書店員すず木のレビュー一覧
書店員すず木
年間読むマンガは2000冊以上!2005年より電子書籍サイトの仕事に携わる、この道10年以上のプロ書店員。
「面白いマンガを多くの人に読んで欲しい」をモットーに、オススメのマンガをご紹介します。
新作マンガを紹介する「月刊書店員すず木」特集を毎月更新中!
ブックライブ公式Xにマンガコンシェルジュとして降臨することも。
すべて のおすすめレビュー
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中学3年生の吉木星太(よしき せいた)と、その腐れ縁である葉月光流(はずき ひかる)は、お互いに切磋琢磨しながら「優紀高校」への合格を目指していました。
しかし、合格を確信していた矢先、学校側から光流へある衝撃的な理由で受験を断念するよう通告されます。
身体的なハンデを理由に「分断」されようとする二人。
当たり前だと思っていた「一緒に通う」という未来を取り戻すため、星太は世の中の不条理に真っ向から立ち向かっていきます。
本作は大ヒット作『ヤンキー君と白杖ガール』の、うおやま先生が描く優しくも鋭い視点が光る青春物語です。
物語の序盤、私は大きな衝撃を受けました。
実は光流には車いすというハンディキャップがあるのですが、物語の導入ではあえてそれが描かれません。
しかし、志望校から「校内にエレベーターがないから通えないだろう」と事前に受験を取りやめるよう告げられた際、初めてその事実が明かされます。この構成がすごい!!
「設備がないなら仕方ない」と、無意識に世の中のルールに納得しかけてしまう読者の心理を突いてきます。
しかし、主人公の星太は違います。
彼は世の中の不条理を「仕方ない」の一言で片付けません。
「自分の隣にいるのは光流でしかない。代わりはいない」と言い切る星太の姿に強さを感じます。
私自身、日々の生活で「しょうがない」と多くのことを諦め、妥協して生きている部分があるため、彼の真っ直ぐな姿勢には深く身につまされる思いがしました。
星太の熱意は、光流の心も変えていきます。それまでは周囲に配慮し、一歩引いていた光流が、「フツウとして扱われたい」と自分の願いを口にするようになる変化には、星太の影響が色濃く反映されています。
また、彼らの前に立ちはだかる生徒会副会長・薫まりの存在も欠かせません。
県議会議員の娘であり、一見すると「悪役」のように描かれる彼女ですが、実は彼女自身も「父に愛されていない」という深い孤独を抱えています。
単なる勧善懲悪ではなく、それぞれの置かれた立場、それぞれの正義がぶつかり合う展開には、ページをめくる手が止まらないワクワク感があります。
本作の素晴らしい点は、「助ける/助けられる」という関係が、非常にフラットで対等に描かれていることです。
本当の友達とは何だろうと考えたとき、それは損得勘定抜きに、何気ない瞬間に相手のために動けることではないでしょうか。この作品には、まさにそんな理想の友情が詰まっています。
星太が光流のことを、あえて「友達」ではなく「腐れ縁」と呼ぶのも、彼らしい照れくささが感じられて、思わず顔がほころんでしまいます。
相手を知ろうとすることの大切さを説くうおやま先生だからこそ描ける、綺麗事だけではない人間ドラマ。目標に向かって泥臭く邁進していく星太と光流の姿を、これからもずっと見守り続けたいと心から思わせてくれる作品です。2026年06月29日 -
16歳の女子高校生・狭山うみ(さやま うみ)にとって、隣の家に住む8歳年上の広井翔也(ひろい しょうや)は、幼い頃から憧れていた「理想のお兄ちゃん」でした。
しかし、久々に再会した彼は、髪はボサボサ、無精髭を生やした「小汚い大人」に激変していて……。
再会から始まる、8歳差の不器用で、でも温かい「ささやかな」恋の物語。
『ホリミヤ』で作画を手がけた萩原ダイスケ先生の最新作ということで、まずは何と言っても画面の麗しさに圧倒されます!
主人公のうみは息を呑むほど美しく、お隣さんの翔也もまた、整った顔立ちが隠しきれていないイケメン。この二人が並ぶだけで、視覚的な幸福感がすごいです。
物語は、憧れのお兄ちゃんだった翔也との「残念な再会」から始まります。
昔の面影がないほど小汚くなってしまった彼にショックを受ける…という「あるある」な展開ですが、そこからの盛り上がりが最高なんです!
翔也が漫画家として活動していることが判明し、うみから尊敬の眼差しを受けた後にそれが「エロ漫画家」だったという展開には、萩原先生「わかってらっしゃる…!」と思ってしまいました。
しかし、外見や職業が変わっても、翔也の根っこにある「優しさ」は昔のまま。うみのことをさりげなく気遣い、守ってくれる彼の包容力には、一人の男性としての抗いがたい魅力を感じてしまいます。
うみが、そんな彼の「変わらない良さ」を少しずつ再認識していく過程は、読んでいて本当に気分が上がります。
また、本作は脇を固めるキャラクターたちも最高にいい奴らばかりなんです!
うみがあまりに美しすぎて、同級生たちは「触れてはいけない高嶺の花」として遠巻きに見ていたのですが、それをうみ自身が「嫌われている」と勘違いしている様子がなんとも可愛らしい。
翔也が作ってくれたきっかけで同級生たちと打ち解けていくシーンは、まさに尊さの極みです!!
「仲良くなっていいんだ!」と分かった瞬間の、同級生たちの猛烈な距離の詰め方には、思わず吹き出してしまいました。
うみと周りの人々との軽妙なやり取りも面白く、まっすぐで等身大のうみには、ヒロインとして絶大な好感が持てます。
今はまだ「ささやか」な距離感の二人ですが、これからどんどん仲良くなって、早く二人の「ラブぃシーン」が見たい……!と願わずにはいられません。
じれったくも愛おしい「恋の始まり」をぜひ見届けてください!2026年06月25日 -
巨大集合住宅に夜明けを告げる放送が鳴り響きます。
「健全な国民は、健全な国家規律から!!」
“国家” “規律” “労働”を提唱する厳格な管理社会の中、住人たちに手紙を届ける任務を行う逓信所飛脚行代員1871号の目を通して描かれる異質な日常。
一見静かな日々の中に潜む不穏さと、抑圧された世界で交錯する人間性の欠片を描いたSF作品。
「ディストピア」という言葉をご存知でしょうか。
SFの世界で描かれる反理想郷や、徹底的に統制された管理社会のことを指します。本作は、まさにそんな息の詰まるようなディストピアを舞台にした物語です。
読み始めるとまず、その独特な世界観に圧倒されます。
薄暗く、どこか黴臭さすら漂う陰鬱で荒廃した世界。
大きな団地のような建物の中だけで全てが完結しており、住人たちの姿は人間とは大きくかけ離れています。しかし、不思議なことに彼らの行動や感情からは人間臭さが溢れ出ており、「彼らは元からこの姿だったのだろうか」と思わず勘ぐってしまいます。
そもそも異形である彼らと我々は何が違うのでしょう…。
この世界で、住人たちが生きるかすがいとなっているのが「手紙」です。
手紙が届くか否かが、そのまま生きる活力にも絶望にも繋がっているのです。
さらにユニークなのが、手紙に「賞味期限」があるという設定。
手紙に含まれる感情を「はかり」で計測することでその期限が判明する描写からは、まるで感情が質量を持った世界であるかのような不思議さを感じます。
しかし、その手紙にすら検閲が入る描写があり、彼らの感情さえも規制されている事実にゾクゾクさせられます!
