山を登るクライマーの物語で、このドラマ性の完成度の高さにはひたすら圧倒された。
常に生きるか死ぬかの境で山に挑むこの緊迫感は、たとえ映画でも簡単には表現出来るものではないだろう。
「岳」を読んだ時も山のコワさを実感したけれど、この「神々の山嶺」は国内の山だけでなく、ワールドワイドなので「岳」よりもさ
...続きを読むらに数段コワい。
とにかく驚くのが、山の絵がものすごく上手いことだ。写真かと思うぐらいの質感を持って、山の美しさと険しさが迫ってくる。この質感があるからこそ、リアルに山の存在を感じながらクライマーの視点で世界に入ってゆくことが出来る。この作品を描けるのは、間違いなくただ一人、この谷口ジロー氏だけだろう。
山の頂上を目指す男たちは、自然そのものを相手にするだけではなく、同じ頂上を目指す他のクライマーたちとも対峙することになる。そこには、やはり山にしか生まれない人間ドラマがある。クライマーとしてしか生きられない羽生は、常に孤高の存在だけれども、その彼にもやはり、ライバルや仲間がいる。
それらの物語も含めて、この巨大なスケールの物語がクライマックスに向けて収斂していくところは本当に見事としか言いようがない。映画を超える迫力を持つ名作だった。
岩を登るという分野には・・登攀者の努力だけではどうにもたどりつけない領域があるんです。そういう人間の岸壁登攀は速いだけでなく美しい。流れるようなリズムがあるんですよ。ま・・天才だったんでしょうね、羽生は。(p.153)