【感想・ネタバレ】ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇のレビュー

あらすじ

領主の不正により飼い馬と妻を失った馬商人が,正義の回復を求め帝国をも巻き込む戦いを起こす「ミヒャエル・コールハース」など,日常の崩壊とそこで露わになる人間の本性が悲劇的運命へとなだれ込む三作品を収録.カフカをはじめ多くの作家を魅了したクライストの,言葉と世界の多層性を包摂する文体に挑んだ意欲的新訳.

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Posted by ブクログ

当時の時代背景、宗教、作者の生き様も加味するとさらに味わって読めるかな。物語性、スピード感含めて今でも面白く読めるのは、訳者に寄るところであろうが、200年以上経っておりびっくり。
岩波文庫は、面白い。

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2025年06月08日

Posted by ブクログ

発売日に「名著新訳」の帯に釣られて買って1年。Penguinさんのレビューを見るまで、すっかり忘れてました。こんな名作を1年積んでいたことを後悔しきりです。ありがとうございます。

収録は三作品。どれもグイグイ読ませる名作だと思います。ところで帯に「名著新訳」とありますが、岩波文庫の”青・白”は「名著」でも、”赤”はフィクションなので「名作」ですよね。

以下、あらすじと感想。

『ミヒャエル・コールハース』
舞台は16世紀のドイツ。馬商人のミヒャエル・コールハースは、取引先のユンカー(地主貴族)に理不尽な方法で馬を奪われます。後日、その馬や馬と一緒にいた下僕の酷い扱われように憤慨した彼は、法廷に訴えるも権力の壁が厚く立ちはだかります。怒りに暮れた彼は、法が叶わぬならと自ら私刑に撃って出ます。それは次第に暴徒たちを巻き込んで武装蜂起にエスカレートして……。

と、コールハースは正義感の塊で、不正に対しては徹底的に争うのですが、町を焼き払う戦闘の圧倒的な描写力にはグイグイ惹きつけられました。ただ、そんな彼が最後まで争う姿勢を貫くストーリーは、やはり人は一人で生きているわけでは無いので、代償も大きかったわけですけどね。後先を考えない、行き過ぎた正義感に対して考えさせられました。
なお、作中にマルティン・ルターが出てきたのが興味深かったです。

『チリの地震』
舞台は17世紀のスペイン領チリの都市サンティアゴ。貴族の一人娘ドニャ・ホセファは、恋仲になったヘロニモ・ルヘラとの関係が親に露見し、引き離されて修道院に入れられます。しかし、ドニャは行先の修道院でもヘロニモと逢引きし、不義の罪で死刑宣告されてしまい、ヘロニモも牢獄に繋がれてしまいます。そんな折、大地震が起きて都市は壊滅状態になり、二人は奇跡的にも囚われの身から自由になって再会。生き延びた他の人々と新たな暮らしを歩みだそうとしますが……。

地震で崩壊した街を、人々が手を取り合って立ち直っていく話しかと思いきや、まるでギュスターヴ・ル・ボンの『群集心理』を思い起こさせる結末に呆然。せっかく楽園を手に入れたかに見えた二人に、皮肉にも神につかえる聖職者がきっかけで、あのような結末になるとはね。傑作短篇。

『サント・ドミンゴでの婚約』
サント・ドミンゴ島のフランス領ポルトー=プランスでのこと。白人に対して敵意と復讐心の塊のような老黒人のホアンゴは、自分の留守に白人が食料や宿を求めて来たら留め置くようにと、家人のバベカンとトニに要求していました。それはホアンゴが偵察から帰宅して、留め置かれた白人を殺すためでした。
ある日、白人将校グスタフが、町での黒人との争いから逃れて、ホアンゴ不在の家に身を寄せます。そこで若い女性のトニは彼を殺す計画に従うべきか悩みつつも、グスタフに恋心を抱いてしまいます……。

ああ、短気は損気。なんとなく結末がわかりつつも、きっとなんとかなるはずと、ハラハラドキドキしながら読みましたが、相手を信じることの大切さを、改めて思い知らされました。これも傑作。

三作品とも良かったですが、『ミヒャエル・コールハース』は、たくさんの人名や地名が出てきて少し分かりにくいところもありました。ただ、解説のP305〜P309に人名と地図が載っていますので、迷子にならずにすみましたが。出来れば巻頭にあればいいのにと思いました。

