谷口ジローのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
帰路にて、歩いて帰る時、自転車で帰る時、車で帰る時、電車で帰る時、新幹線で帰る時、同じ道沿いを通ってもその表情はまったく違うものです。
早ければ早いほど、景色は少なくなっていく。
交通機関があって町ができているのではなく、町があって交通機関ができている。交通機関から離れたところには、死んでしまっていたり、誰にも気づかれずほそぼそと呼吸をしている、自分の過去とは無縁のものであっても郷愁にかられるモノがあったりする。
歩くことで見つけられることの魅力を昏々と語ってくれる。
この漫画の主人公、自分のことを散歩の天才といってしまうほどの散歩上手、かつ散歩好き。
しかしながら人生においては一人、目の前 -
Posted by ブクログ
猟犬探偵、竜門卓にまたまた奇妙な犬探しの依頼が舞い込む。果たして竜門は無事に犬を探し出すことが出来るのか…
相変わらず谷口ジローの作画には驚くばかりだ。まるでドラマを観るかのような描写に驚かされる。稲見一良の原作も味わい深く、男を感じるのだが、作画により、さらに臨場感が増している。
前作の『猟犬探偵① セント・メリーのリボン』も良かったが、この作品も素晴らしい。
竜門とハナ、セント・メリーの再会シーンには涙。そして、ラストにも涙、涙。この作品を読んでから、稲見一良の原作を読むのも良いだろう。
そうか、竜門にとってサイド・キックとは!
岩手の釜石と久慈が登場するのも嬉しい。 -
Posted by ブクログ
全五巻をを読んだ。
こんなにも圧倒された気持ちになるのはいつぶりだろう。
素晴らしい、凄まじい。
エベレスト人類初登頂にまつわるミステリーと、エベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂を目指す登山家を軸に進んで行くストーリーが絶妙で、のめり込むように読んだ。山の雄大さや厳しさを表す画力は他に類を見ない。
ここに出てくる人物達への気持ちは複雑で、あえて表現するなら、挑戦者への羨望であり、強烈なエゴへの嫌悪になると思う。
なぜ、彼らはそこまでして山に登るのだろう....
そこに山があるから?それとも、そこに自分がいるから?
答えのでない、禅問答。
ただただ、圧倒された。 -
Posted by ブクログ
無限に続く自問自答。
「そこに山があるからだ」という回答はあまりにも有名であるが、質問が実は「人はなぜ山に登るのか」ではないことはそれほど有名ではないし、答えた人はもっと覚えられてはいないだろう。
質問は正確には「あなたはなぜエヴェレストに登るのか」であり、答えたのはイギリス人登山家のジョージ・マロリーだ。
しかし本当にマロリーがそんなことを言ったかどうかは実は怪しい。
という最近ネットで得た知識を書いたわけだが、このマロリー、実は山岳界に大きな謎を残している。それは、
彼はエヴェレストに登ったか否か
というものである。
そんな話を枕にこのマンガは始まる。
その同名の原作は、夢枕獏本人 -
Posted by ブクログ
原作は夢枕獏。
圧倒的な絵とストーリーの厚さ(この表現がしっくり来る)と、冬山の存在感。
冬山に一人挑むことの苦しさとか孤独とか焦燥感とか、そういう重い感情が紙面を通じて
どっしりとこちらの感情に流れ込んで来るから、読んでいて本当に疲れる。
疲れるんだけど、病み付きになる。
何故山に登るのか――。
激烈に寒く、暗く、息苦しく、全身の筋肉は悲鳴を上げ、一足毎にもうこんなことはやめてしまいたくなる。
(レベルは余りに低いが、僕も去年富士山に登った時に少し分かった)
だが、その骨が軋りつくような濃い時間を体感したら、他の全てが薄まってしまう。
と、いうことらしい。
「そこに山があったからじゃな -
Posted by ブクログ
漱石の晩年を幻想と共に描写
明治四十三年八月の大病で生死を彷徨う漱石と、明治に活躍する人々を引き合わせ、「坊ちゃん」の時代を総括する。
啄木が、「つね日頃好みて言いし革命の語をつつしみて秋に入れりけり」と詠んだとおり、大逆事件以後、官僚組織は軍部、これも官僚組織だが、と一緒に、御簾の向こう側に隠れて、あんなこともこんなこともやってしまい、日本を秋どころか冬に向かわせてしまう。
この巻では、漱石が「日本は滅びる」と言い、啄木が「日本は駄目だ」と言う。滅びるのも駄目なのも軽躁な国民の所為ではなく、特定の人々では、と思いたいが、今や特定は遍在するかのような気配だ。
いやいや、そうで -
Posted by ブクログ
彗星と共に明治の佳き日々が去る
大逆事件は日本の法曹界、最大の汚点だと思うが、戦時中にあれやこれやと同様、一億総懺悔のおかげか、あまり知る機会がない。
明治が日本近代の青春時代というなら、若気の至りとして目を瞑りたくなるが、奇兵隊の中隊長のやるこたぁ、凄惨極まりない。信州で見つかった手製爆弾から、その存在を知らない者までも含め、24人もの社会主義者などに死刑を下した事件だ。その事件と中心人物、爆弾のでなく大逆罪の、幸徳秋水が主人公だ。
作者も言っているいるとおり、この作品は、「ユーモアという重要な要素が欠けた憾み」が残る。にも関わらず、読後、いくらか爽やかであるのは、主義者達が -
Posted by ブクログ
谷口ジロースキーなのですが、このシリーズは中国で遊び人をしていた時分、お友達が幸徳秋水編を読ませてくれて知りました。帰国して一番最初に買った漫画だったのを今も覚えてます。
何度も読み返してもうボロボロなので、いい加減新しいのを買うべきなのだと思いつつ、まだ買ってません。この判型が谷口センセーの絵を活かせると思うんですがねェ……。文庫はどうも味気ない。
いずれにせよ、原作の関川先生と谷口先生の世界観が激突し、混ざり合い、熟成された、オトナによるオトナの為の漫画という表現だと思います。下手な歴史小説読むよりよっぽど為になり、面白いです。ホントに。