この小説のなかにある恋は、リアルな恋だと思う。
少しでも恋を経験した人が読んだら、追体験させららるほどのリアルさだと思う。
大人になってから出会って好きになった人に対して( もし学生の頃に同じクラスだったら好きになってたかな? )って考えてみたり、
こんなに好きな人でいっぱいの毎日を過ごしていて、この人に出会う前は自分は何を考えてどうやって過ごしてたんだろう?って考えてみたり、
喫煙者の彼と電話をしてるときの、タバコを咥えながら話すくぐもった声にキュンとしたり、
みんな同じことを感じて、考えて、生きてるんだなって思った。
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由井の今の旦那さんもとてもいい人で、由衣がこの人と出会えて幸せな家庭まで持てて本当に良かったと思う。
でも、桐原との終わりが曖昧なものになってしまってるから桐原も由衣も、どうにもなれなくて辛い。
由井は桐原のあの頃の思いを手紙で受け取ってしまって、自分の中で落とし所をみつけなくちゃいけない。
桐原も新しい生活があるかもしれないけど、もしかしたら心のどこかで由井のことをずっと待ち続けてるかもしれない。
とにかく最後があの手紙でおわったのが本当にいい。
読者としてどこまでも考えることができるから、余韻が全然抜けない。
ずーっと考えてる。
娘さんからしたらあの手紙を読んでお父さんに電話したくなる気持ちも分かるし、「捨てちゃおうかな」って思ってしまう気持ちも分かる。
私は、由井のことだからきっと手紙は押入れの奥深くにしまいこんで今を大切に生きていくだろうなとは思うけど、
あの頃のあやふやな終わりをはっきりさせてきっちり終わらせたいとも思うんじゃないかなとも思う。
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桐原からの手紙の余韻にやられてしまって泉と高山のことが薄くなってしまうけど、泉は本当によくあの決断ができたと思う。
きっと高山と一緒になってたら、心のどこかにずっと子どもが居続ける。
高山と本当の意味で一緒になれることはなかったと思う。
もうすでに大切なものがある人間は、それを捨てては生きてはいけない。
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由井の父のアルコール依存症の書き方もリアル。
本人も苦しむけどその苦しみのためにさらにアルコールに逃げて、家族はずっと苦しみ続ける。
でもそんな由井に桐原という存在がいてくれてよかったし、逃げた先に幸太郎と幸太郎のお母さんがいてくれてよかった。
あわよくば、そういう大切な縁を切って逃げてきた由井のこれからは、そのご縁を少しずつ取り戻すものであってほしいな。
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由井の生い立ちを考えると、有島武郎『小さき者へ』に心を打たれる理由は分かりすぎる。
私も読んでみたい。