桂望実のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
中小企業には悩みが尽きない。業績は経営者の舵取りでなんとかなる。だが、必ず突き当たるのが後継者問題だ。
大企業のように人材が揃っているわけではない。数少ない候補者はみな帯に短し襷に長しで、とても任せられないように見えてしまう。
そんな悩める経営者が1人の中小企業診断士との出会いによって、自身を見つめ直して変わってゆくさまを描いたヒューマンドラマ連作短編集。
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会社のトイレを出た岡村正人は廊下で次男の玲二がつっ立っているのに気づいた。熱心にスマホを見ているらしい。
何をしているのか尋ねると、波の情報を見ていると返ってきた。サーフィン好きは知っているが勤務時間であることを注意して、岡村はその場をあとにした。
社長室に戻った岡村が黒い革張りの椅子に座って間もなく、ノックとともに入ってきたのが長男の洋一だ。
仕入先の鶏卵業者から納入価格値上げの要望があったというので先を促すと、洋一は手に持った書類を差し出した。それは鶏卵業者のリストで、仕入値の安い順に並んでいる。業者を替えようと提案する洋一だが、各業者の卵の味を調べてはいなかった。
ケーキは卵で決まる。岡村が知る限り、現在の取引業者のものより味のよい卵はない。さらに、前回の値上げの要望は業者側に我慢してもらっている。
それらを説明して値上げ交渉に応じるよう伝えると、洋一は「わかりました」と無表情で答えて出ていった。
2人の息子のどちらに社長を任せてよいか考えると岡村は頭が痛い。堅実だが視野が狭く柔軟さに欠ける長男か、勘はよいが奔放でマイペースを崩そうとはしない次男か。悩んでいたとき、内線電話が鳴った。
中小企業診断士の北川徹が来社したという連絡だった。( 第1章 ) ※全3章。
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もう映像化の話が進んでいるかも …… と思うようなエンタメ作品でした。
何と言っても中小企業診断士の北川のキャラクターが秀逸です。
派手な蝶ネクタイに怪しげな笑顔。物腰は柔らかく言葉遣いも丁寧なのに、時おり覗く山師の顔。胡散臭いことこの上ありません。この強烈なインパクトは映像向き。
剽軽な北川、真面目な北川、淡々とした北川。この男が見せる様々な顔は、どれもが自然で違和感を感じさせません。
「演じているのです」と北川は言います。舞台役者でもある彼にとって、演ずることこそ人生なのです。
相談相手によって突拍子もない提案をしていく北川ですが、実はその狙いは一貫しています。視点を変えて見ることと、俯瞰して見ることです。
それが象徴的に描かれているのが第3章でした。
社長が急死した中堅包丁メーカー。社長に跡取りの子どもはおらず、残された妻は経営に関わったことがないためドイツの企業への売却が決まります。
おまけに屋台骨を支えてきた専務まで急病で長期入院となったため、社員は動揺し浮足立ちます。
そんな社員たちのためにセミナーが開かれることになり、その講師として呼ばれたのが北川でした。
北川はワークショップを企画します。
それはクジで選ばれた2人が、その場で自ら引いたクジに書かれた ( 社内での ) 役職になりきって即興でやりとりするという内容です。
与えられた役職の業務や相手側への要望を想像しながら演じることで、他者の視点で考え社内を俯瞰できるようになっていく社員たち。その1人が本章の主人公の伊藤浩紀でした。
さらに伊藤は、「演じる」ということの有用性を知り、気が優しく自己主張が苦手だった自分を変えていけるようにまでなっていきます。
この第3章の伊藤は経営者や後継者ではないのですが、北川に感化されて社内の雰囲気やモチベーションを一新する人材に成長するさまが読んでいて楽しかったです。 ( 専務の後継になりそうに思います。)
舞台人独特の熱量で悩める企業人たちを導いていく北川という中小企業診断士の活躍。もっと見たいと願ってやみません。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かった。
珍しく中小企業診断士が活躍する物語。一般的には中小企業診断士というよりコンサルティングといった方が伝わりやすいと思うが、あえて中小企業診断士とすることに作者のこだわりを感じる。
取っても食えないとバカにされがちな中小企業診断士の資格であるが、その仕事ぶりがわかるお仕事小説。純粋に中小企業診断士が活躍する話はほかで読んだことなかったので、素直に嬉しい。
物語は3つの短編からなる。それぞれに問題を抱えた会社が舞台になっている。後継者を長男にするか次男に悩むパン屋、無能な部下しかいないと悩むバックメーカー、先代社長の急逝により外資系企業に買収された包丁製造業。型やぶりな中小企業診断士である北川が、ちょっとしたアドバイスを与えながら、それぞれの問題の解決の手助けをしていく展開の仕方である。ただし、直接的な解決策の提案はしない。こんなことをやってみてはどうですか?とアドバイスするが、それにより、社長や社員自らが大切なものを気づいていく。結果的に課題の解決につながっていく。
今まで見えていなかった自分の子供たちの能力や得意な部分、無能だと思っていた社員の会社への熱き思い、自社の誇るべき職人の技術、社員の誇りなどなど。一面的な見方により気づいていない良い部分に、別角度の見方により見えてくる大切なもの。それに気づかされていく展開が、読んでいて心地よい。
そう、中小企業診断士は気付きを与える仕事なのだ。面白い。
中小企業診断士の北川が型破りの提案を行なっていく展開はいくらでも描きようがあるので、続編を期待したい。
全中小企業診断士が読むべし。良書。 -
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年齢の違う2人の心の通わせが良かった!少年を縁として、健一と少年の父が一緒に出かけるのも楽しそうだった。こういう関係の広がりもあるんだなぁ。少年との付き合いを通して、手抜きばかりのケータリングだったのが、丁寧に料理をするようになった健一。
健一が少年に言った言葉
「生まれてきただけで意味がある。親にとっては、生まれてきてくれたというだけで、幸せを運んでくれるんだからな。そこにいてくれるだけで充分なんだ。思っていたような子どもにならなくても、問題を起こしたとしても、自分の子どもとして生まれてきてくれただけで それだけで充分なんだ」が、心にしみじみと残った。
また、「思うようにはいかないな、人生というのは。だが、それが人生だと思えるようになったよ」との秋山先輩からの言葉も心に響いた。
若い友人との別れは寂しいが、明らかにいい影響を受けた。林望実さんの作品はほぼ初めてなので、他も読んでみたい。 -
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ネタバレ「人生はオーディションの連続だと思います。」
の書き出しに惹かれて読み始めました。
「じゃない方」感に苦しむ話かな?と思ったら割と前半だけで、殆どは主人公・展子が困難にぶつかり成長し、幸せに気づくまでのストーリー という感じでした。
プレッシャーから周りが見えなくなって、昔からツイてないせいだと思ってしまう展子の気持ちも、大雑把(よく言えばおおらか)で「なんくるなる!」精神の太一の気持ちも分かるな〜。
ただ、エスカレートする展子の詰め方は、普段言われる側にいる私としては文字で読んでてもキツかったです。
そして合間合間の語り口調に違和感があって「なんだこれ?」と思っていたのですが、最後の展開に涙、、、
いつからでも遣り直せるし、夢も叶えられるんだと勇気づけられました!
