木原善彦のレビュー一覧

  • オーバーストーリー

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    『子供、女性、奴隷、先住民、病人、狂人、障碍者。驚いたことにそのすべてが、この数世紀の間に、法律上の人格を持つ存在に変わった。それならば、樹木や鷲、山や川が、自分たちに果てしない危害を加えて窃盗を働いた人間相手に訴訟を起こしてなならない理由があるだろうか?ー 話すことができないので当事者適格性が認められないというのは理由になっていない。法人も国家も口をきくことができない。弁護士がその代弁をするのである』

    昨秋に、隣地の裏山に自生したオニグルミを幹の半分まで切ってもらった。我が家の雨樋が落ち葉で詰まるから。
    僕が家を建てる前から生きてきた木の生存権を侵害し、無用な苦しみを与えていると告発された

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    2023年08月26日
  • オーバーストーリー

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    リチャード・パワーズが紡ぐ物語の力に泣いた。
    特に終章が本当に素晴らしく、本を読んで世界が変わると言う言葉は本当だったんだと思った。
    人と人の道が交わり、また新しい道ができる。
    そこで交差する人達の想いは読み手にも作用する。
    地球のために、森林のために、私にできることは何か考えながら生きていきたい。
    この本は未来へ繋ぐ架け橋。

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    2023年02月06日
  • 愚か者同盟

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     ピューリツァー賞受賞作品であり、デヴィッド・ボウイの愛読書でもある。看板に偽りはなく、最初の3ページだけでも既にかなり面白い。
     舞台は60年代のアメリカ南部。傍若無人で高学歴で子供部屋に住む無職の巨漢イグネイシャスがついに就職活動を始める。彼が巻き起こす騒動を軸に珍妙なミステリーと風変りなラブストーリーと演劇的な群像劇が絡み合う。イグネイシャスは作中で資本主義のシステムに滔々と文句を垂れているし、不純な動機からでも社会運動を始めようとするあたりプロレタリア文学の要素も入っているかもしれない。すべてが不思議なバランスと巧みなストリーで成り立ち、風刺も効いている。
     ミルトンを気取って社会から

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    2022年09月30日
  • 愚か者同盟

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    イグネイシャス!!! その名の通り、世の中から「迫害」されていると思い込んでいる、陰キャ。陽キャを配役するなら、アレックス・デラージだろうか。アレックスが暴力的「ハラショー」で自己肯定に突き進むのに対して、イグネイシャスは母親の「イグネイシャス‼︎!」で自己肯定に突き進む。ドルーグの白装束と、イグネイシャスの白スモッグ。アレックスは精神病院で治療されるもマンマと返り咲き、イグネイシャスは間一髪救急車から身をかわす。この二人を批判しても始まらない。在るのだから。綺麗事を言っても、社会はこの二人を内包している

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    2022年09月22日
  • オーバーストーリー

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    大傑作。あまりにおもしろくて半日で一気読みした。ちょっと動揺するくらいにso movedで、とりあえず今年のマイベストは決定した。極めて美しい無限の姿。

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    2021年12月29日
  • オーバーストーリー

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    すごい本だった。
    第一に、アメリカで天然林の伐採運動が、どのように盛り上がっていったのか、何人かの人の個人史の集合として読むことができる。
    第二に、樹木の集合体としての森林に、別の次元の特性が備わっていることを、科学的知見も援用しながら示したこと。
    第三に、それに関わる人間のあり方を示したこと。
    とにかくパワフルでびっくりした。

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    2020年07月25日
  • オーバーストーリー

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    切ない物語でした。適した大気があるから、我々は普通に生活できている。その大気を作ってくれている樹木。その樹木を伐採する人間。その伐採を食い止める人。レイの発した「正当防衛」がしっくりきた。不条理な世の中だなぁとつくづく思う。メルロポンティを思い出した。

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    2020年05月25日
  • オーバーストーリー

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    人との出会い・人生は無数に枝分かれし、絡み合い、時に根幹に帰る様はまるで木のよう。

    読み終えた後、木を見上げその樹皮に触れて名前を尋ねてしまったけど、伝わっただろうか。

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    2020年03月24日
  • オーバーストーリー

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    昔、吉祥寺に知久寿焼のライブを観に行ったことがある。彼はMCで、吉祥寺の街中にあるとても古い木について話していた。その木は不思議なことに、つららのようにいくつもの「こぶ」が太い枝から下に向かって伸びているのだという。自分はその木を幼い頃から当然のように認知していたが、そんな形状が目に入ったことは一度もなかった。ライブのあと、何気なくその木の前を通って例の「こぶ」を目にした時、身近な世界のなかには不可視の領域が含まれているのだと知り、愕然としたことを憶えている。
    この本に充満しているのは、そうした視えないものたちのむせかえるような気配だ。そしてパワーズ特有の、途方もなさから詩の様相を帯び始める事

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    2020年02月09日
  • オーバーストーリー

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    ‪淡々と積み重なった冷静な言葉が描く、ゾクゾクするくらい緻密で壮大な営みに、ひたすら心を震わされる快感。こんな本にあと何回出逢えるんだろう。

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    2020年01月21日
  • オルフェオ

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    核酸を増殖するPCR(polymerase chain reaction)の過程をこれ程まで詩的に記載された文章はあっただろうか?!僅か2ページの出だしの文章に、いきなりやられてしまった。
    音楽の物語、否、音の物語。音は楽器から奏でられるものだけではない。あらゆる物、あらゆる言葉、あらゆる事象の中に音は内包されている。例えば、朝焼けには朝日のメロディーが、夕焼けには夕日のメロディーが、降雪も雪の種類により各々のメロディーが内包されている。この世は音に溢れている。世界中から音が聴こえ、それを譜面に著わそうとするピーター。それが高じてDNA塩基をkeyとしてメロディーを作ろうとする。それが周囲の誤

