神田昌典氏は,ビジネス界,特に中小企業のオーナーにファンの多い
カリスマコンサルタント&マーケターです。ベストセラー作家なので,
ご存知の方も多いことでしょう。
もともとは実践的なノウハウ中心のビジネス書を書いていた方ですが,
近年は,社会論や自己啓発的な内容のものが多くなっています。本書
もその
...続きを読む延長で,高校生への講演をもとにしたものとなっています。
高校生向けなので,やはり自分が高校生だった頃の話から始まります。
「日本一のマーケター」と呼ばれるようになった著者ですが,高校生
の頃は,有名な進学高にいたものの劣等生。「自分ができないことか
ら,逃げて逃げて逃げていった結果,仕方なく,少しでもまわりより
も得意なことを探しだし,それに取り組んだ」と自らの半生を振り返
った上で,この変化の激しい時代に活躍し続けるために必要なのは,
「賢く,うまく世を渡っていく力ではなく,逸れても逸れても,転が
りつづける力をもっているかどうかということ」だと結論づけます。
つまり,今の世の中の常識に合わせ,賢く,効率的に生きていくより
も,どんなことが起きても,転がり続けていく好奇心と胆力を持つこ
とのほうが大事だと言うわけです。
でも,だからと言って,何も考えず,ただ流れるままに生きていれば
いいというわけではありません。未来の中に,自分が活躍できる場所,
才能を生かすことができる分野を見つけることがとても大切。そのた
めにも,未来のことを考えてみる。常識に捉われることなく,現在の
中に宿っている未来の種を見つけ,それがどんなふうに育っていくの
かを考えることを通じて,未来を描く。そして,他人の基準に委ねず
に,自分自身の未来を選びとってゆく。
天気予報と同じく,未来を考える上で参考となるのが「予報」です。
本書で示される著者の「未来予報」は,なかなかに過激で,「お金が
なくなる」「会社がなくなる」「病気がなくなる」「国境がなくなる」
「学校がなくなる」「貧困がなくなる」「制約がなくなる」の7つです。
正直,「なくなる」は言い過ぎだろうと思いますが,確かにこういう
方向性は今後ますます重要になっていくよな,と納得できることが多
いものばかりです。
ただし,ここで語られる未来の内容自体より(そこに期待し過ぎると
失望すると思います),未来は自分自身の手でつくるものなんだ,と
いう気持ちにさせてくれることのほうに,本書の価値はあります。
これからどんな未来を選んでいくのか。そして,これから人生を選択
していく高校生に向けて,いや,次世代に向けて,我々大人は何を伝
えることができるのか。そんなことを考えさせてくれる一冊です。
2時間もあれば読めてしまえますので,是非,読んでみてください。
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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
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優れた人は,ほんと知的好奇心旺盛。正直,権威に甘えた高学歴の
エリートとは比較にならないほど勉強しています。
こういう人たちは,偏差値や学歴に自分の未来を委ねたのではなく,
自分にしかできないことを追い求め,やりつづけた結果,まわりが
彼らに未来を見いだすようになったのです。
予報というのは,あくまで参考。それをきっかけに,自分で考える
ことが大切です。
自分がどうしたいのか,より深く見えてくることで,将来,どんな
変化が起きようとも,その変化を乗り越えていく力を身につけられ
るのです。
物々交換は消費税がかからないんです。
そうだとすれば,消費税が上がれば上がるほど物々交換をするイン
センティブ(動機付け)が増えるわけです。
お金の正体は,感謝です。
感謝は,想像力です。
すなわち感謝というのは,想像力によって膨らむのです。
ビジネスを始めることは,自動車の運転を学ぶことくらい簡単。そ
の結果,一生涯,君たちの才能を世界の隅々にまで運んでくれる乗
り物を,手にすることになるんです。
才能のない人は,いません。絶対に,いないのです。それを見いだ
すことをやめた人,もがきつづけ,転がりつづけることをやめた人
がいるだけなのです。
家族とのコミュニケーションが何よりのケアになるわけです。
家族のメンバーがそれぞれ,指圧なり温熱療法なりの民間療法を提
供し合う,というのが,これから10年で起きていくことではないか
と思うのです。
これから日本は本格的な高齢化社会を迎えますが,これは別の見方
をすれば,無料で教えたい人が激増するということです。
日本がふたたび輝きを取り戻せるかどうかは,総理大臣の責任でも
なければ,財界トップの責任でもありません。他人まかせで決まる
のではなく,自分次第だと私は思っています。与えらえた現在の環
境のもとで,自分の信じる理想の未来を,いまから,小さなところ
から実践するのです。
いままでと同じ世の中が続くはずがありません。そして世界はより
開かれた場になっていくことを前提に,自らの生き方を描くべきで
す。
どんな人も,素晴らしい才能をもって,この世の中に生まれ,生き
ています。その才能を見つけ出すことが,一人ひとりに課せられた
仕事です。
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●[2]編集後記
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新年度からに備え,三月は出張続きでした。山梨,宮崎,大分,島
根と,これまであまり縁のなかった土地(山里ばかりです)を巡り,
色々な風景を見て,色々な人と会って,色々な話をしてきました。
狭い国土ですが,山深い日本は,本当に地域地域によって多様な姿
をしていますね。風景も食材も人も技術も習俗も,土地土地によっ
てかなり違うんだなぁと改めて思いました。有名な場所でも,実際
に行ってみると全然違う側面が見えてきます。その多様性の魅力は
見過ごされがちだし,うまく伝わってこない。勿体ないことだと思
いました。
大分は,ひたすら歩く旅だったのですが,自分自身の足で歩いた土
地は,やはり特別な存在になるんだなということも知りました。登
山をすると山が身近になるのと一緒で,運転してもらうより,自分
で運転するほうがいいし,車より自転車,自転車より徒歩と,自分
の身体を使うほどに,その土地との距離は近づきますね。
色々な土地と縁結びができたのはとても嬉しいことでしたが,その
分,家族とは会えない日々が続きました。目の前にいる家族の笑顔
を大切にしないといけないよなと痛感させられた月でもありました。
仕事と家族のバランスは,常に課題です。
東京ではサクラが満開。サクラと共に,新しい人生を始める方々か
らの便りが届いています。始まりの季節,ですね。