ほんと、この『町田くんの世界』を読むと、如何に、自分の心が日々のストレスでボロボロになっているか、気付かされて吃驚する
体の毒を抜くならサウナや鍼灸、心の澱を取り除くなら泣ける漫画を読むのが一番
この『町田くんの世界』は、なるべく、自室、一人で読んだ方が良い。もちろん、家族の前や電車の中で不特定多数
...続きを読むの人に感動している様を見られても構わないって、剛の漫画読みはそうしてもいい。ただ、感動している顔ってのは、案外、その良さが理解できない人からすると、かなりドン引きされるものなので、その点は頭の片隅に置いておく方がよい
何度も言うが、殿堂入りである。作品そのものがいいってのも、当然、門を開いて招き入れる理由にもなるが、安藤先生の成長力ってのも大きい
今のところ、羽海野チカ先生を追いかけ、その背中が見える距離を保てているのは、安藤ゆき先生、穂積先生、斉藤けん先生だ。この三人の成長は、もはや、進化だ。しかし、そんな三人ですら追い抜かすどころか、影を踏めないほど爆走し、荒野に己の道を作っている羽海野先生。安藤先生らと比較すると、更にその凄さが理解できる
これは、あくまで個人の印象だが、安藤先生の画力が劇的に向上していないからこそ、ストーリーの良さは100%以上、引き出されているんだと思う
決して、下手ではない。ただ、世間一般的な人気作を生み出す一流作家と比べると、やや劣る気はする
ただ、素朴で味がある。綺麗なだけじゃない、だからこそ愛おしい、人間の本質をありのままに描こうとすると、この絵柄が最も適している、と安藤先生は直感しているのだろうか
アニメ化している人気作の絵柄がミシュラン三ツ星のレストランで出てくる、舌を噛みそうな小洒落た名前の付いた芋料理とするなら、安藤先生の絵柄は家の中庭で行う焚火で、じっくり焼いたサツマイモ、または蒸篭で蒸したジャガイモのようだ・・・・・・えぇ、分かり辛い例えだってのは自覚してる。けど、印象をありのままに書くと、こうなった
町田くんの他人との接し方を見ていると、つくづく、誰かに優しくする、って事が意外に難しいのだ、と分かる
上手く言えないが、自分は人に優しくしているつもりでも、傍目から見ると、それは「甘やかす」と映る
優しくするってのは、厳しくする事でもある
おんぶしたり、手を引いて一緒に道を歩いてやるのが優しさではない
困難を前に竦んでいる人の背中に温かな手を当て、「君ならできる」と言ってあげる、一緒に歩くにしても先や隣ではなく、誰かが転んだ時に、起き上がるのを待ってやれるよう、ちょっと後ろを歩く。駆け寄って手を貸してやるのも、「優しさ」ではあるだろうが、それでは二回目に転んだ時に自分で立ち上がる事が出来なくなる
優しさ、それは大切な人の心の強さ、復活力を信じる事か
人の可能性を疑わない、それも町田くんが持つ才能
仮に、町田くんが、勉強も運動も凄い出来て、しかも、他人に優しく出来て、老若男女にモテまくり、そんな盛りすぎな主人公だったら、彼の世界はこうも美しくなかっただろう
完全、完璧ってのは、そこから変わらない。不変は生きて行く上で大事だけど、「変えない」と「変われない」は全くの別物
欠点、弱点があるからこそ、人はそこを克服しようと頑張り、自分の長所を伸ばしてカバーしようとする。そんな頑張りの姿勢、自分を自分が一番に好きになりたいって足掻き、少しずつ未来に向かう様こそ、人間の美しさだ。そんな人間が増えていけば、世界はもっと美しさが増していく
人に優しくできる町田くんの欠点は、自分に向けられる好意に対して、やや鈍感であるとこだろう。これは、別に物珍しい欠点でもない。誰だって、無自覚で、好意をスルーして、相手を傷つけてしまう事がある
町田くんの良い所は、相手を傷つけてしまった事に気付いて、何故、相手は傷ついたのか、傷つけてしまった自分は何が出来るか、そこをちゃんと考え、失敗した時のリスクを考える前に、行動できるトコでもある
誰でもできるコトを躊躇わずにやる、だから、町田くんのモテは突き抜けているんだよなァ
もう、身も蓋もない言い方になるが、町田くんは、つくづく、実在するはずのない人間だ
そんな町田くんも、いつか、たった一人に「特別な感情」を抱き、その人の姿を探し、汗だくになるまで走りまわる日が来るのだろうか・・・
動いてはいないけど、変わってきている猪原さんとの、まだ確固とした名称が付けられない関係性も、この『町田くんの世界』を美しくしている一色だ
どの回も脱水必至だが、個人的に最も毒気を抜かれたなぁ、と苦笑したのは、第19話「恋のはじまり」だった。恋する臆病な女の子の告白を手伝う町田くん、彼はまだ知らない、自分の感情が心から溢れるほどの「大好き」を。けれど、今回の一件で、町田くんの心の海は少しだけ波打ち、縁くらいは濡れたか?
町田くんは「優しい」分、人よりも感情で満たされている器が大きいからな、これを溢れさせるとなると、相当量の「好き」を注ぎ込まないとならないだろう。けど、町田くんの心は頑丈な蓋がされてる訳でもなけりゃ、絶対零度でカッチカッチに凍り付いている訳でもないから、ちょっとずつ、挫けずに注いでいけば、いつかは・・・・・・
この台詞を引用に選んだのは、町田くんの天然ジゴロっぷりが、これでもかってくらい前面に出ているからだ。こんなキュン死させられそうな甘言をかまされちゃ、どんな魔女もイチコロだ。人の心は傷つきやすい、けど、萎れたままでいない。恋は自分の中から生まれるけど、愛は人から与えてもらう事ができ、また、人に与える事が出来るモノでもある