他にも、箱根細工のような箱に入った「密粗計」というアイテムや、「9時」になることで移動を強いられるルールなど、私たちの常識とは異なる「時間」や「空間」の謎が散りばめられており、SF好きにはたまらないものがあります。
居住区もランクによって分かれており、工場など単純労働者であるほど劣悪な環境での生活を強いられているようで、労働棟の生活環境はまさに監獄そのものです。
格子戸で区切られた独房のような部屋、過酷な缶詰工場での労働。
1等国民になって専用の居住区へ移るには「人民券」が必要ですが、労働で得られる額はたかが知れています。そのため食事を我慢したり、人民券を得るために売春に手を染める者も現れます。
「望むものを得るためには、やりたくなくても、やらなければいけないのか。それとも自分を守るために拒絶すべきなのか」――どちらが正解なのか、物語は私たちに冷徹に問いかけてきます。
本作の根底にあるのは、「コミュニケーションとは何か」、そして「人は何を大切に生きるべきか」という切実なテーマです。
分かりやすさや展開の早さがもてはやされる昨今、本作はそのトレンドに真っ向から立ち向かっています。
決して消費されるだけのマンガではなく、読者自らが絵の隅々まで目を凝らし、情報を読み取る必要がある作品です。
混沌とした世界観の中に、表現者としての強い信念が感じられる、じっくりと没頭したい至高の傑作です!!
2026年06月25日 -
学力は高いが外見に自信を持てない高校生・未来は、幼なじみで可愛く人気者のさえや、想いを寄せる同級生・アキヒコとの関係に悩んでいます。
そんなある日、さえが夢に向かって努力していることや、アキヒコがさえを想っている事実を知り、未来の心は大きく揺らぎます。
劣等感と嫉妬に傷ついた未来は思わず感情をぶつけてしまい――。
自分に足りないものを抱えながらもがく少女たちの痛みと成長を描く、人間関係のリアルに迫るヒューマンドラマ!
人と自分を比較しても、何の意味もない。そんなことは百も承知なのに、私たちはどうしても「隣の芝生」の青さに目を奪われ、自分の足りなさばかりをあげつらってしまいます。
自分は自分でしかないのに、他人の真似事をしては勝手に傷つく――。今作は、そんな誰もが一度は囚われる歪んだ感情を、痛いほど丁寧に、そして鮮烈に描き出しています。
主人公の未来は、自分自身で心をがんじがらめにしがちな女の子。
想い人であるアキヒコのちょっとした言葉に一喜一憂する姿は、思わず応援したくなるほど瑞々しい乙女心に溢れています。
そんな未来の前に立つのが、親友の「さえ」です。
さえは可愛さも、可愛くなるための技術も、アキヒコからの好意も、ありとあらゆるものを持っています。未来にとって彼女は「全てを持っている人」。
自分が唯一勝てるのは学力だけでした。
そんなさえの夢は、途方もなく大きな「宇宙に行くこと」。
無謀とも思える夢へ「やってみなくちゃわからない」と笑うさえに対し、未来は冷や水を浴びせるようにこう告げます。
「どんなに頑張っても、どんなに努力しても、その人には絶対無理って予め決まっていることがあるんだよ。さえちゃんには無理だよ」
ここでハッとさせられるのが本作のタイトルです。
タイトルは『未来ちゃんには無理だよ』。しかし作中でこのセリフは一度も出てきません。
そう、未来はさえに向けて言葉を放ちながら、同時に「自分自身」に呪いをかけていたのです。
男とか女とか、恋愛とか、そういう枠組みを「窮屈」だと笑い飛ばせるさえは、未来にとって眩しすぎるほど自由な存在でした。だからこそ憧れた。
けれど、いつだって大切な友情にヒビを入れるのは恋愛感情です。
物語の皮肉な転換点。未来の予言通り、さえは大学受験に失敗し、逆に未来は自分が本当に行きたかった学部に合格します。
狭い世界に閉じ込められ、息苦しさを感じるさえ。
しかし、さえの夢だったはずの道を代わりに歩むことになった未来もまた、別種の息苦しさに身を焦がすことになります。
結局、自分で望み、自分で選んだ道ではない「不本意な選択」は、どんな形であれ自分自身を苦しめるのでしょう。
しかし、物語は苦しいままでは終わりません。
「何者にもなれなかった」と絶望していたさえは、同級生たちから自分が高嶺の花であり、希望の星であったことを告げられます。
そこで初めて、彼女は自分がちゃんと「自分の道」を歩めていたことに気づくのです。
自分の居場所は、誰かに用意されるものではない。自分で探し、自分で作るものなのだと!!
一見、宇宙飛行士の夢を諦めたように見えたさえですが、彼女は決して折れていませんでした。世界を旅するバックパッカーとなり、SNSのインフルエンサーとして、彼女らしい方法で「宇宙(世界)」へと飛び出していく姿には胸が熱くなります。
一方、偶然再会した未来は、相変わらず不器用で恋愛感情に振り回されていました。でも、それが彼女の等身大なのです。
お互いに必死で努力して、何かを掴み取ろうとしてもがいて、それでもできなくて……。
実は、お互いがお互いを「羨ましい存在」として見上げていた二人。
誰の心にもあるドロドロとした感情をどこまでも分かりやすく、かつ丁寧に描いた本作は、私たちに「夢に向かって進むこと」、そして何より「自分自身を信じること」の尊さを教えてくれます。
今、自分の道に迷っているすべての人に届いてほしい、至高の一冊です。2026年06月25日 -
聴覚障害を持つ大学生の平里は、手話通訳の学生バイト・嶋に誘われ、お笑いの世界に飛び込みます。二人はお笑いコンビ「ローワライ」を結成し、「聾(ろう)にしかできひん笑い」を武器に漫才の頂点を目指すことに。
言葉の音に頼らず、身体表現や間、視線で笑いを届ける二人。日常の不自由さや葛藤すらも笑いへと昇華し、常識を覆す新たな漫才のかたちで舞台へ挑む、熱き青春エンターテインメント開幕!
