決して反社会組織を肯定し賛美するような代物ではない。
溝口先生の書物を読むのは2冊目だが、あくまでも我々が知らない世界の事実だけを伝えるものである。
驚かされるのが、その取材量である。
生まれ故郷の旧友や恩師にまで取材しており、そこから起こされる文章はあたかも実際に見てきたかのような内容である。
...続きを読むとかく一般人とは縁のない世界の話、ここまでの取材と文章構成はさすが溝口先生としか言いようがない。
逆にいえば、任侠の武勇伝を堪能したい方には、少々味気ないものかもしれない。
それは主人公の・・・言い方は悪いが「かっこわるい」部分も描写されているからでもある。
女性に対してシャイな人柄や、商売や博打が苦手、清貧で派手を嫌うといった部分だ。
我々一般人はそういう部分に人間味を感じ惹かれ、おもしろいと思うのではなかろうか。
そして、結末が分かっている、歴史は変えられないのに、
「あかん、そっち行ったらあかん」とその最後に感情移入してしまう。
最期も事実を伝えるのみで、淡々と進行し、過度に美化されたりドラマチックな演出もない。
膨大な取材から人間像に描いているが、あくまでも第三者からの言葉からであり、
実際本人がどう思い考えていたかというのは、少ない発言録から読み解くしかない。
そこが本書の良いとこでもあり、ぼやけているところかもしれない。
案外本人は「そんな細かいこと考えとらんわ」「ええ加減な事言うな、ほめすぎや」といういうかもしれない。