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    2019年05月14日
  • オルフェオ

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    リチャード・パワーズは以前から友人のひとりに読め読めと言われ続けていたのだが、なにしろ長大で難解な印象があり(事実そうなのだが)、読書会というきっかけがなければこのままずるずる読まずにいたと思う。その点で読書会に感謝、そしてまた、リチャード・パワーズという小説家、『オルフェオ』という作品に出会えたことを心から感謝する。

    結論から言うと、本書『オルフェオ』は2015年の個人的ベスト級の作品です。今現在『グールド魚類画帖』のフラナガンとパワーズによる、熾烈なWリチャード首位争奪戦が繰り広げられている次第。ちなみにわたしは音楽的な知識は絶無なので、本書に出てくる曲の十分の九は名前すら聞いたことがな

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    2015年12月06日
  • プレイグラウンド

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    伊与原新さんの推薦文を読んで購入。
    少年時に海に魅せられた主人公(と表現して良いのか分からないが)の、学生時代の友人との交流と別れ、そしてIT業界での成功とレビー小体型認知症。
    終盤で、本書の仕掛けが明らかになる。最後まで読んで、訳者解説を読んだ上で再読すると、より分かるのだろうなあ。…ただ、本の厚さと、訳書であるがゆえの訳文の取っ付きにくさや人名の分かりにくさがあり、再読する気力が沸かないというのが正直なところ。

    主人公が人生の集大成的なものとして世に出そうとしていたのは、シンギュラリティを起こしたAIということなのだろう。そんなAIであっても、(生命と同じように、)遊ぶということが主題の

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    2025年12月22日
  • ジェイムズ

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     『トム・ソーヤーの冒険』の結末で、ハックルベリー・フィンと親友トムは、盗賊の金貨を発見した。しかし二人ともまだ子供であるため、発見した金貨は二人で折半、ハックの取り分はサッチャー判事が保管し、金貨の管理人となったダグラス夫人の養子としてハックは屋敷に住み、トムと共に学校に行くようになった。自由人としての暮らしではなく、決められた時間に寝起きし、礼儀作法をミス・ワトソンから徹底的に仕込まれる日々は、堅苦しかったが、安全だった。ところが、行方をくらましていたハックの父がセント・ピーターズバーグに現れ、強引にハックを連れ去ってしまう。逃げ出して自分の死を偽装したハックは、逃亡奴隷のジムと出会う。

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    2025年12月17日
  • ジェイムズ

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    黒人奴隷の過酷さは、様々なところで資料として見ることが出来るが、黒人側からの感情の再現である本書は新たな気付きがある。
    暴力での支配から逃れることが如何に難しいかとか、支配する側の心の拠り所が何かとか。
    大多数の人がなんの正当性もなく過ちを犯すわけではなく、身勝手でも言い分が必要だということが唯一の救いかもしれない。

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    2025年11月26日
  • プレイグラウンド

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    生物が包容する圧倒的なディテールや、科学の目だけが辿り着ける真理の美しさにぞくぞくするので、それらを詩的に描いて物語のうねりの中に綾織るパワーズの小説には、彼にしか書けないエモーションを感じます。今回も大きくて繊細なものを受け取った気持ち。

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    2025年11月25日
  • ジェイムズ

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    少年の頃、ハックルベリー・フィンや
    トム・ソーヤーの冒険物語には
    心躍らせ楽しみました。
    これは上記作に登場するジムの物語です。

    時はアメリカ南北戦争開戦前夜。
    当時のことは知る由もないのだが
    ジムの心に寄り添えて、
    ドキドキする作品だった。

    「人間はおかしなもんだよ。
    自分の好きな嘘は信じるだけど、
    都合の悪い真実は無視するだ」
    というセリフが
    今でもその通りでハッとした。

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    2025年11月10日
  • ジェイムズ

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    ハックルベリーの冒険を黒人奴隷の視点から眺めて、特に後半は奴隷の逃亡に焦点何あっていた。奴隷の悲惨さがこれでもかっていうぐらい描かれていて読むのが辛い場面が多々あった。

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    2025年11月03日
  • ジェイムズ

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    「ハックルベリーフィンの冒険」を読んでから本を開いた。昨日まで読んでいた話だぞ…?と思っていた冒頭から、おっと目線はそっちになるのか、ほうほうほう…とアナザーストーリーに引き込まれる。

    奴隷を所有する側の話を読んでいたのに対し、本作は奴隷側の話。白人と明確に線引きをして、白人の前と黒人の中では使う言葉を変えたり、読み書きの能力を隠すなど、確かにあのジムもそうだったのかも知れないと思わせる絶妙に隙間を埋める。白人は黒人に劣っていて欲しい、なぜなら満足感を得るためなど。

    しかし何故女の奴隷は2度かそれ以上に殺されなければならないのだろうという疑問が拭えずに、なんだか物語のなかにいることに冷めて

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    2025年10月30日
  • ジェイムズ

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     この本は「ハックルベリー・フィンの冒険」を、黒人奴隷ジムの視点で書かれた小説、と聞いていたので、勝手に同じような児童文学のつもりで読み始めた。
     中盤から、少なくともこれは児童向けの本ではないと気づいたが、読み進めるほどに痛みが増していった。奴隷制の時代における奴隷の立場がどれほど苦しいものであったか、今更のように思い知らされた。
     最終盤、ジムが望んだ通りになったようだが、その後の物語が気になる。とにかく「ハックルベリー〜」とは全く別のストーリーなので、油断しないで読んで欲しい。
     

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    2025年10月22日