岸田メルのレビュー一覧
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“簡素な白い法衣をまとい、無造作に髪を伸ばした硬質な聖女の姿が自然と眼に浮かぶ。背にある巨大な翼が風に揺れ……でも、その翼は、偽物なのだ。
「そうだね、きれいで……そしてなんだか、少し寂しそうに見えた」
「寂しそう?」
「うん……それは、アリシアもだけど」
「私が?」
そんなこと、今まで一度も言われたことがないので驚いてしまった。
まじまじとリュクを見つめれば、リュクは自分のほうこそ寂しそうに笑う。
「アリシアもさ、いつもにこにこいい笑顔してるのに、たまにすごく寂しそうな、切なそうな顔をしてる時があるよね。……あれ、ライセン公爵のこと、考えてるんだろ?」
カシュヴァーンの名前を聞いたアリシアが表情を曇らせつつ、「ライセン<強>公爵様よ」と訂正すると、リュクも一層寂しそうな、切なそうな笑みを浮かべる。
「あんなに美形のアズベルグ公爵と、あんないい条件出されても結婚したくないなんて……アズベルグの暴君、だっけ。ライセン、えーと、強公爵閣下って、きっとものすごくかっこいいんだろうね」
「……ええ、そうよ、とってもかっこいいの。強くて、やさしくて、お金持ちで、寛大で……」
時々ひどく、もろくも見えて。
「……私の、理想の、旦那様なの……」
カシュヴァーンからは一番遠いはずの木彫りのアーシェルを見てまで、彼の姿が脳裏に浮かんできた。そのうち何を見てもカシュヴァーンに見えてくるかもしれないわ、とアリシアは思った。
そういう形でもいいから、会いたいとも。”
リュクの性格もまた楽しいなー。
仲間が増えたようでなにより。
ユーランの件には思わず泣いたり。
ノーラ可愛いよノーラ。
“「あら?ノーラ、泣いてるの?」
「なっなんですか奥様何をおっしゃるの泣いてなんかいませんわ泣いてるんだとしたら何が理由で!?」
目元をぬぐいながらものすごい勢いでまくし立てられ、きょとんとしたアリシアはごく普通に答えた。
「レイデン伯爵様が無事に戻られたからでしょう?ノーラが一番長く、レイデン伯爵様とお会いしていなかったんだもの。嬉しいわよね」
まともに言い当てられ、二の句が継げずノーラが押し黙る。
「……ノーラ。本当に?」
ティルナードがそっと尋ねると、ノーラはむきになって首を振りかけ……途中で思い直して、渋々うなずいた。
「……そりゃあ……なんだかんだで結構お付き合いも長くなりましたし……あなたはカシュヴァーン様の被後家見人なんですから……い、生きていたほうが、カシュヴァーン様のお役に立ちますもの」
「……そうか」
素直さのないノーラの回答に、ティルナードは素直に言った。
「僕も、嬉しいよ。お前も僕も無事で。……生きてまた会えるって、本当にいいことだな」
その途端ノーラは真っ赤になって押し黙り、リュクといえば「ああ、この子も売却済みかあ」とぼやいてルアークににこやかに口をふさがれた。” -
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“「何って、カシュヴァーンおにいちゃんがいなくてアリシアが暇そうにしてたから、オルガン弾いてもらってただけだけど?で、ついでにノーラを弾いてみよーかなーなんて。でもごめんねぇティルぼっちゃん。ぼっちゃんが来るんなら、遠慮すべきだったね」
ルアークがわざとらしく名前を呼んだのは、カシュヴァーンではなく、ちょっとほっとした顔になっていた先の茶色い髪の若者。
ここアズベルグの山脈を挟んで東隣、肥沃な大地に恵まれたレイデン地方の領主ティルナード・レイデンである。とはいえ、シルディーン王国で成年と認められる十八歳に満たないため、領主としての権限は後見人のカシュヴァーンに握られている状態だ。
「な、なんだ、お前らがどうなろうと僕には関係ないだろう!?」
「そ、そっ、そうですわよレイデン伯爵のおっしゃるとおりですわ!前から言ってますけど、私はこんなへなちょこおぼっちゃんに本当に興味はないんですのよ!?」
声を揃えてティルナードもノーラも無関係を強調するが、二人仲良く頬は薄赤く染まり声音には動揺の色が濃い。
「あらノーラ、レイデン伯爵様のほうがいいのなら私はそれでも構わないわよ?なんならレイデン伯爵様と結婚して、ルアークを愛人にする?でもカシュヴァーンの愛人は続けてね。でないとなかなか会えないもの」
身勝手な提案を始めたアリシアに、ノーラは眼を吊り上げて「そんなただれた関係はごめんです!」と叫び返した。”
ノーラ弄りがすごく楽しい。
エルティーナは何とも面白そうな性格のようで。
次にユーランがどう動くのやら。
“「オーデル侯爵夫人が何を……?あ、アリシア様」
怪訝そうなトレイスの横をすり抜け、アリシアはまっすぐカシュヴァーンへと向かう。
