官のピート・ホフマンを再び火中に飛び込ませようとする。二人を動かすのは同一人物なのか……

    非常にリーダビリティが高い北欧ミステリー小説。

    衝撃の場面から物語は始まる。5歳になったばかりの少女を残し、一家4人全員が銃殺された事件。少女を保護したのはグレーンス警部。

    それから17年後。一家惨殺の起きた家に何者かが侵入する事件が発生し、グレーンス警部が現場に赴くと家の床に奇妙な穴が開いていて何かを持ち去った形跡を発見する。グレーンス警部が17年前の事件の捜査資料を確認すると何故か少女に関する資料が消えていた。そして、17年前と同じ銃殺事件が発生し、事件は新たな展開を見せる。

    一方、潜入捜査官を引退し、家族と平穏な暮らしを送っていたピート・ホフマンに彼の正体を知るという謎の人物から脅迫状が届き、ホフマンに市場に出回っていない武器を使ってギャングを襲撃しろという命令が下る。家族の命を守るため、再び火中に飛び込むホフマンだったが……

    この先、グレーンス警部とピート・ホフマンがどのように関係していくのか。

    上巻の終盤の驚愕と怒濤の展開に下巻へと誘われる。徹夜してでも読みたいと思うのだが……

    本体価格1,400円
    ★★★★★

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    2022年06月01日
  • 三時間の導線 下

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    ネタバレ

    うーん。そうくるか。

    このシリーズは、最後の最後に驚きのどんでん返しが起きるような作品ではないので、予想外の事はあまり置きません。とはいえ、組織の頭目の最後はあっけなかったですね。途中で、「なんか、彼怪しいな。伏線?」と思っていたんですが、半分当たって、半分外れたという感じでしょうか。

    なにやら、シリーズは続くっぽいです。最初が“3秒”、次が“3分”、今回が“3時間”という事は、次は“3日”??長くね?

    0
    2021年08月20日
  • 三分間の空隙【くうげき】 下

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    読み応えありました。
    思えば「三秒間…」もすごい本を読んでしまったとしばらく興奮がおさまらなかったっけ。またパウラに逢えるなんて…。緊迫感や憤りや安堵や様々な感情に翻弄されながらも心地よい読書タイムでした。家を見ながら涙するシーンではもらい泣きしそうになりました。
    とてもハードな内容なのにすんなり頭に入ってくるし、ともすると美しささえ感じられる文章だと思います。作者さんの文章なのか訳者さんの文章なのか。好みです。
    今度は三時間ですか?楽しみです。

    0
    2021年05月29日
  • 三時間の導線 下

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    三時間は、三分や三秒と同じくらい長かった。

    いやぁ、これまた読むのを止められない小説だったことよ。グレーンスが走るところは胸がアツくなりますね。不自由な脚に、年老いた体に鞭を打って走る姿に。
    年々ガンコになるのかと思いきや、少しずつ丸くなっていく様で微笑ましさも。
    解剖技術者との展開気になるわ~~!!

    本筋事態は前作もそうだったんだけど組織犯罪の規模が大きくなると、犯罪者の狂気っぷりが小さくなるのが少し残念。

    そういや検事出てこなかったな。エリートは1人出せば充分なのかな笑

    0
    2021年05月24日
  • 三時間の導線 上

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    三秒、三分と続き今度は三時間!
    まだ上巻読んだだけですが、相変わらず読ませるな~。
    しかしグレーンス警部も年取ったなと思わざるを得ない感も、少なからずある。。。

    0
    2021年05月23日
  • 三時間の導線 下

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    グレーンス警部シリーズ第7弾。難民問題が事件へとつながっていく。大量の難民がコンテナで運ばれ亡くなっていく現実。そこにビジネスとして介入する組織。人を人とも思わないような環境に置くこと。それに対するグレーンスの怒り。いつも苛立ってばかりのグレーンスだけれど今作は信頼というのも一つのテーマにもなっていてある交流でこれまであまり見れなかったグレーンスの姿が見える。アクションシーンも冴えているけれど今作は特に感情の面で読み応えがある。ラストもなんとも言えない気持ちが残るし事件の大きさ、悲惨さが読み終えた後も残り続ける。

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    2021年05月16日
  • 三時間の導線 下

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     グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズ三部作も、いよいよ大団円を迎える。

     『三秒間の死角』が、作品の完成度やインパクトのわりに正当な評価を得ていなかったものの、アンデシュ・ルースルンドの名は、元囚人の肩書きステファン・トゥンベリとの共著『熊と踊れ』二部作により、一気にエース級作家として知れ渡り、それを受けてか、『三秒間の死角』も『THE INFORMER/三秒間の死角』のタイトルでNYを舞台にストーリーもシンプル化した形に差し替えられたものの、ともかく映画化された。

