アンデシュルースルンドのレビュー一覧
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グレーンス警部シリーズ。前作からのつながり、さらに広がる物語。コロンビアの麻薬の蔓延と組織、アメリカの要人を拉致とたくさんの要素がある。上巻はグレーンスの登場は少ないけれどコロンビアでの動きはとても読み応えがある。コロンビアに潜入捜査に入ったある人物の顔。家族への思い、生き延びるためということ。さまざまな展開、感情がある。潜入捜査のなかで起こる葛藤、スパイとしての立ち振る舞いと、麻薬や殺人への対処。アメリカ政府の本音と建前。そこに立ち向かうグレーンスたち。今作から次作へとまた楽しみや興味が広がる展開だった。前作の『三秒間の死角』(角川文庫)を読んでからのほうが楽しめるのでぜひ先に読んでいただきたい。
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アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三分間の空隙 下』ハヤカワ文庫。
最後の最後まで息詰まる展開が続く下巻。クレイグ・トーマスの『闇の奥へ』を彷彿させるような作品で、非常に面白い。パウラは家族と共に生き延びることが出来るのか。一難去ってまた一難。パウラが家族と共に普通の生活を取り戻すまでの長く険しい道程の結末は……
麻薬犯罪組織が社会を支配する時代。快楽を求める麻薬中毒者と麻薬製造と売買により莫大な金を手にする犯罪者たち、彼らをを壊滅するために手を尽くす米国政府。
家族と共に自ら生き延びるために米国下院議員の救出を選択したパウラ。
下巻の冒頭でグレーンス警部と麻薬犯罪ゲリラ組織に潜入しているパウラが面会し、パウラがグレーンス警部に依頼した内容から『三分間の空隙』の正体は米国下院議員のクラウズが捕らえられているアジト上空を人工衛星が監視しない時間だということが解る。さらにパウラはグレーンス警部に様々なアセットを要求するが、果してどのようにして米国下院議員を救出しようというのか……
本体価格1,160円
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アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三分間の空隙 上』ハヤカワ文庫。
角川文庫の『三秒間の死角』の改題作かと思ったら、まさかの姉妹作で全く新たな邦訳作品だった。しかも、グレーンス警部シリーズ。危うくスルーするところだった。
上巻を読む限りではグレーンス警部の見せ場は無く、パウラが主人公と言って良いだろう。
パウラの焦りが読み手にも伝わるかのように命の危機を感じる白熱の展開が続く。正義を全うするためにはそこまで悪に成りきる必要があるのか。
メインの舞台はコロンビア。僅か9歳の子供がたった200ドルで殺し屋になる異常な社会。米国の麻薬取締局に雇われたスウェーデン人の犯罪者パウラは麻薬犯罪ゲリラ組織PRCに潜入していた。
ある日、麻薬犯罪壊滅のため特殊部隊を率いる米国下院議員のクラウズがPRCに拉致されるとパウラの運命は一変。PRCのメンバー共々、パウラも抹殺リストに載せられる。
そして、パウラの運命を左右するのはストックホルム市警のグレーンス警部だった……
本体価格1,160円
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本当に読み応えがあった。
実在の事件をモチーフにした圧倒的迫力のクライムノベルの下巻。
あとがきを読んで、あらためてこの強盗事件を起こした3兄弟(実際の事件を起こしたのは4兄弟で、そのうちの犯行に加わらなかった一人が本書の著者・ステファン・トゥンベリ)の視点や心情がリアルに描かれていることに驚愕した。それほどまで、犯人グループの心情に寄り添ってこの事件が描かれているのだ。
次々と成功する銀行強盗、犯人グループに翻弄されまくる警察。
もはやこの『軍人ギャング』と名付けられた犯行グループの犯行を誰も止めることはできないのか。
しかし、どんなに完璧な犯行も、回数を重ねていくごとに、不安が募り、グループ内での関係に変化が生じてくる。
これまでは完璧なリーダーとして君臨していた長男のレオに対して、弟たちは違和感を覚えていく。
「暴力に支配されてしまった兄」
これこそ弟達が感じてしまった違和感だ。
どんなことであっても、物事は『中毒』になり得る。
『銀行強盗中毒』になってしまった兄レオは、さらに大きな銀行、さらに高額な金額を求めて強盗計画を作って行く。
そして、犯行に破綻がやってくる。そう破綻はいつも内部から始まるのだ。
