稲見一良のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
単調な生活や仕事に倦み、旅に出た青年。
何か新鮮な発見があるのではと旅に期待していた彼だったが、
金も底を尽き、心身ともに疲れて帰途につこうと思っていたとき、
河原で、拾った石に鳥の絵を描く不思議な男と出会う。
男の描いた絵に魅せられつつ、彼は眠りに落ちる。
そして、鳥と人間たちにまつわる六つの夢を見る――。
地方の新興都市のPR映画の最後のワンシーンである、
日の出の瞬間を撮影するために山でそのときを待つ若者。
肝心のタイミングがやってきたそのとき、
若者の目の前に、幻の渡り鳥が現れて――「望遠」。
猟に入った森で見かけた、見たこともないような
鮮やかな色彩の鳥を追って、隣村までやってきてしまったサム。
そこで彼が見た驚くべき光景――「パッセンジャー」。
密猟のスリルに憧れる初老の男と、パチンコ名人の少年。
不思議な友情で結ばれた彼らは、傲慢な金満家の敷地にある
通称“男爵の森”の獲物の総獲りを目論む――「密猟志願」。
脱獄し森に逃げた凶悪な囚人たちを追ってのマンハント。
追跡隊に駆り出された日系二世のケン・タカハシは、
囚人のうちの一人が、死にいたる病に冒されており、
死ぬ前に故郷を目指していると知って――「ホイッパーウィル」。
漁師の源三は、遠洋漁業の航海中に起きた火事によって
海に投げ出され、仲間ともはぐれ漂流するはめに陥る。
大海原を漂う源三の前に現れたのは、大きな船板にとまる一羽の鳥と、
板に頭をもたせて泳ぐ巨大な亀だった――「波の枕」。
鳥たちをおびき寄せるための、精巧に作られた木製の鴨、デコイ。
打ち捨てられていたデコイはブンタという少年に拾われる。
ひ弱に見えるブンタだが、野を駆ける生き生きとした様子や、
秘めた力強さを持っていることが次第にわかり――「デコイとブンタ」。
鳥のいる風景と、人間たちの生を切り取り、活写した六つの物語。
稲見一良の珠玉の短編集。
本選びの際の指標として重宝している「このミス」別冊版において
この20年の国内作品のランキングで第6位に輝いた作品。
そうでなければ稲見一良という作家を知ることはなかったかもしれない。
初めに言っておくが、これはいわゆる「ミステリ」ではない。
作品中にミステリ的な要素は一切登場しないのである。
なので、変な期待をして読まないほうが良い。
自分が勝手に抱いていた期待を裏切られただけで
その作品に対して悪印象を持つ方もいるようなので、
念のために注意を喚起しておく。
そんなジャンルなどといった些末なことはどうでも良い。
素直に読めば、この作品集を読んで、
楽しめない人間はまずいないだろうとさえ思える。
そのくらい、素敵な作品集である。
豊かな語彙によって鮮やかに描写される情景。
鳥や、猟についてはまったくの無知である私のような読者でも、
深い興味を抱かずにはおれなくなるような表現。
そしてストーリー展開も派手ではないが、
手堅く綺麗にまとまっており、余韻も深い。
分量の点では、「密猟志願」「ホイッパーウィル」が目立つため、
印象に残りやすいかと思うが、実はそのようなこともなく、
他の短い作品も、豊饒な魅力をたたえているのである。
物語を読む歓びとともに、素晴らしい文章を読む悦びも味わえる。
流行りの作品ばかりに手を出すのもいいが、
こういったものを見落とすのはあまりに惜しい。
そのように感じた一冊である。 -
Posted by ブクログ
かつてこの著者の「セントメリーのリボン」を私は年間ベストワンに推したことがある。それほどまでに、彼が書く小説は衝撃的だった。
稲見一良(いなみいつら)、1931年大阪生まれ。テレビCF、記録映画の記録製作などに携わり、84年肝臓がんの宣告を受けてのち、本格的執筆活動に入る。91年「ダック・コール」で山本周五郎賞を受賞。他著に「男は旗」「ダブルオー・バック」「ソー・ザップ」など。94年逝去。
稲見一良は10年生きた。何度も手術を繰返しながら、最後のほうの「鳥」などは原稿用紙一枚、ほとんど「詩」である。それでも男として生き切った。その足跡に痺れたのだと思う。最初の頃は正調ハードボイルドで、絶望的に終わるのが多かったという。ところが、私の読んだのはそこから転調した頃の作品だったと思う。ベースにハードボイルドをおきながら、内容を大人のファンタジーに変えているのである。
この短編集は最晩年の短編ばかりを集めている。本来ならば、もっと膨らませて長編なり、中篇なりにすべきプロットが、短いセンテンスのいかにもハードボイルドっぽい文章でまとめられている。そして私たちを最後のページで飛翔させておわるのである。
「オクラホマキッド」は、映画好きという共通事項で知り合った孤児のような少年と金持ちの老作家の交友が、ふとしたキッカケで「自衛隊から戦闘機を盗もう」という遊び心を持つようになり、それを真剣に実行に移す話だ。戦闘機はまんまと盗み出す。もちろん現実では、そのまま済む話ではない。けれどもこの短編は最後の一行でそれをファンタジーと化してしまった。
