泡坂妻夫のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ〇 総合評価
ヨギガンジーシリーズは,「驚愕の仕掛けの文庫本」である「しあわせの書」という作品を読んで好きになったので,なんとか「ヨギガンジーの妖術」も読みたいと思っていた。そして,まさに待望の復刊となったので手に入れた作品。思い入れは深い。内容は,長らく絶版になっていただけのこともあり,傑作とまでは言い難い。しかし,「王たちの恵み」はチェスタトン風の逆説的なオチが楽しめた。ほかにも手品で使えそうなアイデアでかかれた小品ともいうべき佳作の作品ぞろい。中にはやや物足りない作品もあったけど,それなりに楽しむことができた。しばらくは手に入るだろうけど,このデキだとそこまで売れないと思われ,更にもう一度復刊されるのは難しそう。大事にしたいところ。★3で。
〇 メモ
〇 王たちの恵み(心霊術) ★★★☆☆
沢野市のホテルレックスで,沢野市の文化人の集まりソヴリンズクラブが開かれている。ソヴリンズクラブでは毎回,会員から麦の箱という箱に寄付を入れられている。ヨギガンジーの心霊術の実演を含む講演が終わると,麦の箱には寄付金が入ってなかった。誰かが盗んだのか。ヨギガンジーは,そもそも普段から麦の箱に寄付はなかった。世話役の斗米が,ソヴリンズクラブの名誉のために,一人で多額の寄付をしていた。斗米の秘書の寒立は,お金を盗むためではなく,麦の箱にお金を入れるためにやってきていた。寒立という斗米の秘書がどうやって麦の箱にお金を入れたのかという謎と見せかけ,そもそも寄付などされておらず,寒立は麦の箱にお金を入れに来ていたというオチ。なんとも泡坂妻夫らしい,チェスタトン風の逆説的なオチの作品。ヨギガンジーのなんとも言えないキャラクターの相まって,よくまとまった作品に仕上がっている。★3で。
〇 隼の贄(遠隔殺人術)★★★☆☆
ヨギガンジーの相棒である不動丸との出会いの作品。ヨギガンジーと不動丸との関係は,ブラウン神父とフランボウの関係にちょっと似ている。不動丸は黄金の隼の会という宗教団体を作る。そして,黄金の隼の儀式で予言を行う。ある人物を神の生贄えとして呪い,殺害するという。儀式では「東岡由紀」という女性の名前が発表される。東岡由紀は不思議な事故死をしていた。トリックは封印をした予言書の外側から文字を書いて中に染み込ませるという物理トリック。ポイントは,直前に予言書を預けている信用金庫から予言書を預かりに行くという行為をミスディレクションにして,公衆電話から電話をして,たまたま死亡した人を確認したという行為を隠したというトリック。これもある行為を利用して本命の行為を隠すという手品っぽいトリック。泡坂妻夫らしい,しっかりまとまった作品。★3で。
心魂平の怪光(念力術) ★★★☆☆
大倉山という地方で,松子という女性から,八木徳三郎という男に騙されたという話を聞く。「猫の学校」の教材にするために,鼠を増やすという触れ込みで鼠のつがいを売りつけると言う詐欺だった。また,八木徳三郎が鼠を飼っていたプレハブでは道に迷った笹川夏子という女性が迷い込んで心臓マヒで死んだが,松子はこれも八木徳三郎の仕業だと思っていた。鼠が増えてしまったので,「七歩丸」という毒団子で鼠を減らしているという。ヨギガンジーと山王丸はただ道に迷ってこの村に来ていただけだった。松子に道を聞いて目的地である聖宝院に行く。ヨギガンジー達は心魂平で大倉山で見かけた鼠と同じ鼠を見る。ここには,矢削徳性という宮司がいるという。また,心魂平はちょいちょいUFOが現れるということで有名になっていた。UFOは人為的な火だった。ガソリンを含ませた脱脂綿を鼠のしっぽに結び,それに火を付けて放していた。八木徳三郎=矢削徳性は,詐欺師ではなく,キャンディ化粧品という大手化粧品会社の下請け会社の社長。女性用の紅筆を鼠の毛で作っているということを知られないようにしていたというオチ。マルチ商法まがいの犯罪や宗教犯罪といった大きな犯罪があるかと見せかけて,単なる化粧品会社の下請け会社が鼠の毛で紅筆を作っていることを知られたくなかっただけであるというオチ。泡坂妻夫らしい構成の話である。★3で。
〇 ヨギガンジーの予言(予言術)★★★☆☆
ヨギガンジーがハワイで知り合った勝島という男の家で予言をした薬小路車契の予言がウソであることを暴く話。「空飛ぶ鳥が火となり,竜の頭に落ちる」,「唐人が泣いて,その涙が瓢箪に溢れる」,「死神の息が鬼女が池より漏れ,それを吸った者は死ぬ」という3つの予言。これが旅客機の墜落事故,近畿地方の水害を予言し,的中していた。「鬼女池」が勝島の敷地内の池だったので,慌てて国外に逃げたという。真相は,薬小路は盗賊団。勝島がいなくなった後,屋敷の蔵からめぼしいものを盗み出そうとしていた。予言のトリックは色鉛筆の芯と回りの部分の色を変えていたというもの。これにより,あとで書いた予言を先に書いた予言だと誤信させたというもの。トリックは手品のタネのようなもの。シンプルだが面白い。話全体の構成は「赤毛連盟」のパターンでもはや古典。色鉛筆のトリックだけのシンプルな短編。こじんまりまとまった作品であり★3かな。