三兄弟の心情が『現在』と父親達から虐待を受けていた『過去』の二つに分けられ交互に描写され、読者は三兄弟の心情に深く深くのめり込んでいく。
重厚な物語の結末は、驚くべきずさんな犯行により幕を閉じる。
読者の誰もが「そんな計画で、そんなメンバーでは成功するはずがない」と分かっているのだが、レオは突き進んでいく。
本書を読み終わった後、長い沈黙が僕の胸に訪れた。
圧倒的な暴力は人の人格を変える。
それは子供のころから育まれる。
人生とは、もう既に始まった時から終わり方は決まっているのかもしれない・・・。 -
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スウェーデン・ストックホルム市を舞台にしたクライムノベル。実在の事件をモチーフにした小説ということで非常に期待して読んだ。
さすが北欧ミステリーの傑作だ。面白い。
超暴力的な父親から虐待を受けていた3人、レオ、フェリックス、ヴィンセントの兄弟が主人公。
三兄弟とその幼なじみのヤスペルとの4人組がスウェーデン史上、類を見ない強盗事件を次々と起こしていく。
彼らの用意周到な強盗に翻弄される警察。
レオ達は首尾良く犯行を成し遂げ、警察を出し抜けるのか。
それともストックホルム市警のブロンクス警部が彼らを追い詰めるのか。
手に汗握る攻防が繰り広げられる。
そして下巻へ。 -
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ネタバレ【ネタバレ】
不愉快な結末、予想を覆す…と煽っているものの、想定の範疇のラスト、主人公たちの不実…、こう書くと駄作極まりない作品のようだが、小説としてはオモロいのである。
主人公だから、有能な警察官だから、過去の不幸と戦い正義を貫こうとする人物だから…といってその人物の行動すべてが正しいわけではないのである。
その人物が義や仁や情に基づいて行動したとしても、それが万人にとっての義や仁や情に当てはまらないこともままあるのである。
「不愉快な話」=「面白くない作品」
多くの場合この指標は成り立つのだが、この作品はイコールではないと証明している。不愉快だがオモロい。憤りはすごく感じるが読ませる。だからこその☆5つである。
しかし、この2人(エーヴェルトとスヴェン)は、この後、どの面下げて警察官をやっていくのだろう。不愉快ながら楽しみである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「3秒間の死角」が面白かったので、グレーンス警部シリーズを追いかけてみようと手に取った1作目。
オモロい、サスペンス描写も良く展開も読めずハラハラドキドキできて、何よりテーマも良いぞ。
(以下ネタバレ)
死刑制度のないスウェーデンでは、児童虐待レイプの連続犯であっても、刑期を勤め上げれば(あるいは精神鑑定を受ければ)刑務所を出所できるらしい。そんな極悪犯を私的に処刑する事の是非。その処刑を世論が支持し私的リンチが流行する怖さ…
でも、俺も娘を作中のような残酷な目に会わせた犯人がいたら、法律関係なくブチ殺そうとするだろうな。人間は社会があって初めて人間たるんであろうけど、作中のお父さんのような目にあえば、社会とかマナーを守れず、自分から社会の一員であることを諦めることになると思う。
そんな被害者の立場と守るべき社会の秩序を、警察や司法はどのように取り扱うのか。今更ながら思えば、警察官や検事や裁判官もとても難しい判断を強いられる仕事なんだなぁと思ったりした。 -
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ネタバレ過去と現在から語られる家族の物語
本筋は現代編の犯罪計画よりも過去編の親子の確執?葛藤?にぐいぐい。圧倒的に迷惑でしかない親父と三兄弟。しかしどうしようもなく親子なわけで。主人公は息子なのにどうしても迷惑な親父にシンパシー。セリフがかっちょいーから抜き出してPOPに。圧倒的な厚さのゲラの上に「頭の打ちどころが悪かった熊の話」の熊が。主人公レオも父親もそれぞれの「レディベア」を探していたのかもしれません。
犯罪計画を追う刑事が捜査の過程で父親の下へ行った際の描写「拳の関節のうち、人差し指と中指の付け根が陥没して平らになっている。頻繁に人を殴る人間の手だ。」に震えた
圧倒的ボリューム
抑圧的父権支配
父親は剥き出しの暴力で、妻を、息子を、家族を支配し、不器用に愛した。
少年は大人になり兄弟を護る為に銀行強盗を計画し暴力で夢を叶えようとする。
快調なクライムアクションの現在編と交差する息詰まる過去編がページの分厚さを感じさせない!