     以降、『三分間の空隙』、そして本作と、あっという間の三部作翻訳が完了し、ついに最終編とあいなる。ただし、前二作を含むこれまでのグレーンス警部シリーズ全作の共著者であったペリエ・ヘルストレムの病死により、本作では初めてアンデシュ単独での執筆となる。共著がどのように書き進められる作業なのか知るべくもないが、本作で判断する限り、スピードが増して、むしろ読みやすくなり、アンデシュの持つストーリーテリング能力を、むしろ見直した感がある。

     のっけから暗闇、上下左右を死んでいく者たちに囲まれ、自身も死にそうになる圧迫感のある状況下、物語はスタート。死んでゆく彼らが何者なのかの説明はまったくなし。

     続いてグレーンス警部のいつもの描写。亡き妻を偲んで警察署内の自室のソファで眠り、妻を想いレコードをかけるセンチメンタルな日々。事件の一報。コンテナいっぱいに詰められた死体が港に到着したのだ。何という事件だろうか。

     一方、西アフリカ移民の食糧輸送を妨害するテロリストの攻撃から輸送トラックを守るために雇われている、我らがピート。彼が、相変わらず命がけの戦場に身を置く有様と、全く対照的に彼を待つ、妻と二人の男児というホームシックな情景も描かれる。ピートとグレーンス。二人の抱える状況はやがて交錯する。西アフリカ移民という国際状況。対するは、移民の密入国支援で稼ぐ謎の組織。相変わらずの緊迫感溢れる構図である。

     本作には、実は作者の懇切丁寧なあとがきが付加されている。亡くなった共著者への哀悼の想いがまずは強いのだが、これから孤軍奮闘で作家活動を継続してゆかねばならないアンデシュ自身のこだわりとして、ミステリーには謎解きの上に事実を混入して重厚化させる、という作品作りへの拘りが語られている。

     本書でも、その意向がしっかりと実現されていると思う。世界の人々が予想もつかないような事実の重み。誰かの調整を必要としている救いのない現実。それでいて、語られるストーリーの間断なきスピード感と、アクション。複雑極まりない人間たちが織り成す葛藤と、タペストリのように縦横に織られる精緻な紋様。

     グレーンス警部とピートの間の距離は二作目でぐっと詰まったが、三作目はこの傑作シリーズに恥じず、またも一気に二人の絆を強め、締めてくる。よりタイトに。よりスタイリスティックに。

     本書で公開される強烈な悪と人間の残虐と欲望の泥濘には、吐き気さえ覚えてしまうものだが、そうした世界に対峙する男たちの、内を貫く正義感や家族愛が、だからこそ輝く。本書では、グレーンスが、ふとしたことで子供たちに慕われ、自分の中のやさしさ、という慣れない感覚にたびたび震える。そんなヒューマンなシーンもとても印象的だし、ピートとの物言わぬ信頼感や、隔たった二つの世界でのチームワーク含め、何ともスマートかつ重厚な物語に仕上がっている。

     さて、本作でシリーズも終わりと覚悟していたが、作者自身による意外なあとがきが残されている。ある意味嬉しい驚愕だ。

    0
    2021年05月16日
  • 三時間の導線 上

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     グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズ三部作も、いよいよ大団円を迎える。

     『三秒間の死角』が、作品の完成度やインパクトのわりに正当な評価を得ていなかったものの、アンデシュ・ルースルンドの名は、元囚人の肩書きステファン・トゥンベリとの共著『熊と踊れ』二部作により、一気にエース級作家として知れ渡り、それを受けてか、『三秒間の死角』も『THE INFORMER/三秒間の死角』のタイトルでNYを舞台にストーリーもシンプル化した形に差し替えられたものの、ともかく映画化された。

     以降、『三分間の空隙』、そして本作と、あっという間の三部作翻訳が完了し、ついに最終編とあいなる。ただし、前二作を含むこれまでのグレーンス警部シリーズ全作の共著者であったペリエ・ヘルストレムの病死により、本作では初めてアンデシュ単独での執筆となる。共著がどのように書き進められる作業なのか知るべくもないが、本作で判断する限り、スピードが増して、むしろ読みやすくなり、アンデシュの持つストーリーテリング能力を、むしろ見直した感がある。

