シリーズ四作目。今回は、ファーガソンとスティグリッツとの対談(別々)だが、どちらも面白いし独自の視点により視界が広がる。ちなみに、欲望の資本主義シリーズはどこから読んでも楽しめる。
ファーガソンは、19世紀後半以前にはネットワークと言う用語が滅多に使われてなかったと述べる。例えば、シェイクスピアの戯曲には出てこない。ネットワークが今日の意味として使われ始めるのは、鉄道が登場してから。一方で、階層制という言葉は、原始キリスト教時代から使われている言葉。私たちは長い間、社会についてはネットワークではなく「階層構造」として理解していた。
分散型ソーシャルネットワークでは、中央による集中管理がない。従来型のネットワークのように、中心がハブになり、外に向かって放射状に路線図が広がっているわけではなく、また、階層構造でもない。こうしたネットワークが生むのは、陰謀論者。一方に階層性や中央による権威的にしか歴史を記述できない古い歴史学者がいて、他方に陰謀論者がいる。
スティグリッツの対談。ベン・バーナンキは金融緩和は理論上よりもうまくいく場合が多いと言っている。金融緩和政策で中央銀行が市場の国債を買い上げたり、預金準備率を引き下げて銀行の超過準備を増やしたりすると、金利が下がり通貨供給量が増えると言う効果がありそうだ。けれども、金融緩和が利下げに影響を与えたのか、それとも金融緩和がなくても金利は下がっていたのか、確実のところは実は誰にもわからない。わかっているのは、アメリカやヨーロッパ、日本で金融緩和が行われた際に、同じタイミングで経済が上向いたということだけ。金融緩和が景気回復の主な理由だったのか否かは明確にはわからない。
ケインズは恐慌での決定的な変数は限界消費性向であると記している。恐慌においては、限界消費性向を高める刺激を与える政策が必要だと言うもので、限界消費性向とは所得の増加分を消費に費やす割合のこと。しかしこれは簡単ではなく人々は経済的に不安な状態で貯蓄率を上げる。
現代貨幣理論MMTが注目されたのはリーマンショック後の大不況を受けて、FRBがマネタリーベースを8000億ドルから4兆ドルに増やしたことがきっかけ。通貨の供給量を増やした。欧州中央銀行と日本銀行も同じことをしたが、どこにもインフレが起こらなかった。しかし、インフレが起きなかったのは効果がなかったからとも言える。物の需要も増えなかった。効果的な政策は、通貨供給量を増やすことではなく、労働人口を増やすこと。
暗号資産が暗号のままだとすれば、重要な通貨にはなり得ない。マネーロンダリングや脱税、麻薬の取引など不正行為を透明化させる必要がある。透明性の確保と暗号化は両立しない。
産業革命が最初にイギリスで起こったのは、当時のイギリスの平均賃金が他国に比べて非常に高かったからだとする仮説がある。工賃の労働者を維持するには、新たな技術を投入しなければならないと言う動機が当時のイギリスの企業にあった。賃金を高くする事は、新たな技術やイノベーションの誕生を誘発することにもなる。
スティグリッツは宇沢弘文を尊敬していると。宇沢弘文の社会的共通資本の概念は、サスティナブルといった概念に似ている。この発言は、同じ宇沢弘文を尊敬するものとしては、嬉しかった。