「これはな...熊のダンスだ。ちゃんとステップを踏んで、ちゃんとパンチを命中させれば、お前は熊にだって勝てる!」
弟たちにはわからない父親との愛憎渦巻く濃厚な関係。どうしても父親側の視点に寄りガチなのがもどかしい。父親に手を出したあの時のショックを受けた顔と今の寝たきりになった父親の顔も重ね合わせて古傷がグジグジする。
付箋の数だけ名シーンとセリフが押し寄せて鼻の奥をぶち抜かれて鉄の味がする!
圧倒的オススメです!
(※本編には熊は出てきませんw) -
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ネタバレ表向きにはいないということになっているスウェーデンのストリートチルドレン。だけど現実に地下にたくさん存在している。誰からも探してもらえない人がいるということ。子どももいるということ。ひとつの殺人と43人の子どもが路上に置き去りにされる事件。このふたつの事件の捜査から地下へと続き、スウェーデンや近隣でのストリートチルドレンの問題が表面化していく。グレーンスの癇癪や独断で動く捜査や一匹狼なところは相変わらずで、でもシリーズのなかで重要な位置になりそうな今作。大きな社会問題とグレーンス個人の問題を抱え苛立ちが募る。このシリーズは重い問題を扱っていて読み心地がいいとは言えないけれど読むことをやめれない。
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Posted by ブクログ
現実に即して書こうと意図した作品には、すっきりした終わりはない。小説題材となる現実を、普遍的な形として世界の記憶に留めようと意図する作家は、読者が求める単純化に応えることは容易にはできない。何故なら現実が抱える問題は、今もなお解決を見ることなく、ずっとそこにあり続けるものであるからだ。だからこそ、この種の作品はどこかで必要とされ、そして誰かに読まれる時を待つ。
これは子供たちの物語だ。家族に捨てられたり、家族から逃げ出したり。ストリート・チルドレン。北欧では冬を越すためにシェルターや施設に逃げ込む者、連れ戻される者もいる。しかし帰りたくない、逃げ続けたい子供たちの一部は、何と地下道に居住している。地下道で火をおこし暖を取り、暗闇の中で何年も生きる子供たちと、共存する初老の世捨人たち。福祉国家として名を馳せるスウェーデン。そんな国でも公営機関はその種の人々の存在を認めようとせず、見た目の数字だけを誇りに虚像の上に座り込んでいる。
どこかの国と同じだ。日常的に虐待を受けている少女が、学校や児童相談所に自らの危険を顧みず訴えたにも関わらず、最も危険な家族のもとへ帰されてしまった今年初頭の事件。他人事でしかない問題を、書類という形で右から左へ送るしか能のない公職という実態。逃げ出すべき地下道を見出すことなく、父親に殺されてしまった少女。まだまだ発見されぬこの手の事件がこの国にはもうないと誰に言えよう。日本にも家庭から追い出されたり逃げ出したりしてストリート・チルドレンとなった子供たちが皆無だと誰に言えよう。日本の都市の地下道にも少女たちが隠れ住んでいないと誰い言えよう。
そうした事件の一方で、ルーマニアから来たバスがストックホルムの街で、ある冬の朝、43人の薬物中毒の子供たちを放り出した。これも真実の出来事。作家はこれに脚色を施し物語の一方に加える。
シリーズならではの三人の刑事の書き分けも見事だ。60歳を間近にしたエーヴェルト・グレーンス。頑固者を通り越し、もはや偏執狂のサイコパスの領域にありそうなヴェテラン刑事。アンニの病状の変化にぐらつく中でめった刺しにされた女性の殺人事件を追う。妻と息子との生活と刑事としての職務の間のバランスを取り切れていないかに見えるデリカシー溢れる刑事スヴェン・スンドクヴィストは本書ではその人間味をひときわ光らせてみせる。さらに新米捜査官なのにエーヴェルトのお眼鏡にかなった有能な女性刑事マリアナ・ヘルマンソンはルーマニア移民の子として、街頭に捨てられたルーマニア孤児43人の事件を独りで追う。
二つの事件で、親に捨てられ、薬漬けにされ、精神や肉体を侵された子供たちが多く登場したり、刑事たちがそれを目撃したりする。多くの悲劇が背景にあるのにそれに眼を背ける国の中で、小説が何をできるのかを証明しつつ、絶妙のストーリーテリングで現在と三日前からの過去を往還しつつ、読み始めたら止まらないスピード感と面白さ。今に始まったことではないが、ラストシーンでの驚愕のどんでん返し。暗い題材に眼を向けながらも、飽くまでエンターテインメントとしての王道を行く、本シリーズの価値、健在なり!