「漫才」はマンガで表現するには非常に難しい題材です。会話のテンポや間、言葉の強弱といった要素は、本来「音」として耳から伝わるものだからです。
本作はそんな高いハードルに加え、「聾唖者(ろうあしゃ)の漫才」という、さらに挑戦的なテーマに踏み込んでいます。
その挑戦だけでも驚きですが、何より本作は、それを圧倒的な表現力で見事に成立させている点が本当に凄いです!
特に印象的なのが、彼らの初舞台のシーン。 後半にかけて畳み込むように笑いが連鎖していく流れは、まるで実際の劇場で漫才を観ているかのような臨場感があります。「マンガでここまでお笑いを表現できるのか!」と、素直に鳥肌が立ちました。
また、本作は単なるお笑い成功譚ではありません。
普段、私たちが何気なく過ごしている日常が、聾唖者にとってはいかに不自由なものかという現実も丁寧に描かれています。そして、本来なら悲しみや怒りに繋がるはずの不自由さを、「笑い」という形に昇華している点に、お笑いをマンガで描くという作者の凄みを感じます。
音が聞こえない主人公の平里は、一般的な漫才のリズムをそのまま共有することはできません。しかし、本作はそこを「ハンデ」として消費するのではなく、手話、表情、身体の使い方、そして観客の巻き込み方を含めた「新しい笑いの形式」へと昇華させようとします。 「聾にしかできひん笑い」というコンセプトは、単なるキャッチコピーではなく、物語の強固な核として機能しているのです。
登場するキャラクターも非常に魅力的です。
相方の嶋は、思わず「あほちゃうん!?」とツッコミを入れたくなるほど元気いっぱいにボケ倒す存在。しかしその裏には、平里に「笑い」を伝えたいという強い想いがあり、手話で丁寧に通訳する優しさも持ち合わせています。
一方の平里は、鋭い目つきが印象的な青年です。これまでの人生で抱えてきた怒りや葛藤がその表情から伝わってきますが、だからこそ、彼がふと見せる笑顔がとにかくたまらないのです!「嶋はこの一瞬の笑顔のために頑張っているのでは…」とさえ思えてきます。
誰かに笑いを届けること、伝えることの難しさと尊さ。その両方をこれほど熱量高く、エンタメとして描き切った作品は他にありません。「彼らの漫才をリアルで観てみたい!」と心から思わされる、人と人とが分かり合おうとする力に満ちた傑作です。2026年06月25日 -
山と国道に挟まれた田舎町・つづみ町。
周囲にナメられないよう強がって生きるヤンキー女子高生・春野うらら。東京から田舎町へ引っ越してきた彼女は、母の職業や家庭環境を理由に偏見の目に晒され、孤独を深めていました。
そんなうららの前に現れたのが、町の駐在さん・立見宗介(たつみ そうすけ)。不器用ながらも自分を守ろうとしてくれる彼との出会いが、うららの頑なな心を少しずつ溶かしていきます。
本作は、一見シンプルな「ヤンキーJK×警察官」という関係性の物語でありながら、“人を頼ること”というテーマを非常に丁寧に描いた作品です。最大の魅力は、派手な事件や強烈な展開に頼らず、登場人物の内面の変化だけで読ませる高い構成力にあります。
主人公の春野うららは、過去のいじめから脱却するために「ナメられないこと」で自分を守ってきた、あえて強く見せることでしか生きられない不器用な女の子。東京から田舎に引っ越してきたものの、母親が水商売であることから周囲に色目で見られ、その母親も仕事で家を空けがちという複雑な環境に置かれています。そんな彼女が、傷つくことを恐れて周囲を拒絶し、強がるしかない状況には、読んでいて胸が締め付けられると同時に、どこか深く共感してしまいます。
そのため、誰にでも愛想よく接し、軽口を叩かれても怒らない駐在さんの姿は、うららにとって最初は理解できない存在として映ります。この二人の“価値観の衝突”こそが、物語の切ない出発点になっているのです。
そんな彼女の前に現れる駐在さんこと立見宗介は、普段はマスクをしていますが、そのマスクを外した素顔は驚くほどの激イケメン!!
真面目で誠実、町の住民からも深く愛されている彼ですが、時折見せるフッとした鋭い表情が印象的です。「過去に何かあったのでは……」と思わせる影があり、そのギャップが彼の男性としての魅力をさらに引き立てています。
うららにとって立見は、自分が一番危ないピンチの瞬間に助けに来てくれた、まさに「王子様」のような存在。しかし、これまでの過酷な経験から「そんな夢みたいな現実はあるわけない」と斜に構えてしまうからこそ、彼との距離感が掴めずに戸惑ううららの様子が、たまらなく健気で可愛らしいのです。
それでも、立見が差し伸べてくれる温かい手のおかげで、うららは少しずつ町の人たちとの繋がりを増やしていきます。立見というフィルターを通して、周囲の人々がうらら自身の本来の良さや真っ直ぐさに気づいていく展開には、じんわりとした感動が広がります。
傷つくことを恐れて人を頼れなかった少女と、過去に秘密を抱えながらも不器用に人を守ろうとする駐在さん。単なる恋愛漫画にとどまらない、二人の切実な心の交流が本作の一番の見どころです。
冷え切った心が人の温もりによって解きほぐされていく、その尊いプロセスをぜひ見守ってください。きっと読み終わる頃には、二人の幸せを願わずにはいられなくなります!2026年06月25日 -
真面目で優秀な生徒会長・梟森未明(ミメイ)の唯一の弱点は「面白いことが言えない」こと。彼の心の拠り所は、深夜ラジオ番組“月ミド”へのネタ投稿でした。
ある日、同じクラスの不思議な少女・水尾くらげが、番組で名を馳せる伝説的リスナー「うなぎポテト」だと知ります。
ラジオを通じて結ばれた二人は、ライバルであり相棒として、真夜中の電波に青春を乗せていく――。
今作は、誰もが一度は抱いたことのある「認められたい」「誰かに届いてほしい」という切実な願いが、驚くほど丁寧に詰め込まれた作品です。
その想いは決して大げさに語られることはなく、深夜ラジオへの投稿や、不採用の悔しさといった日常の積み重ねとして描かれます。だからこそ、読者は自然と主人公たちの隣に座っているような感覚で、彼らの気持ちに寄り添うことができます。
また、主人公二人の「友情以上、恋愛未満」という絶妙な距離感もたまりません。
同じ番組を聴き、同じ話題で笑い、同じ悔しさを共有する。そんな「まだ恋と呼ぶには早い」曖昧な時間を大切に描いている点が、とにかくエモい!
