Posted by ブクログ
2013年06月15日
「田村はまだか」で魅了され、以来、ずっと追いかけている、札幌在住の朝倉さんの近著。なんだか、抱きしめたくなるような小説です。
朝倉さんは端正な文章を書く作家ではなく、どこか素人っぽさを残しているのが持ち味でしょう。肩の力がいい感じで抜けていて、読む方も構えずに、朝倉さんが拵えた物語の世界に没入できま...続きを読むす。
「抱きしめたくなるような」感慨を持ったのは、登場人物たちが、とても身近に感じられるから。主人公の清茂はもちろん、直、素子、光一郎、その他大勢。
いずれも、どこにでもいるような普通の人々ですが、それぞれに秘密、というほど大げさではありませんが、心にやっかいなものを抱えています。
その心の中のやっかいなものは、恐らく、誰でも多かれ少なかれ抱えている種類のもの。
それを朝倉さんは、丁寧に丁寧に、借り物ではない自分の言葉で描写していきます。その手際が実に見事です。
本作の舞台は「葬儀」。登場人物それぞれが故人(清茂)を偲び、偲びながら自分の歩んできた人生を振り返ります。「ああ、分かる分かる」と何度も共感しながら読み耽りました。
私も何度か葬儀に出たことがあります。久々に顔を合わせる親戚たちは、みんな表面上は概ね平然としていますが、彼ら彼女らも心にやっかいなものを抱えながら、折り合いをつけたり、もがき苦しんだりして生活を送っているのだということに思い至りました。
人間って愛おしい。そう思わせる小説でした。いいなぁ、朝倉かすみさんは。