山口裕之のレビュー一覧

  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    社会には、相反する意見の中から一つを選ばなければならない場面がある。そのとき「人それぞれ」では済まない。著者は、絶対的な正しさを前提とする普遍主義でも、各人の価値観を等しく認める個人相対主義でもない、「より正しい正しさ」をつくるという第三の立場を提示する。

    多様性を掲げる運動は、発展するほど内部にさらなる多様性を見出し、やがて個人相対主義へと行き着き、内部崩壊を招く危険がある。多様な人々が抑圧されずに連帯するためには、既存の名前やカテゴリー、すなわち権力が定めた社会的枠組みを一度は受け入れる必要がある。それを拒んで「人それぞれ」と言うだけでは、個々が分断され、連帯が生まれない。そして人々が分

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    2025年11月10日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    「正しさ」を「人それぞれ」で片付けてしまうことは相互理解の放棄に他ならない。また、人類普遍の正しさが常に存在しているわけでもない。「正しさ」は人と人の合意により形成されるものであり、そのためにはしばしば多大な労力を要するものである。実生活での対立解消にも役立てられる、示唆に富む一冊だった。

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    2025年06月23日
  • ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇

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    当時の時代背景、宗教、作者の生き様も加味するとさらに味わって読めるかな。物語性、スピード感含めて今でも面白く読めるのは、訳者に寄るところであろうが、200年以上経っておりびっくり。
    岩波文庫は、面白い。

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    2025年06月08日
  • ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇

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    発売日に「名著新訳」の帯に釣られて買って1年。Penguinさんのレビューを見るまで、すっかり忘れてました。こんな名作を1年積んでいたことを後悔しきりです。ありがとうございます。

    収録は三作品。どれもグイグイ読ませる名作だと思います。ところで帯に「名著新訳」とありますが、岩波文庫の”青・白”は「名著」でも、”赤”はフィクションなので「名作」ですよね。

    以下、あらすじと感想。

    『ミヒャエル・コールハース』
    舞台は16世紀のドイツ。馬商人のミヒャエル・コールハースは、取引先のユンカー(地主貴族)に理不尽な方法で馬を奪われます。後日、その馬や馬と一緒にいた下僕の酷い扱われように憤慨した彼は、法

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    2025年02月02日
  • ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇

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    筆者のクライストは18世紀末生まれ、この作品は19世紀(1800年代)初頭。
    古い。しかも岩波の赤帯。構えるよね。わかる。わかるよ。

    ただ、その先入観を一切捨てて読んで欲しい。
    まずはとにかく最初の「ミヒャエル・コールハース」を読んで欲しい。
    確かに舞台は古い。19世紀のクライストがさらに昔の中世のドイツを描いている。
    やばい私この感覚理解できるかなって一瞬不安になる。
    しかしそんなのは杞憂に終わる。コールハースが馬と妻を失ってからの復讐劇。
    本から溢れ出る復讐へのパッション。打ちのめされる。

    続く「チリの地震」と「サント・ドミンゴでの婚約」も同様。
    舞台は古い。ただ、そこで生まれる、本に

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    2025年01月24日
  • ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇

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    おそろしく速いテンポ、オレでなきゃ見逃しちゃふね
     1807年にドイツ語で発表された短篇「チリの地震」から読んでゐる。おもしろい。ストーリーのテンポが早く、なほかつ迫力がある。
     ヘロニモとホセファの恋愛がホセファの父親にバレて、彼女が修道院に連れて行かれるところから始まる。しかしその修道院でふたりはヤッてしまひ、それがバレてホセファは斬首の刑、ヘロニモは牢獄につながれる。いよいよ執行の瞬間、その時、「チリの地震」は起きた……
     ここまで冒頭、たった3ページの出来事である。そしてチリの地震の描写がすさまじい。圧倒的にうねるやうな文体で、名作である。

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    2024年09月04日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    「正しさは人それぞれ」「みんな違ってみんないい」というような相対主義、「真実は一つ」という普遍主義のいずれをも退け、考えの異なる者同士がともに生きていくために、「正しさ」とは何か、それはどのようにして作られていくものかを、様々な学問のこれまでの議論を概観した上で考察。
    本書の結論としては、「正しさは人それぞれ」でも「真実は一つ」でもなく、「正しさはそれに関わる人々が合意することで作られる」というものである。
    元来自分は相対主義的な考えを持っていて、それこそが「正しい」とも思ってきたが、本書の中で、「正しさは人それぞれ」という相対主義は相手を思いやっているようで、相手のことを理解し自分のことを理

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    2024年04月13日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    心地よく聞こえるフレーズが世の中にどういった影響を与えるのか
    意味も影響も知ろうともしないまま使っていた言葉は沢山あります
    自分自身も社会の一部であることは忘れてはいけないと感じた一冊

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    2024年04月02日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    丁寧に丁寧に「人それぞれ」に対する誤りを指摘し、著者の考える対応をしっかりと述べてある。

    最後に書かれている《おわりに「人それぞれ」はもうやめよう》を読むと、ここまで読んできて本当の良かったと思う。

    ついつい『人それぞれだけど〇〇だと私は思います』とか逃げ口上気味に書いてしまう事が多い自分。意識して合意を形成して行くようにしなくては。人はバラバラで生きて行くのでは無いのだから。

    読書の流れとしては、この後「訂正する力」(東浩紀)を読み進めて行く予定。

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    2023年10月19日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    「みんな違ってみんないい」というフレーズに違和感をいだいていた僕にとって、違和感の原因が明確化できたと言える本。

