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俺はもうまもなく死ぬだろう…ガン宣告を受けてから覚悟の10年、残された日時に刻みつけるように小説を書いた作家・稲見一良。男らしいやさしさを追い求め、花見川の自然を呼吸し、ときに少年の憧憬さえ甦る。本作品集は、腹水がたまり、半身になりながら、虫の息で、原稿用紙に鉛筆をなでるように書いた遺作の数々である。死を目前にして、透徹したまなざしで、人生を見つめた珠玉の物語。人は、こうやって生き、こうやって死ぬ……。
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Posted by ブクログ
これはとても良かったです! 10の短編小説と、最後に詩のような1篇と、本人による「まえがき」と、当時の編集者による「あとがき」という、計13編すべてが良かったです。 「遺作集」と書かれているとおり、亡くなる直前まで書いていた作品たちだそうです。 病気だから…といった手抜き感や妥協は感じられません。...続きを読む 1994年に書かれたという古さもあまり感じなかったです。 元々がハードボイルド作家だそうなので、あちこちで銃を撃つシーンがあり、日本ではあり得ないなぁと思いつつ、全体的にドラマや映画を見ているような雰囲気に包まれました。 子どもが出てくる作品が多めなので、「スタンド・バイ・ミー」とか「レオン」みたいな感じかな?(そこまでではないかも?) 編集者による「あとがき」が素晴らしいので、それを先に読んでから本編を読んでも良いと思います。 満点!
稲見一良ってゆう名前がなんかいいよね。ハードボイルドを基調としたファンタジーな短編。『ダック・コール』とテイストはほぼ一緒。オクラホマ・キッドがすごく素敵。無謀、無茶苦茶、だけど浪漫があるってゆうね。太田光さんとか本当はこうゆうのが書きたいんじゃないのかな、と思っている。
かつてこの著者の「セントメリーのリボン」を私は年間ベストワンに推したことがある。それほどまでに、彼が書く小説は衝撃的だった。 稲見一良(いなみいつら)、1931年大阪生まれ。テレビCF、記録映画の記録製作などに携わり、84年肝臓がんの宣告を受けてのち、本格的執筆活動に入る。91年「ダック・コール...続きを読む」で山本周五郎賞を受賞。他著に「男は旗」「ダブルオー・バック」「ソー・ザップ」など。94年逝去。 稲見一良は10年生きた。何度も手術を繰返しながら、最後のほうの「鳥」などは原稿用紙一枚、ほとんど「詩」である。それでも男として生き切った。その足跡に痺れたのだと思う。最初の頃は正調ハードボイルドで、絶望的に終わるのが多かったという。ところが、私の読んだのはそこから転調した頃の作品だったと思う。ベースにハードボイルドをおきながら、内容を大人のファンタジーに変えているのである。 この短編集は最晩年の短編ばかりを集めている。本来ならば、もっと膨らませて長編なり、中篇なりにすべきプロットが、短いセンテンスのいかにもハードボイルドっぽい文章でまとめられている。そして私たちを最後のページで飛翔させておわるのである。 「オクラホマキッド」は、映画好きという共通事項で知り合った孤児のような少年と金持ちの老作家の交友が、ふとしたキッカケで「自衛隊から戦闘機を盗もう」という遊び心を持つようになり、それを真剣に実行に移す話だ。戦闘機はまんまと盗み出す。もちろん現実では、そのまま済む話ではない。けれどもこの短編は最後の一行でそれをファンタジーと化してしまった。 「可音、オクラホマに行くぞ」 「花見川のハック」はその可音をそのまま10歳の少年のハックとして登場させ、花見川を遊び場とする話である。川沿いにつくる秘密の隠れ家。アヤメとの出会い。花見川の自然があくまでも具体的で、綿密なものだから最後の文字とおり「飛翔」が切ない。 「煙」はその花見川で、狩猟解禁の日にカモやコジュケイを撃ちに来た父子の姿をえんえんと写す。秋の早朝、父は息子に狩猟の礼儀、タイミング、取った鳥のさばき方等の技術を見せて、銃は息子に受け継がれることなどを示唆し、とづぜん最後の数行に移る。 パパはそれから10年生きた。再発を繰返して、三度腹と胸を切った。 パパは衰弱しきった顔でぼくを見つめながら、 「ああおもしろかった」 と一言言って死んだ。 著者は死ぬ当日の朝、娘さんに「煙」を読んで聴かせて欲しいと頼んだそうだ。ストーリーがストーリーだけに、声をつまらせ読むことが出来なかったという。 見事なハードボイルドだったと思う。見事なファンタジーだったと思う。
絶版。稲見さんは大阪出身でドキュメンタリーの監督などを経て、その傍ら、作家活動。千葉市花見川区を舞台(実名でないときもあるが、モデルであることは確か)に多くの短編小説を中心に書き、94年2月にガンの闘病の末、亡くなった。 その名前すら知らなかったのだけど、ネット検索すると、「もっと知られてもいい作...続きを読む家」とみなさんが書いている。その通りだと思う。死後10年過ぎただけで、絶版がいくつもあるのは寂しい。そんな風に思ったのは僕だけじゃないようで、光文社文庫からは復刊もされている。 稲見さんの小説を単純に言えば、ハードボイルド・ファンタジー。銃、狩猟、焚火といった男くさい世界の中に、メローな世界が溶け込んでいて、読後感がいい。 最大の特徴は劇中に度々出てくる「鳥」に象徴される飛翔、飛躍だと思う。物語はハードボイルドで始まるが、最後は必ずといっていいほど飛翔する。文字通り、大空に飛び立つこともあれば、話のタッチがファンタジーに変わることもある。これは宮崎駿にも通じる世界だと思う。 それはガンに侵された男の願望でもあったのだろう。自由でありたい。そう思ったに違いない。あるいは、この世との惜別の思いのような気がする。 「花見川のハック」は晩年の作品で正直、その質を問えば、玉石混合かもしれない。しかし、そこには苦しみながらも生きようとした男の軌跡が描かれている。 父親として、ご子息に何かを残こそうとした意思がはっきり見える。すごく私的な物語、遺言集なんだろう。たが、ひとつの小説として成立しているのは、稲見さんの作家としての力量である。父としての思いには普遍性がある。 父と息子の関係を描く「煙」という短編のラストで、稲見さんはこう書く。 パパはそれから十年生きた。再発を繰返して、三度腹と胸を切った。パパは衰弱しきった顔でぼくを見詰めながら、 「ああおもしろかった」 と一言言って死んだ。 パパとは闘病する自分自身の姿である。これが死を覚悟して書いた晩年の作品だ。陳腐な言葉だが、すごいなと思う。こうはなかなか書けない。 稲見さんにとって、人生とはハードボイルドであり、夢のようなファンタジーだったのではないか。つまり、小説世界そのものが稲見さんなのだ。 表題の短編「花見川のハック」は花見川をホームにする少年の不思議な冒険譚だ。ハックは主人公の名前であり、ハックルベリーに由来する。 稲見さんは花見川をミシシッピー川に例える。花島町の自然は美しく、雄大さも持ち合わせている。花見川区民なら、この小説を読めば、自分の町が好きになるだろうし、縁がない人なら花見川を見たいと思うだろう。
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遺作集 花見川のハック
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稲見一良
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