     のっけから暗闇、上下左右を死んでいく者たちに囲まれ、自身も死にそうになる圧迫感のある状況下、物語はスタート。死んでゆく彼らが何者なのかの説明はまったくなし。

     続いてグレーンス警部のいつもの描写。亡き妻を偲んで警察署内の自室のソファで眠り、妻を想いレコードをかけるセンチメンタルな日々。事件の一報。コンテナいっぱいに詰められた死体が港に到着したのだ。何という事件だろうか。

     一方、西アフリカ移民の食糧輸送を妨害するテロリストの攻撃から輸送トラックを守るために雇われている、我らがピート。彼が、相変わらず命がけの戦場に身を置く有様と、全く対照的に彼を待つ、妻と二人の男児というホームシックな情景も描かれる。ピートとグレーンス。二人の抱える状況はやがて交錯する。西アフリカ移民という国際状況。対するは、移民の密入国支援で稼ぐ謎の組織。相変わらずの緊迫感溢れる構図である。

     本作には、実は作者の懇切丁寧なあとがきが付加されている。亡くなった共著者への哀悼の想いがまずは強いのだが、これから孤軍奮闘で作家活動を継続してゆかねばならないアンデシュ自身のこだわりとして、ミステリーには謎解きの上に事実を混入して重厚化させる、という作品作りへの拘りが語られている。

     本書でも、その意向がしっかりと実現されていると思う。世界の人々が予想もつかないような事実の重み。誰かの調整を必要としている救いのない現実。それでいて、語られるストーリーの間断なきスピード感と、アクション。複雑極まりない人間たちが織り成す葛藤と、タペストリのように縦横に織られる精緻な紋様。

     グレーンス警部とピートの間の距離は二作目でぐっと詰まったが、三作目はこの傑作シリーズに恥じず、またも一気に二人の絆を強め、締めてくる。よりタイトに。よりスタイリスティックに。

     本書で公開される強烈な悪と人間の残虐と欲望の泥濘には、吐き気さえ覚えてしまうものだが、そうした世界に対峙する男たちの、内を貫く正義感や家族愛が、だからこそ輝く。本書では、グレーンスが、ふとしたことで子供たちに慕われ、自分の中のやさしさ、という慣れない感覚にたびたび震える。そんなヒューマンなシーンもとても印象的だし、ピートとの物言わぬ信頼感や、隔たった二つの世界でのチームワーク含め、何ともスマートかつ重厚な物語に仕上がっている。

     さて、本作でシリーズも終わりと覚悟していたが、作者自身による意外なあとがきが残されている。ある意味嬉しい驚愕だ。

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    2021年05月16日
  • 三時間の導線 下

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    初期の頃のバリバリの社会派の影を薄めつつ、うまく路線変更してきてるかなと。
    なんにしろグレーンスの変貌ぶりに愛情を感じた。

    0
    2021年05月08日
  • 三時間の導線 下

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    アンデシュ・ルースルンド『三時間の導線 下』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第8作。シリーズ内シリーズ三部作の『三秒間の死角』『三秒間の空隙』に続く第3作。2017年にコンビを組んでいたベリエ・ヘルストレムが急逝したことにより、アンデシュ・ルースルンドの単独名義で書かれた最初の作品になる。

    本作は、西アフリカとスウェーデンを舞台にした北欧冒険ミステリー小説と言っても良いだろう。クレイグ・トーマスの傑作傑作小説『闇の奥へ』に優るとも劣らない非常に面白い作品である。ストーリーの面白さもさることながら、登場人物の関係も『闇の奥へ』の主人公、ケネス・オーブリーがグレーンス警部なら、パトリック・ハイドはピート・ホフマンという役回りとなっているのだ。

    グレーンス警部の依頼で国際的難民密航組織に潜入したピート・ホフマンは次第に巨悪の核心へと迫るが、同時に自らの命が三時間後に失われる最大の危機にさらされていることを知る。ピート・ホフマンの運命や如何に。さらにはピート・ホフマンの家族とグレーンス警部にも生命の危機が迫る。

    しかし、それだけで終わらないのが本作がシリーズ最高傑作と言われる所以だ。予想外の驚愕の真相が最後に用意されているのだ。

    本体価格1,040円
    ★★★★★

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    2021年05月07日
  • 三時間の導線 上

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    アンデシュ・ルースルンド『三時間の導線 上』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第8作。シリーズ内シリーズ三部作の『三秒間の死角』『三秒間の空隙』に続く第3作。つまりはグレーンス警部シリーズにして、ピート・ホフマン・シリーズでもあるのだ。