    本来、社会の同調圧力に抗うための言葉であったはずなのに、いつのまにか「お前はお前、俺は俺」という他者の関わりを拒絶するための便利な言葉に成り下がってしまっている。

    章タイトルにあるように、「『道徳的な正しさ』を人それぞれで勝手に決めてはならない」し「『正しい事実』を人それぞれで勝手に決めてはならない」と思わされる。

    デモクラシーの本質は、熟議によって合意形成を目指し、最終的には多数決によって現時点で「正しい」であろうと思われることを仮説として進めて行く。間違っていたかもと思っ

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    2023年06月18日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    「正しさは人それぞれ」論や「言語が異なると世界の見方が異なる」説などを紹介しながら、「正しさ」がどのように作られるのかを解き明かしていく内容だが、説明の仕方が丁寧な日本語なのでよく理解できた.多くの思想家の引用も多く、当然さまざま言語で理解された上で日本語で説明されていることを思うと、非常によく勉強されていると感じた.それぞれの章のまとめが良かったので、抜粋して保存することにした.

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    2023年01月22日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    巷に蔓延する「正しさは人それぞれ」という相対主義と「客観的で正しい答えがある」という普遍主義の問題点を、哲学を中心に言語学、文化人類学、経済学、社会学を紐解きながら「正しさとは何か」を考える。
    読む前はもっと政治学寄りの本かと思っていたが、哲学の本だった。
    そもそもその考えはどこから来たのかということを古代ギリシャから現代までの思想のエッセンスを流れがわかるように解説してくれるところが滅法面白い。今時の高校はどうだか知らないが、私の頃の授業は、誰々はこう考えたを紹介するのみで全く面白くなかったが、流れがわかると面白いものだなと、つくづく感じた。フーコー、ドゥールズ、デリダとかは学生の頃、彼らの

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    2023年11月15日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    みんな違ってみんないい。
    相田みつをさんには悪いけど、
    耳ざわりのいい言葉には注意が必要だ。
    「みんな違ってみんないい」を便利に使ってないか。
    そこからさらに踏み込まず、互いを理解することから逃げていないか。

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    2023年01月03日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    相対主義と普遍主義についてのいろんな議論を歴史を追って紹介・説明されていてたいへんわかりやすいです。ロジックの立て方が自分に合っていたというか、ちょうど疑問に思ったところの次にその答えが説明されるという感じですらすら読めました。

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    2022年11月27日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    初心者向けの哲学の本として、わかりやすい。ポイントが太字で書いてあり、概念がひとことで簡潔にすぐ説明されている。哲学を復習するにはベストな本である。
     徳島大学の授業をもとにしたと記載している。2025年に再度読んでみた。

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    2022年09月22日
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題

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    ネタバレ

    第3章が特に響いた。一部要約。

    「正しさは人それぞれ」
    「絶対正しいことなんてない」
    「何が正しいかなんて誰にも決められない」

    こうした言葉は、より正しいことを求めていく努力をはじめから放棄する態度を示している。

    「正しさ」は、どのようにふるまうことが道徳的に正しいのかについての共通理解のことであり、ひとつの行為に複数の人間が関わる時、はじめて作られていくもの。ある行為の正しさは、それに巻き込まれる人たちが合意することによって正当化されるもの。

    人類全員の合意はないかもしれないし、その意味では「絶対正しいことなんてない」のかもしれない。しかし、「より正しい正しさ」はある。

    人間は、他

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    2022年07月23日
  • 論理学 考える技術の初歩

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    人間は知っていることを分析することによって、知らなかったことも知ることが出来るようになる。どんなに愚かでも、地道に考え抜けば知ることの出来ないということはないのである。勉強する上での初心としたい

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    2020年07月31日
  • ベンヤミン・アンソロジー

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    翻訳者の課題
    類似性の理論
    模倣の能力について
    技術的複製可能性の時代の芸術作品(第三稿)
    を読む。
    ベンヤミン、大事になってきたなー。
    魔術的なとこがあるのも面白い

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    2020年01月07日
  • 論理学 考える技術の初歩

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    本書は18世紀の哲学者コンディヤックが一般向けに論理学の初歩を説いたものである。元は学校の教科書(いまの大学1年相当くらい?)として書かれたものらしい。昔の偉い哲学者の書いたものなんて難しくて読めないのではないか、内容は現代でも通用するのだろうか、という不安があったがその心配は無用であった。個人的には求めていたものと合致度が非常に高くて満足だった。私は物事を考えるのが苦手で、論理的に考えるという行為を原理レベルから説明してくれる本を探していたのだが、これはまさにその要望に応えてくれるような内容だった。考えるという行為を本当にゼロから、つまりその発生から説明してくれていて、論理学の初歩というサブ

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    2016年11月20日
  • ベンヤミン・アンソロジー

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    ネタバレ

    数十ページくらいの小論が十本入っています。



    ◆「ボードレールにおけるいくつかのモティーフについて」について(p206-)
    「物語は、伝達の最古の形式の一つである。物語は、出来事それ自体を純粋に伝えること(ちょうど情報がそうするように)に狙いを定めていない。物語は、出来事を経験として聞き手にもたせてやるために、出来事を報告する者の生のうちに埋め込む。ちょうど陶工の手の跡が陶器の皿に残されているように、物語には語り手の痕跡が残っているのだ。」(p213

    「時間は、永遠のうちにも見出される。しかし、この地上の時間、世俗的な時間ではない……。この時間は破壊を行わない。それは完成するだけだ。」こ

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    2011年08月17日