桂望実のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
まずまず平穏な人生を送っていたはずなのに突如として崩れた足許。自分が落ちてしまった陥穽はあまりに深く絶望的な気持ちになったが……。
人生の岐路に立たされたアラフィフ女性たちの選択と再起を描く痛快リベンジ短編集。
◇
伊藤由美はいつものように夕飯の支度を始めた。まだ午後6時。夫の帰宅まであと1時間ほどある。十分間に合うだろう。
雅規と結婚して28年が経つ。結婚当時25歳だった由美も53歳になった。
食器棚のガラス扉に映る自分の顔。確かに老けたと思う。
今日の昼、5年ぶりに江都子と会った。
大学教授をしているその友人が由美を見るなり「老けたわね」としみじみ言う。
ムッとした由美だったが、江都子の溌剌とした様子を見て思わずことばを飲み込んだ。自分と同い年の江都子は、実年齢よりも10歳は若く見えたからだ。
人前に立つ仕事をしているのが大きいのだろうかと、密かにため息を吐いた。
帰宅して食卓についた雅規は、テレビに目を向けたまま黙々と料理を口に運んでいる。せっかく夫の好きな献立なのに、無言で食べられては張り合いがない。「美味しい?」と尋ねても、雅規は由美の顔も見ずに「ああ」と短く答えるだけだ。
まあ元々無口な人なので仕方ない。静かで穏やかな生活ができているのだから幸せなのだと由美は思うことにした。
けれど、夫がいきなり離婚を切り出してきたのは、その数日後のことだった。 ( 第1章「五十三歳で専業主婦をクビになる」) ※全4章。
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小さな幸せだけれど、それがいつまでも続くと思っていた各話の主人公たち。
ところがある日、その平穏な生活が突如として崩れ去ってしまいます。途方に暮れて、人生を悲観する彼女たちですが……。
絶望の淵にあっても、彼女たちは沈みっぱなしにはならず、再起を図る決心をします。再起に必要なもの。それは、「リベンジ」です。
ここでポイントとなるのは、そのリベンジの方法です。
彼女たちは、自分を奈落の底に突き落とした相手に対して何かを直接仕掛けるのではなく、それまでの自分を見つめ直して自身の在り方を変えていこうとします。
つまり、「それまでの自分」へのリベンジを、結果的に相手を見返すことに繋げるのです。
第1章の主人公は53歳の由美。
地味な専業主婦として生きてきた由美ですが、離婚によって唯一の居場所だった家庭を失います。
けれど生活のため、社会に能動的に関わることを選択した由美は、やがて真の自立を手に入れていき……。
第2章の主人公は51歳の英子。
旅行代理店の中間管理職です。堅実な仕事ぶりで役員目前まできていましたが、社内政治に長けた同僚の男に企画を潰され役員の座もその男に奪われます。
けれど、退職して起業することを選択した英子は、自身の企画をさらにブラッシュアップして、積極的な営業を展開することで……。
第3章の主人公は46歳の邦子。
スイミングスクール所属のベテランコーチです。専属コーチとして担当していた有望な若手男性スイマーから、ある日突如契約解除されてしまいます。
けれど自身のコーチングスタイルと向き合う選択をした邦子は、大学院で学ぶなどしてスキルアップに努め……。
第4章の主人公は52歳の綾子。
フリーアナウンサーとして22年間も担当してきたラジオのトーク番組を、ディレクターの私情により降板させられます。
けれど生活のため選択した「話し方の個人指導」という地道な仕事を続けるうち、自身のアナウンスメントにもさらに磨きがかかっていき……。
彼女たちは自身を高める生き方を選択することでみごとに再起を果たします。そして身勝手な理由で自分を奈落の底に突き落とした男を見返す姿が、ラストで描かれます。
テーマ的に柚木麻子さんの『あいにくあんたのためじゃない』と重なりますが、痛快さでは本作のほうが格段うわまわります。
スッキリした気分で新年をスタートさせたいという方にはオススメです。 -
Posted by ブクログ
小さな会社にとって後継者は大きな問題なんだろうなあ。
特に自分が創業者だったりしたら思い入れも半端じゃないだろうから。
社長が思っているほど社員は会社を心配していないこともない。
しかし今の若い世代はドライでもある。
認めてくれれば、やる気が出るような会社なら頑張ってくれるのだろう。
そういう社員を育てるのも社長など上層部の仕事なんだろうなあ。
中小企業診断士の北川が面白い。
役者でもあり、様々なアルバイトを経験してきたことが的確なアドバイスの原点にあるのだろう。
突拍子もないことを言い出すようで、実は的を得たアドバイスが社長達を救う。
第三章が一番面白かった。
変化を好まない社員が変わっていく、そこには北川の影がちらほら。
しかし軽すぎる社長夫人と 専務にはちょっと呆れてしまった。
まあ、若者の手で立て直せそうなので良かったけど。
