多くの小説では、物語の中心となる人物やその性格というのがだいたい定まっていて、読者はその人物の視線、気持ちに寄り添いながら物語を理解していくというのが一般的な流れなのではないかと思いますが、本書は、そう言った意味ではちょっと普通ではない変わった構成をとっています。
例えば、次々に別の登場人物へと視点が切り替わっていくので、誰を中心に物語を理解すればいいのかわからない。しかも、出てくる登場人物がみなアクの強い性格付けがなされているうえ、視点が変われば印象もガラッと変わる始末で安易な感情移入すら拒絶されます。寄り添うべき視線が定まらないとういのがこれほど不安感を煽るものだとは思いもよりませんでした。そして、そのことが物語に息苦しいような緊迫感を与えて、先の読めない展開にもう夢中になってしまいました。
ただ、少し残念に思うのが、中盤以降にその緊張感がやや途切れてしまったように感じられることです。ストーリーは面白いし、後半も読みどころは多いのですが、前半のインパクトがあまりにも大きかっただけに、一気に読んだにもかかわらず、数日開けて続きを読んだ時のような少し醒めた印象を受けてしまいました。正直、謎と謎解きに拘らなければもっと面白くなったのでは?などと思ってしまいましたが、それじゃあミステリにならないですね (^_^;)
この物語は、無責任な噂や偏見といったものがテーマの一つになっているように感じられます。感想の最初に「視点が変われば印象もガラッと変わる始末で安易な感情移入すら拒絶されます」、などと書きましたが、そもそも安易な感情移入、表面的な印象や先入観に基づく勝手な理解こそ偏見そのものなのかもしれません。私の場合、最初は結構好きかもと勝手に肩入れしていた人物が、実はかなり非道い一面を持っている人間だとわかってちょっとショックでした。