大谷能生のレビュー一覧
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もしも、ジャズとりわけモダンジャズに興味を持ちながら「何やってるのかよく分からない」から今まで聴いてこなかったという方がおられましたら。あるいは、ジャズの歴史(ビバップに始まりモードに至る)を、それぞれを代表する音源を聴きつつ学びたいという方がおられましたら。さらに、グレゴリオ聖歌からMIDIまでのコード進行を軸とした音楽理論とその流れを体系的に学びたいという方がおられましたら。そしてなにより、菊地成孔は知っているが、その衒学的な文章に酔いしれたことがないという方。とりわけ、この本をこれまで読んでこられなかったという方。もしも、そうした方がおられましたら、今すぐ手に取ってご覧になってみてください。著者の強烈に憂鬱で官能的なブローはのっけからこのように、唐突に、始まります。
「東京大学でアルバート・アイラーがかかることは二度とないだろう」 -
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ネタバレバークリーメソッドとは、アメリカのバークリー音楽院で教えられている音楽理論。20世紀商業音楽の作曲、編曲に多大な影響を与えたと言われている。この本は、とにかく二人の講義内容、語り口が面白い。
『さて、商業音楽が発展する起爆剤っていうか、根本的なエネルギーは何か? それは今あるものに飽きるってことです。飽きなければ商業音楽は発展しません。えー、なぜソヴィエト映画はつまらないのか? 「飽きる」という市場原理をソヴィエト連邦が持たなかったからですね。誰も何も飽きない。という前提でソヴィエト連邦は国民に対する娯楽を国家が制作したわけですけれども、国民はそんなのにもう飽き飽きしながら、でも、「これは面白い!」と強制的に信じ込んで、飽き飽きしながらも楽しく観ていたという。えー、何言ってるんだかわかんなくなってきましたが(笑)、そんなことしているうちに国全体が潰れてしまいました(笑)。飽きる。飽きるので新しいことをしたくなる。皆さんもご存知な感覚ですね』(p.131)
『教養主義と近代っていう話についてもちゃんとやると本当に大変で、滅多なことは言えないんだけど。あの、要するに四つあるわけじゃない。「教養があるから、いい」、「教養があるから、ダメ」、「教養がないから、いい」、「教養がないから、ダメ」。これ四つとも嘘だからね。教養といい悪いはまったく何も関係なくて、教養のあるなしと、良し悪しはまったく関係ないってことは、すごく重要です。アート方面ではこういう問題を「アウトサイダー・アート」なんつって区分をつけたりしてるけど(…)無教養によって大胆になることはありますよね。で、教養によって臆病になることも起こるでしょ。んで、それぞれその逆もあると』(p.283-284)
(バークリーメソッドに対立する音楽理論、ジョージ・ラッセル著『リディアン・クロマチック・コンセプト』について)
『リディアン世界、リディアンを中心にして考えた世界においては、目的に到達しろっていう圧力がないから、抑圧がない。だから欲求不満がそもそも生まれない。すでに完成されている状態がまず設定されていて、人はそこで自由に運動できるっていう哲学が根本になっているんです。これはものすごい魅力的です。近代総体に対するアンチって言ってもいい。
近代っていうのは、われわれを欲求不満にして、欲望の発生装置を外部に求めて、街に出るとものが欲しくなって、家に引きこもると何もしたくなくなってしまう、っていうような(笑)、われわれを商業主義に飼いならされている家畜みたいにしてしまう側面を一面では持ってるのね。だから近代が悪いってわけじゃないよ。でもこれは近代の弱点でもあるし、悪い面と言われることも多い。それをこの本はズバッと突いています。欲望の無限循環を生み出すシステム、それが資本主義なんですけど、そんなんでいいの? とこの本は言っているわけです。
「反対にメジャー・スケールは『何かを成し遂げよう』と努力」する、と。「メジャー・スケールは常にその線上のどこかにたどり着こうとし、常に目標に到達し目標と一体になろうと努めています」。で、そんな発想ではダメだ、と。ここのつかみは強烈ですよね』(p315-316)
『完成しているから動かなくていい、ってなっちゃうと、それは非資本主義なんだけど、ま、非近代的にね、欲求不満も何もなく完全に満足された状態のまま、何かの違う事情によって、和声が進んだりメロディーが進んだりする、っていうのが、リディアン・クロマチックのコンセプトです』(p.317) -
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ついにでました。東大講義の後編です。
前回は歴史、今回はキーワードということで
大きく四つのキーワードをもとに書かれています。
1. ブルース ゲスト:飯野友幸
バークリーメソッドだけではうまく説明できない内容と、ラングメソッドの前段階として。
2. ダンス ゲスト:野田努
世界のダンスと、音楽とダンスの関係。
3. 即興 ゲスト:大友良英
即興のいろいろなことから派生する菊地氏と大友氏の対談のような、インプロビゼーション イン ジャパン(?)な話。
4. カウンター/ポストバークリー ゲスト:濱瀬元彦
バークリーに対するリディアンクロマチックコンセプトの秘教性と、ラングメソッドの概要紹介
この赤アイラーではバークリーメソッドでは回収できない最近の音楽の話をたくさんしていて、なおかつちゃんと理論づけて展開されてるので、とても面白いです。
でも本の帯には
「あんま簡単に僕らの話を信用しないようにね、いつも疑ってかかる精神はわすれずに。」
とあります。(笑) -
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ペリー来航からストリーミング・メディアに至るまでの、ニッポンの音楽が歩んだ150年を振り返るのが今回の本だ。
これだけ見ると学者によるアカデミックな本に思うがそうではない。評論家と批評・音楽活動をしている2人があるトークイベントで「最近は良い音楽批評の本がたくさん出ているよね」という会話から始まった本だ。
洋楽との出会いは幕末のペリーが1853年に来航したことがきっかけだった。久里浜に上陸したとき、軍楽隊による演奏が行われたそうだ。
演奏された曲は「ヘイル・コロンビア」や「ヤンキー・ドゥードゥル」などだそうだ。日本において初めて洋楽が演奏された瞬間だ。
今ではおなじみの「ドレミ」だが、導入しようとした明治時代には賛否があった。反対派をかわすために西洋の音律は日本のものと基本的に変わらないとアメリカ帰りの文部省・音楽取調掛で仕事をしていた伊沢修二が、1884年に「音楽取調成績申報書」を文部省に提出した。
NHK朝のドラマでジャズが流れている。その中には現在も現役サックス奏者として活躍している渡辺貞夫がいる。渡辺が影響を受けたものとして、FEN(Far East Network)という進駐軍のラジオ放送を取り上げている。
僕がジャズミュージシャンを志したのは、なんといっても宇都宮の少年時代に受けたアメリカのポピュラーソングとアメリカ映画の影響がものすごく大きかったと思います。(中略)特にラジオから流れてきたFEN放送(進駐軍放送)のジャズミュージックは、その中でも一番ヒップだったしね。
ちなみに当時、よくかけられていた曲は「ビギン・ザ・ビギン」、「センチメンタル・ジャーニー」だった。特に「センチメンタル・ジャーニー」は、インストゥルメンタルばかりで珍しいボーカルだったので、日本人の間で流行したそうだ。
レビューの役割について、音楽に限らず、評論の対象が分からなくなってきているし、読めないつまらないと2人は語っている。
SNSの普及で1億総評論家になる時代なので無理もない。
これから先の音楽がどうなっていくのか気になるなあ。