どうした?と言うように優しい眼をしているカシュヴァーンにぴとっと体をくっつけ、さすがに驚いているその顔をじっと見て、
「嫌いです」
カシュヴァーンが大きく眼を見開いた。
一方アリシアはすぐにカシュヴァーンから離れ、硬直しているトレイスを尻目にまた部屋の外に出た。そして室内のカシュヴァーンを見つめてこう言った。
「好きです」
カシュヴァーンは、どうしていいのか分からないのだろう。黙ったままぴくりとも動かない。
石化したような状態の夫と、手元の書簡を交互に見ながらアリシアはつぶやいた。
「あら、反応がないわ、逆だったかしら?でも逆は普通よね……」
「なになにアリシア、なんの遊びしてんのー?」
そこへひょこっと顔を覗かせたのは、言わずもがなのルアークだ。
「ああ、エルティーナ様に『子悪魔な振る舞い』というのを教えてもらったから、実践してみようと思って。これをするとね……カシュヴァーン様が、私のことをもっと好きになって下さるんですって」” -
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“カシュヴァーンの後を追って隠し部屋に足を踏み入れたアリシアは、「あの野郎」と夫が吐き捨てるのを聞いた。
かつてカシュヴァーンの父が使っていた年代物の文机の上に、二人が送った守り石が並べられ、降り注ぐシャンデリアの光に虚しい輝きを返していた。
「ルアーク、今ごろどうしているのかしら……」
ぽつりとつぶやくアリシアの口の中に、鶏肉が規則正しく運ばれていく。
悄然と肩を落とし、ルアークのことを心配しているのは嘘ではない。しかしここで食欲は落ちないのがアリシアだ。
「ああ、それにしてもこのお料理はおいしいわ……やっぱりもうひと皿いただこうかしら……」
途中から違うことを考え始めたアリシアに、ノーラは呆れた顔をしたがエリクスは瞳を細めて微笑んだ。
「アリシアは、いつでも本当においしそうに食事をするなあ……」
冷めたスープに視線を落とした後、エリクスはいきなりアリシアに尋ねかけた。
「ねえアリシア。アリシアはカシュヴァーンのことが好き?」
カシュヴァーンとノーラとトレイスが同時に吹き出す。
「あ、ごめんカシュヴァーン、大丈夫?」”
アリシアの調子が楽しい。
「玩具の兵隊」の醜悪なネーミングセンスに感嘆したり。
ノーラは最終誰とくっつくかな。
本文と絵が合ってない時がある……。
“「心配ない。死ぬほどは殴っていない。大体こいつは今、殴られるために座り直したんだ」
自分が殴られでもしたかのように顔を歪めて、カシュヴァーンは否定することのないエリクスを見下ろす。
「俺は弱い者いじめをする奴も嫌いだが、弱い奴はある意味それ以上に嫌いだ」
「……弱い者いじめって言葉はおかしいよ。弱いからいじめられるんだよ」
唇付近まで腫れが広がっているらしく、エリクスの声はこもってひどく聞き取りにくい。
「だけど弱い奴には、弱い奴なりの生き方ってものがある。君に会って、ブライアンの話をした時の反応で、すぐに分かった。君は人を殴っても、人を見捨てられない男だってね。だからきっと、僕を放り出したりしないだろうって思った。僕のような人間が大嫌いだって自覚していて、なお、ね」
カシュヴァーンはもう一度拳を握った。
しかし握られた拳は空を切ることはなく、エリクスはそんな彼を見て微笑んだ。
「みんな、君みたいに強くはないんだよ」
「強い」という言葉に、カシュヴァーンの握った拳にさらなる力がこもる。
「みんな、君が怖いんだ。国王陛下も、<翼の祈り>教団も、あのオーデル侯爵でさえも」
いつしか涙も引いたらしく、エリクスの瞳は乾いていた。
「みんな、みんなが、怖いんだよ。下克上の風潮は収まったようでいて、いまだにシルディーンの中に残ってる。少しでも隙を見せれば、もっと強い誰かに大事な物を奪われるかもしれないって、みんな怯えてるんだ」
そこまで言ってエリクスは、唇の端を歪めて笑った。” -
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“「ライセン?な、なんだ、僕は、ただ……」
青い瞳を大きく開けて、ティルナードは眼の前の男を見返している。
しかしカシュヴァーンの問いに込められた真意は、世間知らずのおぼっちゃんであるティルナードの胸にも次第に染み通っていったようだった。
「……僕を……疑っているのか?お前は……」
唇を震わせ、ティルナードはかすれた声で小さく言った。
「お前も僕を……いらないって言うのか……?」
言うが早いか、ティルナードは乱暴なしぐさでカシュヴァーンの腕を振り払った。
「レイデン伯爵様!」
アリシアの呼び声も無視して、素早く伏せられた瞳の縁がきらりと光る。服の袖で顔を覆うと、ティルナードは廊下を一直線に駆け戻っていった。”
どのキャラも個性が出てて生き生きしてる。楽しい。
