朝倉かすみのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
U-NEXT。とちゅうから、オーディブル。著者らしい、独特の文体、視点の短篇集。コロナ禍で、人生が狂ってしまった人たちの話。とにかく『令和かれすすき』が衝撃すぎて。
日雇いの派遣で働く、独り身の、まあまあのおばあさん。悲しみしかない細かい一人語りが続く。「つっとのおうち」のことを話すあの人との交流。あの人は誰なのか、なんなのか、よくわからず、しょっちゅう脱線して半生を語るおばあさんに、読むのつらいな、と、いらいらしていたら、ラストに戦慄が走った。ネタバレはやめときます。なんだかもう。こんなのって、ありかな。つらいな。
『ドトールにて』介護をしてきた母、妻をそれぞれ最近亡くした中年のおっさん二人が、ドトールで待ち合わせてくっちゃべる。『もう充分マジで』大学受験を失敗した男の人生。『非常用持ちだし袋』高校中退で肉体労働をして家族を養っていた男が、体を壊して退職。中三の娘は、読書家の弟のため、高校へ行かない選択をする。『みんな夢のなか』夫の浮気で離婚後、その子供を産んだシングルマザーが、コロナ禍で少し交流のあったママ友と、偶然再会する。
『非常用持ちだし袋』の「男を立てろ」ということを、冗談ぽくではあるが、家族に強いている父が、絶妙に嫌だった。 -
Posted by ブクログ
今の社会の生活水準の平均値がどの辺りにあるのかはよく分からないけれど・・・
この本の登場人物たちは多分、平均値より上ではない。
それぞれ違う主人公の短編集だけれど、一作目の印象が強かったせいか、「駅の南口を降り、蕎麦屋を右に曲がり、線路沿いに直進したら薄茶色のマンションを左折、細道を歩くと丁字路に出て、突き当たりのクリーニング屋さんの並びの一軒家」
という描写がほとんどの作品に共通して出てくることから、ホラー的な結末を考えてしまった。
どのお話でも、人生の選択に迷っている人が主役。コロナ禍という特殊な状況にも翻弄されて、生活設計が狂ったり、一変してしまった人も多い。コロナ禍の前に戻れたとしたら・・・
でも戻れない。色々なことが変わってしまった。
変わってしまった世界に合わせて、自分も変わっていくしかない、そんなふうにしてみんな生きているのだろう。
【令和枯れすすき】
61歳おひとり様の「わたし」。年金受給まではなんとしても働かなくてはならないが、すでに要らない老人に分類されている。
ある日、変わり者の「あの人」に話しかけられて、驚くべき誘いを受ける。
・・・これ、ドアを開けたら本当にその光景があるのでしょうか?からかわれただけとか?
でも、死にたがっている人、死んでも誰も困らない人、というふうに見られたってことですよね?
【ドトールにて】
宗茂(むねしげ)とケン坊は地元の保育園からの幼馴染で、ともに58歳。宗茂は母親を、ケン坊は植物状態だった奥さんを、それぞれ亡くしたばかり。艶福家のケン坊にはすでに彼女がいて、周囲からどう思われるか気にしている。天涯孤独の宗茂は家族を妄想する。
【もう充分マジで】
鏑木明人(かぶらぎ あきと)は、彼女の心夏(ここなつ)と二人で、将来の人生設計を綿密に立てていたが、国立大学の受験に失敗して、古びた大規模マンションの裏のコンビニでバイトをしている。深夜のコンビニに入り浸る、銀河(ぎんが)(7歳)と風雅(ふうが)(5歳)の兄弟は、マンションの住人だという。・・・ネグレクトする親って、キラキラネームを付けがちなのかな、と、放送中のドラマを思い出す。
【非常用持ちだし袋】
小豆沢芙実(あずさわ ふみ)昨日、中学の卒業式だった。父が体調を崩して働けなくなって以来、郵便局で働く母が我が家のリーダーとなっていった。5教科はまるで出来ないが、そのほかは人より優れている。高校は必ず行かなくてはならないのか?
・・・弟の青龍(せいりゅう)と、駅のベンチでずっと両親を待つ。帰って来ないんじゃないか、あの一戸建てで首でも吊ってるんじゃないかと変な想像をしてしまいました。
【みんな夢のなか】
蟹江立夏(かにえ りっか)は妊娠7ヶ月の折に夫の浮気が判明し、大喧嘩の末に離婚した。
コロナ禍の頃のママ友との喧嘩の記憶。運命の女と死別して老け込んだ元夫。皆、時の流れ。立夏は、息子が生まれてからの8年間の越し方を、ほとんど思い出せない。まるで夢の中にいるようだった。
・・・すぎていく日々、よほど印象に残ること以外は、全部溶けて消えていく気がする。 -
Posted by ブクログ
朝倉かすみさん、大好きだ。
この短編集の中では、ダントツ良かったのは、「令和枯れすすき」
ジジババの、枯れよう、切なさを描かせたら、この人の右に出るものは今のところいないのでは。
少しだけ残念なのは「非常持ちだし袋」
この5篇の中では一番長く、途中までは、主人公の姉弟の行く末が気になって、これはまた味わい深いと思っていたのだが、主人公が自衛官を目指すあたりから、着地点がわからなくなってしまった。最後の終わり方も、青龍ってそういう子だったっけ?とポカンとしてしまった。
これは、長編として一冊の小説にしないといけない内容なのでは。
大河小説になりそうなくらい主人公たちが動き始めたのに、字数の関係で終わらせてしまった感あり。
でも、まあ、ファンとしては、朝倉かすみさんの小説が読めるだけで至福ですけど。 -
Posted by ブクログ
北海道で夫が特養に入っていて一人暮らしをする80代のおもちさんの日々。日常が淡々と綴られているといえばいえるんだけど、おもちさんの日常としてみるとそれはそれでいろいろな悲喜こもごもがあるんだな。
おもちさんは近所に息子の妻がいてよく相手をしてくれるし、東京に住む娘も時折帰ってくるし毎日2回電話をし合う仲。友達も多いし、書きものをしたり自分の好みも存分に出しながら暮らしている。糖尿病を抱えているし時々記憶がふわってなるけどいまのところ大丈夫。
最初は『おらおらでひとりいぐも』を彷彿とさせる気がして、6本の連作短編のうち2編目くらいまではおもちさんの頭のなかと現実が行ったり来たりしているのかなと思っていたけど、そうでもないようで前述のとおり淡々と毎日が描かれる。とはいえ、最後のほうにはおもちさんは自宅を離れ高齢者向けマンションで暮らすようになるんだよね。でもそれだって不承不承の転居ではなく気に入ってお引っ越ししてるし。老いというと憂いとか悲しさとか滑稽さ基調で描かれることが多いけど、こんな幸せな小説があるのはよい。