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Posted by ブクログ
スーパーで買い物をする少しの間に、6歳の少女・沙恵は姿を消してしまった。母親の京子は半狂乱になって探し回るが見つからないまま。やがて12年の時が過ぎ…フリーライターの飯塚桃子はこの事件について本にしようと、関係者に取材して話を聞いていく。
沙恵が行方不明になった第1章からストーリーが始まるが、第2章になったところで突然18歳の沙恵が取材対象になっており、誘拐されても生きていたことが発覚。これだけでもうまいなぁと思ったが、その後も意外なところから展開を読者に知らせる形で、構成に感心した。娘の無事を信じるが故におかしくなってしまった母親、なんとか次に進むためにけじめをつけて新しい人生を歩むことにした父親、そしておかれた状況の中で必死に生き延びた少女と、当然の成長&母親とのぶつかり。どんでん返しとはいわないまでも、最後まで意外な展開があり。おもしろかった。 -
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中小企業には悩みが尽きない。業績は経営者の舵取りでなんとかなる。だが、必ず突き当たるのが後継者問題だ。
大企業のように人材が揃っているわけではない。数少ない候補者はみな帯に短し襷に長しで、とても任せられないように見えてしまう。
そんな悩める経営者が1人の中小企業診断士との出会いによって、自身を見つめ直して変わってゆくさまを描いたヒューマンドラマ連作短編集。
◇
会社のトイレを出た岡村正人は廊下で次男の玲二がつっ立っているのに気づいた。熱心にスマホを見ているらしい。
何をしているのか尋ねると、波の情報を見ていると返ってきた。サーフィン好きは知っているが勤務時間であることを注意して、岡村はその場をあとにした。
社長室に戻った岡村が黒い革張りの椅子に座って間もなく、ノックとともに入ってきたのが長男の洋一だ。
仕入先の鶏卵業者から納入価格値上げの要望があったというので先を促すと、洋一は手に持った書類を差し出した。それは鶏卵業者のリストで、仕入値の安い順に並んでいる。業者を替えようと提案する洋一だが、各業者の卵の味を調べてはいなかった。
ケーキは卵で決まる。岡村が知る限り、現在の取引業者のものより味のよい卵はない。さらに、前回の値上げの要望は業者側に我慢してもらっている。
それらを説明して値上げ交渉に応じるよう伝えると、洋一は「わかりました」と無表情で答えて出ていった。
2人の息子のどちらに社長を任せてよいか考えると岡村は頭が痛い。堅実だが視野が狭く柔軟さに欠ける長男か、勘はよいが奔放でマイペースを崩そうとはしない次男か。悩んでいたとき、内線電話が鳴った。
中小企業診断士の北川徹が来社したという連絡だった。( 第1章 ) ※全3章。
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もう映像化の話が進んでいるかも …… と思うようなエンタメ作品でした。
何と言っても中小企業診断士の北川のキャラクターが秀逸です。
派手な蝶ネクタイに怪しげな笑顔。物腰は柔らかく言葉遣いも丁寧なのに、時おり覗く山師の顔。胡散臭いことこの上ありません。この強烈なインパクトは映像向き。
剽軽な北川、真面目な北川、淡々とした北川。この男が見せる様々な顔は、どれもが自然で違和感を感じさせません。
「演じているのです」と北川は言います。舞台役者でもある彼にとって、演ずることこそ人生なのです。
相談相手によって突拍子もない提案をしていく北川ですが、実はその狙いは一貫しています。視点を変えて見ることと、俯瞰して見ることです。
それが象徴的に描かれているのが第3章でした。
社長が急死した中堅包丁メーカー。社長に跡取りの子どもはおらず、残された妻は経営に関わったことがないためドイツの企業への売却が決まります。
おまけに屋台骨を支えてきた専務まで急病で長期入院となったため、社員は動揺し浮足立ちます。
そんな社員たちのためにセミナーが開かれることになり、その講師として呼ばれたのが北川でした。
北川はワークショップを企画します。
それはクジで選ばれた2人が、その場で自ら引いたクジに書かれた ( 社内での ) 役職になりきって即興でやりとりするという内容です。
与えられた役職の業務や相手側への要望を想像しながら演じることで、他者の視点で考え社内を俯瞰できるようになっていく社員たち。その1人が本章の主人公の伊藤浩紀でした。
さらに伊藤は、「演じる」ということの有用性を知り、気が優しく自己主張が苦手だった自分を変えていけるようにまでなっていきます。
この第3章の伊藤は経営者や後継者ではないのですが、北川に感化されて社内の雰囲気やモチベーションを一新する人材に成長するさまが読んでいて楽しかったです。 ( 専務の後継になりそうに思います。)
舞台人独特の熱量で悩める企業人たちを導いていく北川という中小企業診断士の活躍。もっと見たいと願ってやみません。