付記:同様の恐怖を感じさせられた作品として、香納諒一作品『絵里奈の消滅』を紹介しておきたい。ある少女の生死自体が社会に痕跡を残さないという事件を題材にしており、ハードボイルド・エンターテインメントとしても秀逸である。
蛇足:本書で設定されている現在は偶然ぼくの誕生日の一日である(1月9日)。勝手ながら個人的な運命を感じた次第。最近、ぼくは運命というものを心の片隅で感じ始めているように思います。 -
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2016年海外小説部門圧勝の大作『熊と踊れ』に続編が用意されているとは全然知らなかった。あれほどの作品に続編を繋げる馬力をあるとは、この共著コンビ恐るべし。実は本作は二つの作品でセットした二部作との構想を初めから作者らは持っていたらしい。しかも一部は実際にあった事件を元にし、二部は完全なるフィクションで。そのフィクションの第二部は、実際には起こっていないが、起こったとしてもおかしくないくらい自然な筆力で描かれてゆく。
前作を受けて兄弟も夫婦も親子もばらばらになったところから始まる本書。家族たちの不本意な再会。焼け跡の亡霊のように復活する長兄。彼の犯罪へのさらなる意志が周囲を揺り動かす。兄弟たちのそれぞれの境遇、反応などは前作と同じようにはもうやれない、やりたくない、という新しい世界への意志で長兄を拒絶する。迷う父。断固たる母。家族の構図はこの作品でも危ういままの綱渡りである。
彼らを追う側の捜査官の兄、しかももと受刑者という形で、新たなキャラクターが加わる。新たな犯罪の推進力。新たな兄弟の葛藤劇が物語に重なる。二つの兄弟の葛藤が世界に新たなコントラストを与える。
そして作者の飽くなき新手の強奪へのアイディアが凄まじい。読み手の想像力を軽く凌駕する犯罪イマジネーションに感服。前作で手に汗握った数々の犯罪シーンが今また蘇る。悪夢の再生。跳梁する新手の策略。家族の間に張り詰める緊張。
何よりも劇的要素を高めるのは悲劇だ。本書でも過去が語られる。前作の過去の続編が、現在の緊迫の中に挿入される。父の暴力。母の傷。兄弟の震え。離反。再会。それらが彼らのネガティブなエネルギーだが、再生への希望を持つ兄弟たちと、犯罪への拘りを捨てぬ長兄との溝は深まる。その溝がカタストロフへ向けて疾走する。
そして思いがけぬ終章は、ぐさりと読者の心に刺さってくる。運命を辿った物語は、その運命から逃れることができぬとでも言うかのように。兄弟たちの慟哭も虚無も一まとめにして巨きな歯車がぎしりと動く。骨太の作品の第二部であり、終章である。完璧に近い前作を超えられるとは思えないまでも、個性的な彼らへの再会が叶えられる歓びは何物にも代え難いだろう。 -
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2016年海外小説部門圧勝の大作『熊と踊れ』に続編が用意されているとは全然知らなかった。あれほどの作品に続編を繋げる馬力をあるとは、この共著コンビ恐るべし。実は本作は二つの作品でセットした二部作との構想を初めから作者らは持っていたらしい。しかも一部は実際にあった事件を元にし、二部は完全なるフィクションで。そのフィクションの第二部は、実際には起こっていないが、起こったとしてもおかしくないくらい自然な筆力で描かれてゆく。
前作を受けて兄弟も夫婦も親子もばらばらになったところから始まる本書。家族たちの不本意な再会。焼け跡の亡霊のように復活する長兄。彼の犯罪へのさらなる意志が周囲を揺り動かす。兄弟たちのそれぞれの境遇、反応などは前作と同じようにはもうやれない、やりたくない、という新しい世界への意志で長兄を拒絶する。迷う父。断固たる母。家族の構図はこの作品でも危ういままの綱渡りである。
彼らを追う側の捜査官の兄、しかももと受刑者という形で、新たなキャラクターが加わる。新たな犯罪の推進力。新たな兄弟の葛藤劇が物語に重なる。二つの兄弟の葛藤が世界に新たなコントラストを与える。
