成川裕子のレビュー一覧
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中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。
事件そのものは『遮断地区』特に強く感じられるのだが、時代性と社会性を背景にした骨太のものながら、庶民的な個の感情をベースに人間ドラマをひねり出し、心理の深層を描くことにおいて特に叙述力に秀でた作家なのだと思う。
本書はミネット・ウォルターズとしては最もページ数を費やした大作長篇であるのだが、種火は西アフリカ、シ -
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ネタバレイギリスの地方の街で起こった少女の失踪事件を追うミステリーとその事件を受けてパニックに陥る別の街を描いた融合的小説。
ベースとしては小児性愛者への偏見がテーマとして有、ミステリーサイドは王道的に小児性愛を利用する犯人を追及していく。
一方の街の事件は、そのテーマが前面に押し出され、パニック状態へ加速していく様、暴動を鎮めようとする主人公たちの善行、最後に失ったものの大きさと残ったものの大きさが見事に描かれている。
特に群像劇的に始まったアシッド・ロウの話は、思わぬ登場人物が主人公的に浮かび上がってきて、普段の行動とは異なる行動により人たるもののあり方を訴えているように思いました。
ページ数は -
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二つの風変わりな中編作品を収録した新ミステリの女王ミネット・ウォルターズの初の中編集である。序文は作者本人によるもので、そこで証されていることにより、ぼくは「風変わりな」と称したのである。
『火口箱』は1999年、オランダでのブック・ウィーク期間中、普段ミステリを読まない読書家を誘い込むために無償配布された掌編だそうである。
『養鶏場の殺人』は2006年イギリスのワールドブックデイにクイックリード計画の一環として刊行されたとある。普段本を読まない人に平易な言葉で書かれた読みやすい本として提供されたものであるらしい。
どちらも読書促進運動という目的をもって書かれた珍しい作品であり、 -
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ネタバレ中編のミステリー2編を収録。
「養鶏場の殺人」はミステリーというよりはホラーっぽい感じだろうか。
若い男女、人生にも恋愛にもあまりにも未熟なのに互いに「恋愛」を意識しあうも、理想や意思がかみ合わず、若すぎるゆえに相手に思いが伝わらない、相手を思いやることもできず、最後にはあまりにも悲しい結末が待ち受ける。。。
実際に起こった事件を小説化されたようです。二人の悩みや気持ちを真摯に聞いてくれる家族や友達が周りにいればこんな事件は起きなかったかもしれない。
それに、女の子の結婚への焦りや家族からのプレッシャーは万国共通なんだなぁ。。。そういう面ではエルシーに少し同情を感じてしまった。彼女のあまりにも -
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英国ミステリの女王ミネット・ウォルターズの新刊。
趣向のある中編2本です。
面白く読めました。
「養鶏場の殺人」は実話をもとにした作品。
クイック・リードという企画で、本をあまり読みつけていない人にも楽しんでもらえるような作品として書かれたもの。
1924年に実際に起きた殺人事件で、裁判で主張がわかれ、あのコナン・ドイルが疑義を申し立てたこともあるという。
エルシーという女性がノーマンという年下の若者に教会で出会い、声をかける。
親しくなった二人だが、ノーマンが失職、二人の将来には暗雲がたれこめる。
エルシーの性格にもかなり問題があったのだが‥
実名のままに経緯を手さばきよく描き、鬼気迫る -
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ネタバレ久々のミネット・ウォルターズ。安定感があるなあ。解説をみると、すでに読んだ『囁く谺』と『蛇の形』の間に発表された作品らしい。どうして邦訳が遅れたのかは、謎。さらに、『病める狐』と『蛇の形』の間に発表されたAcid Rowという未邦訳も。そして、2003〜2007年までに3作。その後は…ないのか??
地味だけど人間味のある、好感が持てる警官たちと、被害者・被疑者たちの様々な鬱屈、アンバランスな人間性の対比がくっきり。
所々に出てくる、シンプルだけど含蓄のある言い回し、文章にはっとさせられた。奇をてらわず、勢いだけもなく、地に足の着いた、そういう文章がぐっとくる。