〇 帰りた銀杏(枯木術) ★★☆☆☆
開発の最中,伐り倒されるはずの大銀杏があった。しかし,伐ろうとすると市の有力者が死んでしまい,三人死んだところで大銀杏の伐採は取りやめになった。銀杏は移転された。するとこの大銀杏は夜になると「帰りたい,帰りたい」と言うようになったという。真布施典亮という男は八幡クラブという文化人の集まりのメンバー。「王たちのめぐみ」で出てきたソヴリンズクラと姉妹クラブの関係にある。ヨギガンジーはソヴリンズクラブで行った講演と同じ講演をするように依頼を受ける。講演のデキはひどいものだったが,その後,ヨギ・ガンジーは大銀杏に「その場所で辛抱するように」言い聞かせてほしいという依頼を受ける。ヨギガンジーと不動丸は銀杏と話したフリをする。すると翌日,銀杏の樹の葉が1枚残らず落ちてしまう。ヨギガンジーは銀杏の葉を枯らしたのは真布施だということを指摘する。真布施はUFOに傾倒しており,UFOのメッセージとして市を開発していた。得体の知れない人間を連れてきて,何やら不思議な術を見せ,ついでにご神木に呪文でも掛けさせれば樹が枯れてもその人間のせいにできるとしてヨギガンジーを利用したのだった。この話はやや分かりにくい。ヨギガンジーらしいシンプルな仕掛けでもないしミステリとしてのトリックも弱い。★2かな。
〇 釈尊と悪魔(読唇術)★★★☆☆
ヨギガンジーと不動丸が劇団の手伝いをする。そこには霧丸という若旦那がいた。殺人事件が起きて,霧丸は疑われるような行動を取り,二吉という劇団の男は霧丸が犯人だと思って逃走する。二吉は霧丸の素性を調べるという仕事を持っていた。霧丸はつい先ごろ死亡した歌舞伎の門脇杜若と血のつながりがあった。霧丸は劇団残るために二吉を騙すため,犯人と疑われる行動を取ったのだった。この話を通じ,本多美保子がヨギガンジーの一団に加わる。泡坂妻夫らしい見事などんでん返し。霧丸が殺人犯でどういったトリックが出てくるのか…と見せかけ,そもそも霧丸は犯人でなく,犯人だと思わせて二吉を騙すことが目的だったというオチはそこまでレベルの高い仕掛けではないが,さすが泡坂妻夫と思わせるデキ。こじんまりとまとまっている作品。★3で。
〇 蘭と幽霊(分身術) ★★☆☆☆
蘭の栽培をしている岩淵という男のところに季貞エメラルドという男が念力栽培の紹介にくる。エメラルドは岩淵が大切にしているランゲリスという花の葉に洗剤を付け,一見ではランゲリスとは分からないようにして盗まれたように見せかける。また,ランゲリスはトリックを使い,市長選に立候補している黒原のポスターを利用して黒原がランゲリスを盗んだように見せかける。黒原はたまたま愛人と不倫をしており,変に疑われないように容疑を認めるような発言をする。最後はヨギガンジーが物理トリック部分も含め,全てを見抜くというオチ。これはちょっと物足りない。泡坂妻夫らしい文体ではあるがアイデアが平凡。シリーズ物の弊害というか,ヨギガンジー物で一つ作品を作る必要があって,無理やりひねり出したという感じがする。★2で。 -
Posted by ブクログ
ネタバレルパン並みの手際で次々お宝を盗んでいく怪盗S79号と、追いかけるポンコツ警察官コンビ。
時折出てくる連続女性殺人鬼や、次々襲ってくる相続税でどんどん貧乏になっていく二宮の事情などがどう絡むのかと楽しみにしていたのだが、結局肩透かし。
怪盗が捕まらないのは仕方ないにしても、こんな短絡的であっさりした結末では大団円と言われてもスッキリしない。
東郷警部もこんな形でお膳立てされた花道で満足なのかなぁ。あれだけS79号に執着していたのに。
泡坂さんだからコメディの中にも色んなからくりがあるものと期待していただけに残念。
それぞれの盗みの話の中にドラマがあったものもあったけれど。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ以下ネタバレ。
「紳士の園」の、スワン鍋を巡る不思議なやり取りから、この人らしい面白さが味わえるようになってきた気がする。
ラストシーンの飛躍が、個人的には好き。
あ、そう締めますか!みたいな。
「閏の花嫁」シボニスータ。気になる。シボニスータ。
「煙の殺意」も、犯行動機の奇妙さ、でも不意に犯したことによる死者の数に耐えられなくなる人間心理というのも、あながちあるように思えて、面白く読めた。
「歯と胴」は、二度面白い。
一度目は、死体を無茶苦茶にしたわりに歯を含んだ石鯛を彼が食べられなくなるというシーン。
二度目は、妻が殺されたことを知らず、教授が浸る幸せさえも滲んでゆくシーン。
こういう視点で描かれた話はまだ読んだことがなくて、なるほどと思わされた。
米澤穂信のお薦めらしい、と聞いて読んでみたものの、自分が生まれる前に書かれた作品とは思えないくらい、なんか発想や書き口が若い!