今私は展子と久美が結婚した年齢と同じ歳なので、これからのライフイベントについて考えるきっかけにもなりました。
読んでたらめちゃくちゃパンが食べたくなります。久しぶりに焼いてみようかな。 -
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それぞれ様々の背景をもつ人たちが一つに集まって何かを成し遂げる。成し遂げることの大小も、年齢も性別も関係なく、何かに真剣になってそこから得るものの大きさは、他の誰に評価できるものでもない、自分のもの。
そんなことを考えさせられた作品だった。
終わり方も良かった。競技会の結果で終わるのではなく、その後の日常まで描かれていて、物語のはじめからの各キャラクターの変容が胸に迫る。
ちょっとかたい感想になってしまったけれど、(主に)3人の初心者ダンサーの日常と、講師の心の機微が、適度に入れ替わり登場するので、とても読みやすい。
3人が社交ダンスにのめり込んでいくのと同じように、読んでいる方も引き込まれる。
続きがあれば、ぜひ読んでみたい。 -
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2019年「オーディションから逃げられない」改題
全く、人生は幾つになってもオーディションから逃げられないのよ。生まれた時から、入試とか就職とか結婚とか。最後の方には、介護保険の認定面談まであるのよ。
たまたま、同じ苗字の美女と同じクラスになり、友人となり、長い間、“じゃない方”というポジションとなった女性。その美女はなかなか良い子で、一生の友人になるんだけど。
笑えるような哀しいような、“じゃない方”の話だけではなく、家庭を持ち家族を支える事になった主人公が、パン屋の主人となり、いうの間にかオーディションをする側にもなっていく。
自分の人生に満ち足りなかった気持ちを抱えて走り続ける。ついていない人生を自分で開拓していく。周りが見えなくなり、折れてしまいそうな時、手を差し伸べたのは、頼りにならなかった夫だった。
ついてないことで諦めない事は素敵。
今までの幸せに気づけのも素敵。 -
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読み進めていくたび、ゴールポストが動いていく感じ。一章ごとに、変貌するミステリーと言われているけど、それ以上に変わる。ミステリーになっているけれど、それを考える隙がない。
スーパーでの数分の買い物の間に、6歳の少女の姿が消える。母親は、必死で探す。警察も学校も動くが、金銭の要求もなく、少女の身体も見つからない。周囲は、時間の経過とともに、徐々に諦めていく。少女の母親は決しって諦めない。
その母親の生涯をノンフィクション作品として出版しようと、フリーライターが当事者関係者への取材を重ねていく、という構成。
諦めない母親は次第に周囲から孤立して、離婚となり家も失う。それでも、探し続ける。
諦める事は、罪なのか、日常を保ち精神を保つ手段なのか。となるのかな、母親だったら諦めないよ!と、思うところで、子供達の状況が語られ始める。諦めないところと、受け入れるところを区別して生活を保つ子供達が尊い。
そして、諦めなかった母親の元に12年ぶりに成長した少女が戻る。成長した娘と、娘の保護を諦めない母親との間に亀裂が入り始める。
子供達が、大人すぎるなとは思うけど、楽しめました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレずっと自分はついてないと思ってた。
親友は同じ苗字でなおかつキレイで自分は選ばれない方の渡辺
でも理解して応援してくれる優しい父親がいる時点で展子はとってもついているんだと。
学生時代って何かと人と比べて
なんで?どうして?が付きまとう
それくらい毎日誰かと行動していたから。
でも社会にでたら
いかに自分が挑戦できる場所にいるか
優しい家族がいるか
厳しくいってくれる兄弟がいるか
優しい友達がいるか
それだけで全然違う。恵まれてる。
病気になって亡くなる前に友だちが
展子はいつでもやりなおせる時間がある
子どもの成長をみることができる
それだけでどれだけ恵まれているか分かる。
劣等感の話かと思ってたけどそうじゃない
いかに展子が成長していて周りに恵まれてるからわかる本だった。
最後泣いてる自分がいた。
私は共感できて心から展子の幸せを祈った小説だったと思う。