あらすじ
「俺は、あなたの友人になりたい」
自身の過去にまつわる昔話を始めたトウカ。その口から語られたのは、死者としてやってきた虚の水路での、不思議な案内人との出会いだった――。
自覚なき死者の生きる国“終端街”へようこそ――。
結月さくらがいざなう、想い絡み合うヒューマン・ファンタジー。
(第16話収録)
事故で命を落としたトアが出会ったのは、昇降機守を自称するトウカ。
死者の乗降場でたくさんの人を見送ったという彼は「自分の背負ってきたものと向き合えなかった者は人ではなくなる」とトアに話すが…。
トアの後悔に寄り添うトウカの言葉に胸を打たれました。
そんなトウカが探し続けている友人はどんな人物なのか、トウカにとってどのような存在だったのか…。
トウカの言葉の節々からその友人への尊敬と執着を感じ、ますます気になってしまいます。
そして、昇降機が"生える"不思議な世界観に思わず惹きこまれました。
死者の国を舞台に、どこか冷たい雰囲気がありながらも、そこで生きる人たちの温かさも描かれており、何度でも読み返したくなる作品です!
感情タグBEST3
優しい神話
この頃からトウカさんは感受性が豊かで繊細で、優しい人だったんですね
スープを食べ損ねた事が未練なのも、一人で食べるのは味気ないと二人分のスープが出て来るのも、一緒に食べようと友人さん(この時点では「男」「渡し守」という扱いかもしれませんが)を誘うのも、今の、トアさんやナガツキさん、終端街の人達と過ごすトウカさんに繋がる優しさを感じて、トウカさんのオリジンに触れるお話を読む度にトウカさんが好きになります
掘り下げれば掘り下げるほど、他人の辛さや寂しさに寄り添うことのできる優しい人で、他人のためにその身を尽くしてしまえる人がトウカさんなのだ、と……
トアさんがトウカさんに案内されたように、トウカさんも友人さん(黒いフードの男)に案内された過去があったのだと知って、そこで大多数の死者と同じように終端街に進んだり、あるいは虚の水路で終わることを選んだりもせず、「あなたの友人になりたい」で虚の水路に残ることを選ぶところが、トウカさんの他人とは一線を画す部分で、だからこそトウカさんはトウカさんなのでしょうね
多くの人とは何処か感性が異なり、大抵の人なら選ばない方法を選んでしまえる……これを「特別」というべきか、「異常」というべきか……表現に悩むところですが、トウカさんがこういう唯一無二の人だから渡し守さんと一緒に居られたんだろうな、と思います
そんなトウカさんと同じくらい、あるいはトウカさんとは別種の優しさを持っているのがこの渡し守の男さんで、終端街が作られるまでどれだけの優しさが注がれたのかと思うと、渡し守さんのことも好きになってしまうのですが……!?
この過去からどうして今の終端街になってしまったのか……!
「終端街に行かないことを選択してもいい」と言っていたのに、今の終端街――虚の水路ではなく昇降機で辿り着く仕様になった終端街――では、昇降機に乗れなければ、執着や後悔に足を止めてしまえば、「人ではなくなる」というシステムになっていて……色々と気になって、1話から読み返しては唸っています。
つい、つらつらと物語のことを書いてしまいましたが、背景の「黒」の静けさや、黒と白だけで描かれる水面の表現が美しくて好きです
精巧な版画を見ているみたいで、一コマ一コマが一枚の絵として完成度が高くてすごいです
紙の単行本で欲しい……!!物理で欲しい……!!という欲が出ます
匿名
トウカさんの過去の話。
彼が終端街を作った理由について、とても共感しました。
それから、終端街に来る人に関しての謎が解けて、なるほど!となりました。
基本はそっちなのか!
トアちゃんが元の姿と名前のままなのは、さなちゃんに会いたかったからなんですね。
トウカさんになる前の彼も優しい人だったんだなと思いました。
世界にはまず黒があった。
トウカの語られる過去は、真っ暗な水路の世界。でもその旅路はこれまでの彼を肯定してくれて、これからの彼を肯定しようとする道のりだった。
真っ暗世界でも水の音や船の音、人の声がして、温度がして、恐ろしさはなく、寂しさもなく。そのなかで温かいスープを一緒に飲むことのよろこび。会話を交わすことの楽しさ。トウカがスープを提案してその味を共有した流れは造られた体験だったけれど、渡し守の去り行く者への想いの在り方があったから二人で出来た行為だったんだなと思う。
世界にはまず黒があった。空の色だ。影の色だ。墨の色だ。君の色だ。
古代エジプトでは、黒はナイル川から湧き出る黒土から連想される、豊穣と再生の色だ。
黒と白の世界が温かいことに気付く一話。
はじまりのスープの味以外で例えるなら、グラオン豆(ひよこ豆)を使った小さなタルト、パステイシュ デ グラオン。
熱を通したあまい香り。手のひらに灯る熱のかたち。臓腑に染み入る素朴な味。
思い出を指折り数えたくなる味。