YouTubeやSNSが主流の現代において、あえて「深夜ラジオ」という映像のないメディアを軸に据えている点も印象的です。
派手な展開はありませんが、そこには静かで確かな熱があります。読後、心に心地よい温度が残る一冊です。
「うなぎポテト」と「森にふくろう」。作中番組「月ミド」の大喜利コーナーを制すのはどちらなのか?
そして、ミメイはくらげに「面白い」と言わせることができるのか!?
二人の関係の行方を、ぜひご自身で確かめてみてください。2026年04月03日 -
楽信小学校5年×組、30人の児童たち。
教室という名の小さな社会には、友情や憧れだけでなく、嘘、嫉妬、そして無自覚な残酷さが渦巻いています。誰かは光を浴び、誰かは傷つき、誰かは声を殺して日々をやり過ごす。
これは、子どもたちが確かに生き、悩み、残酷な選択を繰り返した記録――。
「青春」という言葉の裏側に潜む、痛みと熱を描き出す衝撃の群像劇。
本作の最大の特徴は、出席番号ごとに視点を切り替えていく構成にあります。
同じ教室で起きている一つの出来事が、立場によって全く違う色を帯びていく。ある子にとっての「何気ない遊び」が、別の子にとっては「一生癒えない傷」になる。その視点の不均衡さが、読み手の心を容赦なく抉ってきます。
描写はどこまでも淡々としていながら、剥き出しの感情が伝わってくる生々しさは圧巻です。
「正義感」や「自己保身」といった複雑な心理が、説明過多な台詞ではなく、視線の交差や一瞬の「間」によって表現されています。読者は、彼らを安易に裁くことはできません。むしろ「あの時、自分ならどう振る舞ったか」という、かつての自分への問いを突きつけられるはずです。
また、教師や保護者といった「大人」の描き方も非常にシビアです。
彼らは決して全知全能の救済者ではなく、時に無力で、時に決定的な見落としをする。その「大人の不完全さ」が、物語を単なるフィクションに留めず、現実の社会と地続きのリアリティを与えています。
決して、爽やかで心地よい成長譚ではありません。
読み進めるには少しの覚悟が必要ですが、読後には「砂をジャリっと噛んだような」えも言えぬ感覚が残ります。
人間ドラマの深淵をのぞきたい方、そして、かつて「教室」という名の戦場にいたすべての大人に捧げたい作品です。2026年04月02日 -
とある連続ドラマでの共演を機に出会った、若き俳優たち。
美貌だけで注目される麻生涼平、実力でのし上がろうとする柘植一慧、美しすぎるがゆえに生きづらさを抱えるミコト、二世俳優として業界を冷徹に見つめる高屋敷華。
全くタイプが異なる4人は、芸能界という残酷で華やかな場所で、「才能」という正体不明の怪物に翻弄されながら、それぞれの人生を歩み始めます。
描くのは『大奥』『きのう何食べた?』など、数々の名作を世に送り出してきたよしながふみ先生。
今作も先生の真骨頂というべき、派手な成功譚に終始しない、人の内面に深く潜り込む濃密な群像劇として展開されます。
タイトルにある「Talent」は、才能や才能ある人を指す言葉ですが、本作が描くのはその輝きだけではありません。「才能」という呪縛が、人の生き方や関係性にどのような影を落とすのか。その残酷なまでの過程が、淡々と、しかし鋭く描き出されます。
舞台設定が2000年代初頭である点にも注目です。
SNSが普及しきる前、テレビや芸能事務所の影響力が絶対的だった時代の空気感が、物語のヒリついたリアリティを支えています。
登場人物たちは、善悪や成功・失敗といった単純な軸では描かれません。野心的で計算高い人物もいれば、無自覚な存在感によって周囲を揺さぶってしまう人物もいます。
誰かを断罪することなく、それぞれの「業(ごう)」を静かに見つめるよしなが先生の筆致は、あまりに冷静で、だからこそ圧倒的な読み応えがあります。
本作は「才能の有無」に答えを出す物語ではありません。その問いを抱えたまま、人はどう歳を重ね、生きていくのか。
次第に変化していく4人の関係性と、その果てに辿り着く景色……。
一筋縄ではいかない、螺旋階段のような人生の妙味を、ぜひじっくりとご堪能ください。2026年04月02日 -
高校生の真山と佐山は、幼いころから何をするにも一緒のニコイチ幼なじみ。
同じクラスで、同じ帰り道。当たり前のように隣にいる関係でしたが、最近なぜか佐山が周囲からモテ始めます。その小さな変化に対し、真山の胸には正体のわからない違和感が芽生え始めて…。
友情か、それとも。転がるように変わっていく二人の関係を、静かな日常の中で描いた等身大の青春ストーリー。
今作は幼なじみという近すぎる関係性が、少しずつ形を変えていく過程をとても丁寧に描いています。
劇的な事件が起きるわけではありません。
派手さはありませんが、だからこそ読者の心に、彼らの鼓動がダイレクトに伝わってきます。
とにかくふたりの距離感のリアルさにとにかく注目していただきたい!
長年一緒にいたからこそ生まれる安心感と、失ってしまうかもしれない不安が同時に描かれており、そのバランスが絶妙です。
しかし、ふとした視線の向き、会話の「間」、何気ない一言。その一つひとつに、言葉にできない感情が宿っています。
どちらかが一方的に情熱的になるのではなく、少しずつ気持ちが形を成す…その「途中」をしっかり見せてくれます。
さらに、関西弁を活かした会話のテンポの良さ!
