木原善彦のレビュー一覧
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『子供、女性、奴隷、先住民、病人、狂人、障碍者。驚いたことにそのすべてが、この数世紀の間に、法律上の人格を持つ存在に変わった。それならば、樹木や鷲、山や川が、自分たちに果てしない危害を加えて窃盗を働いた人間相手に訴訟を起こしてなならない理由があるだろうか?ー 話すことができないので当事者適格性が認められないというのは理由になっていない。法人も国家も口をきくことができない。弁護士がその代弁をするのである』
昨秋に、隣地の裏山に自生したオニグルミを幹の半分まで切ってもらった。我が家の雨樋が落ち葉で詰まるから。
僕が家を建てる前から生きてきた木の生存権を侵害し、無用な苦しみを与えていると告発された -
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ピューリツァー賞受賞作品であり、デヴィッド・ボウイの愛読書でもある。看板に偽りはなく、最初の3ページだけでも既にかなり面白い。
舞台は60年代のアメリカ南部。傍若無人で高学歴で子供部屋に住む無職の巨漢イグネイシャスがついに就職活動を始める。彼が巻き起こす騒動を軸に珍妙なミステリーと風変りなラブストーリーと演劇的な群像劇が絡み合う。イグネイシャスは作中で資本主義のシステムに滔々と文句を垂れているし、不純な動機からでも社会運動を始めようとするあたりプロレタリア文学の要素も入っているかもしれない。すべてが不思議なバランスと巧みなストリーで成り立ち、風刺も効いている。
ミルトンを気取って社会から -
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昔、吉祥寺に知久寿焼のライブを観に行ったことがある。彼はMCで、吉祥寺の街中にあるとても古い木について話していた。その木は不思議なことに、つららのようにいくつもの「こぶ」が太い枝から下に向かって伸びているのだという。自分はその木を幼い頃から当然のように認知していたが、そんな形状が目に入ったことは一度もなかった。ライブのあと、何気なくその木の前を通って例の「こぶ」を目にした時、身近な世界のなかには不可視の領域が含まれているのだと知り、愕然としたことを憶えている。
この本に充満しているのは、そうした視えないものたちのむせかえるような気配だ。そしてパワーズ特有の、途方もなさから詩の様相を帯び始める事 -
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核酸を増殖するPCR(polymerase chain reaction)の過程をこれ程まで詩的に記載された文章はあっただろうか?!僅か2ページの出だしの文章に、いきなりやられてしまった。
音楽の物語、否、音の物語。音は楽器から奏でられるものだけではない。あらゆる物、あらゆる言葉、あらゆる事象の中に音は内包されている。例えば、朝焼けには朝日のメロディーが、夕焼けには夕日のメロディーが、降雪も雪の種類により各々のメロディーが内包されている。この世は音に溢れている。世界中から音が聴こえ、それを譜面に著わそうとするピーター。それが高じてDNA塩基をkeyとしてメロディーを作ろうとする。それが周囲の誤 -
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リチャード・パワーズは以前から友人のひとりに読め読めと言われ続けていたのだが、なにしろ長大で難解な印象があり(事実そうなのだが)、読書会というきっかけがなければこのままずるずる読まずにいたと思う。その点で読書会に感謝、そしてまた、リチャード・パワーズという小説家、『オルフェオ』という作品に出会えたことを心から感謝する。
結論から言うと、本書『オルフェオ』は2015年の個人的ベスト級の作品です。今現在『グールド魚類画帖』のフラナガンとパワーズによる、熾烈なWリチャード首位争奪戦が繰り広げられている次第。ちなみにわたしは音楽的な知識は絶無なので、本書に出てくる曲の十分の九は名前すら聞いたことがな -
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伊与原新さんの推薦文を読んで購入。
少年時に海に魅せられた主人公(と表現して良いのか分からないが)の、学生時代の友人との交流と別れ、そしてIT業界での成功とレビー小体型認知症。
終盤で、本書の仕掛けが明らかになる。最後まで読んで、訳者解説を読んだ上で再読すると、より分かるのだろうなあ。…ただ、本の厚さと、訳書であるがゆえの訳文の取っ付きにくさや人名の分かりにくさがあり、再読する気力が沸かないというのが正直なところ。
主人公が人生の集大成的なものとして世に出そうとしていたのは、シンギュラリティを起こしたAIということなのだろう。そんなAIであっても、(生命と同じように、)遊ぶということが主題の -
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『トム・ソーヤーの冒険』の結末で、ハックルベリー・フィンと親友トムは、盗賊の金貨を発見した。しかし二人ともまだ子供であるため、発見した金貨は二人で折半、ハックの取り分はサッチャー判事が保管し、金貨の管理人となったダグラス夫人の養子としてハックは屋敷に住み、トムと共に学校に行くようになった。自由人としての暮らしではなく、決められた時間に寝起きし、礼儀作法をミス・ワトソンから徹底的に仕込まれる日々は、堅苦しかったが、安全だった。ところが、行方をくらましていたハックの父がセント・ピーターズバーグに現れ、強引にハックを連れ去ってしまう。逃げ出して自分の死を偽装したハックは、逃亡奴隷のジムと出会う。
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「ハックルベリーフィンの冒険」を読んでから本を開いた。昨日まで読んでいた話だぞ…?と思っていた冒頭から、おっと目線はそっちになるのか、ほうほうほう…とアナザーストーリーに引き込まれる。
奴隷を所有する側の話を読んでいたのに対し、本作は奴隷側の話。白人と明確に線引きをして、白人の前と黒人の中では使う言葉を変えたり、読み書きの能力を隠すなど、確かにあのジムもそうだったのかも知れないと思わせる絶妙に隙間を埋める。白人は黒人に劣っていて欲しい、なぜなら満足感を得るためなど。
しかし何故女の奴隷は2度かそれ以上に殺されなければならないのだろうという疑問が拭えずに、なんだか物語のなかにいることに冷めて