そして作者の飽くなき新手の強奪へのアイディアが凄まじい。読み手の想像力を軽く凌駕する犯罪イマジネーションに感服。前作で手に汗握った数々の犯罪シーンが今また蘇る。悪夢の再生。跳梁する新手の策略。家族の間に張り詰める緊張。
何よりも劇的要素を高めるのは悲劇だ。本書でも過去が語られる。前作の過去の続編が、現在の緊迫の中に挿入される。父の暴力。母の傷。兄弟の震え。離反。再会。それらが彼らのネガティブなエネルギーだが、再生への希望を持つ兄弟たちと、犯罪への拘りを捨てぬ長兄との溝は深まる。その溝がカタストロフへ向けて疾走する。
そして思いがけぬ終章は、ぐさりと読者の心に刺さってくる。運命を辿った物語は、その運命から逃れることができぬとでも言うかのように。兄弟たちの慟哭も虚無も一まとめにして巨きな歯車がぎしりと動く。骨太の作品の第二部であり、終章である。完璧に近い前作を超えられるとは思えないまでも、個性的な彼らへの再会が叶えられる歓びは何物にも代え難いだろう。 -
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題名:熊と踊れ (上・下)
原題:Bjorndansen (2014)
著者:アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ Anders Roslund & Stefan Thunberg
訳者:ヘレンハルメ美穂・羽根由
発行:ハヤカワ文庫HM 2016.9.15 初版 2016.11.26 4刷
価格:各¥1,800
『このミステリーが凄い』2016年の圧倒的一位を獲得した年、ぼくはこの作品を不覚にも未読で、翌年、これを読んで歯噛みしたものだった。どうみてもこれは圧倒的な作品だったからだ。分厚いだけではなく、スリルとアクションが親子・兄弟の人間ドラマと表裏一体となって驀進する大型重戦車の出来であったのだ。
山中にある謎の施設が実は軍の武器庫であったと知ったときから、ドゥヴニヤック家三兄弟の犯罪は始まる。武器庫襲撃、そして次々と間髪をおかずに、警察の包囲網を嘲笑うかのような手法による現金輸送車や金庫の襲撃が始まる。一度ではなく、同時に連続して何か所もという複数犯罪も一つの特徴である。
作戦参謀が天才なのである。長兄のレオ。そして以上は現在。彼らの犯罪のモチーフとは何であったのかを語るのが、過去。そう。本書は犯罪ファミリーの現在と、なぜ彼らがそうなったのかに至る家族の悲劇を描いているのだ。凄まじいほどのDV。壊され傷つけられる幼い人格。最早、望んでいた普通の家族生活に手に届かなくなった時に、犯罪モンスターとして世界に対峙する存在となってゆく彼らのドラマが生まれてゆく。
実はこの凄玉犯罪プロットは、スウェーデンをかつて震撼させた実際の事件を元にしている。この兄弟では描かれなかったもう一人の兄弟は実在している。アンデシュ・ルースルンドの共著者であるステファン・トゥンベリがその一人である。彼は父親による嵐のような家庭内暴力を実際に体験した一人なのだ。犯罪に手を染めてゆく兄弟に加わらなかった一人として本書の執筆に手を貸している。現実と創作の境界がどこにあるのかは、この本からはわからない。
しかし現実の凄みこそが、この作品のリアリティを圧倒的に高めているのは確かである。人はどうやって怪物的で天才的な犯罪者に育ってゆくのか? そしてその心のうちは? 兄弟たちの葛藤は? 父と母と彼らとそれぞれは運命の中でどのように愛や憎悪や赦しを交わし、あるいは離反してゆくのか? 様々な運命の矛盾は現実を土台にしか生まれ得ないと思われる。この小説の持つ行間に溢れる切迫感、スピード感は、そうした負のエネルギーを動的内燃機関経由で爆発させた結果生まれたものに違いない。
20年に一度の傑作がここにある。この本を契機にアンデシュ・ルースルンド関連の作品はすべて手に取るようになったが、どれも共通して言えるのが、現実に材を取った少なからず社会的小説と呼べるものばかりだ。本作品は二作構造となっており、昨年『兄弟の血 熊と踊れII』が邦訳された。そちらは現実をもとにした本書の、創作された続編であるが、セットでお読みいただくことを強くお勧めする。