軽快なやり取りに思わず口角が上がりますが、その明るさがあるからこそ、ふとした瞬間の沈黙や、熱を帯びた表情の変化が痛いほど鮮明に響くのです。
笑っていたはずなのに、気づけば胸がぎゅっとなる――その落差こそが本作の醍醐味です。
また、想いが通じ合ってハッピーエンド、で終わらせないのもポイント。
「恋人になったあと」に押し寄せる不安や戸惑いまでを、逃げずに描ききっています。関係が変わったからこそ生まれる新しい「揺れ」を共有する二人の姿には、愛おしさで胸がいっぱいになるはずです。
読後、二人の時間をもう少しだけ、いつまでも眺めていたくなる。
そんな幸福感をくれる作品です。2026年04月02日 -
戦国の世。
美貌と色香を武器に、数々の女を篭絡してきた「男くノ一」、篝火。
彼に課された新たな任務は、敵国の巫女・竜胆姫を一夜で落とすこと。
「恋を嘯き、愛を騙る」──それが篝火の流儀。
しかし、今回ばかりは勝手が違いました。
小さく可憐な竜胆姫に、逆に翻弄されてしまう篝火。
恋に落とすはずが、落とされたのは自分──!?
そんな“ホコタテ構造”から始まる、笑えて切なくて、そしてとびきり美しいラブストーリー!!
篝火は、天下一の美貌を持つ忍。
その顔立ちは、女だけでなく男も惚れるほど。
任務のためなら恋も嘘も使いこなし、冷徹にターゲットを落としてきたプロフェッショナルです。
そんな彼が、今回の任務で出会ったのが竜胆姫。
小柄で可憐、どこか儚げな雰囲気をまとった巫女。
「こんな子なら、すぐに落とせる」と思った篝火でしたが、彼女の天然さ、肝の据わった言動、そして時折見せる“イケメンすぎる”振る舞いに、逆にキュンとしてしまうのです。
その姿が、かわいすぎます!!
竜胆姫は、普段は冷めた表情で、すべてを諦めているような雰囲気を漂わせています。
しかし、篝火と話す時だけ、ふと見せる可愛らしさがたまらない!
そのギャップに、読者も篝火と同じように心を奪われてしまいます。
そして何より印象的なのが、龍神の力を使った時の竜胆姫。
その瞬間、彼女は可憐さを脱ぎ捨て、まるで武人のような男らしさを放ちます。
その姿は、まさに“かっこいい”の一言。
「ある意味魔性の女なのでは!?」と感じてしまうほどの魅力が、彼女にはあります。
恋を武器にする篝火(矛)と、天然で無防備な竜胆姫(盾)。
しかし、盾だと思っていた竜胆姫が、実は最強の矛だった──という逆転劇が、物語を面白くしています。
今作を描くのは『月読くんの禁断お夜食』や『青春しょんぼりクラブ』のアサダニッキ先生。
繊細な絵柄と些細な心情変化の描写が秀逸です!
コミカルさとシリアスとのバランスが絶妙で物語にメリハリがあるところも流石…!!
キャラクターの表情、間の取り方、セリフの余韻──すべてが丁寧に描かれていて、読者を物語の世界に引き込みます。
この作品の最大の魅力は、なんといってもギャップです。
色仕掛けのプロでありながら冷淡な篝火が竜胆姫に翻弄されて可愛くなる姿。
可憐で天然な竜胆姫が、男らしくかっこいい!
任務としての恋から、本物の恋へと変化してく様。
とにかくギャップが満載。
読者はそのギャップに何度も驚かされ、何度も笑い、何度もキュンとさせられます。
恋に落ちる瞬間の“春雷”を、ぜひその目で確かめてください。2025年10月30日 -
大学進学を機に上京した初帆(はつほ)。
新生活に胸を躍らせる彼女の隣人は──なんと中学時代に気まずい別れ方をした、人生唯一の「元彼」・頼(より)くんでした!
「――だから早まんなよ。勝手に他の奴と付き合うな」
再会早々、頼くんの猛アタックが炸裂!
ちょっと偉そうで、ちょっと強引。でも、かっこよくて、憎めない。
そんな“難あり(!?)元彼”との再会から始まる、じれったくて甘酸っぱいラブコメディ♪
この作品の最大の魅力は、なんといっても頼くんの“可愛さ”。
見た目はイケメン、頭も良くてハイスペック。だけど、初帆の前ではちょっと不器用で、完璧でいたいがゆえに空回りする姿が、もう…かわいすぎます!
・初帆の前ではかっこいい自分でいたいから、完璧に振る舞おうとする。
・でも、好きすぎて空回りしてしまう。
・初帆のことをずっと好きでいてくれている一途さ。
・時々見せる素直な表情や、照れた顔。
そんなギャップがたまらなく愛おしい。
「自分のことをずっと好きでいてくれる男子って、女の子の憧れだよね…」と、思わず口にしてしまう読者も多いはず。
初帆は、頼くんの猛アタックを回避しつつも/ブロックしながらも、過去の思い出や今の距離感に揺れ動きまくり。
「もう終わったはずの関係なのに、なんでこんなに気になるの?」
「好きだったけど、今はどうなんだろう…?」
そんな初帆の心の動きが丁寧に描かれていて、読者も一緒に悩み、ドキドキしながらページをめくることになります。
頼くんは、初帆とやり直すために必死です。
過去の失敗を悔いて、今度こそちゃんと向き合いたい。
その姿勢が、ただのラブコメでは終わらせない深みを作品に与えています。
「やり直す」って、簡単じゃない。
でも、好きだからこそ、もう一度向き合いたい。
そんな頼くんの真っ直ぐな気持ちが、読者の心にじんわりと染みていきます。
ぜひ、あなたも頼くんの猛アタックに落ちてみてください。2025年10月30日 -
あの時産んでいたら…。
産むという選択肢がない。
結婚と出産は当たり前?