    64歳となったグレーンス警部の前に再び奇妙な事件が立ち塞がる。これまでのシリーズ同様、予想外の事件から幕を明け、スウェーデンはおろかヨーロッパを飛び出し、世界の暗部で起きる壮大な事件へと展開していく。

    ストックホルム南病院の遺体安置所で22体しか無いはずの遺体が1体増えるという事案が発生。増えた遺体はアフリカ出身の男性であること以外は素性は全く不明。翌日、同じ遺体安置所でさらにアフリカ出身と思われる女性の遺体が発見される。

    捜査を進めるうちに港の怪しいコンテナの中で見付かった68体もの大量の遺体。コンテナの遺体の中から見付かった衛生電話機から採取した指紋は意外な人物のものだった。さらには聖ヨーラン病院の遺体安置所でも3体の謎の遺体遺棄が発見される。

    本体価格1,040円
    ★★★★★

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    2021年05月06日
  • 死刑囚

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    この人の、このシリーズは、結末が一癖ありますね。クセがつよい(笑)。それが、このシリーズの魅力でもあるんですけどね。

    そして、例によって、スッキリとする結末ではありません。それも、このシリーズの特徴。むしろ、なんか悲しいですね。それがまた、アメリカやイギリスのミステリーとは違うところですね。

    0
    2021年03月26日
  • 三分間の空隙【くうげき】 下

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    ☆本シリーズは三部作で『三秒間~』『三分間~』『三時間~』とのタイトルが用意されている真ん中に位置する作品である。前作を引き継ぐものなので、本作を100%楽しみたい方は『三秒間の死角』から開いて頂きたい。できれば本書のガイドもレビューも(本稿含め)何も読まずに一作目からお読み頂くことが興趣を削がぬ唯一の楽しみ方である。

     さて、アンデシュ・ルースルンドの名前が日本の読者の心に克明に記されたのは何と言っても『熊と踊れ』で、そちらは続篇含めて、登場人物のモデルとなった兄弟のうち書かれなかった実在の一人ステファン・トンべリとの共著。この後、絶版になっていたグレーンス警部シリーズが続々と再版される。こちらは服役経験のあるベリエ・ヘルストレムとの共著。

     いずれも強力な現実へのアンカー役としての助っ人を得つつ、素晴らしいリーダビリティを発揮しつつ物語るのはルースルンドの筆力そのものである。いずれの作品もページを開くなりその世界に引き込まれてしまう題材の確かさと、そのスリリングな語り口はあまりに魅力的だ。

     『三秒間の死角』は、『熊と踊れ』シリーズとハヤカワ文庫での再版の影に隠されてしまった格好で、ひっそりとこれだけが角川文庫から出版されており、『このミス』などでも決して高い評価を得ずに我々の眼の前を通り過ぎてしまった作品だったが、何を隠そう、あまりに遅くこの作品を手に取ったぼくには、『熊と踊れ』に比肩するおそらく最高級の傑作であった。

     刑務所内の著述はやはりリアリズムを担当するステファン・トンベリの面目躍如であったと思う。この作品は昨年、アメリカで映像化されたものが日本で公開され(『THE INFORMER/三秒間の死角』)ディテールはともかく、原作の持つダイナミズムは活かされ、それなりに劇場で楽しませてもらった。しかし、それにしてもこの孤高の主人公ピート・ホフマンの魅力は何だろう?

     孤高と書いたが、家族を何よりも愛し、なおかつ潜入捜査を選択し実行できる資質、国からも世界からも裏切られる暗闇のヒーローでありながら、打って出る計画の歯切れの良さ、そして読者をも騙し抜く圧巻の脱出行。どれをとっても現代の冒険小説と呼べる孤高の作品である。

     前作と異なるのはまず舞台だ。南米コロンビアの麻薬地帯、そして雇用種はアメリカ政府。北欧ミステリというよりも、ドン・ウィンズロウの『カルテル』などを読んでいる感覚に襲われる。ちなみにぼくは現代のページターナーを代表する二人(組?)の作家は、ドン・ウィンズロウとアンデシュ・ルースルンドだという体感を持っている。なので、余計にウィンズロウ世界にやってきたスウェーデン人主人公の活躍という興味をもって読めるのが本書である。

     前作を引き継いでいるので、一度使われた驚きは本書では再体験できないものの、前作にはないスケールでの大掛かりな逆転ミッションと、既に主人公の能力や特性を知っているが故の期待値に満ちたスリリングな仕掛けっぷりやアクションを楽しむことができる。そして何よりも我らがピート・ホフマンは絶対のスーパーヒーローではなく、妻と二人の子供を大切にする家族の父であり、心優しき生活者であるところが本書の肝である。

