一巻を読んだとき、これは好みが分かれる小説だな、と思った。作品中に言及されるタイムトラベルもののSFは、知っている人から見れば思わずニヤリとしてしまう楽しさがある。でもSFをあんまり知らないって人にとっては、内輪じみた内容に疎外感を覚えるんじゃないかな。かといって全体としてはハードなSFではなくて、
...続きを読むどっちかといえば青春小説としての比重が高い感じ。
おまけに舞台背景に時事ネタ多い。アフガンでの戦争だとか、9・11のテロ事件だとか、ソニンの「カレーライスの女」だとか、「茄子 アンダルシアの夏」とかの話題とか。
私の最初の感想は、「こんな高校生は嫌だ!」
自称も他称も「頭がいい」
実際IQが高い。
年間150冊ぐらい本を読んでいると豪語。
漫画や雑誌じゃない本を読まない人を見下している。
いきなり「ナッシュ均衡」とか「遺伝子工学の未来と、親を選ぶ権利の発生」とかについて語りだす。
妙に冷めているというか、冷めていると見せかけようとしているというか。
自分達には未来がない、と冷笑する。
自分は何も信じていない、と訴える。
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んで
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「このホールデンってキャラ、なんだかとっても莫迦に思えてしょうがないのよ」
響子によれば大半の人間は莫迦か鈍感になる。という経験則をさっ引いても、彼女の主張にはそれなりに説得力があった。
「度胸がないし、映画が好きなんだか嫌いなんだか分からないし、何でもかんでもit depressed me かit killed meって、読書家っていうわりには文章が下手で語彙が少ないし。(略)」
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とのたまく。まあ、同意するけどね。
語り手である主人公に感情移入も共感もできない。むしろやっかみとか反感とか敵対心とか覚えてしまう。おまけに気を引こうとしてわざと時系列を無視する語り方にどうも好感が持てない。
それでも意外と後味が悪くないのは、エピローグで話がきれいに落ち着いたからだろうか。読んでよかった、とさえ思える。読中と読後のこのギャップに戸惑うな。