離婚して3年の元夫と再会した弓井祐里(ゆみい ゆり)を中心に、子どもを持つ・持たない・持てないというテーマが交錯し、「母」であることと「私」であることの間で揺れる女性たちを描くオムニバス作品。
この物語は序盤から様々な気づきを与えてくれつつ、心にそっと寄り添ってくれます。
その中でも特に心に残ったセリフをご紹介します。
最初に心を掴まれたのは、取引先との挨拶で偶然再会した元夫・佐藤慶介に対して、弓井が放った一言。
「離婚した人に言う定番の挨拶ってないですよね」。
ハッとしました。
確かに「結婚」なら「おめでとう」と言えるけれど、「離婚」に対しては、何をどう言えばいいのか迷ってしまう。結局、「お疲れ様」か「そうなんだ」で流してしまうことが多いのではないでしょうか。
次に印象的だったのは、大学の研究生である祐里の妹・夏里が、友人たちと結婚や就職など将来について語り合う場面。
「子どもはいないけど主婦になるって“あり”なのか“なし”なのか?」という話に対して、友人のひとりが言った
「私たちは何に許されたいんだろうね」
という言葉が、胸に深く刺さりました。
子どもを持つこと、持たないこと。結婚すること、しないこと。
その選択は人それぞれで、どれも間違いではないはずなのに、自分の選んだ道に対して「これでよかったのか」と問い続けてしまう。そんな思いを抱えている人は、きっと少なくないでしょう。
祐里の物語だけでなく、作品にはさまざまな立場の人々が登場します。
・もっと仕事がしたいのに育児に追われ仕事がままならない女性
・子持ち社員の仕事を肩代わりすることが多い女性
・ゲイであるため「結婚」という制度に縁がない男性
・結婚も出産もまだ想像できない20代女性
・子どもができず離婚し、ひとりで生きることを選んだ高齢女性
それぞれが何を選び、何を諦め、何を抱えて生きているのか。
読者はきっと、どこかに「自分ごと」として感じられる瞬間を見つけられるはずです。
そしてこの作品の魅力は、感情を過剰に煽ることなく、静かに心に染み入るような“余白”があること。読んでいて、安心できるのです。
読後には、きっと「自分はこれでいいんだ」と思えるのでは。
タイトルの『元気でいてね』は、登場人物たちが誰かに向けてかける言葉であり、読み手にとっては誰かへの祈りであり、自分自身への優しい願いでもあるように感じます。
人生の選択に迷いながらも、自分らしく生きようとするすべての人に、そっと寄り添ってくれる作品です。2025年10月30日 -
「やっぱ普通じゃつまんねぇんだわ。」
主人公の名前はミナミ。高校3年生。
彼女は、ある日突然“超能力”に目覚めます。
中学・高校でのデビューもパッとせず、味気なかった青春。
そんな彼女の毎日は、サイキックの発動によって少しずつ色づき始めるのです。
少しぎこちなくも周囲を巻き込み、時には能力も使いながら、やり残した青春を取り戻していく。
これは、サイキック発動系ヒロインによる“能力無駄遣い微青春譚”!
「何者かに成りたい」──
人生で一度でも、そう思ったことはありませんか?
この問いに、真正面から向き合う少女がいます。
それが今作の主人公ミナミ。
ミナミは、一見どこにでもいるような女子高生。
ワクワクして挑んだ中学・高校でのデビューもパッとせず、人見知り故に新しい友達もできず静かに過ごす日々。
でも、心の奥ではずっと思っていたのです。
「普通じゃつまんねぇんだわ」
「何者かになりたい」
「特別になりたい」
まさに10代の衝動!!
そんな彼女が、ある日突然サイキック能力を発動させます。
それはまるで、現実逃避の延長線上にある“進化”のようなもの。
ミナミはそれを「逃げ」ではなく「可能性」として受け止めるのです。
ミナミの現実逃避能力の高さは、教師や大人からすれば「現実を見ろ」と言いたくなるような危うさを孕んでいます。
しかし、周囲を見て空気を読み、「いい子」であろうとしてきた同級生たちからすれば、そんな穢れなき思想でいられるミナミのピュアさは、むしろ羨ましく映るのではないでしょうか。
彼女は、社会の枠組みにまだ完全には染まっていない。
だからこそ、夢を語れる。
だからこそ、無茶ができる。
そして、だからこそ、読者の心をくすぐるのです。
物語の中で、ミナミは漠然と「NYに行ってみたい」と語ります。
このセリフは、彼女の“何者かになりたい”という願望の象徴でもあります。
「NYに行きたいか」と言えば、思い出すのは『アメリカ横断ウルトラクイズ』。
当時、高校生は出場不可だったこの番組。
そう考えると、現役高校生であるミナミがNYに行きたいと言うことは、叶わない夢を語っているのでは?と勘ぐってしまいます。
そんな彼女は超能力を手に入れ、進化系高校生となります。
でも、ミナミ自身は何も変わっていない。
立場や環境が変化しても、自分の本質は変わらない。
それは、ある種の強さを必要とする生き方です。
「特別な能力があるからといって、特別な人間になれるわけじゃない」
この作品は、そんな逆説を描いているのではないでしょうか。
物語の中盤、ミナミの衝撃の過去が明かされます。
彼女は小学生の頃、一時行方不明になり、戻ってきた時にはすべての記憶を失っていたのです。
過去がないからこそ、未来に夢を見る。
記憶がないからこそ、今を全力で生きる。
ミナミの行動には、そんな切実さが込められているのです。
今作はやり残した青春を取り戻す物語です。
それは、過去の自分との対話であり、未来の自分への挑戦でもあります。
「特別でありたい」と願っても残念ながら平凡で、超能力があっても状況は変わらず…。そんな現実にぶつかりながら少しずつ前に進む。
そんなミナミの姿はどこか気恥ずかしくて、でもエモい。
そんな感情が、ページをめくるたびに胸に広がっていきます。
ミナミを取り巻くキャラクターたちも魅力的です。
彼女の突飛な行動に振り回されながらも、どこかで応援してしまう仲間たち。
彼らとの掛け合いはテンポが良く、笑いと切なさが絶妙に混ざり合っています。
この作品は、ただのSFでも、ただの青春マンガでもありません。
それは、“自分らしく生きる”ことの尊さを描いた、微青春譚なのです。
今後の展開に期待しかありません!!2025年10月30日 -
バレーボールマンガには名作が多く存在します。
それぞれが競技の魅力と共に、青春、葛藤、成長を描いてきました。
そんな中登場した今作『ディグイット』は、
「才能がすべてなのか?」「努力は天才に勝てるのか?」
この永遠の問いに、真正面から挑む物語です。
主人公・獅子谷岳(ししや がく)の父・慧(けい)はバレーボール元日本代表のエース。
そんな父は「生まれ持った才能こそ至高」と信じる男で、息子にもその道を歩ませようとします。
しかし彼が「本物の天才」と認めたのは、ガクではなく、彼の中学時代のチームメイト・ノボル。
慧はノボルに惚れ込み、「彼を日本一の選手にする」と宣言し、彼の進学先である穂高学園高校の外部コーチに就任します。
父から期待のハシゴを外され自身の才能を否定されたガク。
彼は絶大な存在である父と決別し、自身を活かせる可能性のあるリベロの道を選んだのでした。
父親が圧倒的であればあるほど、子供にとってその存在は重圧であり、呪いになります。
しかもその父が自分ではなく他人に才能を見出したら──。
その子供は、解放を喜ぶのでしょうか?それとも対抗心を抱くのか?はたまた絶望するのか…!?
ガクの本当の思いはどれだったのでしょうか…。
この設定だけで、すでに物語はアツい!!