「可音、オクラホマに行くぞ」
「花見川のハック」はその可音をそのまま10歳の少年のハックとして登場させ、花見川を遊び場とする話である。川沿いにつくる秘密の隠れ家。アヤメとの出会い。花見川の自然があくまでも具体的で、綿密なものだから最後の文字とおり「飛翔」が切ない。
「煙」はその花見川で、狩猟解禁の日にカモやコジュケイを撃ちに来た父子の姿をえんえんと写す。秋の早朝、父は息子に狩猟の礼儀、タイミング、取った鳥のさばき方等の技術を見せて、銃は息子に受け継がれることなどを示唆し、とづぜん最後の数行に移る。
パパはそれから10年生きた。再発を繰返して、三度腹と胸を切った。
パパは衰弱しきった顔でぼくを見つめながら、
「ああおもしろかった」
と一言言って死んだ。
著者は死ぬ当日の朝、娘さんに「煙」を読んで聴かせて欲しいと頼んだそうだ。ストーリーがストーリーだけに、声をつまらせ読むことが出来なかったという。
見事なハードボイルドだったと思う。見事なファンタジーだったと思う。 -
Posted by ブクログ
絶版。稲見さんは大阪出身でドキュメンタリーの監督などを経て、その傍ら、作家活動。千葉市花見川区を舞台(実名でないときもあるが、モデルであることは確か)に多くの短編小説を中心に書き、94年2月にガンの闘病の末、亡くなった。
その名前すら知らなかったのだけど、ネット検索すると、「もっと知られてもいい作家」とみなさんが書いている。その通りだと思う。死後10年過ぎただけで、絶版がいくつもあるのは寂しい。そんな風に思ったのは僕だけじゃないようで、光文社文庫からは復刊もされている。
稲見さんの小説を単純に言えば、ハードボイルド・ファンタジー。銃、狩猟、焚火といった男くさい世界の中に、メローな世界が溶け込んでいて、読後感がいい。
最大の特徴は劇中に度々出てくる「鳥」に象徴される飛翔、飛躍だと思う。物語はハードボイルドで始まるが、最後は必ずといっていいほど飛翔する。文字通り、大空に飛び立つこともあれば、話のタッチがファンタジーに変わることもある。これは宮崎駿にも通じる世界だと思う。
それはガンに侵された男の願望でもあったのだろう。自由でありたい。そう思ったに違いない。あるいは、この世との惜別の思いのような気がする。
「花見川のハック」は晩年の作品で正直、その質を問えば、玉石混合かもしれない。しかし、そこには苦しみながらも生きようとした男の軌跡が描かれている。
父親として、ご子息に何かを残こそうとした意思がはっきり見える。すごく私的な物語、遺言集なんだろう。たが、ひとつの小説として成立しているのは、稲見さんの作家としての力量である。父としての思いには普遍性がある。
父と息子の関係を描く「煙」という短編のラストで、稲見さんはこう書く。
パパはそれから十年生きた。再発を繰返して、三度腹と胸を切った。パパは衰弱しきった顔でぼくを見詰めながら、
「ああおもしろかった」
と一言言って死んだ。
パパとは闘病する自分自身の姿である。これが死を覚悟して書いた晩年の作品だ。陳腐な言葉だが、すごいなと思う。こうはなかなか書けない。
稲見さんにとって、人生とはハードボイルドであり、夢のようなファンタジーだったのではないか。つまり、小説世界そのものが稲見さんなのだ。
表題の短編「花見川のハック」は花見川をホームにする少年の不思議な冒険譚だ。ハックは主人公の名前であり、ハックルベリーに由来する。
稲見さんは花見川をミシシッピー川に例える。花島町の自然は美しく、雄大さも持ち合わせている。花見川区民なら、この小説を読めば、自分の町が好きになるだろうし、縁がない人なら花見川を見たいと思うだろう。 -
Posted by ブクログ
1991年第4回山本周五郎賞
小説も稲見さんも初読
いなみいつらさんとお読みする
1994年に癌のため亡くなっている
趣味が猟銃だったそうで
6話の短編からなる一冊ですが
各短編に野鳥が象徴的に登場する
“まれに見る美しさを持った小説”と評されていた
私は全く予備知識なしで読み始めたので
小説の流れがわからなくて、途中で解説を探した
もう古い作品ですから ネタバレと言っても
構成の部分を覚書程度に
プロローグで ちょっと仕事に疲れた青年が
川のほとりで雨にあい、近くにいた男性も
自分の車に誘う
その男は不思議な佇まいで石に野鳥を描いていた
青年はその絵の見事さに心打たれる
で、ここで多分長い眠りに入る感じ
そして、短編が始まる
イメージとしては
その石の鳥たちから出る物語
現代あり 海外あり 少年あり と
パターンを変え作者の幻想的なでもリアルな
自然の物語が繰り広げられる
レイ・ブラッド「刺青の男」に着想しているとのこと、ですが、その作品を全く知らないの