山口裕之のレビュー一覧
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ネタバレ『「みんな違ってみんないい」のか?』を読み終えて——相対主義という名の落とし穴
電車の広告で見かけた「多様性こそ力」というキャッチコピーが、なぜかひっかかっていた。この本を読み進めるうちに、その違和感の正体が少しずつ見えてきた。山口裕之が指摘するのは、現代社会が「人それぞれ」という魔法の言葉で思考停止に陥っている現実だ。特に印象に残ったのは、原子力政策をめぐる専門家会議の事例。反対派の学者が排除された会議で「科学的合意」が作られるプロセスは、まさに相対主義が権力の道具となる瞬間を捉えていた。
私たちが無意識に使ってしまう「受け取り方次第」という言葉の裏側には、意外な危険が潜んでいる -
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久しぶりに内容の濃い本を読んだ。
「あ、この人意見違うな」と思うと、「まあ、人それぞれだしね」と、考えることを放棄していたけれど、それはものすごく安易な考えでした。(自己反省)
少なくとも、自分の大切な人(家族とか、数少ない友人)、ビジネスでお付き合いしないといけない人とは「正しさ」の認識合わせができるような関係を築いていきたいものです。
これって、難しいけど組織でも必要なんだろうな、と思いました。仕事をするという目的だけでつながっている人間関係。人が複数人集まれば、人間関係のいざこざは避けられません。
「正しさ」の共通認識を各人が持っているか。
良い人間関係を築くためには、重要な事なので -
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「多くの人は「人それぞれ」の相対主義か「真実はひとつ」の普遍主義かという二者択一に陥りがちですが、相対主義も普遍主義も相手のことをよく理解しようとしない点では似たようなもの」
だからこそ、その間の道をどちらかに落っこちないように気をつけながら進まなくてはなりません。」
本書は著者が「徳島大学総合科学部の授業をしながら考えてきたことのまとめ」だし、ちくまプリマー新書なので、本来の想定読者は若者たちかもしれないけれど、親世代かもしくは祖父母世代である私にとっても発見が多く、著者に励まされながら「間の道」を少しずつ進む読書は楽しくとても勉強になった。
(読書会Hさん推薦本) -
Posted by ブクログ
「みんな違ってみんないい」っていうのは金子みすずの詩だよね。いいフレーズだと思うけど、現代日本社会での「みんな違ってみんないい」のとらえられ方をあらためて考えると、みんないいのかってことになるよね。
この本の要旨は、みんな違ってみんないいで治めずに、ちゃんと合意点を見いだすべきという話。自分も日常のなかでずいぶんと、意見が通じないからとかかわりを怠ってしまっていることがままあるなと反省する。そこに分断が生じてしまうのであって、そうしないための努力が必要ということ。
一方で、双方がそういう気持ちでいれば合意も目指せるだろうけど、いまの世のなか、相手は話にならないことも、またままあると思う。著者は -
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「正しさや正義は人それぞれ」という、冷笑的とも言える(?)態度を批判する書籍。
大多数の人間は共通の感覚器官を有して事象を知覚するため、各人の感じとる認識というのは、言うほど異なっていないのであり、異なっていたとしても、理解可能な範囲の差異である、だから人それぞれなどと言うのは良くないし、感じた差異についての意見を交わすべきだ、というのが大意。
一見、実在論の立場を取りそうな論旨だが、科学哲学における実在論関連の議論をもとに、人間の創造性がなければ実在は確かではないという立場もとる。
※自らの哲学的立場をある程度平易に明示しているのには、知的な誠実さを感じる。
本書全体の細かな箇所を見る -
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はじめのうちは単なる科学読み物っぽいけど、途中から急に哲学度が上がって難解になる。
ただ、理解できた範囲内でもかなりいい感じ。
生命に対する理解の歴史を追いながら、「理解する」とはなにか、というところまで持っていく。そして機械を理解することと、生命を理解することの、行為としての本質的な差異を描き出す。
単純な提起のうちで、重要な提起もいくつか。
ひとつは、人間が理解する単位と、遺伝子の行動単位の差異。
ひとつは、理解するとはアナロジーによって特定のモデルに同定すること。
ひとつは、生物を機会に擬することは明らかな擬人法であるということ。
ほかにもいろいろな思想家・科学者の考えが -
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「みんな違ってみんないい」を突き詰めると社会は成り立たないから、社会的な正しさをどう成立させるのかを論じた本。1章から3章までは、シンプルに理解できる言語化で、いい感じ。
まとめると、
1章 「集団単位の多様性」と「個人単位の多様性」をごっちゃにすんな。
2章 言語学的にも、文化人類学的にも、「人それぞれ」というほど人は違っていないぞ。
3章 「人それぞれ」などと言って、十分に話し合う努力をしなでいるのがダメなんや。
でも、4章は科学哲学の話になり、何が言いたいのか分からなくなる。科学的知識(法則の発見)は、人間にとって有用な技術とハイブリッドで作られているという話が、小難しく続く。最終的 -
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ネタバレ「みんな違ってみんないい」という金子みすゞの詩を例にあげながら、「正しさは人それぞれ」という言説が流行っているというくだりがあったが、その2つはイコールではないのでは、と思った。
それぞれが「よい」と感じることと、それぞれが「正しい」と思うことは違っていて、必ずしも正しいことがよいことにはならないし、逆も然りである。
そのうえで、よいことは人の趣味嗜好の問題でありそこの多様性は認めてよいと思う、と書きながらふと思ったのだが、よいことの中に正しくない(と一般的に考えられる)ことが混ざってきたらどうなるのだろうか。
たとえば、朝井リョウさんの『正欲』のなかでは、特殊な嗜好の人たちが描かれている。 -
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相対主義「正しさは人それぞれ」と普遍主義「真実はひとつ」のどちらに偏ることもなく、「正しさはそれに関わる人々が合意することでつくられる」と考えることの大切さを説く一冊。高校生であっても理解できるがわかりやすい表現だが、現代の多様性尊重、感情尊重の大きな流れに疑問を抱いている人には大変興味深い本だと思う。
ここ最近連続してこの手の本を読んでいるが、共通しているのは、「言葉がよく考えられずにひとり歩きする」ことに警鐘を鳴らしている点だ。
今回は「みんな違ってみんないい」「正しさは人それぞれ」の一人歩きだ。よく考えもせずに受け止めてしまうと、「あなたはそうなんですね」で話は終了してしまう。
案外 -
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明確な歴史的背景をもつ中・短編を三編収録。原文がそもそもかなり特異な文体を駆使しているようで、それを生かすよう腐心した訳文も多分に複雑怪奇をきわめ、読むのにかなり骨がおれた。一行がやたらと長く、改行が少なく、ページ全体が文字でびっしり埋めつくされているため、さほど長い文庫ではないのに読むのに時間がかかること。集中力を要するという点でも、多分に玄人向けの作品と思う。「クライストの文章は副文が多く(……)勝手ににょきにょきと生えていく」とは多和田葉子の言だが、実に言い得て妙と思う。情報がどうつながっているのか、それを解読するのに大変苦労した。
「ミヒャエル・コールハース」:200ページ弱の中編