前田司郎のレビュー一覧
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『かっこよく見えた。自分も何か、葛藤を抱えたかった。俊介の人生には挫折と呼べる出来事も、人生を呪うような悲劇もなかった。』
『では俺はどうすれば愛と呼べるのだろうか? 愛するには相手を知らないといけない。どうやって知るんだ? 沢山話して? でも、会話によって相手の内面を把握しうると思うのもまた、容姿だけで人を愛するのと同じほど軽薄ではないか。』
「見た目がちょっと良いからってあんな芝居、気持ち悪いよ」
「気持ち悪いかどうかはあなたの主観じゃないですか?」
「俺の主観はあなたにとっての客観だから」
『水口は時々笑顔を交えながら、それは、自分が真剣になり過ぎていることへの言い訳のように見えて -
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愛なんてこの世にないのかもしれない、なんてちっとも感じなかった。
歪んでいて、醜くて、今にも消えそうで、でもここにあるのは確かに愛なんだと思った。
子供ができない夫婦。子供はできない。でも欲しい。あきらめる?どうしたらいい?そこに夫の提案を受けて、場面は溶けるように20年前の回想につながっていく。
京子と、俊介と、水口と。演劇を通じて出会ったこの3人の関係性がたまらなかった。
胸がぎゅうっとなる苦しさを久しぶりに味わった気がします。訪れるべくして訪れた破綻。破綻からの真実。どこかホッとしたけれど、よけいに苦しくなった。
みんな二十年分の歳をとり、そうしてもたらされたものに、どうにかなるはずも -
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『下界を覗く。一応雰囲気を盛り上げる為に、私は湖畔のような所に赴き、鏡のような湖面をひと撫でして、あくまでも演出にすぎないが、湖面から下界を覗く。』
『なんかだからもう一枚、レンズを入れてやってうまく補正すればこうスパンと真っ直ぐ届きそうな気がする。と、こんな喩えを使ってしまうのはわたしの消し去りたい過去ナンバーワン、1年生の時しばらく写真部に居たおいう事実のなせるわざでしょう。』
『名前は言葉だ。全くの暗闇、全くの無、それを言葉が照らし出す、それが世界なんだって、意味わかる?』
『恋っていうのは私が考えたんだけど、これは上手く出来ていえ色々なことが忘れられる。忘れられるというか物凄く視 -
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映画の方を先に観た。映画の監督・脚本も前田司郎さんなので、小説は映画のストーリーと全く同じなんだと思って読んでみたら、結構色々な設定や話の流れが違っていて、映画は映画の面白さ、小説は小説の面白さ、ということ、書き分けがなされているのだということを、一つのこの作品を通して感じて、そういう点でも興味を持った。
映画も、小説も、人物同士のやりとりが、「こういう気持ちが自分にもあるな」というところがあるのが好きで、そして読後に少し前向きになるところがとてもいい。
小説の中で、好きな映画がなにか訊くという場面があって、そこで「そういうなんか、値踏みみたいになっちゃうから、駄目なんだよ」っていう台詞がある -
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学生時代を思い出した。夜中に、友人4人くらいでふらっと車ででかけて、ラーメン食べて、適当に走って、海を見て、また適当に走って。ただひたすら楽しかった。ずっとこの夜とこの道が続けばいいと思った。そんな学生時代を思い出した。
追記:
読んだ後、ちょっとずつ振り返ってみたけど(読後、小説の世界感がなかなか居座って抜けなかった。じわじわと)登場人物の大事なところは結局ほとんど語られないままだったんだなあと。情報量は極めて少ない。それでもこの人物達やら距離感やらに共感しているのは、やっぱり同じような想いを過去も今も抱いているからなのかなぁとぼんやり考える。読む世代や時代が違うとたぶん文脈から感じること -
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スキヤキっていうのは日本人ならみんな知ってるはずだけど、家によってレシピが全然違ってたり、時には様相すら異なっていて、「え? おまえんちのスキヤキってこんななの?」って衝撃を受けたりもする。
そういう「一家伝来の食べ物」っていうのは、もはやその人の育ち方や流儀や価値観すら表す小道具なのだな、と思ったりした。
形なんてどうでもいい。特別な仲間と、特別な場所で鍋をつつく。
これぞスキヤキ。いや、スキヤキを超えたそれはもう、ジ・エクストリーム・スキヤキ。
大事なのは「何を食べるか」ではなくて、「誰と食べるか」、「どこで食べるか」。
「和食」が世界文化遺産に認定された昨今ですが、
日本人にとって欠か -
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久々の前田さん。
やっぱりこの感じ好きだなあ。
日常に侵食してくるグレーな感触。
それが何かは掴めなくて
無意識に覆われているような。
ぼやーんとしている大木夫妻が
さびれたデパートの屋上から
地獄へ温泉旅行へ。
設定は無茶苦茶なのに、
地獄ってどんなとこ??と読まずにはいられません。苦笑
うしろを振り返っちゃだめ、
沼に頭から入っていく、
あか鬼にあお鬼、
ビーフシチューのような温泉、
埋まっている猫、
とにかく出てくるものみんなシュールだし
大木夫妻も
何が面白くて笑ってるんだか
でも笑わないとおかしくなりそうな感覚でいます。苦笑
ただ、
そんな非日常空間に
めちゃめちゃ平凡 -
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夢もなく目標もなく確固たる趣味も主張もない。そんなとっても「今風」な大学生の独白。いわゆる「意識の流れ」で読ませる小説。
内面描写はとても上手。実に臨場感がある。
主人公が見た、感じたとおり、読み手にも感じさせる文章力には感嘆させられる。
ふと目にしたものから、考えが飛びに飛んでいつの間にか妙に壮大なことを考えていたり、結局結論が出なかったりするような物思いって、よくあるよなあ。と同感できる。
さてじゃあ、話が面白かったかというと微妙。
これは年代が近い自分からすると、実に「ふつう」な日常すぎて・・・。
いや、最後の美術館のくだりはあり得ないけど、それ以外は実にふつう。
ふつう、ふつうで -
Posted by ブクログ
「僕は変わる。僕を貫いている確固たるものはなんだ。刹那刹那の僕を数珠のようにつなぐ糸はなんだ。記憶だろうか。人格なんてものが便宜上の言葉に過ぎないことはとうの昔に知っている。(略)僕はあの時元宮ユキとセックスをした自分と、今こうしてセックスをしたときのことを考えている自分が同じ人間だとは思えない。単に数珠をつないでいた糸がぶつぶつと切れて、刹那刹那の僕がころころと分離したにすぎないのかもしれない、いやもとから数珠をつなぐ糸などないのだ。きっと。」
みずからの無意識の世界までさらけ出して、自我の同一性や存在理由についての懊悩とそんな思弁を圧倒してしまう身体的な欲動とのたたかいが生々しく言語化さ