     本書ではグレーンス警部がもう一人の主役として、故国を離れての大活躍を見せる。アクション面ではなく、グレーンスならではの悩みや女々しさを帯同しつつ、それでもなお。本書の最大の見どころはむしろグレーンスの果たす役どころにあるかもしれない。ツイン・ヒーローの活躍が積み重ねられてできあがる特大スケールの物語世界は、必ずや多くの読者を引き込んでくれるに違いない。一作目『三秒間の死角』の実力に見合わぬ低評価に対し、本作はきっと大きなリベンジを見せてくれるに違いない。

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    2020年09月18日
  • 三分間の空隙【くうげき】 上

    Posted by ブクログ

    ☆本シリーズは三部作で『三秒間~』『三分間~』『三時間~』とのタイトルが用意されている真ん中に位置する作品である。前作を引き継ぐものなので、本作を100%楽しみたい方は『三秒間の死角』から開いて頂きたい。できれば本書のガイドもレビューも(本稿含め)何も読まずに一作目からお読み頂くことが興趣を削がぬ唯一の楽しみ方である。

     さて、アンデシュ・ルースルンドの名前が日本の読者の心に克明に記されたのは何と言っても『熊と踊れ』で、そちらは続篇含めて、登場人物のモデルとなった兄弟のうち書かれなかった実在の一人ステファン・トンべリとの共著。この後、絶版になっていたグレーンス警部シリーズが続々と再版される。こちらは服役経験のあるベリエ・ヘルストレムとの共著。

     いずれも強力な現実へのアンカー役としての助っ人を得つつ、素晴らしいリーダビリティを発揮しつつ物語るのはルースルンドの筆力そのものである。いずれの作品もページを開くなりその世界に引き込まれてしまう題材の確かさと、そのスリリングな語り口はあまりに魅力的だ。

     『三秒間の死角』は、『熊と踊れ』シリーズとハヤカワ文庫での再版の影に隠されてしまった格好で、ひっそりとこれだけが角川文庫から出版されており、『このミス』などでも決して高い評価を得ずに我々の眼の前を通り過ぎてしまった作品だったが、何を隠そう、あまりに遅くこの作品を手に取ったぼくには、『熊と踊れ』に比肩するおそらく最高級の傑作であった。

     刑務所内の著述はやはりリアリズムを担当するステファン・トンベリの面目躍如であったと思う。この作品は昨年、アメリカで映像化されたものが日本で公開され(『THE INFORMER/三秒間の死角』)ディテールはともかく、原作の持つダイナミズムは活かされ、それなりに劇場で楽しませてもらった。しかし、それにしてもこの孤高の主人公ピート・ホフマンの魅力は何だろう?

     孤高と書いたが、家族を何よりも愛し、なおかつ潜入捜査を選択し実行できる資質、国からも世界からも裏切られる暗闇のヒーローでありながら、打って出る計画の歯切れの良さ、そして読者をも騙し抜く圧巻の脱出行。どれをとっても現代の冒険小説と呼べる孤高の作品である。

     前作と異なるのはまず舞台だ。南米コロンビアの麻薬地帯、そして雇用種はアメリカ政府。北欧ミステリというよりも、ドン・ウィンズロウの『カルテル』などを読んでいる感覚に襲われる。ちなみにぼくは現代のページターナーを代表する二人(組?)の作家は、ドン・ウィンズロウとアンデシュ・ルースルンドだという体感を持っている。なので、余計にウィンズロウ世界にやってきたスウェーデン人主人公の活躍という興味をもって読めるのが本書である。

     前作を引き継いでいるので、一度使われた驚きは本書では再体験できないものの、前作にはないスケールでの大掛かりな逆転ミッションと、既に主人公の能力や特性を知っているが故の期待値に満ちたスリリングな仕掛けっぷりやアクションを楽しむことができる。そして何よりも我らがピート・ホフマンは絶対のスーパーヒーローではなく、妻と二人の子供を大切にする家族の父であり、心優しき生活者であるところが本書の肝である。

     本書ではグレーンス警部がもう一人の主役として、故国を離れての大活躍を見せる。アクション面ではなく、グレーンスならではの悩みや女々しさを帯同しつつ、それでもなお。本書の最大の見どころはむしろグレーンスの果たす役どころにあるかもしれない。ツイン・ヒーローの活躍が積み重ねられてできあがる特大スケールの物語世界は、必ずや多くの読者を引き込んでくれるに違いない。一作目『三秒間の死角』の実力に見合わぬ低評価に対し、本作はきっと大きなリベンジを見せてくれるに違いない。

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    2020年09月18日