ガクは、父と同じアタッカーの道を捨て、リベロという守備専門のポジションを選びます。
リベロは、どうやっても自分で点を取ることはできない。
スパイクもブロックもできない。
しかしチームの守りを支える“盾”として、試合の流れを左右する存在です。
この選択には父への反抗心もあったでしょう。ただの反抗心だけではただの小さな存在で終わってしまいますが、そこで収まらないのが、ガクの凄いところ。
誰かに才能を見出されるのではなく、自分で自身の才能を掘り出し、磨いたガク。
その姿は、天才よりもよっぽど凄いのではないでしょうか。
高校でガクが出会うのが、アウトサイドヒッター・百田葵(ももた あおい)。
練習を通じてお互いにその実力を認め、やがて信頼を寄せるようになります。
リベロにはどうしてもアタッカーの存在が必要。
点を取ることができないからこそ、攻撃の要と連携することでチームに貢献できる。
アタッカーであることを辞めたガクが、アタッカーである百田と手を組む──。
この展開が、読者の心を大きく揺さぶります。
「絶対的なリベロ」と「最強のヒッター」が組んだらどうなるのか。
そこに生まれる絆と今後の関係性に、注目せずにはいられません。
ガクは進学した静岡 羽海野高校バレー部で個性豊かな仲間たちと出会います。
彼らとの関係がリベロとしての技術だけでなく、人間としての成長に繋がっていき、物語はより深みを増していくのです。
「才能がないからこそ、可能性を伸ばす」
「目立たないからこそ、支える力がある」
そんなメッセージが、読者の心に深く刻まれます。
さらに、
「目立つ道を選ぶのではなく、自分に合った道を選ぶ勇気があるか?」
「才能がないと感じたとき、諦めるのではなく、別の可能性を探す覚悟があるか?」
この問いは、年代問わず深く刺さるはずです。
バレーボールという競技を舞台に、父と息子、天才と凡才、攻撃と守備──あらゆる対立構造を巧みに織り込みながら、読者の心を激しく揺さぶる、今、最も熱いスポーツマンガと言えるでしょう。2025年10月30日 -
海辺の町で祖父・勝臣(かつおみ)と共に銭湯「柿の湯」を営む高校生・柿内遼馬(かきうち りょうま)は、静かで穏やかな日々を過ごしていました。
ある日、銭湯に少年・柴崎玲臣(しばさき れお)が遼馬の父に会いたいと訪ねてきます。玲臣は、蒸発した母から聞いた話を頼りに、父と思われる人物を探してこの町にやってきたのです。
しかし二人の父はすでに亡くなっており、玲臣は迷惑をかけまいとその場を後にします。そんな彼の姿に心を動かされた遼馬は放っておくことができず、共に暮らすことに。
銭湯を舞台に正反対な兄弟が繰り広げられる青春群像劇!
物語の中心となる銭湯は、古き良き時代の面影を残し、地域の人々に愛され続けている場所。湯気の立ちのぼる空間には、窓から見える海の景色と、どこか懐かしく温かな空気が流れており、なんだかほっとできます。
遼馬も玲臣、クラスメイトも、それぞれに複雑な家庭の事情を抱えながらも腐ることなく、まっすぐに生きようとする姿が印象的です。彼らは未成熟ながらも現実に向き合い、少しずつ自分の居場所を見つけていきます。その姿に心がじんわり温かくなるのです。
そして、遼馬の祖父・勝臣の存在がまた素晴らしい。
彼は、厳しさと優しさを併せ持ち、言葉少なくとも深い愛情で孫たちを見守る理想的な大人として描かれています。こんなふうに年を重ねたい、と思わせてくれるような、静かで力強い魅力があります。
今作は「家族」がテーマになっておりますが、「血縁」よりも「関係性」に重きを置いており、玲臣が本当に遼馬の父の子なのかは、物語の核心ではありません。重要なのは、彼らがどう向き合い、どう受け入れ合うかという部分で、「家族とは何か」という問いに対して、作品は「選び取るもの」としての家族像を表現しているのではないでしょうか。
またセリフのひとつひとつが自然で、コマ割りのテンポも絶妙。特に、遼馬と玲臣が銭湯の掃除をするシーンは、言葉がなくとも胸に迫るものがあり、二人の関係の変化を静かに、しかし確かに感じさせてくれます。
人と人との関係性が心地よく、押しつけがましさのない距離感が、読者に安心感を与えてくれる。静かながらも力強い、心に残る物語をご堪能ください。2025年10月30日 -
高校1年生の久藤ゆゆは、入学早々、部活紹介で見た応援団のパフォーマンスに衝撃を受けます。
力強く、真っ直ぐで、何よりも“誰かのために声を出す”姿に心を打たれたゆゆは、即座に応援団への入部を決意。
仮入部の段階で一緒になったのは、同じクラスの狐塚(こづか)くん。
彼は、無愛想で口数も少なく、クラスでもちょっと浮いた存在。
「なんでこの人が応援団に?」と疑問を抱きつつも、ゆゆは彼とともに応援団の世界へ足を踏み入れていきます。
部活マンガといえば、運動部や文化部が定番ですが、『エールガール!』が描くのは“応援団”。
応援団といえば、学ラン姿で声を張り上げる男子のイメージが強いかもしれませんが、本作では女子高生がその世界に飛び込んでいく姿が斬新です。
最初はただ「かっこいい!」という憧れから始まったゆゆの応援団生活。
同級生の狐塚くんはそんな彼女のミーハーっぽさが鼻につくとぶつかってきます。
しかし本気で取り組むほど「応援」に魅了されるゆゆ。その熱意が彼に伝わり、関係が変化していくのです。
放課後ふたりが一緒に練習するシーンのエモいこと!!!
