読んでも読んでも章ごとの起承転結が自分の想像する結びに至らず、小説の終わりまでまさにこの物語の重力に引っ張られ続けた。
そしてまた、この作品がどうしてネタバレ厳禁と言われているのか、どうして誰にも何も話せないのにとにかく読んで!としか言えないのか、気持ちが心から理解できた。
何かを成し遂げるには結局一歩一歩地道なトライアンドエラーの繰り返しをしていくしかなくて、それはこれまで生きてきて強く実感しているが、その地道なトライアンドエラーを繰り返した人類の過去があったから今この世界の発展があり、そしてその発展は人類がよりよく皆で生きるために遂げられてきたものなのだということを、作者が伝えたいんだと作品から感じた。
主人公のグレイス博士がロシアのオーラン宇宙服を着続けていることも、そもそも搭乗者として、中国、ロシア、アメリカの人間が乗っていることも、全体的に今のポピュリズムとナショナリズムの吹き荒れる世の中への問いかけのように思う。私たち人類が力を合わせればこんなこともできるのに、どうしてそんなに他国を排そうとするのかと。
そして科学への信頼がメインテーマの一つとしてみっちり語られる中で、もう一つのメインテーマが前述と地続きの異文化接触とエンパシーなのが素晴らしくて素晴らしくて。最後のグレイスの決断が人間が持ちうる善の部分を美しく描いていて目が潤んでしまった。あの場面、物語のクライマックスとしても素晴らしいし、最初の彼らの邂逅と最後の彼らの邂逅、ブックエンド構造になっていて読んでてぞくぞくしてしまった。最初はロッキーがシリンダーを投げてきて、最後はグレイスが自分で宇宙空間へ飛び出してロッキーの宇宙船へ飛びつく。この距離感と接し方、彼らの過ごした濃密な時間と、彼らが持つ互いの目標への理解と、互いの専門に対する姿勢へのリスペクトと、互いの惑星へ持つ気持ちへのエンパシーと、それらが混ぜ合わさって生まれた友情の表現になっているのが素敵すぎて最高だった。
終わり方も想像を巡らすことができる終わり方で、私は最終的にはグレイスが地球人と会うか交信くらいはできたらいいなと思っているがどうだろうか。地球人はアストロファージがうまく使えるようになったからこそ、金星へ行ってタウメーバをばら撒けたのだろうし、太陽が元の光を取り戻したということは少なくとも元の水準の文明は残っていて、国際協力もできる体制が残っていたはずなのだから、アストロファージを使った無人機をエリドへ向かわせることくらいできないもんだろうか。グレイスはエリドのことも伝えているはずだし。
しかし、グレイスが地球に戻るか否かよりも、グレイスがエリドても自分の培ってきた知識を後世へ伝えることに喜びを覚えているという描写がとてもよくて、しかもそれがエリドの言葉で、音楽のように教えられているというのが、科学がどれほど楽しいものなのかを暗喩のように伝えてきていて面白い。
素晴らしかったなー。もう一度読みたい。