相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』講談社文庫。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く城塚翡翠シリーズの第3弾。
倒叙物と呼ばれる『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』に代表されるような事前に犯人による殺人計画に基づく犯行の様子が描かれ、その犯行を探偵が暴くという形式の2作を収録した中編集。
『生者の言伝』。
読み始めて、夏木蒼汰と名乗る15歳の少年が殺人犯とは随分と残酷な話だなと思っていたのだが、見事に騙された。少しずつ小さな嘘を剥がされ、焦り捲くる少年を尻目に城塚翡翠が見事な推理で真相に辿り着く。
嵐の午後、群馬県の山中にある沖原家の別荘に忍び込んだ15歳の少年が、友人である沖原悠斗の母親を刺殺してしまう。そこへ山中で車が故障し、途方に暮れた千和崎真と城塚翡翠が助けを求め、駆け込む。
若い2人の美女の訪問に舞い上がった少年は断わることが出来ず、2人を中に招き入れ、夏木蒼汰と偽名を名乗る。
城塚翡翠の推理は見事だが、腑に落ちない点が幾つかある。第一に、城塚は散々言い訳をしていたが、殺人が起きたばかりの別荘に助けを求めるなど確率的にあり得ない。第二に、最後まで夏木蒼汰を名乗った少年の本名は明かされないし、第三に、蒼汰が友人の家の別荘に忍び込んだ理由も明かされないのだ。
本作のオープニングを飾る1作なのでジャブと言えば、ジャブなのだが、次の表題作『覗き窓の死角』で腑に落ちなかった点を全て解消してくれたらどんなに嬉しいことか。
『覗き窓の死角』。
表題作。再び別荘が殺人の舞台となり、始めから犯人も明らかにされており、犯人は死亡推定時刻の偽装工作を行い、あろうことか城塚翡翠をアリバイの証人に仕立て上げるという驚愕の展開。
先の『生者の言伝』に比べると完成度が高く、犯人と対峙した城塚翡翠がほんの僅かな綻びから犯人を破綻に追い込むシーンは非常に面白い。探偵と犯人との駆け引き、手に汗握る心理戦、絶体絶命からの大逆転、これぞ相沢沙呼の真骨頂といったところだろう。
プロフォトグラファーの江刺詢子は妹の莉帆が高校時代に自殺したのは、モデルの藤島花音たち同級生の虐めによるものと知り、妹の復讐を果たすために藤島が暮らす西多摩にある別荘を訪れ、藤島を殺害する。
殺害後、死亡推定時刻の偽装工作を行った詢子は、本格ミステリ小説を通じて友人となった城塚翡翠をモデルに個人的に撮影したいと千葉にある自然公園に連れ出し、城塚をアリバイ証人に仕立て上げる。
一方、藤島花音の殺害事件の捜査にあたった刑事は藤島花音と江刺詢子の妹が同じ高校の同級生で、藤島が虐め自殺の加害者だったことを知ると詢子に強い疑いの目を向ける。しかし、日頃から捜査に協力する城塚翡翠がアリバイ証人と知るや、詢子を真犯人と断定出来ずにいた。
警察からの要請で城塚は友人である詢子と対峙し、少しずつ詢子の証言から綻びを見出そうとするが、なかなか詢子は手強く、殺害事件の犯人であるという確証は得たものの、死亡時刻の偽装工作のトリックを見破れず、物証も何一つ見付け出せなかった。
珍しく苦戦する城塚翡翠に千和崎真は……
本体価格1,000円
★★★★★