ところで、ドイツの作家クライストは、森鷗外が訳したこと位しか知らなかったですが、解説で、多和田葉子さんの『エクソフォニー』に言及されている箇所があるとのことで、こちらもいつか読みたいです。

正誤(第1刷)
P29の8行目:コースハース→コールハース

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2025年02月02日

Posted by ブクログ

筆者のクライストは18世紀末生まれ、この作品は19世紀(1800年代)初頭。
古い。しかも岩波の赤帯。構えるよね。わかる。わかるよ。

ただ、その先入観を一切捨てて読んで欲しい。
まずはとにかく最初の「ミヒャエル・コールハース」を読んで欲しい。
確かに舞台は古い。19世紀のクライストがさらに昔の中世のドイツを描いている。
やばい私この感覚理解できるかなって一瞬不安になる。
しかしそんなのは杞憂に終わる。コールハースが馬と妻を失ってからの復讐劇。
本から溢れ出る復讐へのパッション。打ちのめされる。

続く「チリの地震」と「サント・ドミンゴでの婚約」も同様。
舞台は古い。ただ、そこで生まれる、本に収まりきらないほどの愛と憎しみ。
これは時空を問わない。私たちにも容易に理解できるし、そして私たち共通の感情について誰よりも理解し、それを文字として表現できるクライストに舌を巻く。
溢れ出るパッションに打ちのめされる。

本書解説にも書かれているし、各所で言われていることであるが、クライストの文章は癖がある。
癖があるというか、英語で言うところの関係代名詞をやたらと繋げて説明していくので、長い。
しかし、慣れてしまえば独特の韻律がむしろ心地よくさえなってくるし、なんなら短期記憶の訓練だと思えばいい。
集中力だいぶ鍛えられる。

そして繰り返しになるけど、この集中して読み取った先の、溢れ出るパッションをぜひ感じ取って欲しい。
岩波だろ古くさいだろなんて思ってごめんねって絶対おもうから。

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2025年01月24日

Posted by ブクログ

おそろしく速いテンポ、オレでなきゃ見逃しちゃふね
 1807年にドイツ語で発表された短篇「チリの地震」から読んでゐる。おもしろい。ストーリーのテンポが早く、なほかつ迫力がある。
 ヘロニモとホセファの恋愛がホセファの父親にバレて、彼女が修道院に連れて行かれるところから始まる。しかしその修道院でふたりはヤッてしまひ、それがバレてホセファは斬首の刑、ヘロニモは牢獄につながれる。いよいよ執行の瞬間、その時、「チリの地震」は起きた……
 ここまで冒頭、たった3ページの出来事である。そしてチリの地震の描写がすさまじい。圧倒的にうねるやうな文体で、名作である。

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2024年09月04日

Posted by ブクログ

 明確な歴史的背景をもつ中・短編を三編収録。原文がそもそもかなり特異な文体を駆使しているようで、それを生かすよう腐心した訳文も多分に複雑怪奇をきわめ、読むのにかなり骨がおれた。一行がやたらと長く、改行が少なく、ページ全体が文字でびっしり埋めつくされているため、さほど長い文庫ではないのに読むのに時間がかかること。集中力を要するという点でも、多分に玄人向けの作品と思う。「クライストの文章は副文が多く(……)勝手ににょきにょきと生えていく」とは多和田葉子の言だが、実に言い得て妙と思う。情報がどうつながっているのか、それを解読するのに大変苦労した。

「ミヒャエル・コールハース」:200ページ弱の中編。領主に不当な扱いをうけた馬商人のミヒャエル・コールハースが、法廷に訴えるも権力に阻まれて果たせず、愛妻をなくし、暴徒の領袖となったすえに破滅していくという話。16世紀のザクセンに実在したハンス・コールハースがモデルらしい。
「チリの地震」:1647年のチリの地震を背景にした悲恋の物語。
「サント・ドミンゴでの婚約」:19世紀初頭に起きたハイチ革命を背景としている。
 三編とも悲劇というかあまり楽しい気分になるようなものではないが、強烈な印象を残す作品ではある。機会があれば、他の作も読んでみたいと思った。

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2024年04月29日

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