村木嵐のレビュー一覧
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家康の側室になった元武田の家臣の娘阿茶、大坂冬の陣で淀殿、淀殿の妹初との和議役で大阪城の内濠を埋め、夏の陣で豊臣方を滅ぼした功労者である。阿茶は戦場へ家康と行く事が多く、影の参謀的存在となり、また家康との間の子がない事で良き世継ぎを育てる乳母役となる。阿茶は女として、子を持たない側室として家康の精神的な面も理解し、家康が亡くなるまで多くの親族の支援を惜しまなかった存在である。
阿茶の父飯田直政の言葉「まず今できる手を打つ、打たねばならぬ手を討つ。目の前にある、己が果たさなければならぬことをする。そうすれば次にすべき事が見える」
阿茶の夫忠重の言葉「癇癪を起こさず耐えること、家臣の苦労を裏切らぬこと、そして大人になる事」(この言葉は家康・徳川一族を支えたのか)
お市の方の3人の娘に残した言葉「どのように辛いことも3日だけ辛抱してみよ。3日経てば袖を噛んでも叫ばずにおられるほどになる」 -
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ネタバレ身体にハンデを背負いながらも見事に一国を治める知性と人柄は
エルサレム王ボードアン四世を思い出させる。
(太平の世で後継にも恵まれた家重と彼とでは状況も大きく異なるとは思うが)
また言葉に関わるキーワードとして「鳥の声」を度々用いているのが非常に興味深い。東西ともに鳥は神の言葉を伝える使者として扱われることもあるため、作者も意図して表現に取り入れたのだろうか。
忠光の存在が家重の人生にとって、どれほどかけがえのないものだったか。
家重の口となるということは彼のハンデと同じくらいの労苦をともに背負うということ。その覚悟を持って生涯務めた彼は見事だと思う。
立身に重きを置く者たちには持ちえない美徳と価値のある人生だっただろう。
彼らの周りが敵ばかりでなく心から支えてくれる温かい人物もおり、
物語は非常にドラマチックに展開していく。
中でも忘れられないのは、忠音との最期のやりとり。
言葉は重要だがなによりも大切なのは心。言葉を超えて心が通じあった瞬間は
誰しも一度は経験があることだろう。
物語のクライマックス、大手橋の章は涙なくしては読めない。
江戸城の大手門までの最後の道のり。草履を履くこと、駕籠に乗ること。
これまで何度も何度も主従として共に行ってきた日常の何気ない動作。
ハンデのある家重にとっては苦痛だったこともこの時ばかりは
終わって欲しくないとの思いを抱いていたことと思う。
煩わしいと思っていたことに感謝できるほどの大切な存在だった忠光への思いが
最後の家重の言葉に溢れ出ている。
頭を下げただけで足早に大手門を後にした忠光。
そうしなければきっと今生の別れの決意が揺らいでしまうから。
最後のさいごまで心が通じ合っていた二人なのだと思う。 -
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ネタバレ賄賂にまみれた悪徳政治家といわれた田沼意次も、村木嵐さんの手にかかると、政治的手腕だけではなく、老中としての誇りや、亡き家重と忠光への深い忠義を忘れない人間味あふれる人物として描かれる。
読んでいて驚いたことが二つ。
一つは、深い信頼関係を築いていた家治と意次が60歳を過ぎてから長男を亡くすという胸が締め付けられるような共通の悲しみを持っていたこと。
もう一つ驚いたことは、革新的な財政改革を猛スピードで推し進めてきた意次が、天候不順による不作や、浅間山の噴火に対して決定的な対策が打てなかったこと。
どんなに優れた人でも、何年も続く天災に対しては手も足も出ず、多くの民を失い、食糧難や一揆を止めることはできなかったんだなぁと思うと、もし今の時代、同じような天災が起こったら日本はどうなってしまうのかなぁと、ふと重ねてしまった。
物語としての感動があるだけでなく、過去の災害や政治を通して今の時代についても考えさせられる作品でした。
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ネタバレ誰にも言葉を聞き取ってもらえない主人と、唯一その言葉を聞き取れる従者
この作中世界を読者も体験できるようなつくりになっていて、とても面白かった
最後の最後まで、忠光の潔白が証明されたかと思いきや、また新たな疑いを持つ人物の視点が挟まるのが上手だなと思う
加えて一度も忠光視点では語られないため、周囲の目線を通じてしか彼の人間性は読めない
まさに「御口になっても御目や御耳にはならない」忠光の徹底ぶりを体感しているようで面白かった
だからこそ、最後に家重の視点で、セリフが分かる状態で2人の会話が聞けた時、感動したし心から嬉しくなった
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ネタバレ「口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろと呼ばれ、蔑まれた第九代将軍・徳川家重(幼名 長福丸)。常に側に控えるのは、ただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫だった。」
大岡越前の遠縁である兵庫(忠光)は小姓として登用される際に越前から「長福丸様のお口になれ、決して目や耳になってはならぬ」と言われ、その言葉通りのお役目を果たします。ただ一回の例外を除いて。
そんな中、家重を廃嫡とし次男に将軍職を継がせることを画策する老中が現れたり、京から家重に嫁入りした姫が徐々に家重を慕うようになるさまなど、家重が将軍職を継ぐまでには様々な経緯があったことが語られます。
享保の改革を目指す吉宗が、自らの代で成し遂げることが難しい改革の成果を家重に託そうとするまでの苦悩も読みどころの一つです。
将軍のお口となり、家重の真意を私心を入れずに伝え続けた忠光の名前の通り”忠”の一生に感じ入ると共に、不自由な体に宿る聡明な家重を描くことによって、障害者に光を当てる物語でもあります。
最期に一度だけ忠光と隠密の会話する場面で、竹蔵は泣けてきてしまいました。
短い人生をなんのために生きるのか?そんなことを考えさせてくれる一冊でした。
竹蔵 -
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「まいまいつぶろ」に連なる世界線で書かれた田沼意次の生涯。
「またうど」とは「全人」、律儀で正直な人をいい、9代将軍徳川家重(「まいまいつぶろ」の主人公)が意次を評したという。
本書に出てくる意次は「またうど」と呼ばれるとおり、私心を持たず、滅私奉公に徹し、明るく、友情・人情に篤く、民に優しく、経済に精通し、必要な改革や政策を果断かつ戦略的に実行するという、官吏の鑑のような人物。
対比されるのは終盤に登場する白河藩主松平定信や11代将軍家斉の実父一橋治斉の未熟さや俗物さ。
定信が進めた寛政の改革以降、徳川幕府の命運は下降していく。
意次のことが大好きだという作者。
「意次の印象をひっくり返したいという思いや企みは皆無」と語るが、本書の読者は世間一般の評価とは真逆の意次像に目を開かされる思いだろう。
時に、歴史経済学者を中心に意次の業績は再評価されつつあるとも聞く。 -
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またうど
P54〈全き人、愚直なまでに正直な
信(まこと)の者という意味〉
田沼意次は、「またうど」なり。
大河ドラマ「べらぼう」で田沼意次を渡辺謙さんが。
第十代将軍、家治を眞島秀和さんが演じていらっしゃる。
活字を目で追い、頭の中で役者さんが動く。
お陰で楽しい時間となった。
『まいまいつぶろ』でも
その人情味溢れる描き方で引き込まれたが
本作でも、田沼意次の魅力が十二分に伝わってきた。
志し半ばではなかったか。
第十一代将軍、家斉の行く末を
着手した政策、開発を見守りたかったのではないか。
すっかり、田沼意次に心奪われてしまった。