ルアークの性格好きだなー。
“「ア、アズベルグ公爵をお助けになるのは結構ですけど、私たちは大丈夫ですの!?戦えそうな人はみんな行ってしまいましたけど、他に伏兵がいないとは限りませんのよ!」
「あらそうねえ。お屋敷の中に入ったほうがいいかしら?でもまだ煙が充満しているし、中は中で危なそうよノーラ」
ノーラにもアリシアにもさり気なく戦力外扱いされたティルナードが叫んだ。
「僕がいますよアリシア様!ご心配なく!」
「僕がいますから余計にご心配ですのよ!そんなに腕も足も震えているのに、一体どうやって戦うおつもり!?下手に剣など振り回されたら、こっちが逆に危ないですわ!おまけにその剣さえ持ち出せてないじゃないですのあなたは!」
半ば八つ当たりのように叫び返したノーラの言葉に、アリシアは少し考え込む。
「確かにレイデン伯爵様は、あまりお強くはないかもしれないわね。だけどノーラ、そういう人にも戦い方が……ええと、何だったかしら。弾避け?」
「アリシア様その扱いはあんまりです!」
戦力というより一種の防壁扱いされたティルナードが絶叫した。” -
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“「あなたが成り上がりでお金と地位しかない方で良かったわ。だっておっしゃる通り、うちにはもう名誉と歴史しかありませんもの。私、ライセン様がなんで私と結婚して下さるのか全く分かっておりませんでしたけど、今の説明で全て分かりました!」
はっきりとしたカシュヴァーンの言葉を、アリシアははっきりと復唱してみせた。カシュヴァーンはさすがに口の端を引きつらせたが、ぺこりと頭を下げたアリシアにはそのさまは見えなかったようだ。
「傷物で申し訳ありませんけど、どうぞ末永くよろしくお願いしますわ!誓ってライセン様を殺したりしませんのでご安心下さいませ。あなたほど私にぴったりの旦那様、もう二度と見つからないと思いますもの」
顔いっぱいの笑顔で笑う彼女は、あいかわらず特に美人というわけではない。着古したドレスの裾が長旅で更によれよれになっていることもあり、およそ名高き地方伯の令嬢という風情ではない。
しかし裏表のない喜びにあふれた姿には、見る者の心を捕らえる何かが確かにあった。
怖い話と金。
両親にもヘイスダムにも散々やめろと言われてきたこの二つの趣味が話題に上がるたび、アリシアの笑顔はいつもまぶしい光を放つ。
魅入られるように花嫁に視線を注いでいたカシュヴァーンは、自分でもようやくそのことに気づいたのだろう。はっとしたように軽く首を振り、表情を取り繕ったが、彼の瞳からは先ほどまでの意地悪い光はだいぶなくなっていた。”
あら可愛い。いや、もちろん死神姫が。
奇抜な題名にどんな中身かと思ったけど、ストーリー結構良かった。
とっつきやすいし読みやすい。
岸田さんのイラストも素敵だー。
続編読むのが楽しみ。
“「さて、悪いが俺はまた出かけなければいけない。せっかく来てくれたのに悪いが、お前はもう部屋に戻れ」
アリシアの頭から手を退けると、カシュヴァーンは退出を促した。
「あら、残念ですわ。お時間があるようでしたら、お食事をご一緒して頂けないかと思っておりましたのに」
まだ室内に漂っているシチューの匂いに誘われて、鳴ってしまいそうなおなかを押さえてアリシアはつぶやく。本当に残念そうな言葉を聞いたカシュヴァーンは、ふっと天井の方に目を向けてこう言った。
「悪いな。だが今は時間もないし場所も悪いようだ。しかし夕食は……確約は出来ないが出来るだけ一緒にしよう」
「嬉しいです。やっぱり食事って、誰かと一緒に食べた方がおいしいですものね」
本当に嬉しそうに表情を明るくした妻の頭にカシュヴァーンはもう一度手を伸ばし、子猫にでもするように撫でてやった。” -
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前巻の希望の続きを観たくて読み始めたんだけど……
お話的にはまったく新たな依頼。
今度は”ヤ”の付く人が出てくるかなりやばい事件だ。
文章も、作者の語り口も、物語の展開も、
違和感なく、かなり達者で、読ませる。のだけど……
この物語は何かが足りない。
物語的にはいろいろ追い詰められて、
どうにもならなくなって、
そこから、逆転していく展開。
だから、ラストでは、一種の爽快感があっていいはずなのに、
この物語にはそれがない。
ただ、ほっとした安堵感はある。
たぶん、主人公の性格が問題なんだろうなあ。
ちょっと後ろ向きすぎるのだ。
それがこの物語の重苦しさを作っている。
けれど、それさえも作者の計算の内で、
今後、物語の進行と共に、
主人公が成長していく姿が描かれるのかもしれない。
そして、それはアリスにも当てはまるのかも。
とりあえず、いつか、続きを読もうと思う。