ちょっと驚いてしまう。
一人が殺されることのストーリーが組み立てられていくのに、その一人が突然パーツになるというか、俯瞰される構造が楽しかった。 -
Posted by ブクログ
まだよく理解していない作家。個人的には2冊目。
前回は玩具職人の薀蓄を絡めた殺人事件の推理という話だったが、こちらの短編ではなかなか事件らしい事件が起こらないので、読んでいく重心をどこに取れば良いのかなかなか悩む。
とはいえ、蒔絵師に浄瑠璃、染師、縫箔(ぬいはく)師などという、江戸の技術の職人の世界や古典芸能を軸足にしてるんだなというところはよくわかった。
4篇納められているが、真ん中2篇は結構印象は薄い。最近の小説に慣れすぎているので、専門知識と散文的な会話を元に、本当に純文学をやられるとついて行けずに「もう終わり?」となるのだな。落ちるポイントはわかりやすいけれども。
しかし、この本のメインは、やはり「忍火山恋唄」と「折鶴」であろう。ちゃんと(?)事件が起こるので、読みやすいし筋も置いやすいし、さらに現代である描写も十分。古典の素人なりについていける適当なペースもよろしい。あとで知ったが、両作とも直木賞候補なのね。ふむ。
速読にあまり向かないし、独特の会話の記述など、もう一冊買って読むかわからないけど、電子書籍で買って読むには、本作はちょうどいいんじゃないかね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ好きな作家は多々いるが,最も好きな作家は,やはり泡坂妻夫である。どの作品も,文章も肌に合うし,世界観,キャラクター,設定などもいつも感心してしまう。もう読み尽くしていたと思っていたが,古本屋で見たことがない文庫を見つけたので購入。蚊取湖殺人事件は別のアンソロジーかなにかで読んだことがあり,ミステリとはいえない作品もあった。「雪の絵画教室」と「銀の靴殺人事件」,「秘宝館の秘密」が初めて読む泡坂妻夫のミステリだった。三つ読めれば十分かな。泡坂妻夫ということだけでも★3は確定。
○ 雪の絵画教室
渡辺恒という画家のアトリエでミケランジェロ六郎というテレビでも人気の画家が殺害される。田中裳所という女性の視点から事件が描かれるが,田中裳所という女性の設定も,その彼氏役の野川幸久という男の設定もなかなか味がある。とはいえ,これらの設定が生かしきれていないのは難点。犯人が馬野順吉という大量殺人事件の犯人で,動機がミケランジェロがテレビで書いた風景画から,自分の秘密がバレるのを防ぐためという真相はぶっとんでいる。文章の上手さはさすがだけど,ミステリとしてのできはイマイチか。
○ えへんの守
マジックをテーマとしたちょっといい話。文章のうまさはさすがだけど,やはり泡坂妻夫の作品であれば,気の利いたミステリが読みたいとおもってしまう。
○ 念力時計
世にも奇妙な物語系の作品。ショートショートとしては及第点のようにも思えるけど,やはりミステリが読みたい…。
○ 蚊取湖殺人事件
犯人当て形式の作品。登場事物の造形やトリックなどは泡坂妻夫らしさが発揮されている。フーダニットだけど,鍵はアリバイ。湖の氷が動いて,犯行現場が変わってしまい,アリバイができたというもの。大掛かりな物理トリックで,昭和っぽい作品
○ 銀の靴殺人事件
泡坂妻夫らしいキャラクターが繰りなすミステリ。18人のダンサーが一人少なくなっても誰も気付かないというチェスタートンみたいなトリック。このトリックをなかなかの短篇に仕上げてしまう泡坂妻夫の手腕に脱帽
○ 秘宝館の秘密
心中したと思っていた女性の死体が見つかったという話。女性もの靴を履いて,後ろ歩きで戻ったというトリックはバカミスといってもいいが,きっちり読める短篇に仕上げる手腕はさすが。盗んだお金をモアイ像の中に隠すというトリックも…バカミスか。
○ 紋の神様
ミステリではなく,ちょっといい話。文章の上手さはさすがだが,やはりミステリが読みたい。