これぞ青春!!と言わざるをえません。
ゆゆが初めての大舞台である体育祭で本気のエールをするシーンは、彼女の覚悟と思いと努力がひしひしと伝わってきます。
ただの憧れから次第に自分自身の殻を破り、誰かのために立ち上がる力を手に入れてゆく姿に感動するのです。
ゆゆの成長は、まっすぐで、時に不器用で、とても誠実。
その姿に、読者はきっと「自分も誰かの背中を押したい」と思うはずです。
応援されるのも嬉しいけれど、応援することで、自分自身も強くなれる――。
そんな“熱”がまっすぐに伝わってきます。
青春の応援歌のような作品です。
2025年08月13日 -
物語の主人公は、貧しい山岳地域から王都へと下りてきた青年・ラジャン。
彼は、“御瞳(みどう)”と呼ばれる占いで国を導く少女・アムリタを、王都での襲撃から救ったことをきっかけに、王宮の陰謀と悪政に巻き込まれていきます。
アムリタは、未来を視る力を持つ少女。
王宮の腐敗に苦しむ民を前に、何もできずにいた彼女は、ラジャンの中に「王の器」を見出します。
しかし同時に、彼の命が残りわずかであることも視てしまうのです。
「余命1年の青年」と「先見の能力を持つ少女」。
ふたりは、王宮の悪政に立ち向かうため、命を懸けた戦いに身を投じていきます。
これは、運命に抗う者たちの物語。
そして、国を救うために選ばれた“バディ”の物語です。
主人公のラジャンは、自分の命が短いことを知りながらも、誰かのためにそれを使おうとします。
毒蛇に噛まれた幼い王子を自身も噛まれながらも救うという、向こう見ずな部分はありますが、身を挺してでも弱き者を守ろうとするその覚悟が、行動が胸を打ちます。
一方腐りゆく国を良くしたいと思いつつも自身は国のシンボルであって決定権はないというジレンマを抱えているアムリタ。
彼女は不老にして不滅の体と未来を視る力を持ちながらも、今を生きることに迷いを抱えています。
ふたりの姿は読者である我々に「自分だったらどうするか?」という問いを投げかけてきます。
アムリタが過ごす国はかつて栄えていたものの、官僚たちが権力を握り我が物顔をするようになっていました。民がいくら嘆き救いを求めても全く意に介さない王宮…。
本作は命の限界を知る青年と、彼に王の器を見出した少女が、“国”という大きなものに立ち向かう物語です。
しかし、読んでいると気づくのです。
この物語が描いているのは、国ではなく「人」なのだと。
誰かを守りたい、誰かに託したい、誰かと生きたい―。
そんな想いが、ページの隅々にまで込められています。
「命をどう使うか」
その問いに、静かに、でも確かに答えてくれる物語です。
2025年08月13日 -
秋山恒星(あきやま こうせい)、小学6年生。
野球、サッカー、勉強――どんな分野でも他を圧倒する「神童」として名を馳せた彼は、次なる挑戦として囲碁の世界に足を踏み入れます。
しかし、彼を待ち受けていたのは、彼の才能すらも凌駕する“5人の天才”たちでした。
圧倒的な敗北。
初めて味わう挫折。
自分には才能がないと思い、囲碁から遠ざかってしまうのですが、高校生になった恒星は、偶然の再会をきっかけに再び碁盤に向き合うことに。
かつての自分を超えるために、あの5人にリベンジするために…彼の執念の物語がはじまります。
囲碁のルールはご存知ですか?
正直、私は知りませんでした。ですが、ルールが解らずともぐいぐい物語に引き込まれますし、恒星の思いが胸に刺さります。
かつて神童と呼ばれた少年が圧倒的な才能に打ちのめされ、自身が何者でもなかったと思い知り、そこからの再起をはかる物語かと思いきや、この物語は若干異なります。
囲碁教室で働く岡野環(おかの たまき)の言葉を借りるのであれば
「日本トップクラスの野球の才能を持つ少年が入った近所の野球教室に大谷翔平が5人いたら、その少年は自分に野球の才能がないって思うんじゃないかな」
恒星自身も決して凡人ではなかったというところに注目していただきたい。
そうなんです、恒星にも決して囲碁の才能がない訳ではなく、才能があった。
しかし、周りにそれ以上の存在がいた…!!ということ。
天才が天才であることを知らしめるためにリベンジをはかる物語なのです!!
スーパーサイヤ人しか出てこない物語じゃないか!! 思わずツッコミを入れたくもなります。
傲慢で自信家だった少年が、敗北を経て謙虚さと覚悟を身につけていく姿は、まさに“主人公の王道”。
彼の目に再び火が灯る瞬間は、鳥肌ものです。
さらに、囲碁の静けさと対局中の心理戦の激しさを、人物の表情や大胆な構図で描いており、試合中のシーンは圧巻です。
かつて彼を打ち砕いた5人の少年少女たちがどういった囲碁スタイルと背景を持っているのか、次は誰と闘うのか!? 気になります!!
恒星はあの頃の無敵感をもう一度取り戻すことができるのか!?
まさに囲碁マンガの新境地! 静かなる熱狂をご堪能ください。2025年06月30日 -
花沢ののか、18歳。
田舎から上京してきたばかりの女子大生。夢見がちで、恋に“きゅん”を求める彼女が向かったのは、お笑い芸人として活躍する兄の家。そこで待っていたのは、兄の相方・渡良瀬純太(わたらせ じゅんた)。
なんと兄は元々相方とルームシェアをしており、ののかと3人で暮らすことに!!
しかも渡良瀬は、女の子大好き、距離感ゼロ、500人斬りの噂まである“とことんクズ”な男。
軽い言葉、甘い笑顔、そして絶妙なタイミングでのボディタッチ。ののかは警戒しながらも、渡良瀬の魅力に少しずつ心を奪われていきます…。
ガチ恋禁止のはずが、心はどんどん渡良瀬に惹かれて…。
恋してはいけない相手との、危険で甘い同居生活の始まり!!
少女マンガのヒーローには様々なタイプがいますし、芸能人とのLOVEを描いた作品にも名作が多数あります。人気俳優、イケメンアイドル、俺様バンドマン、キラキラインフルエンサー…。ですが今作はお笑い芸人!! しかも爆モテのチャライケメン!!
そんな芸人・渡良瀬のキャラがとにかく強烈です。
女好きでチャラいのに、どこか憎めない。ののかとの掛け合いは、笑えて、ドキドキして、時に切ない。読んでいて「こんな男、絶対ダメ!」と思いながらも、ののかと一緒に惹かれてしまう不思議な魅力があります。
時折見せる優しさや真剣な表情がズルい! 普段はおちゃらけているのに、突然真剣なまなざしになったり、無邪気に笑ったり、照れたり…。そのギャップにやられる読者多数ではないでしょうか。
彼の本音が少しずつ明かされる展開も見逃せません!!
兄からの紹介で撮影現場で働くことになったののか。渡良瀬の漫才師としての本気を目撃し、顏だけではない彼の姿に、これは沼るしかないよね…!!と納得の展開。
それでも必死に抗おうとするののかが可愛らしい。
好きになっちゃダメな人を、好きになってしまったときの、心のリアルに魅了されます。
渡良瀬の魅力に抗えないののか。
ののかの純粋さに揺れる渡良瀬。
2人の距離が縮まるたびに、読者の心も“きゅん”と震えること間違いなし!
ぜひ、あなたの推しに加えてほしい作品です。2025年06月30日
